第11回:ベンチャーキャピタリストだけど質問ある?
学生起業によくある社内体制の失敗って何ですか?
2016/1/26
今、最も注目されるベンチャーキャピタリスト・高宮慎一氏と、十数年のアップルでのビジネス経験を経てIoTサービス「まごチャンネル」をスタートさせた梶原健司氏が本音で語り合う大好評連載です。今回から、特別ゲストとしてメイクアップアプリを運営するMAKEYのCEO、中村秀樹氏をゲストに迎え、学生起業やベンチャーのアーリー期ならではの悩みを明かしてもらいます。
※本記事の取材は2015年11月に行われました。文中の情報はすべて当時のものです。
中村:今日はよろしくお願いします。こんな貴重な機会をいただけて大変うれしいです。
高宮:よろしくお願いします。お忙しいところすみません。今日来ていただいた目的や、連載の趣旨はもう大丈夫ですよね。いつも通りカジケンさんにも同席してもらいますので、オジサン2人で相談に乗らせてもらいます(笑)。
梶原:初めまして。いやー、中村さん、お若いですねぇ。しかもイケメン! おっさんひよっこ起業家として生暖かく見守る感じで参加させてもらいます(笑)。
中村:いえいえいえ(笑)、緊張していますが、よろしくお願いいたします。改めて、中村秀樹と申します。「MAKEY」というメイクの情報を共有する女性向けのSNSアプリを提供する会社を経営させてもらっています。2014年に、大学生のときに創業したのと、サービスを開始して1年ほどのベンチャーということで、今日はお声をかけいただきました。
“フラットな社内体制”というわな
梶原:おお、学生起業をされたんですね。自分は起業家としてはもちろんまだまだなんですが、会社で10年以上勤務していたので、そのときの経験が役立つことはそれなりにあります。
逆に自分の学生の頃を想像するに大学生での起業となると、悩みやわからないことだらけだと思うんですが、そうしたことを相談する年上の人はいるんですか?
中村:はい、何人かの人に助けていただいたり、相談に乗っていただいたりしています。高宮さんもそのお1人で、回数はそれほど多くないんですが、定期的にお会いしてもらっています。
高宮:初めてお会いしたのは、2014年4月でしたよね。確かOnLab(Open Network Lab)のデモデイで拝見して、面白いなぁ、と思って声をかけたんでした(笑)。で、そのあと何回かご飯を食べながら。
中村:そうですね。お会いしてからしばらくの間は、社内体制のことについてアドバイスいただいて、とても助かりました。
梶原:ほー、社内体制。どういうアドバイスなんですか?
中村:学生同士で起業するときに多いパターンだと思うんですが、われわれも創業メンバー数人がなんとなく集まって事業を始めたんですね。でも、サービスをつくりあげていくと、次第に「これは自分がつくったんだ!」という思い入れや、固執するような気持ちが各メンバーの中で生まれてきました。一方で、外部の第三者に対して、メンバーのポジションを明確にするために、役職などをつけなければならなくなる。まずそこで揉めましたね。
梶原:なるほど。揉めてしまったんですね。
中村:はい。
高宮:これも“ベンチャーあるある”なんですよね。メンバー同士の関係が完全にフラットに始まっちゃった場合、誰が最終的な責任を取って決断をするのかという役割が定まっていないことが多いです。そうすると会社にとって重要な決断を迫られる場面で、メンバー同士の水掛け論になってしまうことがある。
たとえば「この段階では営業で伸ばすんだ!」「いやプロダクトで伸ばすんだ」みたいに。両方ともそれなりに一理あって、正しい正しくないではなく、自分たちのやりたいスタイルの問題になったときは、以前梶原さんとお話ししたように(第3回:「ユーザーにぶっ刺さるもの」のつくり方ってありますか?)、誰か1人が決めるべきなんですが。
また、友達のようなフラットな関係だと、お互いの判断や行動に対して遠慮して口を出さなかったりする。それが積もり積もると、お互いにフラストレーションがたまり、どこかで噴出することになります。
中村:僕らもまさにその通りでした……。何度かシリアスにぶつかり合いましたね。
高宮:プライベートな関係とは別に、仕事をともに進めるうえで、組織のリーダーシップ論として「誰が」「何を」決めるのか? という役割分担のコンセンサスは明確にあったほうがいいと思います。また会社全体の意志ともいうべき全社最適としての戦略も必要です。
