2024/4/12

【保存版】「診断」から始めよ。企業の生成AI活用に必要な3ステップ

NewsPicks / Brand Design Senior Editor
ビジネスにおいても日々絶えることのない、生成AI関連のニュース。しかし、実際に業務で生成AIを活用している企業はどれぐらいあるのだろうか。

今年2月に報道された日米豪2,783社への調査(「共同通信」2/10配信、NRIセキュアテクノロジーズ調べ)によると、生成AIを業務に「導入済み」と回答した日本企業の割合は18.0%だという。米企業が73.5%、オーストラリア企業が66.2%であるのと比べると、対照的な結果である。

日本企業に生成AI導入を渋らせているものは何か。また、企業の生成AI利活用において「本当に必要なこと」は何なのか。生成AIによる企業の業務改革支援を推進し、現場の事情にも詳しいSIGNATE社CEO、齊藤秀氏に話を聞いた。

AIへの評価が二極化している

──生成AIを業務に導入している日本企業の割合が「18%」。企業への生成AI導入を支援する立場として、齊藤さんはこの数字をどう見ますか?
齊藤 単純に「低い」とは思いません。
 この調査では、日本企業全体でこそ18%ですが、従業員数1万人以上の企業に限定すると50%、つまり、大企業では半数が生成AIをすでに導入済みという結果も出ています。
 関心はあっても具体的な活用イメージがわかないなど、様子を見ている企業もまだ多いと思います。全体としても、ここから次第に上がっていくことは十分に想定できます。
 実際、弊社SIGNATEでも、生成AI関連のセミナーへの反応や問い合わせが急増しており、特に経営層の関心の高まりを感じています。
 アメリカでは、すでにバックオフィスをはじめ、雇用に甚大な影響が出てきています。生成AIのインパクトは、企業組織のあり方を変えてしまうほど大きなものです。
 日本では、目に見える影響が出るまでまだ少し時間がかかるかもしれませんが、AI導入に取り組むタイミングは企業の競争力に直結してくると思います。なるべく早く導入を開始すべきなのは間違いありません。
──とはいえ、諸外国の数字に比べると、日本企業のAI導入への温度感は全体的に低く感じられるのも事実です。理由を1つ挙げるとすれば何だと思われますか。
齊藤 企業活動における生成AIの位置づけがまだはっきりしていないために、技術への評価が個人的な感覚に左右されているからだと思います。
 ChatGPTは誰でも気軽に使えますが、無料版はGPT-3.5をベースとしていますから、回答の質に満足できないなど、純粋に性能面で「まだ使えるレベルではない」と判断される方も少なくありません。
 一方で、有料版で使えるGPT-4は格段に性能が高く、画像を扱えるなど機能面でも圧倒的に優れています。
 ただ、GPT-3.5のレベルでも衝撃を受けて、即、導入を検討する経営者もいれば、GPT-4を触っても、まだ早いと判断するトップもいます。人によって評価がかなり変わるんですよね。
 他にも、生成AI周辺の技術進展がとても速いため理解が追いつかず、結果、過小評価につながっているケースもあると思います。
 似たようなことは現場でも起きています。
 会社の方針と関係なく個人で契約して積極的に活用している社員もいれば、ほぼ無関心の社員もいる。社員の温度感は導入後の活用推進にも大きく影響します。
 このような二極化が起きている中、「そもそもどのように生成AIを導入していけばいいのかわからない」「導入はしたものの、活用が進まない」という課題を抱えている企業が多い、というのが実状ではないでしょうか。

