SAKE_banner

イベントリポート:CRAFT SAKE WEEK @六本木ヒルズ屋台村

中田英寿が提案、日本酒とともに楽しむ六本木の「冬祭り」

2016/2/10
2月5日(金)~14日(日)の期間中、東京・六本木にて中田英寿氏がプロデュースする日本酒のイベント「CRAFT SAKE WEEK @六本木ヒルズ屋台村」が行われている。日本文化の魅力を世界に向けて発信し続ける中田氏が仕掛けるこのイベント、いったいどのようなものなのだろうか。以前、NewsPicks上で中田氏にインタビューしたこともある「ROOTS」副編集長の加藤未央氏が、イベントの様子をリポートする。

中田英寿が提案する日本酒体験

今年1月、NewsPicksに掲載したインタビューで、中田英寿さんはこれからのご自身の人生について「工芸やお酒、農業といった日本の文化の業界で、プロになる」という決意を語ってくれた。

その決意を具現化したイベントが、2月5日から10日間にわたり東京・六本木で開催されている「CRAFT SAKE WEEK @六本木ヒルズ屋台村」だ。いったいどんな楽しい仕掛けが施されているのか、期待とともに開催初日にさっそく行ってきた。

会場である六本木ヒルズアリーナにたどり着くと、天を衝くような大きな櫓(やぐら)がまず視界に飛び込んできた。組み上げられた櫓の間には酒樽がディスプレイされていて、このイベントの主役が日本酒であることを教えてくれる。近くを通り過ぎると、櫓の木材の香りがふわっと鼻をかすめた。

イベントのオープン前、まだひと気の少ない会場で遠景から櫓を臨む

イベントのオープン前、まだひと気の少ない会場で遠景から櫓を臨む

その櫓を中心に、立ち飲み用のカウンターやスツール、風雨を避けられるような屋内スペース、居酒屋風に電球がぶら下がった細長い対面式カウンター席などが用意されている。頭上にはちょうちんが飾られ、日本の祭りのような雰囲気がそこにはあった。

さて、このイベントのメインは「日本酒」である。開催期間は10日間。日ごとに異なるテーマが設定され(以下参照)、飲める日本酒も入れ替わるのが大きな特徴だ。これは、中田さんの「単に日本酒を飲む会じゃなく、勉強する会にしたい」という思いの表れだ。

2月5日(金)福島ドリームチーム
 2月6日(土)偉大なる秋田地酒大軍団
 2月7日(日)宮城 伊達オールスターズ
 2月8日(月)お燗マスターズ
 2月9日(火)SHOCHU MAKER’s
 2月10日(水)梅酒もおいしい蔵 TOP10!!
 2月11日(木)Young Guns
 2月12日(金)世界に誇る巨匠達
 2月13日(土)Master of SAKE COMPETITION
 2月14日(日)チーム十四代

期間中、日本酒のブースにはその酒のつくり手である蔵元さんたちが立つ。カウンターにずらりと並ぶ酒を手に取って味や香りを楽しみ、蔵元さん自身にその蔵のおすすめを教えてもらいながら銘柄をチョイスして飲むことができる。

そうそうたる酒蔵のバラエティに富むラインアップの中から、自分好みの銘柄探しができるというわけだ。こんなぜいたくな日本酒バーは世界中どこを探してもここしかないだろう。

日本屈指の銘酒が味わえる

会場入口で「CRAFT SAKEスターターセット」を購入すると、グラスとおちょこ、そして250円分のコインを6枚手渡される。イベント内でお酒を飲む場合はこのグラスとおちょこが必要であり、このコインがお酒や食事と交換できる仕組みになっている。

ちなみに、このグラスとおちょこも中田さんが自ら制作に立ち会ったもので、「自宅に持ち帰ってもちゃんと使えるように」との思いから、見た目だけでなくサイズや質感など細かいところまでこだわり抜いたものだ。

私が訪れた日のテーマは「福島ドリームチーム」。寫樂(しゃらく)、飛露喜(ひろき)、名倉山(なぐらやま)など福島で酒造りにいそしむ酒蔵のブースが居並ぶ中で、寫樂を造る宮森義弘社長にお話を伺った。

「日本酒は、同じ銘柄でも仕込んだ年によって味が変わります。もっと言えば保管する温度によっても味が変わるし、封を開けてすぐに飲んだときと、飲み残しを冷蔵庫に入れて数日経ってから飲んだときとでも、味はまったく変わってきます」(宮森社長)