プロフェッショナルな関係でなく、友達関係を優先するが故の変な遠慮が出たり、セクショナリズムのようなお互いの領域に口出ししないみたいな不文律ができてしまうこともよく見る“あるある”です。そうすると、会社全体の方向感がないまま、各部門で部分最適な動き方になってしまい、成長の勢いが出ません。また、組織やメンバーの関係もバラバラになってしまいます。
中村:はい。そのように話していただきましたね。
梶原:やっぱりフラットな関係で始めてしまうものなんですか? 学生が起業する場合は。
高宮:正確には、お互いの関係性がフラットかどうか、リーダーシップは誰が取るのかという論点すら意識せずに始める人たちが多いと思います。友達ノリ、サークルノリで。その結果として組織における関係性もフラットのままになって、というケースが、学生が起ち上げた企業だと多くなる。
中には特異なキャラがいて、その人の強烈なリーダーシップを発揮して「俺が仕切るからついてこい!」みたいなチームもあるのですが、それは少数派です。
中村:いや、ほんとおっしゃる通りです。
創業期に済ませておきたい“二段構えの議論”
梶原:もともと何人ぐらいで始めて、今はどういう感じなんでしょうか?
中村:最初は大学3年のとき、私と同じ2015年卒の2人で始めました。正確には3人なんですが、1人は学業を優先したいということで、私ともう1人の2人でまずはサービス開発を開始しました。しかも当時は2人とも大学、大学院卒業後に就職するつもりだったので、それまでの1年間で勝負しようと。
そのためには開発のスピードを上げなければならず、エンジニアの補強が必要でした。そんなときIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)にオーディエンスとして参加していたら、たまたま隣の席に座っていた筑波大大学院の学生と話が合い、その人が参画してくれることに。さらに自分と同じ大学の別の学生も興味を持ってくれて、結果としては当初の2人と合わせて合計4人のチームになりました。
梶原:その4人が今のメンバーってことですかね。
中村:はい。4人でサービスの骨格をつくって、会社の登記をして、現在に至るという感じです。
梶原:2014年からですと、今1年くらいってことだと思うのですが、先ほどの役割や序列みたいな話って、どうしたんですか? もう解決済み?
中村:解決済みです。はい。
梶原:おー! どんな感じで解決できたんですか? すごく興味あります。
中村:時系列で言うと、先ほど申し上げた通り、僕ともう1人の2人で開発を始めたので、ほかの2人が参画して4人で会社を登記するときに、最初の2人が共同代表というかたちにしたんですね。
今思えば代表1人ではなく、2人で共同代表というスタートになった時点で、お互いに譲れない部分があることが顕在化していたと思います。ただ当時は、それでもうまくやっていけると思っていました。
高宮:当初はそう思いますよね。想いは一緒だし、関係性もうまくいっているし、問題が発生しても話せば解決すると。
中村:はい。しかし、6カ月、7カ月と開発を進めていくと、やはり対外的にやりにくさが出てきました。
具体的には、おのおのが共同代表で動いていくと、サービスについて外部から異なるフィードバックをもらってきます。「俺がもらってきたフィードバックのほうが正しい。こっちを反映させたい」とか、「いやいや、こっちを反映させて」ということになってきまして、ついてきてくれたほかの2人としても、「頼むからどっちかに決めてくれよ」と。チームとしての判断が優柔不断になっているので、じゃあ最終的な意思決定の責任者は1人にしたほうがいいよねという結論に至った次第です。
梶原:なるほど。
中村:今は私が単独で代表をやらせてもらっているんですけれども、そこに至るまでにいざこざというか、あつれきがありました。ちょうどそのタイミングで高宮さんに相談をさせてもらったという感じですね。
高宮:そうでしたね。
梶原:さらっと言いましたが(笑)、 メンバー間で序列をつけたわけですよね。おまえは代表じゃない、俺が代表だと。
中村:はい(笑)。
梶原:おおお! すごいですね。それって、どうやって収まったんですか?
