テスラの工場と自動運転車を現地取材
テスラの最新「自動運転」。そのスムーズな動きに驚いた(桃田健史)
2016/1/12
車の約98%がアルミニウム
ラスベガスでの「CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)」で、1月4日と5日のプレスデー、さらにメイン会場で1日取材した後、サンフランシスコまで飛行機で約1時間移動した。
サンフランシスコ空港に到着後、フリーウェイ110号線を南下し、84号線で西へ向かう。その途中、フェイスブックの真新しいオフィスが右手に見える。サンフランシスコ湾を横断し、対岸のニューアーク市へ向かった。
さらに880号線で少し南下すると、左手に白い外観の大きな工場施設が現れた。建物の中央には大きく、「TESLA」の文字が見える。
ここはもともと、トヨタとGM(ゼネラルモータース)が1984年に合弁事業として設立したNUMMI(ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング・インク)の工場があった場所だ。敷地総面積は約15万坪に及び、「カローラ」などが生産されていた。
テスラがここを買収したのが2010年。米エネルギー省が推進した次世代技術車のアメリカ生産プログラムに対する事業補助制度を活用した買収だった。
買収後、約2年間かけて、テスラはこの工場を電気自動車の製造ラインに刷新。「NUMMI時代の設備で流用したものは、全体の約10%に過ぎない」(同工場関係者)という。ちなみに、NUMMI時代の生産能力は年産48万6000台だった。
テスラは初期モデルとして、自社製の量産モデルである4ドアセダンの「モデルS」を企画。その最大の特徴は車体全体の約98%でアルミニウムを使用して、クルマを軽量化することだった。
工場内の新設備でもっとも設営に苦労したのは、アルミニウム専用の大型プレス機。ミシガン州の企業が使っていたモノを買い取り、テスラ社内の移送プロジェクトチームが4カ月かけて部材の移動と組み立てを行ったという。
中型セダンの「モデル3」を発売へ
続いて、溶接工程を見学した。
部材については、ドイツのKUKA製ロボットを使用しており、その周辺にいるオペレーターの数はとても少なく、広義での自動化率が高い。その先にある車体溶接でも、主体はKUKA製のロボットが作業を行う。
その奥に向かうと、電動モーターの組立工程がある。
もともと、テスラが使用するモーターは台湾のFUKUTA電子が製造し、アメリカに輸出していた。筆者は同社を直接取材したことがあるが、「モデルS」で使用しているモーターも、テスラとFUKUTA電子が共同開発したモノだ。これをテスラ本社工場で量産している。
モーターの外材、さらにギアボックスなどの主要部品の多くを、同工場内または周辺の関連工場でテスラが自社生産している。
電池については、パナソニック製のリチウムイオン2次電池を使っている。
一般的に“パソコン向け”と呼ばれることが多い、直径18mm×高さ65mmの「18650」を日本から輸入し、この本社工場の2階にあるスペースで、モジュール化と電池パック化を行っている。ただし、その作業工程は未公開だ。
近い将来には、パナソニックと連携する大型電池製造拠点「ギガファクトリー」をアメリカ国内に設置し、そこからテスラ工場への電池供給を行う予定だ。
さらに工場内を進むと、溶接後の車体は施設内の塗装工場を経て、最終組み立てラインに戻る。
作業ラインの前半部分では、1台ずつ自動移送ロボットに乗って動く。その先の工程では、日本のファナック製ロボット2台を使い、組み立て途中の車体全体を上に持ち上げ、移送用のハンガーに固定する。ハンガーによる流れ作業では、電池パックなどを車体の下側から組み付けていく。
作業ラインの後半では、目視による最終品質検査を経て、完成車の全数でダイナモメーターによるモーターの作動とブレーキテストを行う。さらに、屋外にあるテストコースで突起のある路面などで走行し、ハンドリングを最終チェックする。
工場関係者によると、2015年に生産した「モデルS」の数は約5万台で、2012年6月からの累積台数は約8万台。2016年の生産計画では、「モデルS」5万台に加えて、多目的車SUVの「モデルX」を5万台生産するという。
これら2モデルは、車体やモーターなどの基本構造を共有するため、「モデルS」の製造ラインを延長して、2モデルを混流している。今回の視察でも、「モデルX」が数台流れていたが「初期モデルの生産期間が一段落しており、きょうの時点ではモデルXの数は少ない」という。
