NP_mobile2020_bnr_09

Vol.10 総務省・富岡秀夫室長インタビュー

総務省のキーマンが語る、MVNOを推進する理由

2015/7/7
3社の独占マーケット化した国内通信キャリア市場。この硬直したマーケットを活性化させるためのカギが、MVNO(仮想移動体通信事業者)だ。料金の低廉化、そしてIoTの推進には必要不可欠な存在として、政府も後押ししている。総務省で陣頭指揮を執る富岡秀夫・総務省総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課競争評価担当室長にインタビューし、国内通信サービス市場の課題、MVNOを推進する理由を聞いた。(聞き手:佐々木紀彦・NewsPicks編集長)

2016年中に、1500万件を目指す

──総務省がMVNOを推進している背景を教えてください。

富岡:今の通信業界は、MNO(Mobile Network Operator=移動体回線網を自社で保有し通信サービスを提供する事業者)の3グループであるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクによる“協調的寡占”の状態にある。

3グループの料金は、横並び状態でしかも高いという批判がある。国際機関のOECD(経済協力開発機構)が各国の通信料金を比較しているが、日本の携帯は特にライトユーザーにとって高いという結果となっている。

そうした中で、本来あるべき料金・サービスの競争ではなく、どれだけキャッシュバックを出すかといった競争が行われている。「こんな状況でいいのだろうか」という問題意識が根底にある。

本当は、ドコモ、KDDI、ソフトバンクといったMNOのように、電波の割り当てを受けて、携帯事業に参入する事業者が増えていけばいい。しかし、電波は資源として有限。しかも、実際に参入すれば多額の設備投資がいるため、MNOを増やしての競争というのはなかなか難しい。当初はMNOとして新規参入したイー・モバイルも結局、ソフトバンクの傘下に入ってしまった。

そこで有力なプレーヤーとなるのが、MNOからネットワークを借りて、ユーザーにサービスを提供するMVNOだ。MVNOを推進する一番の狙いは、料金の低廉化を進めてもらうことにある。

また、「料金の低廉化」以外にも、IoT(Internet of Things)やM2M(Machine to Machine)に電波を使うサービスを普及させるという狙いもある。そうしたある種ニッチな領域は、小回りのきかないMNOよりも、MVNOが入ったほうがより新しいモバイルの使い方を広げていけるのではないかと期待している。

──MVNOは順調に普及しているのでしょうか。政策としての成功のラインはどこにあるのでしょうか。

総務省としては2016年中にMVNOの契約数を1500万件にまで増やすことをひとつの目標としている。1500万件となると、携帯電話契約のうち10%程度に当たる。

今年3月末時点の契約数は952万件で、携帯電話の契約数全体にしめる比率は6.1%。だいたい1年で30%ぐらい契約数が増えているので、このペースでいけば2016年中に1500万件というのは、無理な数字ではない。

ただ、データを見る際にちょっと注意すべきは、この952万という数字すべてがいわゆる格安SIMではないということ。先ほど話したIoTやM2M、具体的には、通信機能付きのカーナビ、警備会社のホームセキュリティサービスにも使われており、結構な割合を占めている。

今後、MVNOは、サービスの改善によってさらに活性化すると思う。多くのMVNOは、今年の4月から、データ通信の容量を増やしている。1年前では、月1000円を払うと、月1ギガバイトというのが相場だったが、去年の秋には2ギガバイトになり、今年の4月以降は3ギガバイトになっている。

SIMロック解除の影響は冬からはっきりする

──MVNOの使われ方としては、データが中心ですか、音声が中心ですか。

従来はデータ通信の利用が中心だったが、最近、MVNO各社が音声とデータ通信を両方できるプランを出している。大手キャリアのスマホとほぼ変わらないようなものが増えてきた。

約2年前まで、MVNOのサービスは知名度があまり高くなかったが、この1年で結構上がってきた。毎年、利用者アンケートで調査をしているが、1年前、MVNOあるいは格安SIMのようなサービスの認知度というのは、50%くらいだった。それが最新の調査では70%ほどになっている。

MVNOという言葉自体は知らなくても、大手キャリアが提供しているのとは違う、ちょっと安いスマホがあることに対する認知度は高まってきている。2014年上期の『日経MJ』ヒット番付で、格安スマホは東の横綱に選ばれた。2014年4月にイオンがスマホを売り出してから、認知度が確実に高まってきている。

──今年5月からSIMロック解除が義務化されました。これによって格安スマホの普及がさらに加速すると見ていますか。

今年の5月以降に発売される端末は、基本的にSIMロックの解除を求めている。各社が、この夏に出した新しいモデルは、基本的にSIMロック解除が可能だ。

ただ、SIMロック解除をしなくてもいい期間を各社が設定している。だいたい6カ月、180日という設定なので、今年の夏モデルを買った人が実際にSIMロック解除できるのは、冬以降になる。そのため、SIMロック解除義務化のインパクトは冬になってみないとわからない。

勝負のカギは、ネットワークの需要予測

──現在、格安スマホ、格安SIMの事業者が乱立していますが、参入するためのハードルは低いのですか。

行政手続としては総務省に届けを出すだけなので、参入障壁は高くない。

参入する会社の多くは、ストックビジネスの旨味を強く感じている。ヤマダ電機のような家電量販店も、MVNOとして参入しているが、売り切りのビジネスと異なり、スマホの場合、一度契約すれば毎月料金を支払ってくれるストックのユーザーとして残っていく。お客さんとの継続的関係ができるところに期待しているのではないか。