中村:そうですね……。そうですね……。詳しい話は割愛させていただきますが、僕らの場合は、対外的な意思決定が上手くいかなかったことをきっかけにもう1人の共同代表から進言してくれました。
結果的に、彼は取締役として残りつつも、僕がそのまま代表を続けているという体制なんですよね。
高宮:当時、中村さんにお話を聞きましたが、やっぱり先ほどの“あるある”通り、意思決定体制が、ポジション的に完全にフラットになってしまっていたんですよね。それぞれメンバーが管掌部門を持って縦割りになっていて、俺のところには口を出すな、みたいな。
全社的な目線での優先順位がない……正確に言うと関係性が良いゆえに優先順がつけられず、とにかくお互いが管掌分野を持っているからということで均等にリソースが割り当てられてしまう。そこに下手にフラットに営業担当取締役とかプロダクト担当取締役という役職がついてしまったりすると、均等なリソース配分が既得権益かのような前提になってしまいます。
そうすると全社目線での戦略的な意思というのはまったく出せなくなってしまいます。大企業でもカンパニー制などをとったとき起こりがちな現象ですね。
梶原:確かに(笑)。
高宮:本来、経営陣は個別の機能や事業部を担当する前に、全社目線で経営を担ういち取締役として、戦略的に優先順位を決めなきゃいけない。その優先順位に沿って、部門横断的に大胆かつ柔軟にリソース配分を変更していく。その機動性こそがスタートアップとしての戦い方です。
だから極端な話、たとえ自分の管掌部門の割り当てリソースがゼロになっても、それで全社が伸びるんだったらそのほうが良いんだ、という議論ができるところまで、メンバー全員の目線が上がっている必要があります。そのうえで、全社目線、つまり経営者として誰がリーダーシップを取るのか、誰が会社としての最終的な意思決定をして責任を取るのか、という議論が必要です。
その二段構えの議論がきちんとチームとしてできているかどうかは、学生起業に限らずスタートアップの早いタイミングで明確にしておくべきだと思います。
仕事以外のところから人間関係が始まっていたり、共同創業者だったりすると、リーダーシップ上の役割分担を決めるときは確かに居心地が悪いでしょう。しかし、企業としての意思決定体制を明確にするうえでは、乗り越えるべき大事なステップだと思います。
中村:まさにその話をしていただいたんですよね。あのときの自分にはものすごく支えになりました。
本日のポイント
・メンバー間が完全にフラットだと、スピーディな意思決定に支障が出たり、セクショナリズム的に部分最適的に陥ってしまう危険性がある。
・スタートアップの戦い方は、全社目線での優先順位に沿って、事業成長に最も効率的に貢献するドライバーに迅速かつ大胆にリソースをシフトすること。
・そのためには、経営メンバー全員が、自分の管掌部門の視点を離れて、全社目線で優先順位を議論できるようになる必要がある。
・さらに、経営の意思決定上は、プライベートな関係に引きずられることなく、最後は誰がリーダーシップを取るのかを明確にしておくべき。
(写真:疋田千里、企画協力:ダイヤモンド社&古屋荘太)
*過去の記事はこちら
第1回:ベンチャーって、どんな感じで成長するんですか
第2回:ベンチャーのシードフェーズで重要なことは何ですか?
第3回:「ユーザーにぶっ刺さるもの」のつくり方ってありますか?
第4回:VCから投資を受けるのに大切なことは何ですか?
第5回:起業家は撤退ラインを設けるべきですか?
第6回:ピボットすべきタイミングはいつですか?
第7回:創業期のメンバーのリクルーティングって、みんなどうしてるんですか?
第8回:起業家と投資家の良い「知り合い方・付き合い方」ってありますか?
第9回:起業家に求められるスキルって何ですか?
第10回:経営チームに求められるスキルって何ですか?
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