2024/1/8

【レポート】AIは製造業をどう変える?「ネオ製造業」の姿とは

NewsPicks Re:gion 編集長
 世界的なEVシフト、AIをはじめとした先進テクノロジーの台頭、それに伴う製造工程のDXなど、製造業を取り巻く環境は大きな変化を迎えている。製造業変革の第一線を走るネクストユニコーン2社は、これからの製造業の姿をどのように捉えているのか?
 NewsPicks Re:gion は9月、東海エリアで初となる都市型カンファレンス「Re:Central 2023」を開催。そのオープニングにおいて、組立系製造業のメッカとして日本の産業をリードしてきた東海エリアにおいて、いかに製造業を進化させるかの議論が交わされた。セッションの内容をダイジェストでお届けする。

「自動化」が製造業の前提となる

──AIの台頭により、製造業が大きな環境変化を迎えつつあります。本セッションでは、製造業変革のトップランナーであり、ネクストユニコーンと目される2社の対話を通じて、これからの製造業の姿を捉えたいと思います。
滝野 Mujinの滝野です。AI技術の一種であり独自開発した機械知能を活用して、産業用ロボットの知能化を叶える知能ロボットコントローラ「Mujinコントローラ」を開発し、それを軸としたビジネスを展開しています。
 製造業を中心に産業用ロボットのニーズは高まっていますが、メーカーごとにOSが異なるうえ、扱う対象物や周辺状況が変動するような場面では導入が難しいという課題があります。
 Mujinコントローラはあらゆる産業用ロボットの“知能化”を可能にし、これまで人力で行わざるを得なかった物流・製造現場における様々な作業を自動化するソリューションを提供しています。
新海 ティアフォーの新海です。私たちは2015年設立の名古屋大学発ベンチャーです。創業者の加藤真平が名古屋大学准教授時代に開発した自動運転ソフトウェアをオープンソースとして公開し、自動運転の社会実装を進めています。
 このソフトウェアではいろんなものを走らせることができます。例えば、長野県塩尻市でEVバスの走行実験を行っているほか、タクシー型、配送ロボ型、レースカーなどを走らせることも可能です。
 単純に自動運転車をつくるだけでなく、危険な場所で働く、時間を問わず働くといった人間が苦手なチュエーションでも、われわれの技術を使っていただけるよう取り組んでいるところです。
──トークテーマの1つ目は「AIは製造業の前提をどう変えるか」。まさに製造業のど真ん中で変革に取り組んでいる滝野さんから、いかがでしょうか。
滝野 AIのようなテクノロジーを使って、製造業をはじめとする多くの企業がDXに取り組んでいます。では皆さん、DXで一体何をしようとしているのでしょうか?
 結局のところ、ほとんどのトランスフォーメーションの本質は「自動化」、これに尽きると私は考えています。つまり、人間が培ったノウハウをデジタルに置き換えて、機械に行わせるということです。
 海外のお客様との取引をする中で感じていることがあります。コロナ禍で日本が鎖国していた3年間、一番変わったのは中国とアメリカです。
 特に中国の工場は非常に自動化が進んでいます。それなのに彼らは「日本はもっと自動化が進んでいるんでしょ? 俺たちまだまだなんだよ」と言っている。日本ではおそらく中国の半分も自動化されていないのに、です。
 皆さんもご存じと思いますが、いま中国では街中がEV車だらけです。しかも走っている車の半分以上が聞いたことのないメーカーのもので、価格は250万円ぐらい。これは徹底的な自動化の為せる技です。
 対して日本はどうでしょう? 日本企業の人に「御社の強みは?」と聞くと「習熟した熟練の職人がいること」と答えます。確かに日本のものづくりの技術は素晴らしい。ただ、それを自動化できてるかという話題になると、途端に口をつぐんでしまう。
 日本は人口減少フェーズに入っており、労働人口は減っていきます。自動化によって人の余力を生み出し、人でなければいけないところにリソースを割けるようにならなければ、これからの日本はまずいことになる。
 一方で海外には、日本のように熟練の職人がいません。そして人件費はどんどん高くなっている。いまアメリカの人件費は日本の約3倍です。つまり自動化にかけるコストに対するリターンが大きいがゆえに、アメリカや中国は自動化をスピーディーに進めることができていると言えます。
新海 「自動化」が製造業の進化のカギになる、という滝野さんのお話に共感します。まさに私たちが提供しているソフトウェアは「移動の自動化」を目的として、人の運転ノウハウを自動化するためのものです。
ティアフォーはヤマハ発動機さんと合弁会社を設立し、2022年11月から自動搬送サービスを展開しています。自動運転EVを使って工場や倉庫などでの荷物の建物間移動、AラインからBラインへの移動、夜間の移動を可能にしています。
 自動運転のソリューションを工場に導入することによって、何が起こるでしょうか。仕事が早く効率的になる、楽になるだけではありません。長年積み上げてきた業務プロセスを見直し、作業工程や人員配置をより最適な形に変革していくことが必要になり、これが大きなインパクトにつながるのです。
 業務を変革しようとすると、組織の縦割りに阻まれたり、作業の連結性を抜本的に再考しなければならなかったりと難しい場面が出てきます。しかし、自動運転を導入するならば、やりきる必要がある。それによって組織の壁を超えたコミュニケーションが活発になり、社内改革につながる場面をいくつも見てきました。
 つまり、自動化のメリットは、単純に「便利になる」だけではありません。それは業務変革であり、組織変革であり、経営変革でもある──つまり本質的なDXだと考えています。

