2024/3/5

【DE&I】プルデンシャルが「男性中心」から変わる。なぜ?

 営業、体育会系、フルコミッション──。
そんなイメージとともに語られがちなプルデンシャル生命は、実は女性活躍を中心としたDE&I推進に力をいれている企業の一つ。
 2008年に多様化推進チームが立ち上がり、休眠期間を挟むなど緩急ありながらもさまざまなプロジェクトが実施されてきた。
 2021年からは全社を挙げてDE&I推進へと舵を切り、社長自ら「2030年までに女性ライフプランナー1000人体制」という目標を掲げ、経営課題として真剣に取り組んでいる。
 かつては構造的に「男性中心の体制になって当たり前」だったというプルデンシャル生命で、今、どのような変化が起きているのか?
 今回は、同社社長の間原寛氏にインタビューを実施。なぜDE&Iを経営課題に据え、推進するのか。その真相を聞いた。

お客さまに合わせ、ライフプランナーも多様化

── プルデンシャル生命保険では、コアバリューのひとつに「顧客に焦点を合わせること/Customer Focused」とあります。顧客層もニーズも多様化するなかでは、それを実践する難しさが増していると思いますが、こうした現状にどう向き合っていますか。
間原 私たちは「ニードセールス」という考えを大事にしています。
 これは、顕在化されているニーズに応えるのではなく、お客さま自身が気づいていない潜在的なニーズを発掘して、最適な提案をすることを指します。
 単なる「顧客第一主義」とも違う、その人にとって必要なことであれば、ときには顧客の意向とは反対の意見を申し上げることもあるということです。
 お客さまと深く向き合い、異なる意見も勇気をもって伝え、潜在的なニーズに気づかせて差し上げられる人が、お客さまに焦点を合わせられるプロフェッショナルです。
 そして、生命保険の商談は深い話に及ぶことが多いので、お客さまとライフプランナーの相性も大切です。
 顧客層の多様化が進んでいるのだから、ライフプランナーも多様化すべきだと考えるのは、ある意味で当然の流れと言えるでしょう。
── 潜在的なニーズを読むためにも、顧客との関係性の構築や、不確実要素を分析し予測する力など、求められる能力も多岐にわたるのではないでしょうか。
 ライフプランナーに求められる基本的な能力としては、まず、共感力があります。お客さまの思いを引き出し、困った時に的確に助けて差し上げられる人であるべきです。
 そしてお客さまの共感を深める入り口として、相性と同じくらい、年代や生活スタイルといったプロフィールが類似していることも重要だと考えます。ライフプランナー自身の人生における経験や実感していることをもとに、お客さまに寄り添えるからです。
 そこから実績を積んでいくと、プロフィール問わず相手への理解を深めていくことができるようになります。
 その過程において、さまざまなお客さまとの接点だけではなく、社内でともに働く人たちとの関わりでも、多様な価値観を身に付けていくことができれば、より深みのあるライフプランナーに成長できると思います。
 お客さまの多様なニーズに応えるためにも、ともに働く人たちがさまざまなバックグラウンドであることは、とても重要なのです。
── 男女の役割分担が画一的でなくなっているなかで、多様化する顧客のニーズに対応するためにも、女性のライフプランナーの存在は重要になりますね。
 はい。ライフプランナーは、お客さまとともに年齢を重ねていきながら、ニーズの変化に共感し続けていく存在です。
 例えば、出産して育児がスタートしたばかりの方には、同じような経験をしてその状況を踏まえたニーズを理解する女性ライフプランナーが寄り添うほうが、共感度が深まり、最適なご提案ができるかもしれません。
 そして、50代、60代と、同じように年齢を重ねていった先で、そのときどきのニーズを自身も体感し、理解して、新たなご提案ができる。こうして長きにわたりお客さまの人生に共感しながら寄り添えるのが、ライフプランナーという仕事の醍醐味でもあると思います。
 また、お客さまがいざ病気で入院などをして生命保険の力を必要とする際など、センシティブな場面にも関わるなかで、女性のお客さまのなかには男性ライフプランナーに対して「女性特有の疾患について話したくない」と思われる方もいらっしゃいます。
 このような状況において、女性のライフプランナーが対応することでご安心いただいたことも少なくありません。

