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意見が対立しても、共感の場をつくる

国語辞典編纂者・飯間浩明から見た、ネットでコメントをするためのコツ

2015/8/19
NewsPicksの最大の特徴は、多様なピッカー(読者)の多彩なコメントだ。ただ、記事をピックしコメントする面白さとともに、難しさを感じる人も多いのではないだろうか。また、会議や商談などあらゆるビジネスの場、日常的な人付き合いの場において、「それで、あなたはどう思うの?」と“コメント力”を求められる機会は多い。では、コメントを仕事の一部とするプロのコメンテーターたちは、どのような哲学や法則にのっとってコメントしているのだろうか。テレビのコメンテーターあるいは、NewsPicksのプロピッカーという、いわばコメントのプロたちに、「コメント力」の鍛え方を聞く。

国語辞典編纂(へんさん)者として『三省堂国語辞典』の編集委員を務めるほか、NHK Eテレ「使える!伝わる にほんご」講師など、日本語教育番組にも携わる飯間浩明氏。自身のツイッターでも、言葉をめぐるトピックに関してユニークなコメントをしており、人気を集めている。そんな日本語のプロフェッショナルから見た、ネットでコメントをする際のコツとは? 今回、実際にNewsPicksの記事に寄せられたコメントを基に、解説もしてくれた。

どんなコメントでもいい

コメントって、どう書いてあっても面白いんですよ。短くても、見当外れでも、下手でも、思いつきでも、もっと言うとつまらないコメントでもいいんです。というのも、そういうコメントが集積して、全体としてひとつの興味深い情報になるからです。

マスとして読まれるものであれば、自分のコメントが必ずしも行き届かなくても、ほかの人が素晴らしいコメントを書いてくれれば、自分のコメントが引き立て役を務めることにもなります。

非常識なコメントがあれば、それをたしなめるコメントも出てきます。だからまずは、細かいことを気にしないで、思ったことを好きなように書いて差し支えありません。それで、結果的にいろんな人がやって来て、コメントが全体として面白くなるわけですから、なんでもありだとも言えます。

固定読者をつけたいなら?

ただ、これは、自分のコメントはマスの一部で十分だ、と考える場合の話です。マスではなく、「個」としてのコメントに価値を持たせたい、固定の読者をつけたいと考えるなら、話は変わってきます。

その場合は、思ったことをただ書いていればいい、というわけにはいきません。私も悩んでいるところなのですが、SNSというのは、簡単に参加できる反面、読者を増やそうとすると、途端に苦しくなります。自分の話を聞いてもらおうとすれば、何か工夫が必要なんですね。

読者をつかむ“専門店”を持とう

自分のコメントの価値を高めて、読者をつかむためには、自分の“専門店”を持つといいでしょう。その店とは、「カフェ」でも、「技術屋」でも、「おたく」でもなんでもいいんです。とにかく、ここまでは自分が責任を持てます、という専門をつくることです。

世の中にはさまざまな事象が飛び交いますが、それが自分の専門店で扱える商品ならば、すかさず捉えて、「これはこうです」と自分なりの見方を示す。まずは、それに徹することです。専門店としてのキャリアの長短、有名無名の違いはあっても、少なくとも、一般人とは違う視点を読者に提供することができます。

私の場合で言うと、国語辞典の編纂者ですから、言葉が専門です。そこで、世の中を飛び交う事象の中で、「これは言葉の面から見るとこうだな」と考えたことがあれば、それをコメントのかたちにしてみる。そうすると、一応は言葉の専門家が言っていることだからと、耳を傾けてもらいやすい。

ネット社会では、自分はこういう属性を持つ、ということを明かしたくない人も多いかもしれません。でも、多くのお客さんに来てもらうためには、お店の看板を出して、何を専門としているのかを打ち出すほうが効果的です。「看板を出すと差し支えがありますので、出しません。何を売るかは秘密です」というのでは、やはり、お客さんが少なくてもやむを得ません。