トップがコミットして全部任せることが重要

──次のテーマ「協業できるパートナー事業会社の共通点とは」です。製造業変革を支援するユニコーン企業から見て、協業しやすいパートナー、そうでないパートナーを教えてください。
滝野 Mujinの仕事は大きく2つあります。1つ目は生産・物流の自動化。もう1つはコンサルティングです。
 コンサルの仕事では、経営者から直接ご依頼をいただいて現場に入り込み、データを分析した上で現在のやり方が最適なのか、自動化の余地はないのかを調査してレポートをご提出します。
 完全な自動化が適しているのか、一部だけすればいいのかなどROIまで計算してご提案します。その上で、直接依頼したいとご希望がある場合は、対応も可能です。
 協業しやすいのは、コンサルの結果、弊社で自動化すると決まったら一旦すべてを任せてくださる会社様です。
 逆に、「既存のやり方に合うようにしてほしい」という条件があったり、社内だけでしか通用しないレガシーシステムに合わせて仕組みをカスタマイズするとなると、余計なコストや時間がかかって、自動化のスピードが落ちてしまいます。
 また、製造業においては現場が大きな力を持っていますが、それゆえ往々にして現場の実態が経営陣から見えづらいという構造があります。
 それを乗り越えるためにも、経営トップが改革の意識を強く持ち、初めは小さな範囲でも構わないので、自動化をするとなったら私たちに任せてもらえるのが理想です。わずか半年で現場を劇的に変えることもできます。
新海 ティアフォーの特徴はソフトウェアがオープンソースであることなので、その点に共感いただける会社であることが協業の大前提になります。オープンソースの肝はソフトウェアの内容を公開して、無償で誰でも使えることにありますから、今の段階から「技術を囲い込みたい」という企業とは相性がよくないのです。
 自動運転技術の進歩は社会にとって必ずメリットがあるものです。車が人や物を認識して、動く・止まるといった判断をする技術はオープンにして、そのうえで新しい事業を作っていこう、という社会的使命感のもとにビジネスを展開しています。
 この点に共感をいただいた上で協業できれば、市場ができたときにいち早く独自の事業を差し込みにいくことができるはずです。そのための準備段階としてわれわれとの協業をお考えいただければと思います。