社内外の変化とともに、女性の力が不可欠に

── そうしたエピソードからも、多様なバックグラウンドのライフプランナーがいるべきだと思わされます。そのうえで、トップである間原さんご自身がダイバーシティ推進に強くコミットされている理由を教えてください。
 当社のミッションを実現するためにはダイバーシティが不可欠ですが、日々の業務がどうしても優先され、こうしたテーマは後回しになりがちです。
 そのため、トップが先頭に立ってプライオリティを上げて推進すべきだと考え、「ダイバーシティ・アドバイザリー・ボード」の議長を務めています。
 これは決して、アメリカ本社の要望や社会の風潮に合わせるためのコミットではありません。当社の創業からの経緯をふまえ、これからもお客さまに焦点を合わせたご提案をし続けるために必要なことでした。
 日本では戦後から、生命保険の営業は女性が担ってきました。夫が戦死するなどして、家計を支える必要が出てきた寡婦が働き手として多く採用されたことに起因しています。
 一方、昭和が終わる時期に創業した当社は、日本市場への後発参入であることをふまえ、他社と差別化するためにあえて男性のライフプランナーを揃えました。
 ご存じの通り、当時の日本は30代以降の男性が「一家の大黒柱」として働いて家族を養うのが基本でしたから、彼らがもっとも生命保険を必要としていたのです。
 このニーズに共感できるライフプランナーを配置すると考えれば、男性中心の体制になって当たり前でした。
 しかし時代は流れ、お客さまの生活スタイルは変わり、多様化しています。それと同時に、規模が大きくなったプルデンシャル生命保険では、より幅広いお客さまに商品をご提案していくため、あらゆる価値観に共感できるライフプランナーの必要性が高まってきたのです。
 ところが、時代のニーズに合わせてそれまで男性だけで築いてきた風土が大きな壁になり、女性ライフプランナーの輩出がなかなか進みませんでした。そこで、会社を変革し、女性活躍にコミットすることにした、という経緯です。
 当社が目指す姿を実現するためにも、今後さらに女性を積極的に採用し、活躍できる会社をつくっていかなければならないと強く思っています。

