セクシー田中さん問題 コミュニケーション不足 日テレが調査報告書
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注目のコメント
報告書はこちらにあります。
https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/20240531.html
まだ報告書概要をざっと読んだ段階ですが、チーフプロデューサーが、業務過多により統括する機能を上手く果たせず、食い違いが重なったことが分析されています。
これは一定の評価ができる内容に思えますが、細々とした違和感はまだ残ります。
もっと報告書全体を読み込んでから改めてコメントしたいと思います。
まずは皆様にリンクの共有をと思いました。知的財産が専門の弁護士が調査チームにいたにもかかわらず、講談社vsNHKの裁判の判例にもとづく認識がないのはなぜなのでしょう?
ドラマはあくまで二次著作であり、最初の作品をうみだした原作者の著者人格権は及びます。つまり、原作者が「嫌だ」といったらば、その脚本で放送はできない、ということになります。
これは契約書うんぬん以前に自然権として認められているものなのです。
これは最初の著者がなければ、すべてが生まれないということから、できた権利です。
そうしたアングルからこの問題を整理しないかぎり、納得のいく報告書は、いくら細部をつめても(誰がこう言った、ああ言った)、できないでしょう。辻村深月さんの小説『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』のテレビドラマ化にあたって、NHK側が用意した脚本を原作者である辻村深月さんが脚本として認めず、ドラマ制作ができなくなったNHKと原作者の権利を管理している出版社(講談社)との間で訴訟になった件も思い出されます(東京地判平成27年4月28日)。この件は、出版社が原作に関する著作権管理をしている場合には、そのメディア展開にあたって原作者の意を汲むことは当然で、NHKも原作者の意向に反する脚本の製作は許されないと判断されました。講談社が原作者の著作者人格権を守り切ったクリエイターライクな事例でした。
確かに、原作者と出版社との間では、翻案権に関するライセンシングと著作者人格権の不行使に関する合意をすることが通常で、原作者から管理の委託を受けている出版社は、「契約文面」だけを見れば、サブライセンスによって原作者の意に反するようなリメイクも進められるようにも思えます。いろいろ議論はありますが、翻案権の適法なライセンシングができてしまっている場合には、著作人格権の不行使特約は有効でリメイクにあたっての改変も同一性保持権侵害にはならないと判断されることもあります(例えば、知財高判令和5年11月28日等)。この論理が幅広く通用するのであれば、今回の原作改変も著作者人格権の問題は不行使特約によって問題とはならないといえるかもしれません。
しかし、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』に関する裁判例や、包括的な不行使特約があったとしても著作物の性質(実用性や創作性)、利用の目的及び態様(改変の程度や目的)といった諸事情を考慮して同一性保持権の侵害を判定すべきという有力な見解(例えば、上野達弘著「著作者人格権に関する法律行為」著作権研究No.33(2006)54頁など)も踏まえると、漫画のような作者の思想とこだわりが強く反映される創作物に関しては、原作者側のリメイクに関する意向を無視することができると常に考えるのは危険で、原作者意向に反するリメイクは著作者人格権不行使特約のがあったとしても、同一性保持権の侵害と判断されるケースもあり得そうです。
本件に関して犯人探しをするつもりはないですが、著作者人格権不行使特約と翻案権のライセンシングは、常に原作者の意向を無視できる万能の契約条項ではないという感覚を持っていた方がトラブル回避ができると考えています。