2024/3/5

大切だけど、よく知らない。女性活躍の大きな課題「ヘルスケア」の話

ジェンダーギャップ指数は125位と過去最低を更新した日本。女性活躍を推進しているが、他国との相対評価においては、まだまだと言わざるを得ない状況だ。
 一方で、人的資本開示の義務化により、女性管理職比率や男性の育休取得にもスポットライトが当たり始めた。
 NewsPicks Studiosの共感型・討論番組『The UPDATE』では、4名の当事者・有識者を迎え、「2023年、女性活躍は進歩したのか?」を議論した。
 加えて、本記事では『The UPDATE』にゲスト出演したmederi株式会社取締役の大池優貴さん、同社代表の坂梨亜里咲さんにインタビューを実施。
 ヘルスケアサポートの側面から、企業・個人が抱える課題解決への展望を伺った。

制度活用に課題、キーワードは「自分ごと化」

『The UPDATE』本編の議論で、大池さんは前半テーマ「2023年、女性活躍は進歩したのか?」について「YES 環境は進歩」と回答した。
「女性向けのサービスや制度が増え、導入する企業は増えてきています。ただ、適切に運用されているかというと、実感がない。
 選択肢が増えたという意味で環境は進歩していますが、女性活躍が進歩したのかというと、まだまだだと考えています」
 加えて、その背景として「従業員が、女性活躍に関わる制度を「自分ごと化」できていない印象」と回答。
「会社が制度を導入し『女性活躍推進しています』という見せ方をしている一方で、例えば生理休暇など、実際に自分で使ってみようと行動する従業員の方が少ないという課題もあります。
 しかしこれは従業員が悪いのではなく、基本的には企業側の取り組みや働きかけによって解決できるものです。
 特にヘルスケアに関しては『身近な人に聞く』以外に知る術が少ない領域です。制度に関しても、丁寧に説明することで、やっと取得がなされる。
 例えば最近増えているオンラインピル処方を法人導入する場合も、企業側から『こういう薬で、こういうメリットとリスクがあります』と、しっかりと従業員に発信していくことも大切です」
 番組後半の『働く女性に伝えたいこと』というテーマに対しては、「諦めないでほしい」と大池さん。
「まだまだ見えないことも多いですが、選択肢は増えてきています。
 何かでつまずいた時に、諦めずに模索してほしいですし、私たちmederiも解決策を提供できるようにしたいと考えています」
 番組終了後、大池さんと、坂梨亜里咲さんに追加インタビューを実施。オンラインピル処方サービスをはじめとして、個人と企業に対してヘルスケアサービスを提供する当事者として、現場で起きている女性活躍の進歩と課題を聞いた。

ヘルスケアはまだ「プライベート」な課題。だから難しい

──ヘルスケア事業を行う中で、特に企業へのサービス導入ではどういったことが課題になっていますか?
大池 導入前と導入後の課題があります。まず、導入前の課題は、マネジメント層が女性のヘルスケアに関してどれだけ理解しているか。そこでまずハードルが変わります。
 それは、担当者の性差による影響ではなく、「理解の差」と認識しています。
 私たちのサービスの導入を主導してくださる担当者の方は、女性活躍やヘルスケアに関してリサーチして深く理解されていて「こんないいものがあるのか」と、すぐに判断していただける方もいらっしゃいます。
 一方で、決裁者の理解が不足していると、導入が遅くなるケースが多いです。
坂梨 とはいえ、決裁レイヤーの方々に理解を求めるには、まだまだ時間がかかると思っています。
 男性であれば、意識の問題だけではなく、実体験がないので理解し切れない部分もあると思います。
 また、ヘルスケアに関してはまだまだプライベートな領域で、セクハラ・パワハラになりかねず、話題に出すことへの抵抗もありますよね。そうした場合は、現場の声を聞いてみるのもいいかもしれません。
 例えば、実際に導入された企業で、女性従業員の方々が自らサービス導入を希望する声を集めて、会社に提出されたという事例もありました。
 この場合、課題を抱えている従業員がいる事実を明確に伝えられるので、決裁レイヤーの方々にも比較的早く理解していただけたようです。
 個人の意識を変えたり、主体的にリサーチしてもらうことは難度が高いですから、現場の声を集めることが重要だと考えています。
──導入後の課題はどういったことが挙げられるのでしょうか。『The UPDATE』では「制度を『自分ごと化』できていない」とおっしゃっていました。
大池 そうですね。導入後にどれだけ活用してもらえるか、継続的に向き合っていく必要があると考えています。
 導入しても、課題を抱えている従業員の方に届き、活用されなければ意味がありません。
 mederiでは定期的にセミナーやアンケートを実施していますが、それでも、クライアント社内に意思を持って進行してくださる方が不可欠です。
 医薬品は種類によって服薬が難しい方もいらっしゃいますし、活用するか否かは個人の自由。コミュニケーションの取り方が多様で、一筋縄ではいかない領域だと、常々感じています。

