2024/1/17

ネガティブ感情を生む悩みは「TO DO」に転換して解決

ライター
不安定な感情を引き起こしているのは、脳の仕組みです。そう語るのは、精神科医の樺沢紫苑さんです。「感情リセット」後編では、具体的に脳がポジティブやネガティブな感情を引き起こす仕組みを解説。ネガティブ感情にとらわれないためのアウトプット術についても教えてもらいました。(第2回/全2回)
INDEX
  • 感情を生み出す7つの脳内物質
  • 朝散歩でセロトニンの分泌量を増やす
  • 就寝前はスマホを見ないでリラックス
  • リアルに人と会い、幸せホルモンを増やす
  • 悩みをTO DOに置き換える

感情を生み出す7つの脳内物質

精神科医の樺沢紫苑さんは、世の中の悩みの9割は「ネガティブな感情」が原因だといいます。しかもその悩みは、感情をコントロールする脳の仕組みを理解して、それを上手に働かせることで解決できるとも断言します。
樺沢「例えば、不安なときは脳内にノルアドレナリンが出ていますし、長期間、ストレスにさらされるとコルチゾールが分泌されます。幸福感を感じていたり、明るい気分のときはセロトニン、仕事で成功したときはドーパミン。強い達成感を味わっているときは、ドーパミンの何倍も強いエンドルフィンという幸福物質が分泌されています」
このように感情は、それに関連した脳内物質の分泌量によって左右されます。つまり、苦しい・つらいという感情を生み出す脳内物質を減らし、幸せ・楽しいと感じさせる脳内物質を増やすことで、悩みを解決することが可能になります。
樺沢「『苦しい』は、『楽しい』に変えられるということを、ぜひ知っておいていただきたいですね」
樺沢「感情をコントロールしたり、リセットしたりするというと、心をどうにかしようと考えがちです。しかし、心というのは、ふわっとしていて捉えどころがなく、具体的にどうしていいかわからなくなります。
それに対して、感情は脳内物質の影響だと理解していれば、脳内物質を増やしたり減らしたりするための具体的な対処法が見つけやすくなります」
感情リセットで、特に重要な脳内物質が、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンとオキシトシンです。これらをしっかり分泌させるには、睡眠と運動、朝の太陽の光、人とのコミュニケーションがポイントになってきます。

朝散歩でセロトニンの分泌量を増やす

幸福感をもたらす脳内物質をできるだけ多く分泌するには、継続的な習慣にして効果を高めていきます。
樺沢「もちろん、イライラするから今日は早く寝ようとか、気分転換に朝の散歩をしようなど、1回だけでもやらないよりは効果はあります。しかし、普段から落ち込み気味なときはセロトニンを分泌する神経そのものが弱っています。そうすると必然的に分泌されるセロトニンの量も少なくなってしまうのです。
睡眠や運動で、普段から心と体が整っていれば、セロトニン神経も元気なのでちょっとした刺激で大量のセロトニンを分泌しやすくなります。特に朝の散歩は、1カ月ほど続けるだけで、セロトニン神経が元気に。感情の起伏も減り、穏やかな気分でいられるようになるのが実感できると思います」
(イラスト: nadia_bormotova/iStock / Getty Images Plus)

