Airbnbはホテルビジネスを破壊できるのか?

2015/5/24
わずか創業6年で評価額200億ドル(約2.4兆円)という驚異的な成長を遂げたAirbnb。果たしてその評価は正当か、それともバブルか。それを知るためにはAirbnbの成り立ちとその軌跡、さらにはビジネスモデルを知らねばなるまい。本特集では、世界のホテルビジネスを揺さぶるAirbnbの将来性を占うと同時に、国内外における課題にも迫る。

シンプルなビジネスモデル

シリコンバレーでは、ビジネスモデルがないのに、創業されるベンチャー企業は珍しくない。面白いサービスや人が気に入る「アイデア」があればそれで何とかなる、といった甘い読みからだ。
だがAirbnbは、こういった類の浮かれたスタートアップではない。創業当初から明確なビジネスモデルがあった企業だ。
Airbnbは、ひとことで言えば、世界中の宿泊施設をマッチングするサービスだ。ユーザーはWebサイト上で、自分の部屋や家を気軽に賃し出すことができる。そして、Airbnbが仲介者として、それらの部屋に泊まりたいユーザーとマッチングしてくれる。この過程で、登録されているすべての部屋・家は“ミニホテル”になるわけだ。
Airbnbのビジネスモデルはシンプルだ。Airbnbは貸し部屋の利用者と部屋を貸すオーナー(ホスト)との商取引をWeb上で処理し、すべての予約に対して6〜12%のサービス料を受け取る。この仕組みにより、創業当初から売り上げを上げたことで、同社は順調に拡大してきた。

当初、旅行者からの反響はいまひとつ

Airbnbは2008年、サンフランシスコのSoMA(ソーマ)地区にあった、ブライアン・チェスキー、ジョー・ゲッビア、ネイサン・ブレチャージクのシェアアパートメントで産声を上げた。
当初、Airbnbの大ブレイクを予想する声は少なかった。なぜなら、お金をかけずに旅行したい旅行者の間で、無料で見知らぬ人の部屋や家に泊まることのできる「couchsurfing.com」というマッチングサービスがすでに大人気だったからだ。
そのため、多くの欧米人は、「いまさらAirbnbなんていらないのでは?」「一部の旅行好き以外の一般人が、見知らぬ人を家に泊めたいと思うのか?」といった懐疑的な見方をしていた。
しかし、創業者3人は、当時から自らのビジネスプランの正しさを疑うことはなかった。その確信を証明するために、その後2〜3年かけて、ユーザーが利用しやすいようにサービスに改善していった。
たとえば、当初、ホスト(オーナー)は利用客に朝食付きサービスを保証する必要があったが、その決まりを廃止するとともに、ホストと会わずとも鍵を受け取れる仕組みも一般化した。
Webサイトのデザインもそれまでの平凡なものから、おしゃれなインターフェースに一新。さらには、サンフランシスコ、ニューヨークやオースティン(テキサス州)などの都市に住むトレンディなユーザーをイベントなどで集め、Airbnbに登録する部屋や家を借りてもらった。
そうした取り組みの結果、Airbnbは短期間で大きな進歩を遂げた。

ヒルトン、インターコンチ、マリオットの部屋数に迫る勢い

2015年2月のBloombergの報道によると、本稿執筆時点のAirbnbの企業価値は約200億ドル(約2.4兆円)にのぼるという。この評価が正しいとすると、すでにAirbnbはハイアットや、インターコンチネンタルなどの大手ホテル企業の企業評価額を追い抜いていると言える。
さらに、同年1月の証券会社バークレイズのレポートによると、この成長が続くと、数年以内にAirbnbは部屋の予約数で大手ホテルを上回る可能性が高いという。
2014年2月時点で、Airbnbが貸出可能な部屋は全世界で30万室あった。その数は、同年12月までに世界の190カ国以上の3万4000市、100万室にまで増加している。
この数は、大手ホテルチェーンにも劣らない。欧州の最大のホテルチェーンであるインターコンチネンタルホテルズグループ(IHG)が保有する部屋数は68万9000室。ヒルトン、マリオットなどの大手ホテルも、保有部屋数は70万室程度だ。つまり、現在、Airbnbはこれら大手ホテルより多くの宿泊可能な部屋数を有している。
ただし、厳密に言うと、Airbnbの部屋数とホテルの部屋数は意味合いが異なる。なぜなら、Airbnbは自社のWebサイト上に掲載された部屋を直接、所有しているわけではないからだ。
また、Airbnbに掲載されている部屋は、ホテルのように年中利用可能とも限らない。ホストの都合により、一時的に貸し出される部屋も多い。したがって、旅行者の予約数でみると、AirbnbはまだIHG、ヒルトン、マリオットなど大手ホテルチェーンに肩を並べるにはまだ道は遠い。
同バークレイズのレポートによると、Airbnbで1年当たりに予約される部屋数は、現在約3700万室となっているが、IHGの一年間の予約部屋数は1億7700万室なので、Airbnbはその5分の1程度しか達成していない。
だが、同レポートは、Airbnbの予約部屋数が1年以内に3倍になる公算が高いと予見している。そして、Airbnbがこのペースで成長し続ければ、数年以内に最も大きなホテルチェーンの予約部屋数を上回る見込みがあるという。
さらに、Airbnbの予約数は2016年末までに、1年当たりに1億2900万室に到達するとバークレイズのレポートは述べている。また、同レポートのの推定値によると、現在、ニューヨークのすべての宿泊可能な部屋の供給数の17.2%を、パリでは11.9%を、そしてロンドンでは10.4%をAirbnbが占めると予測している。

Airbnbは合法なのか

破竹の勢いで成長するAirbnbだが、死角がないわけではない。
最大の課題は、各市当局からのプレッシャーだ。イギリスやポルトガルではAirbnbの利用はすでに合法化されたが、他の多くの都市でAirbnbは合法とみなされていない。
たとえば、2014年5月にはニューヨーク州検事総長事務局がAirbnbに召喚状を出した。また、同年10月、同局が2010年1月1日から2014年6月2日の4年半の間にAirbnbが当局に提供したデータをもとに「Airbnb in the city」(ニューヨークにおけるAirbnb)というレポートを発表している。
エリック・シュナイダーマン検事総長が記したそのレポートによると、4年間半にわたってAirbnbが仲介した貸し出し部屋のうち、72%が土地区画規制や他の州法に違反していたという。もっとも、同社は他のスタートアップと比べて当局に協力的なため、2014年上期にはニューヨークで「違法扱い」された約2000の部屋をWebサイトから削除した。
ここまで述べてきたように、Airbnbが非常に注目すべき「シェアリング・エコノミー」の企業のひとつであることは間違いない。ただし、今の成長を続けて、ホテル・旅行業界を“ディスラプション”するには、法律問題など数々のハードルを乗り越えなければならない。
本特集の前半では、Airbnbのこれまでの軌跡を辿ったスライドストーリー、インフォグラフィック、NewsPicks記者によるAirbnb体験レポートとあわせて、Airbnb CTO兼共同創設者のネイサン・ブレチャージク氏のインタビューを掲載する。
後半は、Airbnbの日本戦略や合法性について考えるべく、福岡でのAirbnbの今をレポートするとともに、Airbnb日本法人代表取締役の田邊泰之氏や、シェアエコノミーに関して「グレーならやっちゃえ」と発言して話題となった自民党IT戦略特命委員会事務局長・福田峰之氏へのインタビューなどを掲載する。
全10回にわたって、世界のホテルビジネスを揺さぶるAirbnbの将来性を占うと同時に、国内外における課題についても迫っていく。