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5年後、保険ビジネスはどう変わるのか?

ほけんの窓口が、9割の営業職員を「保険業界外」から雇う理由

2016/1/16
高齢化などの社会変化、消費者保護をより重視した業法改正やスマホシフト、アライアンスの拡大などにより、大きな地殻変動が起きている保険業界。今後5年間、保険ビジネスや販売現場の最前線はどのように変わるのか。古い慣習が色濃く残りつつも、今まさにイノベーションが起こり始めている保険ビジネスについて、業界の第一線で活動するライフネット生命の岩瀬大輔氏、ほけんの窓口グループの窪田泰彦氏が語り尽くした。
第1回:岩瀬大輔が語る「なぜ生命保険業界は変わる必要があるのか」
第2回:ほけんの窓口・窪田社長が大事にする「最優」という言葉の意味
第3回:岩瀬大輔が考える「保険業界でこれから来るトレンド」

銀行が保険を販売すること

佐々木:リアルの世界でいうと、「ほけんの窓口」のような乗合代理店はもちろんですが、さきほど銀行の保険販売に注目されていましたね。第一生命が日本生命を抜いたポイントも銀行でしたが、銀行が保険を販売することの重要性について聞かせてください。

窪田:銀行と保険代理店が組むことは互いの利益になると思っていて、リテール金融(個人や中小企業など小口を対象にした金融業務)の新しいビジネスモデルをつくれる可能性があります。

1つ目の理由は、お客さま一人ひとりと長期に良好な関係を築けること。銀行の住宅ローンなどに加え、保険というプラットフォームで長期の関係をつくれます。

2つ目は顧客世代を相互にフォローできること。ほけんの窓口の加入者は40代までの若年層が約8割。一方、銀行は年金口座のある高齢の顧客が多く、若い人が少ない。「ほけんの窓口@○○銀行」とすることで、銀行は若年層の顧客を取り込めるし、私たちは生存リスクが高まる高齢の顧客を取り込めます。

3つ目は、銀行が得られる保険手数料。保険はストックビジネスなので、銀行の安定的な収益基盤をつくることができます。

佐々木:リアルの話としてもう一つ、人材育成についてお聞きします。ほけんの窓口の営業職採用の9割近くは保険業界以外からの転職だそうですね。保険業界の人はダメなんですか。

窪田:徹底的にうちのカリキュラムで教育するので、手あかのついた人はいりません。大切なのは「聴く力」です。利用者の意向を聞き、保険料の負担能力はどれぐらい、と話を聞きながら相手の立場になって共同して自社ソフトLDS(Life Design System)でプランを設計していく。2カ月間、缶詰めで教育しますので、過去の経験は必要ありません。

岩瀬:私もほけんの窓口と取引をするようになって50~60店舗を回りましたが、店舗スタッフの皆さんは保険代理店スタッフのイメージと違うんです。契約を取らなくていい強みもあるのでしょうが、人気のある塾の先生のような人が多くて。誠実に話を聞いてくれて、わかりやすく教えてくれるんです。

窪田:プランナーには「お客さまの話を聴け、自分の思いを語るな」と言っています。相手が話を理解していないと感じたら絶対にそこから話を進めるな、と。

佐々木:流通もネットも大事だけれど、やはり人としてのスキルが非常に大事ということですね。ライフネット生命の人材教育はいかがですか。

岩瀬:私たちの会社も、会社としての理念が強いので電話でお客さま対応をするオペレーターや保険相談担当の研修は厳しいです。研修から実務にデビューできない人もまれにいるので、他社から来た人はびっくりしますね。

生存リスクは拡大する

佐々木:次に、5年後、10年後を見据えたときに、今日ここまでに出たもの以外で注目すべきファクターはありますか。

窪田:今以上に高齢化が進みますから、生存リスクは拡大しますね。年金なんて4割の人が払っていないんですから、国の制度としてもう成立しないわけですよ。国もそこを正直に開示すべきです。

年金・医療・介護も含めマーケットとして考えたときに、官から民へ移すと仮定して、今から準備しなければいけないと思います。そもそも今の流通は健全なのか?と疑って、それに対処できるところが勝ち残るだろうと思います。

岩瀬:もう少しマクロな話になりますが、ここ数年、社会の常識が変わってきていると思うんですよ。みんな中にいるから気づかないですけど。

たとえば、マイナンバーなんて絶対に無理だと思っていました。いろんな方面から反対が出て頓挫するのではないかと。でも導入しました。導入することでさまざまなことが変わると思います。ずっと前から言われていた農協改革もそうです。

社会の価値観も多様になったと感じます。先ほどお話しした同性のパートナー。私たちも2年ほど前から考えていましたが、当時はまだ世間の風当たりがきつい印象でした。それにラグビー日本代表の活躍。「日本人とは何か」の意識が変わってきたと思いますね。

見た目は外国人のような選手を「松島、行け!」と応援して、伝統的価値観でいうとどう見ても松島さんじゃない人が走っていたり。海外では当たり前の多様性を認めるのが日本は苦手でしたが、少しずつ変わりつつあると感じます。

後から振り返ると、あの頃の5年、10年ですごく変わったよね、という時代を私たちは生きているのかもしれません。

佐々木:では最後に、5年後、保険業界の地図はどう変わっていると思いますか。流通の力が増すなかで、大手の会社は地位を保ち続けられるか、あるいは凋落(ちょうらく)が進むのか。言いにくいかもしれませんが、ズバリお願いします。

窪田:私は保険業界の勢力地図にはまったく興味がありません。

佐々木:興味ないですか(笑)。

窪田:ええ。ただユーザー優位が徹底的に進むのは間違いないです。さらに進む高齢化に関する商品の改良も格段に進むと思います。乗合代理店や銀行での保険販売、ネット販売など、販売スタイルもますます多様化するでしょう。

そこで一番大切なのはスピードです。これは行政にも言いたい。新しい商品を開発しても認可が出るのが遅ければ意味がない。日本の金融は、元本が割れると消費者が怒る変なところがありますが、元本割れの可能性は当然のことでしょう。金融は自己責任の世界ですから。行政が商品認可のスピードを上げると、企業側も相乗効果でもっとスピーディーに変わっていきます。

岩瀬:これだけ行政に堂々と注文をつけられる方はなかなかいませんが(笑)、私も同感です。

保険業界、とくに生命保険業界の変化のスピードが遅いのは、保険はストック商売なので何もしないでも過去のもので食べていけるからなんですね。だからスピードはゆっくりですが、2008年の開業当時に比べて、業界の質は確実に良くなっていると感じます。シンプルな商品が増えましたし、保険料もどんどん安くなっています。

ベンチャーである私たちが業界の端っこでちょろちょろやっても社会は変わりませんが、私たちのアクションで大手の会社が変わり、業界や社会が変わっていく。大手生保も同性パートナーの保険金受け取りを始めました。やはり大手生保がやると変わるんです。そんなふうにして、少しずつみんなで業界を良くできればいいなと思います。

(構成:合楽仁美、撮影:福田俊介)

*続きは明日掲載します。