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値上げと企業業績の動向を見る

2015/12/12
SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は値上げと企業業績について注目してみた。

2015年は乳製品、パン、カップめん、植物油など各種食品の値上がりが相次いだ。また外食業界などでは人手不足による人件費高騰も指摘されている。消費者にとって値上げは当然好ましくない動きだが、企業側としては原材料高が進む中でやむをえない措置となる。

本稿では主要コストである原価率と人件費率からみた企業の収益性と、今後の各種商品の価格動向について考えたい。

2013~14年で各種コストが上昇

まず企業側からみた各種物価の状況をみてみよう。日銀による企業物価指数をみると、2013~2014年にかけて各種物価が大きく上昇したことがわかる。

石油価格の上昇が石油・石炭製品を始め、化学製品などの価格にも影響した。食品・飲料などは現在も上昇基調が続いている。

また企業向けサービス価格指数では2014年4月の消費税率引き上げが最大の要因であるが、職業紹介・労働者派遣サービスや運輸・郵便などは引続き上昇傾向にある。
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2割の企業が原価率上昇に苦慮

では実際にどれだけ企業の収益に影響を与えているのだろうか。主に上場企業を母集団とする企業約3500社について、2012~2014年度の売上高増加率と原価率の上昇度(パーセントポイント)を図に示した。

売上高が増加している企業は全体の80%近くに上るが、同時に原価率も上昇したケースも多い。原価率が60%の場合、原価率が2ポイント上昇すると売上高が5%以上増加しなければ売上総利益が減少する(なお日本では製造業の場合原価率は60~80%、サービス業で40%前後)。
こうした原価率上昇によって売上総利益が減少した企業は全体の2割に及ぶ。
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石油関連、食品関連で原価率上昇

ではコスト増加が目立つのはどの業種なのか。

業種によって原価に含まれるものが異なるため一律での比較は難しいが、業種別の平均値を図に示した。

石油関連業種、食品関連業種などが目立つ。人件費については売上に占める比率が高い業種でも20%程度であるため、収益性に与える影響は原価ほど大きくはないものの、空運や生活用品小売(衣料小売店など)では上昇傾向にある。特に小売店では非正規雇用者への依存度が高く、今後も人手不足によるコスト上昇の可能性がある。
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飲食店、小売業で人件費率が上昇

業種別の状況をもう少し細かくみてみたい。原価率の上昇度について企業数の分布をみると、食品製造で1~2%上昇している企業が多い。

また、飲食店は平均値では人件費率はマイナスとなったが、企業数ベースでは0~1%の微増にかなりの企業が位置している。総合小売、生活用品小売についても同様で、直ちに減益となるほどではないがコスト負担が増加している状況がうかがえる。
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ITでは減収のなか人件費上昇も

SNSやソーシャルゲームなどのインターネット関連サービスや、アプリ・各種システム開発などの分野では、好調な業績の企業が多いものの、エンジニア不足などから人件費は増加しつつある。人件費及び製造原価明細中の労務費をみると(エンジニア人件費が原価に含まれる場合も多いため)、売上減少かつ人件費が増加している企業(図中赤い部分)が2割近く存在する。
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衣料品では値上げで客離れも

ここからは企業の利益率に加えて衣料品を例に、実際の製品価格の動向を追う。

直近ではユニクロの値上げ実施が記憶に新しいが、消費者物価をみても、2013年以降衣料品の価格は上昇を続けている。背景には輸入品価格の上昇があり、2012年以降毎年1割近く価格が上昇している。2014年度はアパレル関連業種の利益率はやや改善となったが、2015年を通して価格高騰が続いており、2015年10月時点で収まる様子は見えない。
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アパレル・雑貨関連企業の原価率の動向をみると、原価率が上昇している企業が過半数となっている。アパレル業界では値下げロスが原価率上昇の主因の一つであるため、単純に仕入原価の上昇とは判断できないが、業界全体として原価は上昇傾向にあることがうかがえる。
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最後に主なアパレル小売企業について客単価と総利益率の動向をみてみよう。

総利益率については、2000年代後半から活発化した自社企画品比率の引上げや、値下げロスの増減などが影響要因となっているものの、直近では原材料の高騰も影響度を増している。

客単価の推移は収益性確保のため価格を引き上げる傾向を示している。ユニクロは2014年、2015年と2年連続の値上げを実施、ユナイテッドアローズも2012年、2013年で一部商品を、2014年には定番商品の値上げを行った。一方で、値上げに伴う客数減も大きく、ユナイテッドアローズでは2014年度の既存店売上高は前年度割れとなった。

今後も当面は原材料価格の高騰と消費者の許容度の双方をみつつ的確な対応を求められるだろう。これはアパレル業界だけではないが、嗜好品かつ半耐久財であるため条件はより厳しいと思われる。
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まとめ

価格設定において、原材料高と消費者の間で各企業は難しい舵取りを迫られており、今後もその状況は続く見込みである。

食品などでは業界一斉の値上げ実施などで徐々に浸透しつつあるが、景気の先行きは不透明な部分もあり、GDPをみても消費の回復は鈍い。衣料品などで価格引上げが許容されるには、新たな価値の提供が必要である。

日本が成熟化した市場であるという観点からも、コストの後追いではなく、プライスリーダーとして価値を伴う価格の提案を期待したい。