Rupam Jain

[ニューデリー 11日 ロイター] - シャヤラ・バノさん(49)は2月7日、安堵(あんど)のため息をついた。バノさんの住むインドの小さな州で一夫多妻制を禁止する法律が制定され、自身が最高裁判所で起こした訴訟を含め、何年間にもわたる努力が報われたためだ。

「これで、結婚や離婚に関する古くからのイスラム法(シャリア)を巡る闘いに勝ったと言うことができる」

2人の女性との結婚を選んだ夫はイスラム法に則り、アラビア語で離婚を意味する「タラーク」(talaq)と3回唱えただけで、バノさんとの「即時離婚」を成立させたという。

「男性が同時に2人以上と結婚することを認めるイスラム教の婚姻制度は、終わらせなければならなかった」。バノさんはそうロイターに語った。

他方、一夫多妻制や即時離婚などの慣習を廃止する新たな法律を喜ばしく思わない人もいる。その1人であるサダフ・ジャファーさんは、自分の同意を得ずに夫がほかの女性と結婚することを巡って法廷で争ってはいるものの、新法には懸念を示す。

子ども2人の養育費扶助を求めるジャファーさんは「イスラム教の一夫多妻制は厳格な規則や制約のもとで認められてはいるが、悪用されている」と言う。インドの司法による正当な裁きを願い、イスラム教の学者には相談しなかったと明かした。

同国北部ウッタラカンド州における「統一民法」の導入は、同国の宗教的少数者としては最も大きなグループであるイスラム教徒(ムスリム)の女性の間に亀裂をもたらしている。夫が複数の女性と結婚したことで人生が一変した女性らの間でさえも、そうした溝が生じているという。

新たな規定では、結婚や離婚、相続、養子縁組に関するイスラム法の決まりよりも、非宗教的な法律を重視すると定めており、活動家のバノさんらは称賛している。だがジャファーさんやムスリム政治家、イスラム教学者らにとっては、ヒンズー教至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)を率いるモディ首相の施策は歓迎できないものだという。

ウッタラカンド州でこの民法が採択されたことは、他州でも国内のイスラム教徒からの怒りや反対の声を押し切って同法の導入を進めていく上での布石になると見込まれている。インドには約2億人のイスラム教徒が暮らしており、これは世界で3番目に多い数だ。

<多宗教社会における権利>

新しい民法は1950年に施行されたインド憲法を基礎としている。同国におけるイスラム教徒の個人法を近代化し、完全な男女平等の保障を目指す大改革だとBJP幹部らは言う。

2013年の調査によれば、インド国内のムスリム女性のうち91.7%が、ムスリム男性は先に結婚した女性との婚姻関係が続いているうちは他の女性との結婚を許されるべきではないと回答した。

ただムスリムの多くは、与党BJPがヒンズー教の教義を追求してムスリムを差別し、イスラム教に干渉する法律を押し付けていると非難する。イスラム法ではムスリム男性が4人まで配偶者を持つことを認めているほか、未成年の結婚を禁止する厳格な規定はない。

野党第一党の議員に立候補したジャファーさんは新法の一部について、イスラム教の悪い面を強調し、ムスリムの暮らしの改善といった問題から関心をそらすためのモディ政権の戦略だとの見方を示した。

インド最高裁は2017年、イスラム教における即時離婚について違憲であると判断した。ただ一夫多妻制など、女性の権利平等を脅かしているとの批判もある他の慣習については禁止しなかった。

一夫多妻制の禁止に加え、新法は男女の婚姻開始年齢を設定したほか、養子や婚外子、代理出産で生まれた子どもに対しても先祖代々の財産を平等に分配することを明確に保証している。

BJP幹部や女性の権利を訴える活動家らは同法が、時代と逆行する慣習の廃止を目指すものだとする一方、ムスリムの政治家らは信教の自由を侵害していると主張する。

全インドイスラム教徒個人法委員会(AIMPLB)は新法について、実現不可能で、多宗教のインド社会における直接的な脅威だと述べた。

「重婚の禁止はほとんど意味がない。データによれば、インド国内で2人以上の配偶者を持つ男性は非常に少ない」とインド福祉党(WPI)のSQRイリヤス党首は指摘する。同氏は、政府にイスラム法への疑問を呈する権利はないとも付け加えた。

北部ウッタルプラデシュ州で二人の子どもと暮らすジャファーさんはこう話す。

「イスラム教には、尊厳のある生活を提供する規定が十分にある。必要なのは、新たな民法ではない。尊厳のために闘う女性に、迅速な正義をもたらすことだ」