2023/12/26

【最新】スタートアップ・ファイナンスの「最前線」がここにあった

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「資金調達をどうするか?」 

 それは、あらゆるスタートアップが悩む「ビッグイシュー」の一つ。これまで資金調達は一部のリソースを持つ者に限られていたが、様相が変化しつつある。

 2023年11月21日・22日に開催されたビジネスカンファレンス「START UP EVERYTIME」(1/31までアーカイブを無料配信中)では、その大きな問いのヒントを探るべく、スタートアップファイナンスの“新潮流”について議論した。
 本記事では当セッションのエッセンスを凝縮してお届けする。

※本記事はセッションの内容を再構成しています。実際のセッションの流れや発言とは一部異なる部分があります。
INDEX
  • エクイティは10年で、10倍に
  • 投資家ではなく、リードは自分たちでやる
  • デットファイナンスを成功させる「コツ」
  • 「情熱」と「ロジック」を使い分ける
  • UPSIDERとみずほによる「デットファンド」
  • デットで借りられると“確変”が起きる

エクイティは10年で、10倍に

宮城 今日のセッションでは、まず過去10年を振り返って、スタートアップの資金調達がどう変わってきたのか、その過程でゲストの皆さんがどう考え方をチューニングしてきたのかを伺いたいと思います。
東京大学卒業後、2014年にマッキンゼー・アンド・カンパニーへ新卒入社。東京支社・ロンドン支社にて、銀行オープンAPI等のデジタル戦略策定、手数料体系や店舗配置の最適化等、大手金融機関の全社変革プロジェクトに携わる。同領域への課題意識と知見・経験をもとに2018年、現 共同代表取締役の水野とともに株式会社UPSIDERを創業。「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」をミッションに、法人カード「UPSIDER」およびビジネスあと払いサービス「支払い.com」を提供。2023年には、AIチャット型業務ツール「UPSIDER Coworker」、大手金融機関とタッグを組んだベンチャーデットファンド「UPSIDER Capital」のリリースも発表。
堅田 10年前というと、私は前職でライフネット生命に在籍していました。入社したのが2008年だったので、ちょうどリーマンショックを目の当たりにした世代なんですよ。
学生時代にバングラデシュのNGOにおけるインターンシップを通じてマイクロファイナンスと出会う。大学卒業後はモルガン・スタンレー証券の投資銀行部門に入社。ヘッジファンドを経て、2008年にライフネット生命保険に入社。2014年、スマートニュースに入社しコーポレート部門の責任者として財務・経営管理・人事を担う。2019年、五常・アンド・カンパニーのCFOに就任。ビザスク及びテーブルチェック 社外取締役
 そこで感じたのは、ある日に世界はガラッと変わるということ。常に変化するので、資金調達の方法の正攻法はないんです。
 ただこの10年、スタートアップの資金調達の規模は右肩上がりで、数字を見ると2013年は約800億でしたが、直近のデータは約8000億。
 10年で約10倍です。スタートアップは主にエクイティファイナンスでベンチャーキャピタルから資金を集め、従業員にきちんとお給料を払えて、人材も集めやすくなり、さらに大きな資金調達をする……。
 という好循環が回り続けている感覚があります。皆さんはいかがですか?
八木 私も前職から投資銀行の立場でスタートアップを見てきましたが、堅田さんがおっしゃった好循環が生まれている印象です。
三菱UFJ銀行にて、商銀・信託・証券等のグループ総合取引や法人営業業務に6年従事。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資銀行本部にて上場・非上場企業のIPO、M&A等の投資銀行業務に従事。SaaSベンチャーで事業推進、ファイナンスを主導後、2020年12月からタイミーにジョイン。
 最近は資金力のある海外の機関投資家の影響も大きくて、彼らはワンショットでミニマムでも20億、大きいと50億は動かしてくれる。
 過去と比較すると、本当に大きな調達金額を目指せる環境が作られてきている感じがしますね。
古山 スタートアップに流れ込むお金が増えていて、面白くなっているのは私も間違いないと思います。
 ただし、それは世の中にお金が余っていて、エクイティのバリュエーション交渉も寛容だった時代。
1996年現みずほ銀行入行。国内大企業営業、経営企画、ニューヨーク支店勤務等の後、2018年からロンドン支店、みずほインターナショナル(みずほ証券英国現法)にて大手テックVC等をカバレッジ。現在は、みずほフィナンシャルグループ戦略室
 ベンチャーキャピタル側のコストも抑えられていて、それが好循環を後押ししていた部分もあると思います。
 その環境が変わってくると、いろんな資金調達のバリエーションを組み合わせながら、最適な手法を見極めることが大事だと思っています。

