2024/4/15

カリスマ性より「自分らしさ」を大切に。これからの管理職に必要な条件とは?

 NewsPicks for WEが2024年3月6日〜8日の3日間にわたり開催した国際女性デーのイベント「NEXT WOMANSHIP SUMMIT」。初日の3月6日には、「自分たちで考える2030年の新しい管理職像」をテーマにトークセッションが行われた。
 経済キャスターの瀧口友里奈氏を司会に、プロノバ代表取締役社長 岡島悦子氏、三井物産より望月信孝氏、崔呈嘉氏が登壇。現状の課題を明らかにし、新たな管理職のあり方について活発な意見が交わされた。

なぜ管理職になりたくないのか?

瀧口 このトークセッションでは「2030年の新しい管理職像」について話していきます。まずは一般的なトレンドとして、ビジネスパーソン10万人に聞いた、「はたらく定点調査」より、「管理職になってよくなかった」理由についてのデータをご覧ください。
岡島 私は300社ほどでDEI推進をしてきましたが、確かにみなさん最初は「管理職になると仕事量が多くなる」「24時間355日現場に駆けつけないといけない」というステレオタイプなイメージはあります。
 でも、解きほぐしていけば必ずしもそうじゃない。こうしたデータと、現実の声は違うことをお伝えして、みなさんの中に刷り込まれている呪い(=ステレオタイプ)を壊していきたいですね(笑)。
 特に最近では、リーダーシップのあり方も変わってきています。カリスマ性のあるタイプよりも、自分らしさに基づいたリーダーシップを展開する「オーセンティックリーダーシップ」が注目されています。
望月 私は4児の父なのですが、下の3人の子どもが生まれたときは、三井物産で室長をしながら、都度育休を取得しました。
 以前の私は、自分ですべてを管理しなくてはいけないと考えて、責任も仕事量も多い「管理職」的な役割をこなしていました。しかし、そのスタイルを続けて体を壊してしまい、2ヵ月ほど休職することになりました。
 復帰後は働き方を見直し、9時〜5時で仕事を終えるスタイルに切り替えました。
 今では子育てや家事にも積極的に参加。子どものお弁当を作ったり、送迎、食事やお風呂、寝かしつけをしますし、掃除や洗濯も担当しています。
 家庭だけでなく仕事でも、昔より断然、今のほうが質と量の両面でより良いアウトプットや結果を出せるようになったと感じています。
瀧口 その秘訣はどこにあるのでしょう。
望月 組織として、業務の生産性を上げるようにしたことが大きいですね。
 ひとつは、自分ですべてをやるのではなく、組織のメンバーの力を最大限引き出すようにしたこと。もうひとつは、組織内での情報共有を徹底し、ナレッジマネジメントに取り組んだことがあります。
岡島 それができるようになったのは、時代の追い風もありますよね。リモートワークが当たり前になって、デジタルツールの普及により組織内の情報共有もしやすくなりました。
 やはり自分らしいワークスタイルを見つけているかどうか、多様な働き方が許容される環境にいるかどうかが重要だと思います。
 周りを見ると、想像以上に管理職のみなさんもフレックスやリモートワークをフル活用しながら、仕事と家庭の時間のバランスをうまく取っています。
 私も2023年に第1子を出産し、産休・育休を取得しました。
 復職の前は、正直にいうと少し不安もありました。でも、周囲に自分なりのベストな時間配分で働いている人たちがたくさんいるのを見て、私も自信になりましたし、実際やってみたらなるようになると感じています。

働き方を可視化し、期待値調整を

岡島 多様な働き方を推進するためには、ルールや仕組みづくりにも力を入れる必要があります。
 メルカリでは、ワーキングマザーだけでなく全員が自分の働く時間帯を可視化しながら、お互いの仕事を調整しています。
 例えば、子どもがいらっしゃるAさんは、夜は早く切り上げて朝早く働く。夜型のBさんは、夜の間にAさんに仕事の依頼をしておいて、Aさんは翌朝早くから手を付ける、など。
 自身のやりやすさを開示することで、お互いの仕事に対する期待値がうまくコントロールされています。
望月 多様な働き方を推進するうえで、期待値のズレは阻害要因になりますよね。
 別の視点でいうと、育休から復帰したばかりの女性社員に対して仕事量をセーブしたり、難しい仕事は振らないようにしたりするのも、男性上司側の思い込みによって起きている、期待値調整ができていない例かもしれません。
 そういうセーブした働き方を望む人もいますが、実際には、育休復帰後は意欲的に働きたい人も多い。
 休んでいた分の遅れを取り戻したい、いろいろなことに挑戦したいと考えている女性もいます。それぞれの意向に沿った働き方ができるようにすることが大事です。

可視化によるナレッジ共有

瀧口 望月さんは育休に入るときに、仕事のタスク整理を徹底して無駄を洗い出し、可視化を進めたそうですね。
望月 育休に入る前に自分の業務や考えを整理し、それを言語化して、チームに共有しました。私がいなくても仕事が回るようにしたかったんです。
 それぞれの知識や知見を可視化し、情報を共有する「ナレッジマネジメント」を進めると、お互いスムーズに助け合うことができます。
 仕事が「見える化」されるので、その人がどんなやり方で仕事をしているかがわかりますし、自分の仕事も任せやすくなる。また、管理職の仕事内容もわかるので、チャレンジ意欲も刺激されるんです。
 可視化は重要ですよね。管理職になると、今まで以上にタイムマネジメントが要求されます。その一方で、管理職だからこそ、より効率的なやり方も導入しやすくなります。
岡島 管理職の仕事は、意思決定をして責任を取ることです。人材育成やチームの最適化も考えなくてはいけません。
 だからこそ、これまでのすり合わせカルチャーで「なんとなくやっていたこと」を可視化したり、形式知にして、属人化を防ぐ。それにより、チームとしても業務への最適化も進めることができますよね。