AIの影響度を「診断」で可視化

──では、そうした企業に必要なことは何だと思われますか。
齊藤 まず、企業活動全体のうち、「どの部分で生成AIを使用するのか」を決定する戦略と、そのための現状把握が必要です。
 具体的には、業務と技術の相性を鑑みて、どの部門に業務削減の可能性があるのかを定量的に可視化します。
 このステップを私たちSIGNATEでは、「診断」と位置づけています。
「診断」は、あくまで理論的なポテンシャルです。戦略を検討するベースとなるもので、具体的な議論に進むための第一歩です。
 そして、私がブレイクスルーを感じているのは、この「診断」自体も、生成AIを使うことで非常に迅速に、かつ網羅的に行えるようになったということです。
──例えば、業務改善コンサルティングが入って行うような業務プロセスの可視化を、AIがやってくれるわけですか。
齊藤 そうです。ただ、従来のやり方ですと、現場の方に業務を書き出してもらうなどして調査するわけですが、回答の粒度がバラバラだったり、そもそも日本企業は兼務も多く、どこまで書くのかも人によってまちまちだったりします。さらに、新しい業務が発生した場合、定義の見直しも追いつきません。
 つまり、全社視点での体系立ったデータを得るのはかなり難しいのです。
 そこで、私たちは人間の手で業務を定義することはあきらめて、AIに業務内容を生成させるようにしました。このAIは、公的な職業データベースや各種の業務情報を学習させたSIGNATE独自のものです。
 このAIで、すでにさまざまな職種の業務生成にチャレンジしています。私たちにとっては聞き慣れないような業界特有の職種でも、AIによる生成結果に対して、現場の方からは「違和感がない」というコメントをいただいております。
 また、そうやって定義された業務へのインパクトを評価する、生成AI活用の「影響度評価アルゴリズム」にも、GPT-4を用いた評価ロジックを採用しています。言わば、「業務にAIが及ぼす影響度を、AI自体が診断する」という仕組みです。
 こちらは、人間の専門家とGPT-4の評価結果の一致率が高い、という先行研究を踏まえてのものです。
 結果、グループ会社すべての業務改善を検討するような規模でも、短時間で、網羅的な「診断」を実施することが可能になっています。
──「診断」の結果は、どう見ればいいのでしょうか。
齊藤 最も重要な指標は、ChatGPT導入による影響度です。
「診断」によって職種ごとに数十個の業務タスクが定義され、それぞれについてChatGPTの影響の有無が判定されます。
 この結果から、業務タスク全体に対して影響を受ける業務割合をあらわす「影響度」が可視化されます。さらに、このデータに社員数などの情報を紐付けていくことで、ChatGPT導入による企業全体や部門別、職種別での労働時間やコストに与えるインパクトが試算できます。
 この「診断結果」をもとに、ChatGPT活用の対象業務の優先度やおおよその効率化目標を設定することができます。
 グループ会社それぞれで「診断」を行い、横グシで分析して共通性を抽出するなど、グループ横断での業務改善の検討を行った実績もあります。
 重要なのは、「診断」による指標抜きには、生成AIの活用効果も、そもそも「導入はうまくいったのか?」についても明確な議論が行えない、ということです。ここを放置すると、「なんとなく便利かな?」という状況がズルズルと続いてしまいます。

