SOMPOホールディングスの櫻田会長兼CEO、3月末で退任-報道
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注目のコメント
企業トップの進退は、①数字に現れる業績への貢献と、②内部統制(ガバナンスやコンプライアンス)への貢献、という二つの観点から判断されるべきものです。
①は誰でもわかることですが、②が抜けているとそもそも①で打ち出された「数字」自体が信用できない、ということになるからで、この二つは必ずセットになっていなければ、会社の外にいるステークホルダー(監督当局、株主、債権者など)は安心して寝ていられないからです。
これは、その経営者個人が好きか嫌いかという次元で判断されたり、議論されるべきことではありません。客観的な事実に基づいて判定されるべきものです。だからこそ②について疑義がある場合は、「政党や政権の支持率」などのような感覚的で移ろいやすいものに頼るのではなく「第三者委員会」のような当該会社と利害関係のないメンバー構成の主体に判定が委ねられ、それに基づいて機関決定がなされるということが起きる訳です。
今回の櫻田さんの退任は、少し前に会社側から出てきた「経営陣の若返り」や、この記事に引用されている「ビッグモーターとの取引問題を踏まえ、経営体制を刷新して立て直しを急ぐ」などという曖昧なものではなく、②について資質を問われたことが背景にあると考えるのが普通です。これは彼に対する好き嫌いとか、ましてやつまらないルサンチマンのようなものによってではなく、「いま、この人が機関として与えられたポジションで機能しているかどうか」という一点において判断された、とシンプルに受け止められるべきことです。
参考に、昨年損保ジャパンの白川社長退任会見に関する記事に対して私が書いたコメント(2023年9月)を以下に再掲します。
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今回の事案に関しては、HDが株主だという理屈で責任回避するのはちょっと難しいという気がします。少数株主ではなく、ただの「親会社」でもなく、損保ジャパンの100%を持つ「保険持株会社」のHDが行なう「経営管理」業務の中には「報告が早く正確に行われる」状態を作ることも当然含まれる訳で、「早く知りたかった」という他人事のような言い方自体を任務懈怠の現れだと考えるのが規制当局の目線です。長時間の会見でおつかれだったのかも知れませんが、櫻田さんにしてはちょっと脇が甘いなというのが私の感想です。SOMPOホールディングスが公表した調査報告書の中で、下記の部分がホールディングスとしての責任(ガバナンス上の問題)なんだろうな、と思います。
https://www.sompo-hd.com/-/media/hd/files/news/2024/20240116_3.pdf
>SJにおいては、国内屈指のトップレベルの損保会社としての自負(損保事業は グループにおける正に祖業である。)や組織の沿革に加え、純粋持株会社制度の下 では親会社においてグループ全体の経営戦略、経営管理(及びリスクマネジメント) を担う一方、傘下の子会社は独立した事業体として運営が求められ(事業オーナー 制)、特に SJ が依然としてグループ内の中核事業会社であったことから、問題が 発生した場合でも SHD を当てにすることなく自己完結的に解決を図ろうという志 向が強かった。他方、SHD においても、SJ の「実力」を過信し又は遠慮するが故 にときに表層的な情報で満足して事実を深掘りせず、持株会社として果たすべき リスクマネジメントも甘くなりがちであったことは否めない。
以上が抜粋。
上記のようなことが今回は要因だったのでしょうが、自律的に動ける重要子会社に一定の裁量を与えることが悪いことでも無いと思います。それが悪いことなら、子会社化せず(ホールディングス化せず)一つの会社のままの方が運営が遥かにラクですから。
この辺りのバランスは難しいというか正解が無いのだから、この件を持ち出して『ホールディングスと言えど、ガバナンスを強化して子会社の内部に深く入り込むべき』みたいな論調になってしまうとしたら、ちょっと怖いね。本件については、トップの責任として、取るべきものはとるという判断だと思いますし、報道にある通り、全ての要職からも退くとのだとしたら櫻田さんならきっとそうされるであろうと思います。
しかしながら、櫻田さんの保険業界における存在感を目の当たりにさせてもらっていた者からすると、このような形で退くことになるのはなんとも悲しくもありますね。今後も何かしらの形で日本の経済界にポジティブなエネルギーをもたらしてほしいなと思います。