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日本企業の象徴としてソニーを選んだ

ソニーの取締役会は「歪な構造」だ

2015/6/11
目標削減数8万人。かつて「理想工場」と謳われたソニーは、17年間で6度の大規模なリストラを行っている。清武英利氏による『切り捨てソニー』(講談社)は、役員から一般の社員に至るまで、そのリストラに関わり、また巻き込まれた人々を描いたノンフィクション作品だ。「リストラ部屋」の登場人物はすべて実名で登場し、自身の思いをありのままに明かしている。なぜ、ソニーはリストラを繰り返すのか。その構造と社員が抱える思いについて、清武氏に聞いた。

──『切り捨てSONY』で描かれている内容はソニーの出来事ですが、日本の会社を象徴していると考えていますか。それともソニーは例外ですか。

清武:僕は、日本企業の象徴としてソニーを選びました。創業者的な人がいなくなってから、衰退が起きていますよね。また、執行役員制度の導入など、改革を次々と行っていますが、アメリカ的経営の模倣であって、最先端を走っているわけではないし、うまくいっているわけでもない。こうした事象は、ほかの企業にも共通しています。

──今回、ソニーを被写体にしてさまざまな問題提起をしていますね。

そうですね。たとえば、あとがきにも少し書きましたが、日本人はリストラが行われてもおかしいと言わなくなりましたよね。不合理なもの、矛盾したものを簡単にのみ込んでしまうような風潮があります。

それは、おかしいと思いますよ。リストラが当たり前になり、誰も異を唱えずにのみ込んでしまう世の中は健全じゃない。僕は、こういう問題について「けしからん」と叫ぶのではなく、現場の姿を描くことで伝えたい。それが僕のやり方です。

──清武さんは「終身雇用」などの日本の制度をどう考えていますか。

終身雇用をなくして、年功序列も排して、みんなにノルマを課して成果主義にすることにおかしいんじゃないかと思う部分もある。終身雇用を補完するものとして他の制度があるべきだと思うんですよ。日本的な良い部分は評価すべきではないでしょうか。

──結果として、ソニーを離れた人が新しい取り組みをしています。歴史的に見ても、IBMをリストラされた人が起業してシリコンバレーの発達につながったという事例がありますよね。その意味で、彼らに期待することもありますか。

それは大いにありますね。僕は、彼らの姿から、本のタイトルを『タンポポ・ソニー』にしようかと考えたくらい。却下されましたけれどね(笑)。

つまり、ソニーのDNAを持った人たちが、タンポポの綿毛のように散っていき、そこで新たな花を咲かせているんです。実際、ソニーは辞めることになったけれど、自分たちがそのDNAを引き継ぐんだと語る人も多い。彼らは、リストラされたにもかかわらず、明るさがあります。

──ご自身の姿をだぶらせるところはありますか。

2011年に、僕も辞めていますからね。時々感じるものはありますよ。自分が明らかにおかしいと言ったことが受け入れられない部分などは、共通点があるかもしれませんね。おかしいことはおかしいと言える人間でありたいなと思っていますから。

──清武さんは、今も読売新聞を好きですか。

嫌いじゃないですよ。読売新聞は自分を育ててくれた場所ですから、愛情・愛着はあります。ただやっぱり、「俺は独裁者だ」というような人が「社論」を握ってていいのかなという疑問があるので、異を唱えているわけですよね。会社とか球団って誰のものなのっていうところはあるから。

──この4年間、心境の変化はありますか。

うーん、どうだろうな。僕には今、2つの大義があると思っています。文章を書くこと、そして裁判で闘うこと。そのために生きています。

文章は、職業として成立するかはわからないけれど、これに賭けたいと思っています。まあ、食べられなくても何とかなると楽天的に思っていますよ。悲観的になってもしょうがないですから。たまたま『しんがり 山一證券 最後の12人』を評価してもらいましたけれどね。

裁判については、渡邉さんを批判した場合、こうなる可能性はあると思っていました。僕が覚悟を決めてやったことですから。

──清武さんは、経済ジャーナリズムという観点で、今の新聞などのメディアをどうみていますか。自戒を込めて言うと、経済という非常に面白いフィールドでありながら、ストーリーを持って描く筆力が弱まってきている印象があります。

僕もそう思いますよ。画一的になりましたよね。たとえば「ホンダジェット」が話題になってもみんな同じ描き方するよね。それは新聞だけでなくテレビも同じで、斬新じゃない。批判的なメディアも滅びつつある。ものすごく物わかりがいいですよね。

ソニーの記者会見だって、僕のように「決められた時間じゃ短い」「質問させてくれ」と言えばいい。でも、記者クラブの中には、そんな人がいないんですよ。東京電力の記者会見などが顕著ですけれど、ひとつも質問せず、パソコンに会見の内容を打ち込んでいるだけ。それが一体何になるんでしょうね。

──人間に対する洞察や興味がすり減っているんでしょうか。

第一に、批判的精神が弱いんだと思いますよ。権力者が嫌いなことを追究するのがジャーナリズム。彼らの広報ではいけない。ひとつのテーマを深掘りして、問題を明らかにすることが減っています。それが存在意義なのにね。

一人ひとりの記者も、おかしいと思っていることは絶対にあるしピンときているはず。でも、面倒だから、上司に叱られるから、口にする雰囲気ではないから……と、流されているんじゃないでしょうか。