お話を伺った寫樂の宮森社長(右)。気さくな方だが、ひとたび日本酒に話題が及ぶとその表情は真剣そのもの

お話を伺った寫樂の宮森社長(右)。気さくな方だが、ひとたび日本酒に話題が及ぶとその表情は真剣そのもの

「日本酒は生き物ですから」という宮森社長の言葉通り、日本酒は造った年や保管状況によって味が違う。しかしかつては、味が違うと苦情の電話が来ることも珍しくなく、蔵側はそのたびに謝っていたのだと宮森社長は話す。

「だから、年によって味が変わることのないように、炭などでろ過をして味を常に均一にしていました。わかりやすく言うと、スーパーに並ぶような、機械的な日本酒をつくっていたんです」(宮森社長)

そうした経験を経て今私たちに提供されるのは、蔵元の個性が見える日本酒だ。その時々の味わいを楽しむのが、日本酒の本来あるべきかたちなのだろう。

手に持つグラスに最初に何を注ごうか。どれもおすすめに違いないだろうが、その中でも特に飲んでおいたほうがいいと思う日本酒を宮森社長に聞いてみた。

「この時期にしか飲めない『おりがらみ』ですね。薄く濁っているお酒です」

透明の液体がとくとくと音を立ててグラスに注がれる。一口いただくと、甘さと酸味が口の中に広がって、味わいがある。うまい。
 sake_1

続いていただいた寫樂の純米大吟醸は、香りが高くスッキリとした味わいだ。飲み比べることによってその違いがいっそうわかるので、飲んでいて面白いし、自分の好みの味を見つけやすい。

ミシュラン星の味とともに

また、このイベントは日本酒を楽しむだけにとどまらない。日本酒に合う食事といえば魚や焼き鳥といった和食がすぐに思い浮かぶけれど、それだけではなく、なかなか日本酒と合わせる機会のないイタリアンやフレンチといった料理との組み合わせもここでは挑戦できる。

単にジャンル別の料理をそろえたというわけではなく、普段から中田さんが足を運ぶお気に入りの銘店が集結しているのだ。中にはミシュランの星を持つ店もある。それら一流の銘店がこのイベントのためだけにメニューを考えて出店しているのだから、ぜいたくと言うほかない。

私が立ち寄ったのは「ラ・ボンバンス(La BOMBANCE)」のキッチンカー。西麻布のミシュラン星レストランとして知られるこの銘店がイベント期間中に供するかす汁は、毎日違う酒かすを使っているのだという。

「使う酒かすによって風味がまったく違うんですよ」とオーナーシェフの岡元信さんが教えてくれた。実際にいただくと、上品な味わいとともに汁の熱さが体に染み入る。

ミシュラン星レストラン「La BOMBANCE」。ほかにも、麻布十番にあるイタリアンの名店「ちいさな台所 ひらた」、麻布十番の人気焼鳥店「鳥善 瀬尾」、予約がとれない居酒屋として知られる「件(くだん)」、気鋭のシェフによるフレンチ「SUGALABO」がイベントに出店

ミシュラン星レストラン「ラ・ボンバンス(La BOMBANCE)」。ほかにも、広尾の老舗イタリアンの名店「ちいさな台所 ひらた」、麻布十番の人気焼鳥店「鳥善 瀬尾」、予約がとれない居酒屋として知られる「件(くだん)」、気鋭のシェフによるフレンチ「SUGALABO」がイベントに出店

イベント会場の中央にそびえ立つ櫓から立ちのぼる木の香りに包まれながら、最高の日本酒に最高の料理で至福の時間を過ごす。

日本酒好きが楽しめるのはもちろんだが、会場内には利き酒師が常駐しているので「日本酒をどう楽しめばいいかわからない」という人でも心配はいらない。ワイン初心者がソムリエに教えを請うように、利き酒師に好みの味を伝えれば、きっとあなたに合う銘柄をおすすめしてくれるはずだ。

東京の中でも最新のトレンドが集まるエリア・六本木で、全国から厳選された酒蔵が集まるこのイベントに、あなたもぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

(構成:加藤未央、撮影:常盤亜由子)

*こちらもおすすめ
Special Interview 中田英寿、日本を語る
前編:世界を旅して、日本を知った
中編:好奇心の塊。生来の人好き
後編:今、18歳でサッカー選手になった頃と同じ気持ちで