何の専門店になるのか

では、自分は何の専門店となるか? 必ずしも自分の職業や研究分野と一致しなくてもいいんです。たとえば、商社に勤めているからといって、商社マンという看板を出さなくてもいい。もし、趣味で何かに打ち込んでいて、このことに関して自分は語れるというものがあればそれを掲げる。テレビドラマの専門店という看板でもいいでしょう。

実名を出すかどうか、ということも問題になりますね。私はツイッターなどで実名で発言していますが、そのメリットはいくつかあります。まず言えるのは、説得力に直結するということです。私が名前を「パンダちゃん」か何かにして、プロフィールを「某国語辞典をつくっています」のようにぼかすと、発言の説得力は下がってしまいます。

また、実名でコメントするほうが、匿名よりかえって自由に発言できる側面もあります。というのも、匿名を守ろうとすると、自分の素性がわかるようなことは言えなくなってしまうからです。

私で言えば、「この人は『三省堂国語辞典』を編纂しているな」とわかりそうな発言は控えるようになるでしょう。もちろん、匿名だからこそ言えることはあります。匿名でほかの辞書の悪口ばっかり書くとかね(笑)。

でも、私のスタンスとしては、そういうことはしたくない。仮にほかの辞書を批判するにしても、悪口ではなくて、「この点はどうも納得できません。この辞書の見解をお聞きしたいところです」のように抑制の利いた表現にしたい。それならば、ことさら匿名にしなくても、実名でいいということになるんです。

飯間浩明(いいま・ひろあき) 国語辞典編纂者・日本語学者。 1967年生まれ。早稲田大学文学研究科博士後期課程単位取得。 『三省堂国語辞典』編集委員のほか、 NHK Eテレ「使える!伝わる にほんご」講師や、「ことばドリル」の監修を担当。 著書に、辞書編纂者の、『日本語を使いこなす技術』 (PHP新書)、『辞書には載らなかった 不採用語辞典』(PHP研究所)、『三省堂国語辞典のひみつ おまけ付き』(三省堂)など。

飯間浩明(いいま・ひろあき)
国語辞典編纂者・日本語学者
1967年生まれ。早稲田大学文学研究科博士後期課程単位取得。『三省堂国語辞典』編集委員のほか、NHK Eテレ「使える!伝わる にほんご」講師や、「ことばドリル」の監修を担当。著書に『辞書編纂者の、日本語を使いこなす技術』(PHP研究所)、『辞書には載らなかった 不採用語辞典』(同)、『三省堂国語辞典のひみつ おまけ付き』(三省堂)など

質の高い論理的なコメントとは

私はコメントには2種類あると考えています。1つは、論理的なコメント、もう1つは感想コメントです。

まず論理的なコメントというのは、問題・結論・理由がワンセットになっているものです。

初めの段落で、何が問題かを明らかにして、自分はその問題についてこう考える、なぜならこうだからだ、と結論・理由を示す。あとは読者に対する説得を続けていきます。説得とは、「現にこういう事例があります」「このリンク先を読んでみてください」というように、証拠を提示していくことです。そうした文章の構造になっていれば、わかりやすいコメントとして、読者は読んでくれます。私が論理的な文章を書くときには、基本的にこの形式を使います。

論理的なコメントを書く際に難しいのは、証拠をそろえることです。たとえば、「この言葉は昔から使われていますよ」と言うためには、本当に昔から使われているのかということを確かめなければならない。その1行を書くために、自分のデータベースから、確かに1960年代にはこの言葉は存在していた、といった事実を探す必要がある。そういう確認作業が欠かせません。

独特の視点、体験に基づいた感想を

一方、感想コメントというのは、論理的なコメントとは違い、実感に基いて書くもののことです。感想として成立させるだけなら、「私は反対です」「俺は嫌いだ」のようなワンセンテンスでもいい。ただ、これでは、読ませる感想にはなりません。読者を引きつけるためには、独特な視点を持つことや、体験に基づいて書くことが有効です。

