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経営共創基盤(IGPI)取締役マネージングディレクター、パートナー/IGPIシンガポールCEO シティバンク銀行、ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、ライブドア証券(取締役副社長)などを経て現職。経営共創基盤では国内外の大企業、ベンチャー企業、政府機関の戦略立案・実行、M&Aアドバイザリー、事業提携、組織ガバナンス設計、企業再生、危機管理に従事。大学や企業でM&A実務や交渉学の講師も務める。人工知能学会倫理委員会委員、政府系実証事業採択審査委員会などの委員を多く務める

シティバンク銀行、ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、ライブドア証券(取締役副社長)などを経て現職。経営共創基盤では国内外の大企業、ベンチャー企業、政府機関の戦略立案・実行、M&Aアドバイザリー、事業提携、組織ガバナンス設計、企業再生、危機管理に従事。大学や企業でM&A実務や交渉学の講師も務める。人工知能学会倫理委員会委員、政府系実証事業採択審査委員会などの委員を多く務める

予測の3つのポイント

・米国が相対的に世界経済をけん引していく

・「ユニコーンの死」が本格化する

・IoT、AI分野でプレーヤーの選別が起こる

地銀と電機の再編を注視

皆さま、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

最初にお断りさせていただくと、筆者は基本的に悲観主義者である。NewsPicksをお読みの賢明なる諸兄諸姉にはそのことをご理解いただき、この2016年の展望をお読みいただきたい。

と、昨年2015年1月1日と同様の臆病な書き出しをさせていただいたが、まずは昨年の予測を振り返ってみよう。

筆者は昨年1月の予測記事で、政府・日銀による大規模な金融緩和による資産バブル形成の可能性や、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオのリスクの高まりを予想した。

GPIFは昨年7~9月期で約8兆円の損失を出した。運用は市場に勝てるかどうかであり、一概には是非を判断できないが現状のポートフォリオのリスクエクスポージャーではこういうことも起こり得ることを国民は知っておきたい。

また昨年、過剰なマネーが供給された株式市場も「成長戦略」のポジティブな材料が出て来なければモメンタムは続かず、マーケットが期待するような短期的な時間軸では成長戦略で結果を出すことは困難であり、「パーティを楽しみなさい、でも踊るのはドアの近くで」と述べた。

日経平均は2015年1月に1万7000円台半ばで始まり、2015年年始にはアナリストらから年末高値2万1000円台の予想も多かったが、実際は年末に1万9000円台を回復して終わった。

政府は「新三本の矢」として2020年ごろに名目GDP600兆円を目指すと発表した。日銀は異次元緩和をその後も継続しており、12月の金融政策決定会合では国債買入れの平均残存期間を長期化し、国債買入れは持久戦の様相を呈している。

日本の政府債務は依然として名目GDPの2倍に及んでいる。筆者は株式市場についてマーケットの期待と成長戦略の時間軸のズレから昨年同様の展開をすると考える。

セクターとしては電機や地銀の再編を注視したい。

電機セクターはジャパンディスプレイが生まれ、そしてパソコンと再編が言われているが、そのうちジャパンマウスが生まれるのではないかとさえ思う、動きの激しさである。国内外のスマホ関連部品の需要が少し落ちてきているとも聞くので、その需給も見ていきたい。

南シナ海での不測の事態も

さて、2016年はどういった年になるのだろうか。

昨年11月13日のフランス・パリ同時テロはニュースも多く日本の人々にも衝撃を与えた。本当にテロはどこででも起こり得るのだと。

西側諸国の一員と目される日本人は「日本で新幹線が狙われたら?」と考えるようになった。ビジネスパーソンが海外出張する際には、不必要に繁華街やホテルのロビーにとどまったり、低層階に宿泊するのを避けたりするべきだろう。筆者は宿泊したことのあるホテルで後に爆破事件が起きたことがある。

欧州は難民問題に揺れており、難民受け入れを表明しているドイツでもしもテロが起これば、メルケル首相ももたないと言われている。

一方で株式市場は意外とテロに強く11月13日のパリの事件から週末明けて、16日、17日にはCAC 40もFTSE 100も戻しており、10年前の2005年7月7日のロンドン同時多発テロの際も数日で値を戻していたと記憶している。