また、テスラのグローバルコミュニケーション担当のヴァイスプレジデントのリカルド・レイエス氏によると、テスラ自社製として3モデル目となる中型セダンの「モデル3」を、2016年3月から4月に発表するという。
「モデル3」は「モデルS」をひと回り小さくしたカタチになる模様で、「現在のモデルSとモデルXの製造ラインではなく、別の製造ラインを工場内に新設する」と説明した。
簡易自動運転に向けた3つの装備
今回のテスラ工場訪問の目玉は、「モデルS」による自動車線変更を伴う簡易自動運転の体験だ。
試乗の前に、テスラ関係者が車両の説明をした。簡易自動運転にかかわる装備は3つある。
1つ目は、ルームミラーの前に取り付けた単眼カメラ。ハードウェアのメーカーは非公開だが、画像認識の基本技術は、イスラエルのモービルアイ(登記上の本社はオランダ・アムステルダム)が提供している。
同社は、SoC(システム・オン・チップ)と呼ぶソフトウェアを開発している。欧米、そして日系自動車メーカーの多くが同社の製品を採用しており、単眼カメラの画像認識のデファクトスタンダードである。
2つ目は、フロントバンパー中央に取り付けた、スウェーデンのオートリブ製のミリ波レーダー。前方の約200m先まで対応する。
3つ目は、前後のバンパーに組込んだ、コーナーセンサー。これは自動運転でも活用し、作動する範囲は2~3m程度だ。
以上の3種類の装備は、アメリカでの販売モデルでは2012年6月から2014年10月生産分までを除いて、すでに取り付けられている。日本向けでは、デリバリーが始まった2014年9月から2014年末の初期デリバリー分を除いて、装着されている。
アメリカでは、簡易自動運転による走行は可能で、ユーザーは車載器の通信機能によって、
専用のソフトウェアをダウンロードする。いわゆるOTA(オン・ザ・エア)によるシステムだ。
OTAについてテスラ側は「基本技術は弊社内で開発し、実際の通信にかかわる課題については、仕向け地それぞれの通信インフラ企業が対応する」と説明するにとどめた。なお、ダウンロードには数時間を要するという。
スムーズな自動車線変更
試乗コースは、テスラ工場の敷地内を出て、すぐにフリーウェイ880号線を約20分間北上して、Uターンして再び880号線を戻ってくるルートだ。
テスラが「オートパイロット」と呼ぶ簡易自動運転は、走行速度がゼロから時速100マイル(約160キロ)まで対応する。
走行中、ダッシュボードの上部に、青色のステアリングのマークが点灯している状態で、ステアリングの左側のウインカーの下部に一部するレバーを手前に2回引く。これで、オートパイロットが作動し、前車を追従する。この機能は、一般的にACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)と呼ばれるものと同じだ。
特徴的なのは、前車との車間距離を7段階で設定できること。操作は、オートパイロット用のレバーの先にあるダイヤルを回し、ダッシュボードに表示される1から7の数字を切り替える。
実際に車間距離の設定をいろいろ変えてみたが、距離が安定するまでの時間は、日系メーカーが採用しているコンチネンタル社の単眼カメラよりと比べて、明らかに速い。スバル「アイサイト」向けとして、カメラを2つ使用する日立オートモーティブ社製とほぼ同じ速さで距離が安定する印象だ。
また、レーンキーピングアシスト(車線逸脱防止機能)による、自動操舵も違和感がなくスムーズに動く。
そして注目されるのが、自動車線変更だ。
操作はオートパイロットが作動している状態で、ウインカーを出すだけ。すると「モデルS」は周囲の状況を見ながら、自動で車線を変更する。車線変更は、安全を加味して1車線ずつしか行えず、その都度、ウインカーのオフにして、再びオンにする必要がある。
走行中に何度も自動車線変更を試したが、さまざまな状況で、人間がおこなうのとほとんど変わりないスムーズかつ敏速な動きをみせた。
また、フリーウェイから降りる際、本社線から出口専用車線への自動車線変更も可能だが、同乗したテスラ関係者は「走行安全性を加味して、推奨していない」とつけ加えた。
このオートパイロットについて、日本国内では2016年1月内に国土交通省からの使用許可が下りる見通しで、これにあわせて日本の「モデルS」ユーザー向けの専用ソフトウェア・ダウンロードサービスが始まる予定だ。
日系メーカーでも、日産、レクサス、スバルなどが、自動車線変更を含む簡易自動運転の市場導入に向けた準備を進めているが、これらの日系メーカーに先んじて、テスラ「モデルS」が日本で初めて、自動車線変更の量産化を実現することになりそうだ。
(写真提供:桃田健史)