就寝前はスマホを見ないでリラックス

朝の光を浴びながらの散歩と同じくらい大切なのが、就寝前の習慣です。
樺沢「いちばんいいのは、入浴後、少しボーッとしてからそのまま眠ること。寝る直前までテレビやゲーム、スマートフォンをするのは、眠りには悪影響なのでやめるようにしたいですね。
特にスマートフォンのブルーライトは、午前中の太陽の光と同じ波長で、脳を興奮状態にしてしまいます。脳はスマートフォンのブルーライトを浴びることで、朝と勘違いして活発に動きだしてしまうのです。最低でも、寝る30分前はデジタル機器をさわらないようにしたいですね」
ちなみに樺沢さんは、帰宅後はパソコンやスマートフォンはなるべくさわらないようにしているそう。家ではあまり余計なことをせず、入浴して寝支度を整えたらすぐにベッドへ。
樺沢「寝る前にデジタル機器にさわらないと、眠りの質も格段によくなるのを実感しています」
樺沢さんは、帰宅してからはパソコンやスマホをさわる時間をあまりもたないことで、良質な睡眠を確保
寝る前の習慣として、樺沢さんがもうひとつおすすめするのが「3行日記」です。寝る前の5分、3行だけ日記を書くだけなので、誰でもすぐに始めやすいでしょう。
今日一日を振り返り、楽しかったこと、よかったことを箇条書きでいいので3つあげて、日記に書くようにします。スマートフォンにメモをするのではなく、ノートに手書きすることがポイントです。手で書くことで、アウトプットの定着効果が高まります。
樺沢「よかったことだけを思い出して書き出すことで、『ああ、今日もいい一日だった』というよい気分のまま、眠りにつくことができます。理想は3行日記を書いたら、そのままベッドで寝てしまうこと。朝も幸せな気分で目が覚めるようになります」

リアルに人と会い、幸せホルモンを増やす

また、人とのコミュニケーションも幸せを感じさせてくれる重要な要素です。人と会話をすることで幸せホルモンのオキシトシンが分泌されますが、コミュニケーションの方法によってはうまくオキシトシンの効果が得られないこともあります。
樺沢「オキシトシンは人と会って、目を合わせたり、その表情を見たりすることで分泌しやすくなります。しかし、リモートワークのオンライン会議では、人の細かな表情まで読み取れず、せっかくのオキシトシンの癒やし効果が薄れてしまいます」
オキシトシンの効果をアップさせるには、リアルで人に会う機会を増やすこと。友だちと会う、家族との会話を増やす、ペットと触れ合うなどもおすすめです。
樺沢「寝る前に、家族と何げない会話を楽しむことで、オキシトシンの効果を高めて良質な眠りが得やすくするので、ぜひやってみてください」
(イラスト:nadia_bormotova/iStock / Getty Images Plus)
ただし、いずれも「スマホを見ながら」では、効果は失われてしまいます。目の前の相手に集中し、相手の目を見ながら会話を楽しむようにしましょう。幸せな感情が広がり、ネガティブな気持ちを打ち消してくれます。

悩みをTO DOに置き換える

ここまで感情リセットの具体的なハウツーを説明してきましたが、それでもネガティブな感情から逃れられないという人は、自分が心理的な視野狭窄(きょうさく)に陥っていることを自覚してみてください。
樺沢「心理的な視野狭窄とは、視野が狭くなって周りが見えなくなることです。一人で悩んでいると悪いほうにばかり視点が集中して、それ以外のことが考えられなくなりがちですよね。
しかし、そのネガティブな問題から少し距離を置いてみてください。自分の状況を鳥の目のように高いところから俯瞰して眺めてみると、マイナスだけでなく思いもしないプラスの考え方が見えてきたりします。それが悩みを解決する糸口になることも少なくありません」
また、自分一人だけで解決しようとしないことも大切です。人に話すだけでなく、本やインターネットを活用することも、狭く凝り固まっていた視野を広げることに役立ちます。
『人生うまくいく人の感情リセット術』(樺沢紫苑著・知的生き方文庫)
樺沢「ChatGPTを相手に、解決策を探してみてもいいと思います。ChatGPTはさまざまなデータの集合知。自分が思ってもいない考えやものの見方を教えてくれるツールです。そこで解決方法が見えてきたら、あとは行動に移していけばいい。
ネガティブな感情も、そうやって具体的な『TO DO』に置き換えてみましょう。そうすれば悩みがもはや悩みではなくなり、単なるタスクになります。タスクを消化することで、少しずつ前に進んで、悩みの停滞から抜け出すことができます」