2024/1/6

【初公表】妻をガンで亡くして思う「人生を幸せにする」大切さ

NewsPicks 副編集長
NewsPicks記者が2024年の超重要イシューを予見していく、年末年始特別連載「Editor’s Prediction」──。

今回は、大変私事ではあるのですが、記事タイトルに書いたように、2023年に妻との死別を経験した私がいま考えていること、伝えたいことについて書きます。

経済メディアのNewsPicksで、自分がこれから何に注力していくのか。結論から言えば、「ニューライフ」を大テーマにコンテンツづくりに励んでいきたい──という半分決意表明、半分メディア論という内容です。
INDEX
  • 山崎元さんの記事に込めた思い
  • 経済メディアで語る幸福論
  • マイノリティになること
  • がんから逃げていい

山崎元さんの記事に込めた思い

私にとって2023年は忘れられない年になりました。2月に妻のがんが判明し、わずか5カ月の闘病期間を経て、他界してしまったのです。
病名は「胆嚢がん」(広義に「胆道がん」や「胆管がん」とも言われます)。胆道がんは、膵臓がんと同じくらい治療法がない難治のがんで、これはもっと多くの人に伝えないといけないと痛感します。
妻の死について公表するのは今回の記事が初めてなのですが、闘病の詳しい話については別の機会で話したいと思っています。
さて、妻の闘病中だった2023年6月、私は、食道がんを公表し2024年1月1日に亡くなった経済評論家の山崎元さんにロングインタビューを行いました。
その内容は、2023年10月に5回にわたる記事として公開しました。
インタビューをしたのは2023年6月15日。
当時、「身近にがん患者がいる自分にしか聞けないこと・伝えないといけないことがある」という使命感に駆られる一方、「妻の闘病にも何か役立つことを言ってくれるだろう」という裏目的もありました。
山崎元さんとは、都内の事務所で約3時間みっちりインタビューしました。写真撮影を先に終わらせ、ライターも同席しない一対一の取材でした。
ですが、後日、私は妻の介護をしなければいけない状況になり、仕事を放り投げて休みに入りました。それでも山崎元さんの仕事だけは手放せず、ボールを持ったままでした。
記事化できたのは10月1日。実に3カ月以上も時間を取ってしまい、山崎元さんには非常に失礼なことをしてしまったのですが、その後、会ってあいさつする機会もあり、私の不義理を許していただきました。
会った後には珍しくこんなメールもいただきました。
こんばんは。山崎元です。先日は久しぶりに会えて少しほっとしました(なぜだろう?)。

また、いい記事を書いていただいて、あらためましてありがとうございます。
[2023/11/28]
私は「自分にしか書けないインタビュー記事を世の中に出さねば」という強烈なモチベーションで書き上げて、仕事に復帰することができ、いまこうして仕事ができています。
それもメールで伝えると、こんな返信をくださいました。
感謝に堪えません。いい本を作るべく努力します。[2023/11/29]
これが私宛てには最後のメールとなりました。山崎元さんには感謝するばかりですし、最後まで執筆活動も続けられていました。
改めて、心よりご冥福をお祈りいたします。

経済メディアで語る幸福論

どんな人も大切な人と死別すると、大きな価値観の変化があると思います。
私は記者になって早17年──。自分がこれからもジャーナリストとして生きていくにあたり、どういうコンテンツを作っていくのかについて考え方が大きく変わっています。
振り返ると、経済記者を志したのは、リーマンショックの時に派遣労働者たちが真っ先に雇用を失っていくさまを取材した経験をしたからです。
「経済や金融のことについて理解しないと、派遣切りの根本問題がわからない」という思いで、経済雑誌の門をたたきました。
そして、NewsPicksでは、雑誌での経験を生かしながら、「経済ニュースをおもしろく」「金融やお金のことをわかりやすく」をモットーに、「経済情報を民主化したい」気持ちでさまざまなコンテンツを作ってきました。
山崎元さんはまさに「経済情報を民主化している」稀有な人で、何度も取材させていただきました。
今もこの思いに変わりはないのですが、お金はあくまで「経済の潤滑油」で間接的に支えるもの。妻の闘病期間中もそれを痛感しました。
がん患者・家族の判断基準として急に出てくるのが「QOL(Quality of life)」です。治療や生活をしながら「生活(生命)の質」をいかに下げないか。QOLを軸に人生の判断をしていく連続です。
翻って、経済メディアを考えると、どうでしょうか。かつてこんなことを大先輩に言われました。
谷口くん、経済メディアと総合メディアの違いはわかる?
経済メディアは、損か得か(プラスかマイナスか)で、総合メディアは良いか悪いかで記事を書いてるんだよ。
この基準はかなり本質を突いています。ですが、これをさらに発展させて、これからの経済メディアは、損得だけでなく、QOLのようなさらに一歩引いた俯瞰的な視点が必要なのではないかと思っています。
QOLの「L」はライフ。人生であり命。その基本は、衣・食・住であり、お金は必要不可欠ですが、それらを支える潤滑油です。
損得を超えた、幸せも含めた価値観の変化。例えば、私は、ただお金を稼ぐことよりは、子どもを幸せにし、AI時代に食いっぱぐれない人にすることが生きる動機になっています。
衣・食・住の質をどう高められるか、お金がどう人々のライフをよりリッチに、幸せにできるのか。それを経済メディアとしてアプローチしていくのも面白そうだと今はワクワクしながら、考えています。
2023年11月に担当した特集『新「賃貸 vs 持ち家」2023』もそんな思いで作りました。

マイノリティになること

妻をがんで失い、私は4歳男児を育てるシングルファザー(シンパパ)になりました。
現在、全国のひとり親世帯の数は、厚生労働省推計で142万世帯。 その内訳は、シングルマザー(母子家庭)が123万世帯、シングルファザー(父子家庭)が19万世帯だそうです。一気に「マイノリティの穴」にすっぽりと入った感じです。
私の視点から見えてくる新世界は、こんなに変わるのかと驚きます。