トップがいかに「腹落ち」するか

── 2008年に多様化推進チームが立ち上がってから、ダイバーシティ推進のタスクフォースや「Prudential Mimosa Project(プルデンシャル ミモザプロジェクト)」(以下、ミモザプロジェクト)が創設されるなど、長きにわたり多様化推進をされている印象です。
 本音を言うと、初期の頃は取り組みがなかなか進みませんでした。
 仕組みをスピーディーに整えることはできても、社員のマインドがついてこなかったのです。日々の業務と比べ、ダイバーシティ推進の優先順位は下がりがちでした。
 再度、本腰を入れようとコミットしたのは、2021年です。同じ轍を踏むわけにはいきませんから、スピードを上げて取り組むことにしました。
── 一部の男性経営者においては、こうした取り組みへのコミットは表層的になりがちです。一方、間原さんのお話を聞いていると、本当に腹落ちしておっしゃっている様子がうかがえます。間原さんご自身は、どんな思いでこのプロジェクトに取り組まれているのでしょうか。
 これまで話した通り、今や女性の力なくしてビジネスは進められません。これは純然たる事実です。
 多様化するニーズへ対応する意味合いもありますが、実は、女性のライフプランナーのパフォーマンスが高い分野があることが、データによって明らかにもなっているのです。
 生命保険のご契約を最初にお預かりする新契約の時点では、男性ライフプランナーのほうが生産性が高い傾向があります。こうしたわかりやすい結果に基づいて、男性の力が必要だとされて、女性の採用がなかなか進んでこなかったのが現状です。
 しかし、ご契約後の継続率を比較すると、女性のほうが成果を生み出しているという側面もあります。
 つまり、お客さまとの長きにわたるお付き合いを通してニーズの変化を察知し、寄り添い、きめ細かくサポートできているのです。他のライフプランナーから引き継いだお客さまへのフォローにおいても、女性のほうが高いパフォーマンスを発揮しているというデータもあります。
 こうしたファクトを通して、私自身のダイバーシティ推進への自覚が促されたと思います。
── 間原さんが社長に就任された直後に、経営陣や管理職へのアンコンシャスバイアス研修も行ったとうかがっています。どのような思いで実施されたのでしょうか。
 アメリカにある親会社では、当たり前のように取締役に多くの女性がいて、さまざまな人種のメンバーで構成されていることを目の当たりにしたことがきっかけです。
 アメリカにおける多様化は複雑で、ジェンダーのみならず宗教や人種の観点も大きく関わってきます。そのような環境でビジネスを正しく進めるためには、経営陣もさまざまなバックグラウンドを持つ人たちで構成されなければなりません。
 一方、日本のボードメンバーは同世代の男性ばかり。私を含め、本当の意味で経営をする陣容にはなっていないと思いました。
── アンコンシャスバイアス研修を実施されて、ご自身のバイアスに気づかれた点はありましたか。
 たくさんありました。一緒に参加した女性管理職の方から「間原さんは、子育ては女性がするものだと思っていませんか」と指摘されたことを鮮明に覚えています。
 私が発している言葉や、その背景にある価値観を感じ取っての指摘でした。確かにその通りだ、と痛感したのです。
 こうしたことは、言ってもらわないと自発的には気付けないものですね。
 人は真正面から指摘されると不愉快になることも多いものですが、この研修ではハッと気付かされることのほうが圧倒的に多くありました。

「女性活躍推進」が不要になる日を目指して

── 直近のダイバーシティ推進の取り組み事例についてもお聞かせください。
 2022年に立ち上げた「ミモザプロジェクト」は女性活躍推進のみならず、男女問わず多様な生き方を皆さんと共有していきたいとの思いで推進しています。
 取り組みのひとつである「MIMOSA MAGAZINE」(以下、ミモザマガジン)は、「自分らしく働き、生きる」というテーマを掲げて運営しています。インタビュー記事は女性を紹介することが多いのですが、男性や親子で登場するケースもあります。
 自分の価値観に正直に生きること、生き方には多様な選択肢があっていいことを、インタビューを通して伝えたいと考えています。そして我々経営陣も、「ミモザマガジン」を読んで刺激を受けています。
── 最後に、今後の取り組みや目指す姿についてお聞かせください。
 当社は2030年までに女性ライフプランナーを1000人体制にし、「女性活躍」などと言わなくてよい会社にすることを目指しています。
 今は社内にDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)推進チームを設けていますが、恒久的に置くべき組織ではありません。
 我々の考えるDE&Iが、より強固な企業文化となるべく体制を強化し、将来的にはその役割を終えて発展的解散をする日が来ることを望んでいます。
 その日をできるだけ早く迎えるためにも、これからも女性活躍を中心としたダイバーシティ推進を重要な取り組みと位置付け、継続していきたいと考えています。
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 取材当初は、「あの」プルデンシャルが? という先入観があったが、間原氏はそれすらも言われ慣れている様子で、事実ベースでの背景を語ってくれた。
 多くの女性顧客に対してもしっかりと向き合い、細やかなサービス提供をする。そのためにも、ライフステージの変化を理解する女性ライフプランナーの力が必要になる──。
 ライフプランナーという言葉を生み出し、徹底して顧客に寄り添う企業理念から考えれば、当然の流れであろう。日本の女性がより良い人生を送るためにも、「女性ライフプランナー1000人体制」の実現に期待が寄せられる。