2024/1/8

【レポート】“地域発”グローバルスタートアップが捉える機会とは

NewsPicks Re:gion 編集長
「スタートアップ都市宣言」から10年が過ぎ、IPO企業が出現した福岡市。
 全国でも先進的な福岡のスタートアップ・エコシステムは、立ち上げ期を経て“第二周期”に突入した。地域全体が一段上のステージに引き上がっていくために、次の10年をどう捉えていくべきか。
 本記事では、福岡地域戦略推進協議会 事務局長の石丸修平氏をモデレーターに、福岡スタートアップ都市宣言後の第一号として上場したヌーラボ代表の橋本正徳氏と、北九州での実証を推進するTBM常務執行役員CSOの山口太一氏が、地域におけるスタートアップ環境の変遷とグローバル進出の可能性について議論した内容をお届けする。
※2023年8月に福岡市で開催されたビジネスカンファレンス『NewEra, NewCity 2023』のオープニングセッションです。

10年で認知されたスタートアップ都市・福岡

石丸 2012年に福岡市がスタートアップ都市宣言をして10年が経ちました。福岡で2004年にヌーラボを創業された橋本さんは、この10年の変化をどう捉えていますか?
橋本 ビジネス環境はガラリと変わりましたね。10年前はスタートアップという言葉自体、福岡で聞く機会がほとんどなかったのですが、スタートアップ都市宣言を契機にいろんな規制が緩和されて、いろんな企業が集まってきました。
 10年前はVCも少なかったけれど、今は福岡スタートアップが注目されるようになり、2022年の資金調達額が353億円まで増加したのは大きな変化。
 規制緩和と資金調達、創業支援などにより、天神・大名という局所的なエリアに活気が生まれた10年だったと思います。
石丸 2022年の資金調達額は東京に次いで2位でした。2012年が約2億円なので、経済基盤としても大きく成長したと言えると思います。東京を拠点にビジネスをされている山口さんからは、福岡市はどのように見えていますか?
山口 TBM社では環境を配慮した新素材の開発や資源循環を促進する事業を展開しているのですが、この事業を推進する上で連携先として必ず名前が挙がるのが福岡市でした。
 ライドシェアや傘のシェアリングの実証や実装など、スタートアップによる新しい取り組みに全国でいち早く取り掛かった都市が福岡市。縁があればコラボしたいと思っていました。

地域の優位性をグローバルでの競争力に

石丸 この10年で福岡市はスタートアップ都市として認知されるようになりましたが、次の10年を考えるとグローバル展開は無視できません。地域で生まれたスタートアップがグローバルで戦うにあたり、地域の優位性をどう捉えるかお聞きしたいと思います。
 山口さんは北九州市との実証実験を展開されていますが、具体的にどのように地域の優位性を活かしているかを教えてください。
山口 企業のCO2排出量を見える化するクラウドツールを展開するときに、ゼロカーボンシティ宣言をされている北九州のスタートアップ支援プログラムに応募しました。
 具体的には、北九州市立大学に付与したツールのアカウントを学生が活用して、北九州市内の企業が排出しているCO2量を算定し、何をすべきか提言する官民学連携の取り組みです。
 目指しているのは、地域の企業や行政、市民と連携し、地域で循環している仕組みを海外に持っていくこと。サービスや商品を単体で売るのではなく、ゼロカーボンやサステナビリティ、SDGsなどを実装したい都市に対して、北九州市で循環している仕組みを提案します。
石丸 なるほど、地域が連携して生み出している新しい時代の価値を仕組み化し、グローバル展開する。
 街に資するソリューションや技術を実装し、理想の街づくりをしていくと、それはグローバルでの競争力になりそうです。地域の優位性について橋本さんはどう考えますか?
橋本 福岡市の優位性でよく言われるのは、アジアに近いこと。でも僕は福岡市の熱しやすい市民性に可能性があるのではないかと思うんです。
 失敗を恐れず、自分たちが正しいと思うものを信じて世界に出たら成功するような、良い意味での“能天気さ”が福岡市にはあると思っていて。この地域性はグローバルで戦う際の優位性になるのではないでしょうか。

