「Decode Apps (デコード・アップス)」イベントリポート(第6回)
アプリの開発に非協力的な社内。理解を得るためのプロセスとは
2015/7/18
5月28日、新丸ビル10階のEGG JAPANイベントスペースで、App Annie主催のセミナー「Decode Apps (デコード・アップス)」が開催された。今回のセミナーでは、ゲーム以外のサービス業、小売業、外食産業におけるアプリの開発・活用にフォーカス。クックパッド、良品計画、すかいらーく、あきんどスシローのアプリ責任者が集まり、事例を紹介した。また、イベント後半には各者とNewsPicks編集長の佐々木紀彦のパネルディスカッションも開催。アプリの将来について活発な議論を繰り広げた。イベントの内容を全7回にわたってリポートする。
良品計画「データが見えることは変化の原動力に」
佐々木:奥谷さんは、いかがですか。
奥谷:もう苦労だらけです。そもそも、われわれはあまり「お客さまを見る」という概念がない会社だったんですね。
「これが無印にできたら売れるだろう」みたいな考え方が主流で、基本的なKPI(Key Performance Indicator)は、どの店でどの商品がいくつ売れたかしかわかってないんです。だから、「こういうお客さまに売れている」「こういうお客さまにクーポンを出す」とか言うと、「値引きクソ野郎」って言われちゃうわけですよ。
実は僕も商品部にいたのでわかるんですけれど、「グロスの売上とグロスの原価で、なんぼ儲かったか」しか社内ではわからなかった。
しかし、アプリが導入されてからは、それまで言われたことだけやっていた宣伝販促部門やWeb事業部が、お客さまが何を買っているかというデータにアクセスできるようになった。そこでこちらからお客さま視点の施策を提案すると「余計なこと言いやがって」「値引きクソ野郎」って言われちゃうんですよね。
たとえば、特定商品の初期設定売価がいくらだったかって見たら、商品部の値引きは何百億円ってロスしているわけですよ。でも、まあ、それはいいわけですよね。売上が上がって、利益がトータルで出れば。みんな偏差値35ですから(笑)。売上良かったから「ヨッシャー! いこかー!」ってね。
(一同、笑)
パスポートをつくってから、どんどんデータが見えるようになったのは変化の原動力になっていると思います。でも、「アプリのおかげで来店してますよ」って言っても、まだ誰も聞いていないのが現状。
「それより、心温まる接客とVMD(Visual Merchandising)」。それはもちろん事実なのですが、「でも、マーケティングできていないから、こんなに売上取れてへんで」みたいなのを理解させるのは、今でも大変です。
そういった理解がまだ乏しい状態でCRMをやると、ビフォーとアフターのビフォーの部分のデータがないときに水かけ論になってしまう。
「パスポートユーザーが4000円買うんですよ」って言ったって、「お前そんなもんね、こんな難しいもの使って買うやつは、MUJI好きに決まってるやないか」「そんなやつは絶対に4000円買ってた」と言い返される。確かに、ビフォーのデータがないからアプリが購買に貢献したことを証明できないんですよ。
佐々木:これだけ成功すると、奥谷さんの評価も上がりそうですけれど、そうでもないんですか。
奥谷:全然上がらないですね。
佐々木:上がらないですか。
奥谷:やっぱり商品部が1番、販売部が1番、海外事業が1番。もちろん、良い商品を日々店頭で売ってもらわないといけないわけですからね。マーケティングは必要悪であり、戯言だと思います。やらなくて済むならそのほうがいい。ですから、3番目、4番目ですね。平常心を保つのが大変です。
(一同、笑)
すかいらーく「カナダ人の上司も“Oh my God!”と驚く成果」
佐々木:ご自身やアプリに対する社内での評価はどうですか。
田中:スシローは回転寿司屋なので、システムが動いて当たり前という認識があります。どちらかというと、「待ち時間合ってへんやん」って怒られる感じですかね。
佐々木:沖本さんは?
沖本:幸いにして、さまざまなメディアにこのサービスを取り上げてもらえ、ポテンシャルを感じてもらっています。
佐々木:IT企業なだけに、そこは理解してもらいやすいですよね。
沖本:そうですね。ユーザーが増え、収益性の高いサービスになりそうですので、社内の協力も徐々に得られています。クックパッドのアプリ展開も、「買う」と「つくる」をセットで提供できることはユーザーにとって価値あることだと理解してもらえていると思います。
佐々木:神谷さんはどうですか。
神谷:上司には結構驚かれましたね。われわれ、各媒体のクーポンがどれぐらい使われているかというのを毎月モニタリングしているんですが、アプリクーポンがその月のトップに一気に躍り出たんです。それを見て、カナダ人の上司、彼は日本語が喋れないんですが、「Oh my God!」って言っていました。
(一同、笑)
良品計画「MUJIが海外出店したら、ECストアなしでもアプリは一緒に出していく」
佐々木:皆さん、最初のステップは成功したと思うんですけれども、いろいろな課題とかテーマがあると思うんです。
奥谷さん、まあ、苦労の9割が政治だと思うんですが、それ以外に取り組んでいきたいことを教えてください。
奥谷:店頭の子や若い子たちはアプリの来店効果を感じてくれています。次は、休眠顧客をなんとかしたり、先ほどお話した週末限定クーポンを怒られながらもやって、成果を着実に積み上げていきたいです。
先ほど触れてもらったように、無印良品は世界展開していますので、小売業としてこういうCRMアプリを多言語でやりたいですね。
この5月1日にですね、中国版のMUJI passportをつくりまして、最終的にはヨーロッパ、アメリカまでサービスを提供したいです。これからは、とにかくMUJIが海外出店したら、ECストアなしでもアプリは一緒に出していく、と。ECストアのバックエンドは、最初は店からピッキングしてもいいし、取引サービスからでもいいので。
まずはアプリのインターフェースをしっかりつかんで、ECストアはそのうちアプリにつくる方向で進めます。これからは世界のお客さまのMUJIの購買データをしっかり見える化していくってことをやっていきたいですね。
佐々木:購買データの生かし方っていうのは、どういうのがあるんでしょうか。
奥谷:「次、これ買うだろう」という予測に使っていきます。あとは、洋服をよく買う上位顧客を「洋服をこの2年間、パスポートでこのくらい買ってる人」というふうに絞って展示会に呼んだりするとものすごく来てくれますね。そういう方はインフルエンサーであることも多いので、呼ぶとイベントもSNS上でバズります。
それ以外にもロイヤリティを上げる秘策がたくさんアプリから生まれています。さらに、アプリ自体もコミュニケーションツールとしてどんどん進化していくと思います。
LINEがやっているようなかたちで、タイムラインで世界中のMUJIのアクティビティや、お店の情報を流したりしたいです。目指すは情報発信のリッチ化ですね。
*明日掲載の「『ログイン』の概念がわからない顧客にもリーチしたい。キーワードは『泥臭く』」に続きます。
(構成:ケイヒル・エミ)