20150513_トムバイヤー

アメリカ人指導者が目にした真実 第2回

習近平が掲げるW杯優勝のミッション

2015/5/20
中国は習近平国家主席の方針により、国策としてサッカーの強化に取り組み始めた。その一貫として雇われたのが、アメリカ人指導者のトム・バイヤーだ。日本人の妻を持つアメリカ人指導者が、中国で目にした習近平の壮大な計画とは──。
第1回:中国のサッカービジネスが日本より優れている3つの点
中国サッカー協会は『チャイニーズ・スクール・フットボール・プログラム』と銘打ち、126都市の約6200学校、およそ220万人の子どもを対象にしたサッカーの育成プログラムを2009年に立ち上げた(写真:福田俊介)

中国サッカー協会は「チャイニーズ・スクール・フットボール・プログラム」と銘打ち、126都市の約6200学校、およそ220万人の子どもを対象にしたサッカーの育成プログラムを2009年に立ち上げた(写真:福田俊介)

広州恒大の巨大なクラブハウス

──人口13億人の中国は、サッカー界でも新たな市場として注目されています。ヨーロッパのクラブはどう関わろうとしていますか。

トム:中国の南部に広州恒大というビッグクラブがあるのですが、彼らはレアル・マドリーとタイアップしてクラブハウスをつくりました。「Colors Magazine」というサイトに写真があるので、ぜひ見てください。

サッカースクールが併設されていて、何千人という生徒がいます。多くのスペイン人コーチが指導にあたっています。

──『ハリー・ポッター』に登場するホグワーツ魔法魔術学校のようですね(笑)。

トム:これはほんの一部。中国でビジネスをしているとポテンシャルを感じます。確かに他の経済分野では、勢いが落ち着いてきています。でもスポーツやエンターテインメントはこれから。ヨーロッパやアメリカは派手に中国で展開していますよ。日本は中国戦略で出遅れていると感じます。

中国は日本サッカーをリスペクトしている

──確かに日本サッカー界は、あまり中国を見ようとしていないかもしれません。

トム:中国人の指導者は、結構日本に来ています。彼らは定期的に集まって勉強会をやっているようです。

中国のサッカー関係者は、日本サッカーをとてもリスペクトしています。当然でしょう。わずか20年でここまでプロ化に成功した国は世界のどこにもありません。W杯も1998年以降、常に出場しています。

彼らは真剣に日本から学びたいと思っています。だから日本にとっても、いろんなビジネスチャンスが今の中国にはあります。

──日中のサッカー交流があまり進んでいない原因は、どこにあると思いますか。

トム:政治、歴史、そしてメディアでしょうね。とにかく中国の現状と、日本で報じられている内容とのギャップが大きい。日本ではネガティブなものが多いです。

──中国サッカー協会は、日中関係をどう見ているのでしょうか。

トム:面白い話をしましょう。中国サッカー協会のオフィスのメインフロアへ行く壁には、日本サッカー協会副会長の田嶋幸三さんの写真が掲げられています。

すごいことですよね。日本が嫌いだったら、こんなことをするでしょうか。スポーツは特別な関係を生みます。たとえ政治で仲が悪くても、お互いを尊敬する気持ちを生みます。これがスポーツの本当の価値です。

トム・バイヤー、1960年アメリカ合衆国生まれ。アメリカ、イギリスでプレーしたのち、来日して日立FCでプレー。約20年間、日本全国でサッカー教室を実施し、子ども時代の香川真司や宮間あやが参加していた。2012年8月、中国サッカー協会からの依頼により、中国学校サッカー事務局の主任テクニカルアドバイザーに就任。同学校のオフィシャル・グラスルーツ・アンバサダー(草の根大使)も兼任している(写真:福田俊介)。

トム・バイヤー
1960年アメリカ合衆国生まれ。アメリカ、イギリスでプレーしたのち、来日して日立FCでプレー。約20年間、日本全国でサッカー教室を実施し、子ども時代の香川真司や宮間あやが参加していた。2012年8月、中国サッカー協会からの依頼により、中国学校サッカー事務局の主任テクニカルアドバイザーに就任。同学校のオフィシャル・グラスルーツ・アンバサダー(草の根大使)も兼任している(写真:福田俊介)

W杯の常連国になり、優勝を目指す

──習近平国家主席の改革の最終目標は何でしょうか。

トム:サッカーに関しては「W杯でレギューラー(常連国)になり、W杯を開催する。そしてW杯で優勝する」というビジョンを掲げています。

──彼の任期はあと8年。中国では政権が変わると、前任者の政策が否定される場合もあります。継続されていくでしょうか。

トム:難しい質問ですね。でもオリンピック招致は継続されましたし、クラブが強くなれば代表も強くなってほしいという声も強くなるはず。進む方向は変わらないと思います。

──1992年に広島で開催されたアジアカップの準決勝、日本対中国の激闘は今でもサポーターの間で語り草になっています。中国は再び日本のライバル国になりますか。

トム:はい、そう思います。日本、韓国、オーストラリア、イランは、ブラジルW杯で1勝もできませんでした。隣国である中国が強くならないと、日本のW杯ベスト4や優勝は難しいと思います。

中国でのビジネスは「何をやるか」より「誰と組むか」

──最後に中国でビジネスをするうえでのアドバイスをお願いします。

トム:中国人はみんなハングリー。ビジネスをやりたい、おカネが欲しい、成功したい、そういうマインドにあふれている。

さらに起業したい人は、最初からグローバリゼーション、世界戦略が頭の中にある。そういう人たちと日本人がパートナーになれば、きっと大きなビジネスができます。

日本人が中国でビジネスをやりたい場合、良いパートナーを選ばないとダメです。「何をやるか」以上に「誰と組むか」が大事。特に中国はそうです。

※本連載は毎週水曜日に掲載予定です。