「Decode Apps (デコード・アップス)」イベントリポート(最終回)
「ログイン」がわからない顧客にもリーチしたい。キーワードは「泥臭く」
2015/7/19
5月28日、新丸ビル10階のEGG JAPANイベントスペースで、App Annie主催のセミナー「Decode Apps (デコード・アップス)」が開催された。今回のセミナーでは、ゲーム以外のサービス業、小売業、外食産業におけるアプリの開発・活用にフォーカス。クックパッド、良品計画、すかいらーく、あきんどスシローのアプリ責任者が集まり、事例を紹介した。また、イベント後半には各者とNewsPicks編集長の佐々木紀彦とのパネルディスカッションも開催。アプリの将来について活発な議論を繰り広げた。イベントの内容を全7回にわたってリポートする。
「チャーハン男子」の心をつかめた理由
佐々木:今後のすかいらーくのアプリ開発の方針はどんなものですか。
神谷:一人ひとりのお客さまに、適切なタイミングで、適切なオファーをするのがやっぱり一番大事かなと思っています。それをもっと簡単にやっていきたい。
冒頭にお話したんですけれど、今どんどん人が採れなくなっているので、業務をもっと簡単に回せるようにしたいと思っています。それにはITをちゃんと使っていくことが必要だと考えていて、機械学習などの実験を始めています。
必要なデータをきっちりと定義して、機械学習のモデルを回してターゲティングすれば、コンバージョンが3倍ぐらい上がるんですよね。すでに、人がやらなくてもITで回せるようになってきてるんじゃないかなと思っています。
われわれはブランドが10個あるので、1ブランドずつ施策をつくるのは大変じゃないですか。ITや機械学習を使ったアプローチで、結構売り上げを改善できることがわかってきたので、そこをひたすら進化させていこうかと思っています。
佐々木:「このブランドを使っている人は、このブランドも利用しやすい」だとか、いろいろなデータがたまっていきますよね。
神谷:そうですね。相互送客の取り組みも始めています。
具体的に言うと、たとえばバーミヤンでなぜか炒飯だけ食べに来る男子大学生というセグメントがあってですね。このセグメントは、あんかけ炒飯とか絶対食べないんですよ。素の炒飯だけ。
それはひとつの例ですが、お客さまの求めているものを正しく理解して、商品をちゃんと当てていくと売上が増えるのでは、ということで、実際にこの2月から商品開発に反映しています。フェアメニューの商品の企画の方向性を大きく変えてみたんですが、ちゃんと販売数が1.8倍になっているんですよ。
お客さまとしっかり接点を持ち、そこから得られたデータから分析をすれば、結構な確度でお客さまが求めているものがわかってくる。であれば、「こういうお客さまって、今バーミヤンに来てくれているけれど、ガストでこういう商品を勧めれば、来てもらえるよね」とか、新しいことができると思います。
お客さまにも価値を感じてもらって、われわれも来店頻度や単価が増える、お互いハッピーになれるという流れができるかなと思いますね。
ローカルファクトデータを店頭スタッフにもアクセスしやすいかたちに
佐々木:ありがとうございます。沖本さん、どうですか。
沖本:クックパッドも実は購買行動の分析に役立つデータをたくさん持っています。レシピの検索データは、実は小売店舗では大切なんです。
なぜなら、小売店舗が持っているのはPOSデータという販売データですが、たとえばある商品を店頭で販売していなければデータが取れず、その後もその商品が店頭に並ぶ機会が生まれにくい。つまり、機会損失をしている可能性があるんですよね。
地域の小売にとって重要なのは、「地域の生活者」のファクトなんです。商圏内の生活者が、どんなメニューを食べたいのか、どんな商品を買いたいのかといったニーズを捉えることができれば、そのお店は圧倒的に支持されます。ビッグデータではなく、その商圏に住んでいる人々のローカルファクトデータのようなもの。