なぜ、自分の生殖機能についてこれほど無知なのか

──実際に導入された企業からは、どういった声が集まっているのでしょうか?
大池 導入前後のアンケートで、90%以上の方に満足していただいており、パフォーマンスだけではなく、企業へのエンゲージメントも高まるという回答をいただいています。
 ご本人の体調に関してだけでなく、働き方やコミットメントの面でも、目に見えてポジティブな効果が生まれています。
坂梨 そうした結果を聞くと、女性の活躍を制限するものを少しでも取り除くことができているんだなと感じます。
 前提として、男性の活躍も重要です。その上で、人口の半分である女性が固定観念や偏見、知識の不足によって活躍する場が減るのはもったいない。
 男性と比較して、女性はライフステージの変化によってセーブしなければいけない瞬間が明確にあります。それゆえに、活躍する場が狭まっているのもまた事実です。
 私は、シンプルに「女性のケアをすれば多くの企業のパフォーマンスが伸びるのではないか」と考えていて、少しずつ事例を増やしていければと思います。
 もちろん、企業の成長や生産性のためだけに女性のヘルスケアサポートをするべきだと言っているわけではありません。体調不良をなくすのは誰にとっても大切なことです。
 誰もが、自分の体を大事にしてさまざまな選択ができるようなサポートがしたいですね。
──坂梨さんの女性活躍の土壌づくりへの思いはどのように醸成されたのでしょうか。
坂梨 起業した理由にも関わるのですが、不妊治療の経験は非常に大きな出来事でした。
 婚約を機に行ったブライダルチェックで、突然、自分の妊よう性*が低いことを宣告されました。(*妊よう性:妊娠するための力)
 20代後半で、いきなりライフプランが大きく変えられてしまうような感覚でした。
 それまで健康診断を毎年受けてきたのに、自分の生殖機能のことを知らなかったですし、そもそも知ろうとしてなかった。
 実体験として生殖機能の重要性と知識量のギャップに衝撃を受けて、これは変えていかなければと思ったんです。
 また、当時の私の周りには不妊治療を受けている方があまりおらず、参考情報が少なかったんです。でも、私が経験を口にしたら、意外と同じ境遇の方も多かった。
 言うか言わないかは個人の問題であるのは大前提で、私は自身の経験を口にすることで、同じように悩む人たちにも情報が届けられたらと思ったんです。
 そこで、ヘルスケア領域での起業を決めたのですが、一口に「ヘルスケア」と言っても、選択肢が多すぎて何から始めるべきか分からない状態でした。
──現在はオンラインピル処方が主な事業となっています。どういった背景で事業を決められたのでしょうか。
坂梨 私自身、生理不順を治すために10代の頃から飲んでいましたが、周りからは「避妊薬を飲むなんて!」とネガティブに捉えられたことも多くあります。
 多様なメリットを感じ服用をしていたのですが、日本では偏見もあり、服用率は3%程度と諸外国より低い状況でした。
 この背景から、生理不調に悩む女性にきちんと正しい知識が届けば、女性の毎日が、そして社会がより良くなると思いました。
 加えて、株主である前澤友作さんのX(旧Twitter)で「女性ならではの不調で気になっていること」をアンケートした結果、PMSへの投票が圧倒的だったことも、事業の選定理由の一つです。
──ヘルスケア意識を変える手段としてオンラインピル処方事業をされているんですね。
大池 実際に、利用していただいた方の約75%から健康意識が「高まった」と回答していただくことができました。
坂梨 mederiがきっかけで「定期検診を受けて子宮頸がんが判明した」という回答をいただいた時は、みなさんの健康サポートに役立っているんだと感じました。

選択肢を増やすために、声を上げられる場所づくりを

──生理、妊娠・出産、更年期など女性のヘルスケア課題はライフステージによってさまざまです。これらの変化を乗りこなしながらワークライフバランスを構築するために大事なことはありますか?
坂梨 選択肢をできるだけ多く知ることだと思います。
 2つの選択肢から1つを選ぶことと、10の選択肢から1つを選ぶことは、極めて大きな差がありますよね。
 選ばされた選択ではなく、自分で決めた選択であれば、納得感はもちろん、選択への自信と責任も生まれると思うんです。
 私の場合は、自分の選択肢を増やすために、積極的に人と出会うようにしていました。
 出会いの数は、イコール人生のサンプルの数であり、自分の選択の幅を広げてくれるものだと考えています。
大池 特にヘルスケアの課題は、発信すると相談とともに仲間が集まる一方で、発信しないと誰も教えてくれない印象があります。
 それは企業の取り組みにおいても同様で、何度も言いますが、声を上げやすい場を作ることが重要ですよね。
 例えば生理休暇の制度が作られても、実際には「体調が悪くて」とオブラートに包んで休まれている方がまだまだいます。
 名前を変えるのか、それとも、男女関係なく気兼ねなく休みを取れる制度を導入するのか。我々もそこから一緒に考えて、ベストな選択肢をご提供したいと思っています。
坂梨 ちなみに、mederiでは、入社数カ月後に取得できる有給とは別に、誰でも入社してすぐに取得できる休暇制度を設けています。
 男女関係なく、誰もがパフォーマンスを発揮できることを大切に。
 これからもライフステージの変化に寄り添った一生をサポートするプロダクトを展開していきます。