10年後に食えるコンサル、食えないコンサル

2015/8/8

「SPEEDA君」は使い捨てにされるのがオチ

コンサルティング業界は今、好況を謳歌(おうか)している。どのファームも仕事を多く抱え、それに対応するコンサルタントの数が足りずに、一部の案件を断っている状況にある。その背景には、昨今の収益環境の好転により大企業がキャッシュ余剰となり、成長戦略に資金を回す余裕があることが挙げられる。
こうした大企業は、1社で戦略系ファームを何社も使っている。複数のアイデアが同時に提案されるので、その中で最もふさわしいものを選び、成長戦略を決める。
不適切会計問題で世間を騒がせている東芝も、公式資料によれば、会計系コンサルティングファームのコンサルタントを70人以上アサインし、第三者委員会の報告書を作成した事実がある。キャッシュを持つ日本企業による海外企業の買収増加に伴い、海外でのPMI(統合後の組織体制の構築)にも、IGPIをはじめ多くのファームが関わっているのを見る。
ただ、このように業界が活況なことと、現場のコンサルタントが楽しく働いているかは、まったく別問題だ。
一般的に案件が大きくなればなるほど、コンサルタント一人ひとりの業務は地味なものになる。データ入力のような、単純作業に近いものを担当させられることすらある。「誰もが知っている大企業の、買収プロジェクトに関わっている」と誇らしげに語る若手コンサルタントの仕事が、面白さや裁量の大きさでは中小企業の案件に負けていることはよくある話だ。
コンサルティング会社にとっては、大きい案件のほうが多額のフィーを課金できるのは間違いないが、個人のキャリアアップにつながるかどうかは、甚だ不透明である。
通常、アナリストやアソシエイトと呼ばれる若手コンサルタントは、データ分析や情報収集を担当するが、そうした業務はすでにコモディティ化している。それこそ、NewsPicksの親会社のユーザベースが提供するデータベース「SPEEDA」があれば誰でも簡単にできてしまう。
私はデータ分析や情報収集でしか価値を発揮できないコンサルタントのことを「少年少女アナリスト」や「SPEEDA君」と呼んでいるのだが、そうしたコモディティ業務しかできないジュニアからの脱皮をしなければ、使い捨てにされてしまうのがオチだ。
MBAを取得して入社したコンサルタントも同様だ。今のご時世、クライアントとなる大企業には、MBAホルダーの社員や元戦略コンサルタントがゴロゴロいる。その中で、MBAを保持しているだけの経験の浅いコンサルタントは、もはや優位性を持ち得ない。
若手コンサルタントでベンチャー投資業務に関わりたい人は多いが、起業家や経営者に「いろいろ言うけれど、あなたは起業したことあるの?」と言われると黙ってしまうものだ。
経験の浅いキャピタリストは投資先企業が少しゴタゴタすると、「親族に借金して株を買い取れ」と経営者に迫ったりするものだが、それではエクイティによるリスクマネーの提供者とは言えず、日本でシリコンバレーのように起業家が増えることは難しいだろう。

人を転がす「ダークサイド・スキル」が必要

日本の財界では、コンサルティング会社は重厚長大の製造業やメガバンクに比べれば、たとえ世界的に有名なファームとはいえ、まだまだ地位は低い。たとえば大学の同期2人が、1人は世界的な一流ファームに、1人はメガバンクに就職したとする。
20代のうちはコンサルタントのほうが、クライアントの社長にプレゼンテーションをするなど、大きな仕事ができるかもしれないが、もしもう1人がメガバンクの中で出世競争を勝ち抜いたとしたら、その地位は40歳を過ぎて逆転する。
そうした大企業のエリートコースを上っていける人物は、人を思うように動かす「ダークサイド・スキル」を持っており、日本経済を動かす財界の「奥の院」に顔が利く場合もあるからだ。
コンサルタントにとって難しいのは、若手のアナリストのときは、データ分析や情報収集といった「SPEEDA的な」能力が求められるが、昇格してプロジェクトリーダーやパートナーになった途端に、自分の名前でクライアントからプロジェクトを取る「芸人力」や、海千山千の経営者たちを人間力で動かすフィクサーとしての「ダークサイド・スキル」が求められるという点だ。そのギャップが、あまりにも大きい。
「ダークサイド・スキル」を持っている人材は、必ずしもデータ分析が得意というわけではない。ところが、人間力はあるがデータ分析がダメな人材は、20代で早々とクビになってしまう。コンサルティングファームは構造上、このような矛盾を抱えている。

財界インナーサークルにいかに入り込むか

では、コンサルタントはこの先、どのような生存戦略をとればいいか。