たとえば、店舗側が商圏内の4000人が「今日、パクチーを食べたいと思っている」、もしくは「今日、キムチ鍋をつくりたいと思っている」というようなことが把握できれば、より効率的な販促をしていけますよね。そこで、今、店舗スタッフがスマートフォンでこういった情報を見られるようにし始めています。
重要なポイントは、こういったデータを小売店の本部にエクセルでビッグデータを渡すのではなくて、店舗スタッフの方が理解できるシンプルさと、いつでも使えるデバイスで見れるようにすることです。
「某アプリストアさんに見せたところ、“ちょっと古いね”」
佐々木:ありがとうございます。ここからは皆さんのほうで質問していただいて、こちらでお答えするというかたちにしていきたいと思います。では、どうぞ。
質問者:お話、ありがとうございました。クックパッドの沖本さんに質問です。先ほどビデオで出てきた60代の男性がなかなか使ってくれないのをいかに説得し、「いいね」と言ってもらったのか、その道のりを聞かせていただきたいです。
沖本:そこは今でも課題で、たとえば、スマホとアプリの違いを意識していない人は大勢いますし、ログインという概念もわかりづらいというような人もいます。「本当に大変です」の一言に尽きます。そこは本当に粘り強くやらないといけないところで、この壁を超えることができれば、競争優位性になると思います。
今われわれがしているのは、メールと電話を組み合わせたサポートプロセスの構築です。映像で誰でも理解できるようなレクチャーをするなど、地道な取り組みを続けています。基盤づくりみたいなところを泥臭くやっている段階ですね。
佐々木:動画か何か、教えるようなサイトがあるんですか。
沖本:基本的な操作などについては動画や画像でわかるように整備しています。
佐々木:わかりました。ありがとうございます。皆さんはユーザーに使い方をうまく理解してもらうところで苦労はありましたか。
神谷:かなり苦労はしています。実際、いまだに店舗からは「これわかりにくい」とか、いろいろこうクレームがきています。
われわれはマスのブランドなので、デザインをとがらせるとダメで、むしろ「ちょっとこれ遅れているよね」みたいな感じにする必要があってですね。実際に、某アプリストアのストアマネージャーにこれを見せたところ、「ちょっと古いね」と。
(一同、笑)
神谷:「いや、まあ僕もそれは古いと重々承知のうえでやってはいるんですけれど」みたいな話はするのですが。
そんな感じで、「これどっかで見たことあるよね」みたいな感じのものをいかにつくるか、という工夫はしています。
佐々木:そうなんですね。ほかの方はいかがですか。
田中:うちも寿司屋なのでお客さまにITリテラシーは求められません。さらに、お客さまだけじゃなくて、社員もITはあまり得意じゃないという二重苦な感じです。
リテラシーうんぬんに期待するのではなく、マニュアルをつくったり、店長会議などでしっかりと伝えてもらっています。やっぱりホームランみたいな解決策はなくて、地味な手法しかないから。
佐々木:奥谷さんはいかがですか。
奥谷:皆さん言われたことと同じでして、うちもお客さまが使いこなせないからクレームがきますね。
うちの場合、マイルが1年に1回消えるんですね。「ゼロになっちゃった」という人のほかに、僕らのシステムトラブルで「見えなくなっちゃった」という人も稀にいる。
この件で問い合わせがかなり来るのですが、大半の人は1回も商品を買ってなかったりするんですよね。「ゼロになったって、お前買ってへんやないか」みたいな。
(一同、笑)
奥谷:新しいことをやるとコールセンターの人や店舗の子の負荷がどうしても増えちゃう。だから新しいことやるときは、彼らにいかに説明できるようにするか、彼らをいかに巻き込むかが大事です。うちはすごくマニュアル化が進んでいるので、一応やってはいるんですけれども、課題はあります。
新しいことやるからにはそういうことがあるという前提で、もう反復連打、皆さんと一緒にやるというのを徹底して泥臭く教えていくだけです。
佐々木:わかりました。皆さん、今日は本当にありがとうございました。
(終わり)
(構成:ケイヒル・エミ)