ビックカメラやイオンは、自身がMVNOというわけではなく、ほかのMVNOサービスに端末やSIMカードを組み合わせて自身の売り場で売っている。

======ここに自己紹介を入れてください====

総務省でMVNOの推進役を担う富岡秀夫氏

──グーグルが日本でMVNOをやりたいと言えば、すぐに参入することが可能ですか。

届け出をしてもらえれば。

──多くのMVNO事業者が競争する中で、何が差別化のカギになるのでしょうか。

最近、MVNOの各サービスを比較して「なにか品質が違う」「あそこのサービスは遅い」といった話もチラホラ出てくるようになった。

サービスの品質は、ひとえにMVNO側がどれだけお金を払って、どれだけのネットワーク容量をドコモやほかのキャリアから借りるかによって決まってくる。ドコモなどのキャリアから借りる容量を抑えて、お客さんをパンパンに詰め込むと、サービスの品質が落ちてくる。

その意味で、カギとなるのは需要予測だ。適切な予測をして、適正な容量を借りていれば、普通にサービスは提供できる。

今まではMVNO対MNOの競争という構図で、MVNOがどれだけキャリアからお客さんを奪っていくか、ということが注目されてきたが、いよいよMVNO同士で取捨選択が行われるような段階に来たと思う。

純増数の中で、MVNOの割合が増えている

──現在、MVNO事業者のネットワーク調達先は、ドコモがほとんどです。

KDDIやソフトバンクがあまり調達元になってこなかった背景には、貸出料金の差がある。

たとえば、1年前では、KDDIの貸し出し料金はドコモの2倍、ソフトバンクの貸し出し料金はドコモの3倍という料金設定になっていた。そういった背景もあって、MVNO各社はドコモのネットワークを使っていたのだと思う。

しかし、直近の数字では、貸出料金の差がかなり縮まってきた。今年4月30日時点で、月額の貸出料金は、ドコモが95万円、KDDIが117万円、ソフトバンクが135万円になっている。

実際、キャリア側も意識がちょっと変わってきている。たとえば、昨年8月にはKDDIが子会社でMVNOを運営するKDDIバリューイネイブラーという会社を設立した。

現在、KDDIは、いわゆる格安SIMのMVNOとしては、KDDIバリューイネイブラーを通じた「UQ mobile(ユーキューモバイル)」というブランドのサービスと、ケイ・オプティコムの「mineo(マイネオ)」というサービスを展開している。今までのドコモ一辺倒からちょっとずつ状況が変わってきている。

KDDIとしては、自社のお客さんがドコモのネットワークを使ったMVNOに移るぐらいだったら、KDDIのネットワークを使ったMVNOに移るほうがまだ良いという判断があるはず。ここ最近は、毎月の携帯電話契約数の純増の中でも、MVNOの占める割合が増えている。

──各キャリアの純増数には、MVNOが含まれているんですね。

たとえば、ドコモの純増も結構な割合がドコモのネットワークを借りているMVNO。そういう状況を見ていると、キャリアの間でも「うちはMVNOにネットワークを貸しません」という姿勢ではなく、他社のネットワーク使用料になるくらいだったら自分のところで取ろうという意識の変化があると感じる。

──MVNOだけに絞ったシェアは公表されているのですか。

それは集計がなかなか難しい。MVNOの構図は複雑で、ネットワークの又貸し、又借りが、かなり行われている。同じMVNOでも、一部はキャリアから直接借りているのに、ある一部は別のMVNOから借りているといった使い方もある。そういう複雑な構造がある中で、実態把握をするのは難しい。

注目はキャリア側の対応

──大手キャリアには、「儲け過ぎ」という意見もある一方で、大手キャリアがしっかりキャッシュを稼いでいるからこそ、現在のネットワークへの投資が成り立っている面もあります。今後、MVNOが伸びて、MNOの収益が落ちたときに、誰かネットワークの負担を負うべきなのでしょうか。

一応、キャリア側がMVNOに貸し出す料金(接続料)については法律上のルールがあり、能率的な経営のもとにおける、適正な原価に適正な利潤を加えたものということになっている。つまり、当然ながら、キャリア側は適正な利潤を得てもいい。

したがって、MVNOにネットワークを貸し出していくことで、キャリアのほうが厳しくなって設備投資もままならないということは、このルールに則っているかぎり、そう簡単には起こらないだろう。

──このままMVNOが大きく伸びて、全体の10%と言わず、3割を占めるくらいまでの存在になる可能性はあるのでしょうか。

たとえば、楽天モバイルが1000万契約を目指すと言っているが、それが実現できるのであれば、相当な数字になるだろう。とりあえずは、「2016年に1500万件」というところが目標になる。

われわれがMVNOに期待することとして、当然、MVNO自身が安くて新しいサービスを提供するということもあるが、それに加えて、キャリアの行動や戦略にどういう影響を与えるのかにも注目している。

キャリアの料金が高いと言われ続けて、MVNOにシェアが流れれば、キャリア側が「じゃあ、もう仕方ないな」ということで値下げをして、逆にMVNOが厳しくなるようなことになるかもしれず、今後の動向は引き続き注意深く見ていく。

(写真:福田俊介)

*NP特集「2020年のモバイル」は、明日掲載の「スマホ競争地図──『現3強』の牙城に挑む『新3強』」に続きます。