2023/12/29

企業が向き合う「変革の2周目」に必要なこと

NewsPicks Brand Design
 企業の変革は今、あらたなフェーズに入っている。
 ビジネス環境が劇的に変わる中、小手先ではなく、ビジネスモデルや組織構造の抜本的な変革、すなわち「事業全体の変革」が求められる。
 それを後押しするのが、電通のBX(Business Transformation)支援ビジネスだ。同社は近年、顧客のBXの戦略から実装までを一気通貫で支援する事業にフォーカスしている。
 前回の記事では、企業変革、事業変革のパートナーを数多く担うようになってきた電通が、これまでどんな変化を遂げ、どんなユニークネスを持つに至ったかについて聞いた。
 そこでキーとなるのが、変革のコンセプトとアーキテクチャ(設計図)を描き、そこから社内でダイナミックな「運動」を起こすプランを創り出すこと。その一連のクリエーティビティだ。
 企業の変革が「結果を出す」フェーズに入った今、こうした強みを活かし、どのようにプロジェクトを推進しているのか。同社でBX事業を担う山原新悟氏渕暁彦氏に、具体をひも解いてもらった。
INDEX
  • プロジェクトの熱量を高め、“社内の人”が動きたくなる設計図を共創
  • 変革の“2周目”に求められているものとは
  • フォーメーションに決まった形はない

プロジェクトの熱量を高め、“社内の人”が動きたくなる設計図を共創

──企業が変革を推進するにあたり、カギとなるものは何ですか。
山原 BXは、事業全体を革新するものなので、セクションを越えたあらゆる人たちが同じ方向を向ける“旗印”が重要になります。
前回ご紹介しましたが、私たちは変革のコンセプトと、1枚のキーとなるアーキテクチャを、クライアントの経営陣、PJメンバーの方々と共創するプロセスから始めるケースが多くあります。
──そうしたキーコンセプトとアーキテクチャは、どう生み出されますか。
山原 多くの場合、クライアントとの共創セッションで生まれます。
 まず、経営者やキーマンの方々から課題や意見を出していただき、ディスカッションをしていく。
 私たちはファシリテーターを務めるのですが、単に聞いてまとめるのではなく、その場でコンセプトとなりそうなワードや、構造図の仮説を同時に出していきます。
 そこでは完成形に至りませんが、仮説を出してまた議論することで、どんどん形になっていく。
 参加メンバーの熱量を高めながら形にしていく、とてもダイナミックなプロセスなのです。
 そうやって「みんなで一緒に作ったもの」だからこそ、企業変革の動力源となり、BXをリードする。
  そして、このアーキテクチャをもとに、実際に変革が駆動するプランを創り、クライアントのプロジェクトメンバーと一緒に実行していく。その全てのプロセスにおいて、クリエーティビティがとても大切な要素になります。
──ここでいう、クリエーティビティとは?
山原 決して言葉や図の表現のことだけを言っているのではありません。課題の本質を捉え、網羅的でありながらシンプルに捉える。
 そして、それをさらに飛躍させることで、誰もが頭に浮かびやすく、ワクワクし、駆動力のある運動に繋いでいく。
 そのプロセスとアウトプットから、多くの“社内の人”を巻き込むダイナミズムが生まれるのです。
 我々が外部のアドバイザーとして提案するのではなく、共創型のセッションを通じてみなさんの合意をとりながら生み出すからこそ、企業の強みやユニークネスを核にしたものにできる。
 そうしたセッションを数多くのケースで手掛けてきたため、共創プロセスとアウトプットの方法にはかなりのノウハウと経験値がたまっています。
 これが、私たちの大きな強みであると自負しています。
 “社内の人たち”が動きたくなるには、何が必要なのか。変革を持続可能な運動にするにはどうすべきか。
 そういったことを常に考えながら、アーキテクチャの共創プロセスをご一緒して、明日から着手できる自走可能な運動に繋げていきたいと思っています。
──生まれたコンセプトとアーキテクチャを、実際にどう変革アクションに落とし込んでいくのですか?
 変革アクションの実装にあたって大事なポイントとなるのが「全体最適」の考え方だと思っています。
 実際、多くのクライアントから聞くのは「目覚ましい変革を、社内から起こすことがなかなかできない」「業界をひっくり返す変革は、いつも外からやってくる」といった声です。
 なぜ、社内から劇的な変革やイノベーションを起こせないのか。その理由の一つは、変革に必要なアクションの数々が、部門や組織の個別最適になっているからだと感じています。
 特に市場環境が大きく変化していく中では、全体最適の視点で個別課題を統合的に解決していかないと、変革にダイナミズムが生まれません。

変革の“2周目”に求められているものとは

山原 今、企業の経営者の方々と話していて、ある共通の課題が見えてきています。たとえば、以下のようなことがあります。
「ここ数年DXを進めてきて、効率化も仕事の進め方も進んだものの、結局本業の稼ぐ力があまり変わっていない」