たとえば、自分の育った家庭が不幸で、家族に対して信頼感を持っておらず、ホームドラマを見ても笑っちゃう、というような人がいるとします。その人は、自分の経験から「あのドラマのような家族は偽物で、実際はもっとシビアだ」と感想を書くかもしれません。あくまで個人の体験でしかないのだけれど、なるほど、この人の立場からするとこういうふうに見えるのかと、読者にとっては価値があるんですね。

敵対するより、共感の場をつくる

最後に、コメント欄で反対意見を述べる際のポイントについて考えてみましょう。たまにNewsPicksでも散見されるように、コメント欄に書き込む人が、ある特定のオピニオンリーダーの意見に引きずられ、一斉にそちらの方向に向かうことがあります。そこで「どうも違うんじゃないか」と声を上げることは、大変勇気がいることです。思い切って発言するためには、それなりの準備が必要です。

発言する前には、自分の言おうとすることに瑕疵(かし)、つまり傷がないかどうか、十分に検討しておきます。瑕疵があるようだったら、ちゃんと調べて、論争になったときに細かいところから論理が崩れないようにします。

ことさら敵対的になる必要はありません。まずは、穏やかに相手の主張を認めてしまい、共感の場をつくったうえで、相手の論の弱いところを指摘するといいでしょう。たとえば、「確かに皆さんがおっしゃることはわかります。私も共感します。ひとつ不安な点は、こういうことがありますよね、その場合の対策はないんじゃないでしょうか。その点についてはほとんど議論されていないですよね……」といった具合です。

このように丁寧に反論すれば、きっと耳を傾けてくれる人も多いはずです。自分の持つ武器で相手を叩こうとするのではなく、むしろ相手に「こんなデメリットを示す資料もあります」と判断材料を提供する、という姿勢のほうが効果的でしょう。

意見が対立した際に共感の場をつくろうとすることは、ネットでは欠けている態度です。自分の意見を批判されると、「もうこいつを殺してやろうか」といった思いにとらわれてしまいがちです。そこをなんとか踏みとどまって、別にこの人は私の敵ではないと考え、批判も謙虚に受け止めたいですね。明らかにおかしな意見はスルーで構いませんが。

相手に否定されたとカッカする前に、「ご意見ありがとうございます。Aに関してはあなたのおっしゃる通りですね。ではBに関してはどうか、よろしければご意見をうかがえますか」などと、相手の言うことを認め、そのうえで意見を求めるのもいいでしょう。

無用な対立を避けるために、私が実践しているのは「しかし」を使わない話し方です。

「あなたはAと言っています、しかしBじゃないですか」と言うとけんかになりやすいのです。そこで、「しかし」を使わずに「ご発言の趣旨はAということだと思います。そのAの場合、こういう問題がありますよね。この点はどうしましょうか」と返します。

事実を基に、事実に迫る

議論の際に力を発揮するのが「事実」です。明らかな事実を提示していけば、自分の意見をことさら示さなくとも、自然と相手も自分と同じように考えてくれることもあります。お互いに「もしこうなら……」と、「たられば」で話していても、終わりが見えません。もし、事実が明確でないのであれば、まずは事実を調べてみましょう。

調べたうえで、「その統計の解釈は間違っていますよ」とか、「データが古いですよ」とか、より正確な事実に迫る方向で議論するのが建設的です。ちなみに、事実を提供するのは、専門家でなくてもできます。「専門家はそう言うけれど、私の身の回りではこうですよ」と日常生活から観察できる事実も、意外に大事なのです。

今回、飯間氏がNewsPicksの記事「ヒト・モノ・カネで見る『地方創生』」に寄せられたコメントから、いくつかのタイプ別に、有益な例をピックアップしてくれた。こちらは、Twitterでも注目を集めている、飯間氏自身による「手書きコメント」となっている。
飯間氏comment

飯間浩明の「コメント力」の秘訣
1. 「引き立て役で終わっていいのか?」を考える
2. 読者をつかみたければ“専門店”を持つ
3. 論理的なコメントは、問題・結論・理由をワンセットに
4. 感想コメントは独自の視点を
5. 対立意見を出すときは共感から入る
6. 議論するときは事実をベースに

(取材・文:村井京香、撮影:福田俊介)