現場とのフィットが重要

──「診断」をもとに導入する部門が決まると、その先はどうなりますか。
齊藤 「診断」はあくまでも理論値です。企業によって仕事のやり方は千差万別ですから、「診断」によって得られた業務タスクへの影響度をコミュニケーションツールとして使い、現場の方々との摺り合わせを行います。
 この際に、AIを「導入するか/否か」の二元論ではなく、個別具体の話をするのがポイントです。実際に業務で利用する視点を無視した導入は、机上の空論で終わります。その意味で、AI導入に万能解はないのだと思います。
 どのタスクであれば、「AIにやらせることがイメージできる」のか、あるいは「AIにはやらせたくない」のか。そういった現場のフィット感とともに、現状のタスクフローを精査していきます。
 次に、このタスクフローをChatGPTで再現可能にするべく、具体的なプロンプトエンジニアリングの技術検証を進めていきます。このステップを、SIGNATEでは「型化」と呼びます。
「型化」の段階で、実際の効率化のインパクトも可能な限り検討します。理論値で50%と出ていても、実際は28%程度ということもありえます。
 より精度の高い数字を可視化することで、導入の意思決定に現場目線を加えることができるのです。
 そして、次なるステップとして「実装」へと進みます。
──いよいよ「実装」となると、どのようなポイントがありますか。
齊藤 「実装」において大事なのは、日々の業務にあった最適なインターフェイスとして提供されることです。私たちSIGNATEでも、業務内容にあわせて柔軟に利用形態を提案しています。
 ChatGPTにプロンプトをコピペするだけで済むこともあれば、GPTsを利用することもあります。ただ、これらの方法だけでは十分な効率化が達成できない業務が多いこともわかってきました。 例えば、複雑なプロンプトを何回も実行する必要がある場合などです。「ChatGPTを使いこなす作業に時間がかかりすぎて、業務効率が落ちる」では本末転倒です。
 ですから、そのような複雑な業務では、SIGNATEが開発した生成AIによるアプリケーション基盤の活用を提案しています。
 このアプリケーション基盤は、SIGNATEが開発したアプリに加えて、「型化」で実証された個社固有のアプリを搭載することができます。
 基本はSaaSとして提供しますが、お客様の社内ネットワーク環境で稼働するパッケージ版としても運用することができます。
 重要なのは、業種も規模も働き方も異なる企業が、それぞれに最適な方法で生成AIを業務活用できるということです。
 そのためにも、「診断→型化→実装」という3つのステップを踏むことが、最もリスクが低く、最適な生成AI導入の手段であると思います。

AI時代に必要な経営戦略とは

──今後、企業が生成AIを活用する先に、どのような未来がくると齊藤さんは思われますか。
齊藤 まず、誰もが「AIと働くことが前提になる」と思います。
 手書きの時代からPCが登場し、さらにスマホが加わり、仕事のスタイルが大きく変化してきました。この延長線上となるシナリオです。
 ただし、生成AIは単なるガジェットではありません。知的生産を代替する能力を持つため、働き方へ与えるインパクトは凄まじいものがあります。
 企業も個人も、どれだけAI活用にシフトするかで生産性やパフォーマンスに歴然とした差が出ることは、もはや不可避でしょう。
 定型の業務が自動化されることで、余剰時間が生まれます。より「新たな価値創造」に時間を使うことができます。この点でも生成AIの活用はインパクトがあります。
 例えば新規アプリを開発するとしても、以前ならゼロから人間がプログラムを書いていたところ、AIがコーディングまでしてくれます。
 すると、プロトタイプレベルのものはすぐできてしまう。エンジニアに頼まなくてもビジネスサイドだけでアイデアを形にできる。単純に打席数が増えますから、それだけ商品やサービスの開発は進むでしょう。
 ただし、これらはあくまでAIがコモディティ化して起きる変化です。一方で、企業としては、「競争力を高めるためのAI戦略」があってしかるべきだと思います。
 生成AIは、インターネットの公開情報や利用履歴をベースに学習しています。今後、企業活動においても、共通する情報はAIに取り込まれていくでしょう。
 経営者の方とお話しすると、AIの導入で、「自社のデータが学習され、奪われるのでは?」という懸念を持たれる方がいます。そういうときに私がお答えするのは、「ほとんどのデータについて心配ありません」ということです。
 ただし、「一部、心配をすべきデータがあります」と付け加えます。それは、他社がマネできない企業独自のノウハウなど、企業固有の提供価値に紐づくデータです。これらについては奪われると競争力を失いますから、非公開とすべきでしょう。
 同時に、このようなデータにこそ個社独自で構築したAIを活用し、より競争力を高めていく必要があります。
 特に日本企業は、食やエンタメなど、世界的に見てもユニークな価値を持つ企業が多く存在します。企業独自の価値をデータを通じてAIにどう活用していくかは、グローバルな視点でも非常に重要になってくると思います。