──読者の数も減っていますね。読売新聞だけでなく、新聞全体として部数が落ちています。

それでも、まだ経営者が紙という媒体を信じているわけですよね。それを脱却できていない。これはもうある程度のところまで落ちないと絶対に変わらないですよ。読者は高齢者の割合が大きいのに、まだどこかで安心感を持っている。僕の世代が滅びるまでは、ダメかもしれないね(笑)。

清武英利(きよたけ・ひでとし) 1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、1975年に読売新聞社に入社。青森支局を振り出しに、社会部記者として、警視庁、国税庁などを担当。中部本社(現中部支社)社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年8月より、読売巨人軍球団代表兼編成本部長。2011年11月18日、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され、係争中。現在はジャーナリストとして活動。著書『しんがり 山一證券 最後の12人』で2014年度講談社ノンフィクション賞受賞

清武英利(きよたけ・ひでとし)
1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、1975年に読売新聞社に入社。青森支局を振り出しに、社会部記者として、警視庁、国税庁などを担当。中部本社(現中部支社)社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年8月より、読売巨人軍球団代表兼編成本部長。2011年11月18日、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され、係争中。現在はジャーナリストとして活動。著書『しんがり 山一證券 最後の12人』で2014年度講談社ノンフィクション賞受賞

──次に取り組みたいテーマはありますか

あれもおかしい、これもおかしいと思うことだらけで、取り組みたいことばかりです。1人で取材しているため、時間がかかるのが悩みです。

──「プロ野球」はどうですか。

野球はいつでもできると思っていますけれど、もちろんありますよ。日本の野球はメジャーの二軍化しちゃったよね。メジャーに行って帰ってくる人を待つという感じになっている。それに対する強い反発心を持って、新しいシステムをつくろうという雰囲気がなくなってきましたよね。経営面でも、全体のパイが縮小している気がします。

──清武さんは、巨人軍球団代表として「育成選手制度」を創設しました。それは、「後列の人間」にスポットを当てたいというまなざしと、どこか似ている気がします。

そうかもしれませんね。人間には、才能がすぐに開く人と、時間がかかる人がいます。そもそも、人の能力はそんなに簡単に見抜けるものではありません。スカウトで見抜けるなんて言うのは大嘘です。

イチローだってドラフト4位ですからね。高校時代のイチローからは、現在の大スターになることは見抜けなかったわけです。でも人間はそういうものですから。イチローも入団してすぐに活躍したわけではなく、徐々に才能を開花させたわけです。

ドラフト外でも、種を持っている選手はいます。そういう人間に目を向け、育てることで、ある瞬間に開花することもあるわけです。僕は、育成選手制度を経て活躍している選手が何人もいることを、少しだけ誇りに思っているんですよ。

──今後のソニーについて質問させてください。辞めた社員の中には、ソニーにはまだ可能性があると語っている人もいます。清武さんはどう思いますか。

部分的に復活するだろうなとは思うんですよ。でもそれはソニーの屋台骨を支えるようなものではないという気がする。世の中をあっと驚かせる製品を出すのがソニーだったわけだけれど、それがない。生まれる雰囲気も非常に少ない。

実際に、世の中に強くアピールできていないですよね。皆さんも、平井さんがこれまで発した言葉で覚えているものはないでしょう。少なくとも、出井さんまではそういう言葉はあったけれど。

──清武さんがソニーに処方せんを出すとしたら、どのようなものでしょうか。

まずは、技術系役員の登用と取締役会の構成を変えることでしょう。メーカーは技術屋の結晶なのに、それを軽視している。そして、誰が見ても歪なのは、取締役会の大半が社外取締役という構造。旧経営陣をはじめ、多くの人が批判しても変えない以上、現状維持が好都合だからと思われても仕方ない。

情緒的に言うと、これまでのリストラに関して申し訳なかったと謝罪しなければいけない。平井さんは失敗を謙虚に反省したうえで希望を語るべき。そのうえで、社員の心をつかむ計画やビジョンを示してもらいたい。

いずれにしろ、今の基盤はその犠牲なしにはあり得ないわけですから。それに、今でも隠れたリストラ部屋はあります。そこには、まだかなりの人がいる。見えにくくなっているだけです。その人を今後どうするのか。

──リストラ部屋は、名前を変えて存在しているんですね。

リストラはまだ終わっていません。たとえば、STC(ソニーテクノクリエイト)という子会社に出向させています。リストラ部屋に対する批判が高くなったからでしょう。

そういう場所で頑張るのは女性が多いようですね。女性同士で、おしゃべりしながら連帯しています。管理者のミスを見つけると猛然と食いかかるらしいです(笑)。

彼女たちは、自分がすべき仕事があるのに、会社に辞めさせられるのはおかしいという素朴な疑問があるんですよ。「私はソニーのゾンビと呼ばれても頑張る」と語る人もいます。絶対に僕らからは出ない言葉です。そういう強さはいいよね。一方で、会社側は彼らを「長期滞留者」と呼んでいる。けしからん言葉ですよ。

──「社長風」という言葉がありましたけれど、やはり社長が変わる必要があると。

そうですね。ただ、ソニーはすでに会社として大きく変質してしまった。社長だけでなく、取締役会が変わらないと同じことを繰り返すでしょうね。その意味で、6月23日の株主総会はひとつの山として、非常に注目しています。

(聞き手:佐々木紀彦、構成・文:菅原聖司、撮影:福田俊介)
 著書プロフ_清武