世界はテロの不安や地政学的なボラティリティを抱えたまま2016年の幕が開けた。日本を鑑みても、南シナ海や近海で不測の事態が起きても不思議ではない。

相対的に米国が世界経済をけん引

世界経済への影響では、まずは昨年12月16日に米国連邦準備制度理事会(FRB)がリーマン・ショックのあった2008年以来のゼロ金利政策を脱し、FOMC政策金利を0~0.25%から0.25~0.5%とした利上げが大きい要因になるはずだ。

パーティが盛況になる前に酒(マネー)を取り上げるのが中央銀行の仕事と言われるが、利上げによって新興国へ向かっていた投資資金が減少し、資源安とあいまってロシアやブラジルなど新興資源国には痛手となるだろう。

また、金利上昇に伴うドル高によって、輸出が影響を受けるとともに、個人が自動車や住居の新規購入を手控えるといったこともあるだろう。

しかしながら、各国を見渡せば相対的には米国が世界経済のけん引車であることは変わらない。事実、IMFも世界銀行も米国のGDP成長率を2.8%(2.6%)と予想する。これはIMFの欧州1.6%(1.5%)、日本1.0%(0.6%)に比して堅調だ(カッコ内は2015年数値)。ちなみに日本政府は日本の成長率を1.7%と想定している。

市場では2016年に数回の利上げが行われるという見方だが、米国は11月には大統領選挙も控えているため、大きな変調はないだろう。ちなみに、複数の証言によればトランプ氏の髪はカツラではないようだ。

一方で米国、欧州、日本とも中国経済への感応度は高い。

中国経済に対してはさまざまな見方が混在するが、中国のGDP成長率は6.3%(15年6.8%)と予想されている。これを上回るのはインドの7.5%(15年7.3%)くらいだ。インドといえばソフトバンクのニケシュ・アローラ氏の今後が海外からも注目されているが、久しぶりに海外で名前が挙がる「日本の」ビジネスパーソンと言えよう。

ユニコーンは何匹残るのか

米国の実態経済に大きな影響はないが、イベントとして注目すべきはテクノロジーセクターの「ユニコーンの死」だろう。

10億ドル以上の時価総額がついている未公開のベンチャー企業はその希少性からユニコーンと呼ばれていたが、昨今は幻の動物も繁殖していた。たとえば、ウーバー、エアービーアンドビー、スナップチャット、ピンタレスト、ドロップボックス、テラノスなどが著名ユニコーンである。

ユニコーンの一角を占めるテラノスは「1滴の血液でさまざまな医療検査が可能となる」サービスを展開するスタートアップだが、CEOであるホームズ氏は黒のタートルネックに身を包み、故スティーブ・ジョブス氏をほうふつとさせるカリスマ性でヘンリー・キシンジャー氏をはじめとした著名人らの支持を集めた。

その同社が検査の実現性について疑問を呈され逆境に陥っているが、これもまた「ユニコーンは本物か?」問題である。ホームズ氏が米国の小保方氏でないことを証明し、世界の人々の役に立つことを期待したい。

ユニコーンについてシリコンバレーでは「これはバブルか否か?」「Unicornか?Unicorpse(死体)か?」と議論されてきたが、2016年はそのいくつかの真贋(しんがん)が判明するだろう(興味深い指標として、「従業員が減り始めたら死体になる可能性が高い」というものがある)。

米国のプライベートエクイティもヘッジファンドも、昨年はS&P並みのパフォーマンスと精彩を欠き、投資資金はリターンを求めてテクノロジー系スタートアップに流れ込んでいたが、2016年は選別の年になるかもしれない。

AIやIoTのプレーヤー選別

テクノロジーセクターと言えば、日本でも成長戦略周辺で人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)といった言葉が飛び交うようになった。筆者も企業からAI技術(アルゴリズム)をどう評価すれば良いか? という相談を昨年はよく受けたが、「どんなに凄い技術、新しい技術を使っていると言われても惑わされずに、その精度を見てください」と伝えていた。

1990年代にインターネットが一般化した際もブラウザの画面を大量にプリントして、「これがインターネットです」と言うような奇妙なやりとりがあり、HTMLでさえ高度な技術に見えた。

