円安加速、部品メーカー首脳に聞く
2015/05/30, 日刊自動車新聞
円の対ドル相場が28日に1ドル=124円台に入り、一気に円安が加速した。多くの部品メーカーは今期の業績見通しの前提を1ドル=110~115円としており、さらなる円安の進行は多くの企業で業績の押し上げにつながる。ただ、自動車メーカーの国内生産が円安によって増えるのか、という点には懐疑的な見方もある。急激に進む円安ドル高を部品メーカーがどう捉えているのか、28日に都内で開かれた日本自動車部品工業会の定時総会後の懇親会で各社のトップに聞いた。
◆玉村和己部工会会長(ニッパツ社長)
「自動車メーカー、部品メーカーが海外に出て行ったのは、そこに市場があるからだ。ものを作ることによって、現地の雇用や経済に貢献している。為替が円安になったからといって、車も部品もそう簡単に日本に生産を戻せるとは思えない」
◆曙ブレーキ工業 信元久隆社長
「急激な為替変動は本当に大変だ。円安が進むと為替換算で売上高は増えるが、米国子会社の赤字額も換算影響で増えてしまう。米国は需要が増えすぎて混乱している部分もある。作り切れない部分を日本で応援生産できるのは、円安のメリットと言える。円安によって生産計画が変わってしまったメキシコ工場も米国の支援に活用する方向で考えている」
◆NOK 土居清志専務
「中国から輸入している部品もあるため、急激な円安が部分的に収益に与える影響は気になる。しかし、基本的に円安は歓迎だ。現状の為替水準だと日本は“低コスト国”なので、米国への輸出も一部始めている。ただ、日本の国全体として考えると円安の行き過ぎはどうか。1ドル=110~120円位が良いのではないか」
◆鬼怒川ゴム工業 関山定男社長
「円安よりもむしろ、メキシコ・ペソの下落の方が影響が大きい。メキシコで使う部品や材料の購入費がペソ安によって上がってしまっているからだ。為替変動や物流費を含めた各国のコストを総合的に見比べ、その時々で、最もコスト競争力のある地域で部品や素材を調達する仕組みを動かしていきたい」
◆アイシン精機 藤森文雄社長
「1ドル=124円台ならば業績にプラスに効く要素のほうが多いが、あまり急激な為替変動は嬉しくない。これ以上の円安になると、エネルギーや材料費の負担が重くなる。現時点で生産の国内回帰は考えていない」
◆アイシン・エィ・ダブリュ 川本睦社長
「材料費もあるので、今の為替水準で落ち着いてほしい。円安で日本製品のコスト競争力が増し、中国と並行生産している機種などは『日本製が欲しい』という顧客も出てきている。中国の生産増強のペースを緩めて、日本からの供給を増やす措置を考えるかもしれない」
◆豊田合成 荒島正社長
「当社は材料の輸入と輸出で相殺されるので、為替の影響は大きくない。ただ、個人的には今の状況は若干、行き過ぎていると思う。国際的に見て、円の価値が安すぎるというのは少し寂しい」
◆大同メタル工業 判治誠吾会長
「現在の水準がちょうど良いのではないか。1ドル=125円以上になってもまずくはないだろう。ただ、ドルの独歩高となると米国の経済政策で再び円高に振れる可能性もある。企業の立場からすれば、やはり急激な変動は好ましくない」
◆小島プレス工業 小島洋一郎社長
「円安によって外部環境がどのように変化するか、まだイメージできていない。物事には光と影があるし、円安のデメリットも出てくるのだろう。状況を慎重に見極めながら、体質強化を図りたい。生産の国内回帰は自動車メーカーと相談しながら、取り組むことになると思う」
◆プレス工業 角堂博茂社長
「プレス部品は重量があるため、生産地は納入先の動きに追従するのが基本だ。いくら円安だとは言っても、自動車メーカーなどが一度海外に移した車体の組み立てなどを日本に戻すのは難しいと考えている。確かに、円安によって海外シフトの流れが止まることは想定できる。ただ、為替の動向は専門家の予想が外れる場合も多いため、今後どちらに振れてもいいように柔軟な施策を展開していきたい」
◆石川ガスケット 石川伸一郎社長
「従来から国内生産を主力としており、特に国内外の製造比率を変えることは考えていない。海外でも円建ての取引が中心のために円安による差益は少ないが、競争力が高まっていることは事実だ。ただ、1ドル=120円台は少し行き過ぎている。このまま金属材料などの相場が上がったら、原料コストが経営のさらなる圧迫要因となる。輸入素材の一部を国内調達に戻すことも検討しているが、できれば110円台の半ばあたりに落ち着いて欲しい」
◆大野ゴム工業 大野洋一社長
「米国の利上げなどを受けて1ドル=130円くらいまで進む可能性はあるが、自動車メーカーや大手部品メーカーが生産のベースを国内に戻すようなケースは少ないと思っている。ただ、既存の国内生産向けにゴム部品などを輸入から国内調達に変えるという動きはありそうだ。こうした需要を取り込むためにも自社の工場に対する設備投資を強化し、品質での差別化を図っていく」
◆エクセディ 久川秀仁社長
「円安になったからといって生産をすぐ国内に戻すことは考えていない。海外でも需要に合わせた設備投資を行っているためだ。今後、新たに海外で受注する部品については日本での生産も検討するかもしれない。ただ、基本は地産地消だ」
◆大東プレス工業 吉田夛佳志会長
「現在は円安の影響は出ていないが、今後は海外から輸入する原材料についてはジワジワと効いてくるかもしれない。当社ではないが、中国で生産して日本に送っていた部品の一部を日本生産に切り替えた部品メーカーの事例も聞いている」
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コメント
注目のコメント
これは良い報道。主要部品サプライヤートップの声。
玉村ニッパツ社長が言うように、為替が触れたからといって国内生産回帰とかは簡単にはできないだろう。円安だから国内生産に回帰していると発言するアナリストやコメンテーターがいるけど、そんなに簡単では無いと思う。一部はそうだろうけども。久川エクセディ社長の発言も簡単には国内回帰はないとのこと。
信元曙ブレ社長は、為替のボラティリティ対応が大変とのこと。
関山鬼怒川ゴム社長は、メキシコ・ペソ自体の下落について言及。円ドルレートだけでなく、事業展開をしている地元通貨そのもの上昇・下落要因にも留意。各社トップのコメントが掲載されている記事、結論「安定しているのが一番」。リーマンショック前と比べて、現地生産が増えた。そして世界的には為替も需要も変動するので、一定の余剰生産能力は必要。作っている部品の種類によって、生産地移管できないものや、できても時間がかかるものもある。なので、基本は地産地消で、それぞれの地域で利益が出るようにして、あとはできる限り為替メリットを取れる(河瀬デメリットがでない)機動的な仕組みを作れるかというところだろう。
企業は、為替を"最初の理由"として生産地や拠点を決めることはない。マーケット、サプライチェーンなどからアプローチし、数値計画の段階で初めて為替が絡んでくる。為替が絡んでもそれを理由に意思決定はしないはずだ。
企業にとって嫌なのは、為替が安定しないことによって計画の前提が狂うこと。サプライチェーンの中で為替影響を抑制しようとしても、最近はレートがあっち行ったりこっち行ったりとブレが大きく、完全にアンコントロールになる。
このところ、円安だから日本回帰とかいうメディア記事が目立つ。そんな簡単にいかないし、そんな短期的な狭い視野で考えていない。(というか考えられない。いきなり$360円になったら別ですけど)
為替も金利も安定が一番。動いてもゆーっくり動いてくれると助かります。日銀さん。
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