「新規事業創出PJはいくつも立ち上げたが、広げすぎて競争力がないから畳んでいる」

「パーパスや目指すべき姿をつくったが、社員の行動や企業文化は変わっていかない」
 変革を進めてきた経営の方々が、“一周目”を終えて、あらたな壁に直面しているように感じます。
 変革を、効率化だけに終わらせず、その企業の強みを活かした事業の柱を生み出していく。
 一部の組織の動きに終わらせず、企業全体の文化を進化させていく。決して簡単ではないですが、全体的で本質的な変革が、より必要になってきていると思います。
 こうした経営者の課題に応えるために、我々は「Holistic Transformation Model」(以下図)という、サービスラインの体系を整備しています。
  これは「事業創造・変革」サイドと、組織人事やシステムの変革など「企業内部の変革」サイドの両方を相互に連関させながら、変革を推進するサービス体系です。
 事業創造・変革と、企業内部の変革、それぞれの施策を独立的にやるだけでは変革は道半ばに終わることも少なくありません。
 たとえば、新しい事業や価値が生まれないと、本当の意味で企業の文化は変わりません。反対に、会社が新しい事業を生み出し、大きな柱にするためには、既存事業に最適化された社内の組織、制度などあらゆる仕組みやシステムの進化が求められます。
 サイロ化しがちな組織間をつなぎながら、事業変革と企業内部の変革を両輪で進めることでこそ、全社の変革は大きく進みます。
 そんな思想に基づいた考え方とアプローチ、ノウハウ、ケースを集約したモデルを、「Holistic Transformation Model」としてまとめています。
 BXのご支援は、パーパスからスタートするときもあれば、マーケティング変革や、新規事業、DXの基盤づくり、あるいは事業全体の戦略策定から始まることもあります。
  どこから始めても良いのですが、きちんと機能させるには、他の領域とセットで変革する必要があります。
 その点、dentsu Japan(国内電通グループ)は、事業戦略、DX戦略、事業基盤の変革、顧客体験設計、販売促進やCRMに至るまで、各テーマに精通するグループのネットワークがあり、スペシャリティを持った人財を柔軟に組み合わせられる点も、変革の2周目に伴走できる強みなのです。

フォーメーションに決まった形はない

──具体的に、dentsu Japanのスペシャリストを組み合わせることで、どのような取り組みができていますか?
 たとえば自動車メーカーの車種開発プロセス変革にあたっては、ISID(電通国際情報サービス ※2024年1月1日より電通総研に社名変更)と連携しました。
 CADデータから、店舗体験や映像、雑誌記事のプロトタイプを直接起こし、バーチャルで購買体験をできるプロセスを再現することで、商品コンセプトの購入意思決定理由を特定するプロジェクトを行いました。
 ISIDチームの車種開発プロセスの専門知見や、XRソリューションがなければ、実施できなかった取組みだと言えます。
 ほかにも、データを活用したマーケティング変革においては、電通デジタルのエキスパートとチームを組んだり、新市場構想やそれにまつわる制度設計では、戦略コンサルティングファームのドリームインキュベータと協業するなど、多様な強みを持つスペシャリストとチーミングしながら、BXをドライブさせていくのです。
しかし、決まった“フォーメーション”はなく、クライアント業種や課題テーマに合わせてオーダーメイド的に組んでいきます。
──「Holistic Transformation Model」では、組織人事領域の変革も担うとあります。dentsu Japanはそういう領域も手掛けられることが増えているのでしょうか?
山原 かなり以前より、私たちは企業内部に対して、パーパスの浸透施策や、社内を活性化させ、エンゲージメントを高めるためのコミュニケーション施策などをご依頼いただくことが多くありました。
 さらにコミュニケーションだけでなく、中身である人事制度や組織設計そのものについてご相談頂くケースが増えてきました。
 dentsu Japanでは、この部分のケイパビリティと実績を多く保有しています。
 最近ではさらに「企業文化の進化」というテーマで経営陣の方々にご相談いただくことが増えています。
「企業文化」とは、とても概念的なものですし、何か一つのアクションで変わるものでもない。とても難しく、かつ重要なものです。
 たとえば、評価制度が、企業文化に与える影響はとても大きいですよね。
 評価制度を変えると、それをきちんと理解頂き、浸透させるための施策やコミュニケーションも必要になる。
 よりホリスティックなアプローチが重要になります。
 dentsu Japanでは、この領域のサービスラインを「HR for Growth」としてさらに体系化しています。
──一般的に、コンサルティングファームは、全体戦略がメイン業務であったり、伴走するにしても自社の得意領域に限るスタイルが多いのではないでしょうか?
 確かに、プロジェクトの熱量を高め、“社内の人”が動きたくなる設計図を共創し、ダイナミックな運動に繋いでいく。そして、その先の事業成長にコミットするスタイルは、稀有なのかもしれません。
 その根底には「クライアントが変わり続けることを、もう一人の主体者として支援したい」という、私たちの想いがあります。
 大事なのは、変革を起こし続けることで、新たな成長を生み出せるかどうか。そこには、私たちだからこそ生み出せる価値があると信じています。