今は有象無象が「AIが入っています」と語るが、大企業はAI入りベンチャー企業に青い鳥を求めるだけでなく、自社保有の技術・エンジニアを見直すべきだろう。

昨年、筆者は米国、ドイツとIoT関連企業を見てきたが、日本企業が自社内でやれることがまだまだあるという感を強く持った。独ベルリンには自動改札さえないのだから。

IoTもlittleBitsでつくれるような個人向けガジェットへの熱意が一段落したら、エンタープライズ系、BtoB向けが立ち上がってくるだろう。話題のフィンテックも単なるスマホ化や家計簿の話ではなくデータとアルゴリズムの戦いである。

日系企業がベンチマークすべきは、海外ならGE、シーメンス、日本ならコマツの取り組みである。どうしても個人向けガジェットに関心がある向きには、179ドル99セントで売られているアマゾンエコーが一つの参考となる。

2015年は経営者が「ウチのAIはどうなっているのか?」と言い始めた年だったが、データとアルゴリズムによって解析(アナリティクス)する分野はますます進展していくだろう。経営者には冷静にアルゴリズムが可能にする自然言語処理、画像認識、音声認識、推薦・予測などに対していくら払うのかを考えていただきたい。

今後、企業間でのデータの所有、アルゴリズムを構築できる人材獲得の競争はさらに激化する。実際に世界のトップ大学の学者や研究者達は「よりアカデミックな場所を求めて」グーグルやフェイスブックなどに参画している。莫大な資金のある企業は研究者達にとって学内政治も論文執筆も関係のない楽園なのだ。

AI入りベンチャーの真贋には注意が必要だが、資金力で米国の大学から超一流AI研究者を手に入れている百度(バイドゥ)などにはすでに日本企業が後塵を拝している事実を直視したい。

昨年は日本でも黒船来訪として話題となったネットフリックスだが、2011年にDVDレンタルと動画配信を分離させ、データ解析企業に生まれ変わった。同社の代表作「ハウス・オブ・カード」のデヴィッド・フィンチャー監督、ケヴィン・スペイシー主演はデータ解析から生まれたキャスティングだ。

2015年の年初からネットフリックスの株価は2倍となり、「芸術は芸術家に任せろ」「クリエイター・ファースト」を標榜し業界で気を吐いている。日本の放送業界も放送法改正によるNHKのテレビ・インターネット同時配信の影響を考慮し、県域免許制度とネット配分金に守られた地方ローカル局の経営が立ちいかなくなる前に、思い切った海外展開を含めて抜本的な企業改革が必要だろう。

デジタルヘルスケアが静かに進化

進化するデータ解析はヘルスケア、バイオテクノロジーの領域にも変革をもたらす。昨年は個人むけ遺伝子検査が話題となったが、今後は遺伝情報と生体情報(バイタル)を融合した解析が必要になってくる。遺伝子検査だけではユーザ課金も一度きりになってしまうためである。

日本の遺伝子検査ビジネスは規制の問題もあり発展途上だが、先端的なバイオテクノロジーの世界ではCRISPR/Cas9というゲノム編集技術により革新が起きている。CRISPR/Cas9は人為的にゲノム配列を削除や挿入することができる編集ツールであり、遺伝子治療への利用の期待も高まっている。

一方で人為的に毒性を高めたウイルスをつくり出すことも可能となり、これらがテロリストの手に渡り、バイオ・テロに使用される可能性も排除できない。こうしたツールが存在する世界では、インフルエンザが流行した場合でも、そのウイルスが人為的に改変されたテロ用のものではないかを調査することが国家安全保障上、必要となってくるだろう。

2016年も社会情勢、テクノロジーからますます目が離せず、筆者も情報を洞察に変えることに精進したい。日本では東芝問題に端を発するようなコーポレートガバナンスの議論もまだまだ続くだろう。

今年8月にはブラジル・リオデジャネイロでオリンピックもある。新年が皆さまにとって素晴らしい年になりますよう、心からお祈り申し上げます。

(文中のGDPは記載がない場合は実質。本文は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織・団体の公式な見解ではないことをあらかじめご了承ください)

(写真:Derek_Neumann/iStock.com)