アメリカが官民タッグで挑む「電気自動車王国」樹立
2015/05/15, The New York Times
スタートアップが開発した充電器
ジェレミー・マクールは、混雑した都市で電気自動車(EV)を充電するには、コード付きのプラグを使うよりもっとよい方法があると確信している。
マクールはブルックリンに本社があるスタートアップ企業、ヒーボ・パワー(Hevo Power)の最高経営責任者(CEO)だ。EVに優しくない環境の中で容易に充電できるような装置を開発している。
マクールと彼のチームはまず、普通のマンホールのふたのように見え、都市の景観に自然に溶け込むワイヤレス充電器を開発した。そのほかにも、電気トラックが駐車している間にワイヤレスで充電することが可能になる「グリーン・ローディング・ゾーン」を開発中だ。秋までにニューヨーク大学で、敷地内の整備に使われる車両の試験を開始する予定だ。
その日は、何年も製品の開発にあたってきたヒーボ・パワーにとっては長く待たれた一里塚になるだろう。マコールは、「不可能な旅のように思われた」と振り返る。
ヒーボはニューヨーク州から24万ドルの支援を得てワイヤレス充電器を開発した。賃貸アパートやコンドミニアムに住む人が多いニューヨークやボストン、シカゴ、フィラデルフィア、サンフランシスコなどの大都市は、極めて有望なEV市場であると同時に、課題も多い。
EVを買いたくても買えない理由
全米集合住宅評議会の広報担当者、ジム・ラピデスは、「ニューヨーク市は、集合住宅に住む世帯の比率が米国で最も高い」と言う。
大都市は、人口密度の高さ、お役所仕事、厳しい冬の寒さ、混雑した道路の脇で充電する難しさ、自動車所有にかかる高いコストなどによって、EVを所有し、運転するのが難しい。
ところが、各都市の当局は、EVの利用を促進しようとする姿勢を変えていない。ドライバーのごく一部でも電気自動車に切り替えれば、温室効果ガスの排出が大幅に削減できるという。
たとえば、フィラデルフィア駐車局は新奇な戦略を打ち出している。住民に一定の年間使用料金で充電器付きの公共スペースを貸し出し、充電器の財源にしている。ただし、同局の広報担当者、マーティン・オルークによると、参加している住民は約20人にすぎない。
EVが最も普及しているカリフォルニア州では、充電スタンドを経営しているNRG eVgoが、同州の「テイク・チャージ」プログラムを通して、集合住宅の駐車場にEV用の充電器を設置している。車の所有者が月間39ドルと電気代を負担し、この費用が土地の所有者に支払われるので、土地所有者は費用を負担する必要がない。
NRG eVgoの副社長、テリー・オデイは、「カリフォルニアの賃貸住宅の住民は、EVを買いたいと思ってもなかなか買えなかった」と語る。ニーズが大きいのは明らかだ。オデイが住んでいるサンタモニカでは、住民の80%が集合住宅に住んでいるという。
電力会社も充電スタンドを設置
ただ、カリフォルニアでは次々に充電スタンドが設置される見通しだ。
同州の中部と北部を管轄する電力会社、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリックは、サービス提供地域に2万5000の充電スタンドの設置を提案している。EVの普及度を考えれば、このくらい充電スタンドがあってもおかしくない。
同社の広報担当者、ジョナサン・マーシャルは「この地域で登録されているEVは6万台余りだが、米国の総数の20%以上にあたる」と言う。
しかし、ニューヨーク、特にマンハッタンとブルックリンでは、多くの課題が残っている。 ニューヨーク市の主要な電力会社であるコン・エディソンのEVプログラムを運営するジョン・シップマンは、「マンハッタンは非常に人口密度が高く、高層ビルが多いので、従来のような充電の方法はうまくいかない」と語る。
ニューヨークも官民タッグでEV強化
しかし、そうした障害にもかかわらず、複数の政府機関や企業がEVの普及に取り組んでいる。
まずニューヨーク市当局自体だ。市長室の広報担当者、エイミー・スピタルニックは、同市が所有する車両には、あらゆる種類のEV825台が含まれ、203の充電スタンドが整備されているとして、「ニューヨーク州では最大のネットワークだ」と説明する。
表通りから入ったところに新設される駐車場の20%は充電器に対応できるようなかたちにすることを義務付ける法案が新たに可決されたという。
ニューヨーク市はデブラシオ市長のもとで「積極的に市当局によるEVの利用を増やそうとすると同時に、引き続き民間部門と協力して、民間車両のための充電インフラを拡大しようとしている」とスピタルニックは言う。
2013年にはニューヨーク州のクオモ知事が、2018年までに州内にEVを4万台普及させ、3000の公共充電スタンド設置を目指すという「チャージニューヨーク」を開始した。州の統計によると、ニューヨーク州エネルギー研究開発機構は、ニューヨーク市の120の充電スタンド設置を支援したが、州の支援を受けずに設置されたスタンドもある。
シップマンによると、ニューヨーク市とウエストチェスター郡を含むコン・エディソンの管轄区域には、政府機関や企業向けも含めて現在3000台のEVが登録されている。ニューヨーク市で登録されている自動車が200万台以上に上ることを考えると、ごくわずかだ。
ヒーボ・パワーは、マンホールのカバーを使う計画が挫折し、今ではローディング・ゾーンや政府機関、法人向けに目を向けている。ヒーボ・パワーのグリーン・ローディング・ゾーンによって、EVを充電したり、トラックの冷蔵庫の部分を電気で動かしたりすることが可能になる。
WXYアーキテクチャー+アーバンデザインのマネジング・プリンシパルのアダム・ルビンスキーは、市政府と協力して、こうしたグリーン・ゾーンの実現可能性を研究したことがあるという。
フィラデルフィアに住み、製薬会社で開発を担当している63歳のブレット・スコルニックは、市駐車局のプログラムを利用しているEVの所有者だ。
彼はテスラ・モーターズの「モデルS」をフェアマウント地区にある自宅前に駐車している。小さな問題はあるが、EVを買ったことを後悔していないと言う。「駐車スペースがあるため、外食したり、友人宅を訪れたりして、帰ってきたら充電ができるようになった 」と満足そうだ。
(執筆:Jim Motavalli記者、翻訳:飯田雅美、撮影:Max Whittaker/The New York Times)
© 2015 New York Times News Service
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コメント
注目のコメント
駐車場と充電設備、セットで重要。特に都市部ではそこに補助金出して、ガソリン車より停めやすいといったメリットは案外良いかも。社内のLEAF乗ってる人と先日話したら、パーキングエリアでいいところに実際停められるらしいし、長距離移動でも充電タイミングは運転休憩時間としてちょうどいい感じで、何も不満がないと言ってた。
ワイヤレス充電は、携帯でも普及してない。あれば間違いなく特徴になるし便利だと思う。それでも普及してないのはコスト面、充電効率などの課題があるのだろう。