企業変革を促すキャリア採用の力

瀧口 2つ目のテーマとして、企業に対して持たれるイメージ、特に体育会系と言われる要因について考えていきます。崔さんは、キャリア採用で2021年に三井物産に入社していますが、入社前後での三井物産に対してのイメージは変わりましたか?
 前職は不動産業界という当時女性が比較的少ない業界で、女性管理職となるとさらに数が少ない環境でした。転職にあたっては、女性でも管理職になれてワークライフバランスをキープできることを重視していました。
 その点、三井物産では、自分が望んでいた環境が整っていると感じています。女性管理職も多いので、体育会系やマッチョなイメージは私自身にはありませんね。
望月 私が入社した1998年当時の三井物産は、まさに体育会系でした。マッチョイズムな働き方が当たり前だったのですが、今ではかなりカルチャーが変わってきています。
 その要因はいろいろありますが、ひとつには2000年代後半からキャリア採用を積極的に行ってきたことが大きいですね。
 外から人が入ることで、いい意味であうんの呼吸が通じなくなり、過去の仕事のやり方も受け入れられなくなりました。そういうことを続けていると、せっかく外から来た優秀な人材が流出することにもなってしまいますしね。
岡島 商社というのは、あうんの呼吸が通じるハイコンテクストカルチャーでやっています。しかもそれで良い業績を上げているので、変革する必要性をあまり感じられないはずなんです。
それなのにあえてキャリア採用を進めて、崔さんのように外から来た人もマネジメントトラックに上がって活躍できている。そこは、三井物産のすばらしい点ですね。
 キャリア採用のコミュニティーや研修も多く、新たに加わった人材が組織に早く慣れるオンボーディングが充実しています。
 ナレッジの共有もあるので安心して仕事を始められるのも、心強いですね。

管理職だからこそ感じられるやりがい

瀧口 3つ目のテーマでは、管理職になるメリットややりがい、楽しさについて、意見を聞いていきたいと思います。
 管理職になって感じたのは、自分主導で、時間の効率的な使い方ができること。
 より大きな達成感を味わえる醍醐味、そして若手の人材育成やチームの多様な人材のマネジメントによるシナジー効果など、組織の可能性を感じる楽しさもあります。
望月 「Can・Will・Must」というフレームワークで考えると、わかりやすいかもしれません。自分のCan(できること)が増えると、それがやりがいにつながります。管理職は、そのCanのボリュームがぐっと増えてきます。
 なぜなら、メンバーそれぞれのCanを引き出し、さらにそれらを融合させることで、自分が担当する組織全体のCanとして活用することができるからです。そうするとWill(ありたい姿)やMust(やるべきこと)と重なる部分も増えて、さらにやりがいが大きくなります。
 自分ひとりだけより、みんなで目標を達成する喜びのほうが何倍も大きいというのもありますね。
「早く行きたければひとりで行け。遠くに行きたければみんなで行け」という言葉がありますが、組織のゴールをリーダーとして示したうえで、多様なチームメンバーと一緒にそこを目指し、到達することで、大きな充実感、やりがい、楽しさが感じられる。
 これは管理職になったからこそ得られる仕事の喜びですね。
岡島 これだけ変化が激しい時代に大切なのは、「自己効力感」、つまり未来の自分に対する自信です。強い組織になるには、「私にもできるかもしれない」というメンバーの意識を育むことが必須です。さらにそれをチームにも拡大して、「組織としての効力感」も上げていく。
 そうなると、管理職は必ずしも強い人でなくてもいいんです。強いことよりも、みんなのよさをちゃんと引き出せること。それが優れた管理職の条件になります。
 まるでオーケストラの指揮者のように多様なメンバーの力を引き出して強いチームをつくるというのは、管理職のやりがいでしょうね。
 同時に大事なことは、意思決定側になるということです。自分の未来を自分でコントロールできる選択権を持つことは、未来への不安を払拭することになります。実際、悩んでいたけれど管理職になってよかったという人は本当に多くいます。

2030年の管理職に求められるもの

瀧口 最後に、本日のセッションのまとめとして、2030年に向けた新しい管理職の姿として大切なことは何か、一言ずつコメントください。
崔 これからの管理職の要件は、一言でいうと、プロフェッショナルであり、リーダーシップがあること。そして働き方が多様化するなかで、管理職は大変だけども楽しく働くことを追求できるのではないかと思います。
望月 これまで管理職とは「組織や部下を管理する人」と考えられてきましたが、これからは「自分の仕事のやり方を管理できる人」という意味合いが強くなると思います。部下を管理するのではなく支援すること、組織としての目標を示して部下とともにそれを達成していくことが管理職の仕事だと思います。
 今の時代らしい、自分に合う管理職としての働き方を見つけて体現すること。その姿を見せることで、それがさらに広がり、下の世代も管理職をやってみたいという意欲を持てるようになると思います。
岡島 サステナブルであるためには、変化し続けなくてはなりません。変化し続けるには、余白が必要です。ですから、ライフイベントの有無にかかわらず、余白があることが管理職の要件のひとつとなると思います。
 そういう意味で、それぞれが自分らしいスタイルやリーダーシップをしっかり持つことも大切です。
 冒頭の昭和的な管理職の呪いからみんなが解き放たれて、持続可能な価値を生み出せる管理職を目指してもらいたいですね。