投資家ではなく、リードは自分たちでやる

宮城 皆さんが各々の立場でスタートアップの資金調達の現場を見てきて、ここ数年で、これまでの認識が覆されたり、あるいは危機に直面して考え方をアップデートしたタイミングはありますか?
八木 率直に言うと、実はあまりないんですよ。私は2020年にタイミーに入って、シリーズDラウンドでエクイティによる増資を実施して、昨年にデットファイナンスによる資金調達を実施しました。
 この数年で心がけてきたのは、我々がリードしているという視点を持つこと。
 これまでエクイティファイナンスは、リード投資家を決めて、彼らがフォロー投資家を呼んでくるような形が多かったと思います。
 でも、我々はシリーズDでもリードするのは自分たちだと思っていて、基本的に自社が主語になって、全部をマネジメントする。
 デットファイナンスも同じです。「リード投資家を決めるべき」という定説を完全に度外視して、発行体=会社としての理想を考えて動いていたと思います。
堅田 我々も、これまでは“ザ・リード投資家”と呼べる株主なしにやってきました。
 海外と比較すると、日本でずっと言われてきた課題は、リードを取れる気概やケイパビリティを持っている投資家が少ないことだったと思います。
 そこも含めて、我々も定説に縛られずに自由に発想していきたいなと。
宮城 海外だとリード投資家がアグレッシブで、成長計画に大きく踏み込んでくるほど影響力を持っている人もいらっしゃると思います。日本との状況の違いをどのように見ていますか?
古山 今はスタートアップとベンチャーキャピタルにとって、ゴールの置き所が変わってきているのではないかと考えています。
 要するに「このぐらいの規模で上場に辿り着こう」というマイルストーンの置き所を変えていく。
「このタイミングでIPOするのではなく、もう少し踏ん張って、2年後に5倍でいこうよ」といった腹を割った議論ができるスタートアップとリード投資家の関係ができてくると、日本の状況も変わってくるのではないかと思います。

デットファイナンスを成功させる「コツ」

宮城 昨年に続き、今年もタイミーは大型のデットファイナンスを成功させました。五常・アンド・カンパニーも、相当規模のデットファイナンスを繰り返しています。
 多くの成長軌道のスタートアップが金融機関に支えられていますよね。このトレンドにはどんな背景があるのでしょうか?
八木 金融機関に、スタートアップ向けの専門部署ができた影響が大きいですね。
 これまでは事業者の方々が前向きに頑張っても、審査担当がスタートアップ専門じゃないなどで、赤字の理由を読み解いてもらえなかったり、なかなか話が進まなかったりするケースが多かった。
 それが今は、融資を受けやすい環境がどんどん整っている。付け足すと、最近はエクイティが増えているので、皆さんどんどん財務体力を増している。
 そうなると、金融機関も安心できるのでデットファイナンスが出しやすくなる。そこも踏まえて、ここ1〜2年はエクイティ一本ではなく、戦略的にデットを検討する事業者が増えてきていますね。
堅田 一般的にスタートアップって将来の利益を獲得するために赤字を掘り続けるので、デットで銀行審査を通過するのが難しいですよね。
 でも、発想を変えれば借りられることもある。手前味噌ですが私がスマートニュースに在籍していた2015年のケースを紹介します。
 当時、ユーザー獲得のためマーケティング費用をデットファイナンスで、みずほ銀行さんから融資いただきました。
 そのときに、ユーザーの獲得単価のシナリオを提示して、それに対して向こう1年、2年、3年で入ってくるネットのキャッシュインフローを見積もった。
「この期間であれば収益がプラスになるし、ちゃんと回収できると言えますよね」と説明したんです。
 要するに、資金使途と回収の財源をしっかり見せていたんですよね。その後、SaaSなどのサブスク型のビジネスが盛り上がってきたことによって、さらにやりやすくなってきた。
 共通の指標があるので、スタートアップ側も、審査をする銀行の方々も、同じ言葉で対話できるようになってきましたよね。

「情熱」と「ロジック」を使い分ける

宮城 エクイティファイナンスがメインだった時期から、今、デットとエクイティを上手く組み合わせる方法がファイナンスのスタンダードに変わっているなかで、経営側はどんな意識を持つべきだと思いますか?
八木 キャッシュフローの流れを含めて、お金の流れと、ユニットエコノミクスを精緻に管理することでしょうか。
 そこは我々も徹底していて、キャッシュフローを全部語れるし、融資していただく相手と共通言語でしっかり話します。
堅田 エクイティファイナンスって、7割ぐらいが情熱で、残りの3割がロジックみたいな部分がある。
 一方でデットファイナンスは、7〜8割がロジックとファクトで、残り3割が情熱
 その大部分を占めてくるロジックやファクトで、小さな信用を積み重ねていくことがすごく重要。
 私たちも取引先の方々に対して、上手くいったときも、いかなかったときも、きちんと理由を説明して信用を積み重ねるようにしています。
古山 今後、スタートアップのファイナンスを次のレベルに成熟させていくためには、スタートアップ、投資家の方々、金融機関が三位一体でやらなければならない。
 全員で、デットとエクイティの適切なバランスを考えていける環境を作りたいですね。