時代の変化、業界や技術の変化をいかに取り込めるか

──最後のテーマです。自動化という前提の先に、グローバルな製造業の競争環境はどのように変化するでしょうか?
新海 本日の会場がある東海エリアは自動車産業が盛んです。日本がEVシフトに苦戦していることから日本の自動車産業は競争力を維持できるのかといった議論はあるかと思いますが、自動車産業がいまも日本の基幹産業であることは間違いないと思います。
 ただ、時代はものすごいスピードで劇的に変わりつつあります。私たちがやるべきことは、いまの日本のものづくりに自信を持ちながらも、時代の変化、業界や技術の変化をいかに取り込んでいくかではないでしょうか。
 そのためにも、われわれのようなスタートアップと呼ばれる若い会社とのパートナー連携を進めていただければと思っています。
滝野 これからどんな企業が競争力を持ちうるのか、企業価値の変遷から考えるとわかりやすいんじゃないでしょうか。
 一昔前まではハイバリューコンポーネントを持っている会社に価値がありました。時代は移り変わり、企業価値の高い会社にも変化がありました。いまはIBM、マイクロソフト、アップルなどがその代表でしょう。
 こうした会社が売っているのは「コンポーネント」ではありません。コンポーネントをまとめ上げていかに価値を出すかという「ソリューション」を売っています。
 ソリューションに重きが置かれるようになると、コンポーネントは必ずしも世界最高である必要はなくなります。価格を抑えるためにハードの標準化が求められます。ハードの標準化のためには自動化が不可欠です。
 これからのグローバルの競争で欠かせないのはソリューションであり、自動化です。昔、日本の自動車産業はアメリカに追いつけ追い越せとばかりに変革をくり返して効率的な生産方法を編み出し、気がついたらアメリカを追い抜いていました。
 いまの日本は、当時のアメリカの立場に立たされています。デジタル化しないことにこだわりを持ち過ぎた結果、自動化で中国に追い抜かれてしまった。コロナ禍で外に出なくなり、世界の実情が見えなくなったこともその一因でしょう。それを謙虚に認めて、われわれはもっと焦るべきではないでしょうか。

中国に追いつき、勝とうという気はあるか

──最後に、日本の製造業が“ネオ製造業”に進化するために必要なことは何でしょうか?
新海 これからソフトウェア・ディファインド・ビークル(ソフトウェア定義車)が普及するにしても、日本の自動車産業のものづくりが負けるはずがないと思っています。なぜなら、ハードウェアがあってこそ、ソフトウェアの可能性は引き出されるからです。ティアフォーの事業を通して、日々そのことを実感しています。
 ハードウェアを製造する皆さんには、これまで積み上げてきた守るべき事業がありますから、まったく新しい世界に踏み出すのはいろいろなリスクが伴うでしょう。だからこそ、スタートアップとの協業をぜひ考えてみてほしいと思います。
 われわれスタートアップはリスクを取ってチャレンジし、そこから得たノウハウはしっかり社会に還元していこうと考えています。一緒に新しい価値創造に取り組み、ともに社会的責任を果たしていきましょう。
滝野 世界の生産・物流のトレンドは「専用機+固定設備」から「非固定設備+汎用機」に移行しつつあります。非固定設備汎用機でラインをつくり、フレキシブルに回していくんです。
 ただ、何にでも使える汎用機を使うためには、どんな作業をするかを決め、そのとおりに動かしていくソフトウェアが必ず必要になります。そのためにはプログラミングも必要ですし、そのプラグラミングをスピーディーにするための自動化のシステムも必要になる。
 このソフトウェアをつくるのは大変ですが、利点もあります。それは、一度完成すれば短時間でコピーできるということです。
 これからはハードをなるべく簡単な汎用機にして、ソフトで組み合わせて回す、そんな時代になっていくでしょう。そうなると何が起こるか。生産と物流の一体化です。
 これまでは生産部と物流部は違う部署でしたが、自動化が進めば進むほど、製造業の入口から出口までを一体化しないと多品種・少量生産には耐えきれません。EVがいい例ですが、製造業は多品種・少量生産でないと、これからは世界の市場で太刀打ちできないからです。それをものすごい勢いでやっているのが中国です。
 中国が体現する「ネオ製造業」に追いつき、勝とうというやる気が私たちにあるか。それがいま試されています。
 日本には蓄積された知見がありますから、私たちMujinはそれをソフトウェアでつなげて日本の勝ち筋にしていきたいと思います。