UPSIDERとみずほによる「デットファンド」

宮城 まさに11月、UPSIDERはみずほフィナンシャルグループさんのお力添えでスタートアップ向けのデットファンド「UPSIDER BLUE DREAM Fund」という新しい事業を立ち上げたばかり。
 古山さんが語られた三位一体というキーワードに関連してくると思いますが、改めてこの取り組みが始まった背景をご紹介ください。
古山 そうですね。これは、グロースステージの企業に、デットファイナンスを便利に使ってもらうサービスです。
「便利であること」が大事なポイントで、アレコレと面倒くさい資料の提出を避けて、スムーズにご利用いただける環境を整えています。
 今、軍資金があればブレークイーブンや、クリティカルマスを越えられるという勝負ポイントを迎えている方々の、背中を押すスキームにしたいなと。
宮城 実際にデットファイナンスに踏み切っても、努力が報われない時期もあるかもしれません。そこを乗り越えるためのさじ加減の目安、あるいは注意点はありますか?
八木 初期のエクイティラウンドで、ビジネスとしてスケールフェーズに入っていない段階だと、さすがにデットは結構きついと思っています。
 ただ、日本政策金融公庫さんや、国の補助などを含めて、創業フェーズ向けのいろんな制度を利用して調達するのは問題ありません。
 先ほどの話に戻りますが、デットに関しては、資金使途やお金の流れの可視化が大切。
 我々も情報の非対称をなくし、日次レベルでキャッシュフローを全部開示したことで、デットによる融資ができました。
堅田 融資を出していただく銀行の方からすると、1億円の融資を出すのと、5億や10億を出すのと、おそらく内部的なコストは大きく変わらない気がするんですよね。
 であれば、やるんだったら大きくやりたいという思いは、双方が持っているのではないかと思います。
 一方で、やはり何もない所から、いきなりそれを目指すのは非常に難易度が高い。我々も、まずは5000万円ぐらいを地銀から借りていますし、例えるなら、最初は家に上がっていただいて、お茶を出して、打ち解けるところから始めています。
 信頼関係を築く一歩目においては、あまり金額にこだわらずに、相手の提案を受け入れてもいいのかなと。

デットで借りられると“確変”が起きる

宮城 なるほど。UPSIDERでもデットファイナンスの経験があるので、少しだけご紹介すると、私たちは去年から借り入れがしっかりできるようになりました。
 一定の金額に行くまでに苦労したのですが、株主から「エクイティは金額が大きくなればなるほど難しくなる」「一方でデットは金額が大きくなって安定すればするほど、出し手が増えていく」という話を聞きました。
 そして、デットには信頼の積み上げが大事で、まずは人を雇って専門のチーム作りを優先するべきだと。そのアドバイスに助けられた実感がありますね。
堅田 デットって、途中で一気に“確変”が来るんですよ。「貸せるようになりました!」と、急にいろんな銀行の方から連絡が来て、ステージが変わる感覚がありますよね?
八木 「ウチもウチも!」みたいな感じで、一気に来ますよね。トリガーが引かれると逆転するみたいな事象は起きます。
古山 今回、UPSIDERさんと一緒にやらせていただく「UPSIDER BLUE DREAM Fund」は、キャッシュフローを見せていただき、それに基づいて審査します。
 リアルタイムで情報交換させていただくので、融資の手続きも早い。なるべく早い段階で、我々が“確変”を起こす最初の人になりたいなと思っています。
堅田 ファイナンスの世界に生きている者としては、選択肢が増えるという点はものすごく歓迎したい。
 そして今後もどんどん選択肢が増えていきそうな予感がしています。
  会社側の人間としては、血眼になって新しい選択肢を探していきたいですし、金融機関の方々とディスカッションすることで次の新しいスタンダードが生まれてくるのではないかと思います。
八木 「UPSIDER BLUE DREAM Fund」はみずほ銀行とUPSIDERが総額100億円の出資を行ったと聞いたので、今日、100億円借りてもいいですか?
古山 もうちょっと分散していただけますかね(笑)
 私たちとしては、日本の伝統的な企業、貴重な技術を持っている企業が、壁を越えてどんどん世界につながってほしいと考えています。
 そのために金融機関としてできることは、全部やらせていただきたいなと思っています。