ビジネスは、最初から世界を視野に入れる

石丸 ヌーラボ社は福岡発グローバルスタートアップとして活躍されていますが、グローバルでのビジネス状況はいかがでしょうか?
橋本 単価の安い製品だからグローバルで売り上げを立てていくのは大変だと痛感しています。日本人と世界の人が一緒に働く環境づくりは難しく、コツコツやっているところです。
石丸 TBM社はどのように事業をグローバル展開されていますか?
山口 海外営業は東京から行っていますが、中国やインド、マレーシア、ベトナムなどのアジア圏には商談・販売する現地の人材を配置しています。
 ただ、海外ではプラスチックや紙の代替製品となる新素材・LIMEXがほとんど知られていないので、ゼロから丁寧に説明する必要があって時間はかかりますね。
 フラッグシップとなるような事例が生まれると流れが変わり始めますが、海外で一から事業展開しようとすると忍耐強さは必要です。
石丸 ソリューションにもよるかと思いますが、日本のスタートアップはどのようなタイミングで世界に進出するのが良いと思いますか?
橋本 我々のようなソフトウェアの会社は、最初からグローバルに対応できる製品づくりをするのが大切です。日本のソフトウェアは独特なので、日本でのマーケットフィットを図りすぎると、海外ではあまりうまくいかない。
 だから、グローバルの視点で製品を開発し、それを日本やアメリカ、ヨーロッパなど各国に対応させていくことを考える必要があります。
山口 TBMも同じで、創業時から海外市場は視野に入れていました。というのも、当時は日本でサステナビリティやSDGsという言葉がほぼ知られていない頃で、海外の方が圧倒的に反応は良かったから。
 ただ、各国で求められるものは違うから、価格や環境性能はローカルごとにアレンジしています。
石丸 福岡という地域がどう成長すれば、福岡スタートアップがグローバルに進出しやすくなると思いますか?
橋本 世界から見ると日本はかなり特殊な国で、ダイバーシティがあるように見えて、ほぼ同じ思想を持つ同じような人たちが集まっていますよね。その土壌からグローバルに行くには、かなりジャンプが必要。
 福岡市がもっと多国籍な街になり、身を置いている環境そのものがグローバルになれば、風向きが変わるかもしれません。
石丸 街づくりの観点と、グローバルなコミュニティやネットワークと接続する観点の両方が必要で、グローバルと接続するだけでなくちゃんと活動できるようにしないといけないですね。
橋本 知り合いが増えるだけでは動けませんから。

北九州市の巨人と共創し、スタートアップも世界へ

石丸 スタートアップ都市・福岡はこれから第二周期に突入します。これからの10年で、福岡に期待したいことを教えてください。
山口 スタートアップが単独で海外に進出しても大きなインパクトにはなりません。弊社の場合、素材を作ってリサイクルの仕組みを構築し、そこにデジタルやAI技術などいろんなテクノロジーを組み合わせ、地域のインフラや行政と連携し、海外に展開しています。
 同じように、福岡スタートアップも、自分たちのサービスが複数地域を跨いで使われている、いろんな事業会社や行政、金融機関と連携している実績を作れたら、それは海外進出の鍵になるはず。
 だから幅広くスタートアップを受け入れる土壌を作っていただけると嬉しいです。
橋本 海外に視察に行くと、その都市のビジョンを実現させるための仕組みとして複数プレイヤーが共創しているケースが多く、腹落ち感があるんですよね。
 ただ、福岡のスタートアップはまだまだ“カオス”な環境に身を置いて、もっと熱狂した方がいいと思います。
 それから、市ではなく県で見ると、隣の北九州市には歴史のあるグローバルなものづくり企業がたくさんありますよね。だから、福岡市のスタートアップは北九州市の巨人の肩に乗って、自分たちの製品を海外に流通させられるようになれば、もっと面白い地域になると思っています。
山口 まさに、海外での認知や販売力、拠点を持つ北九州市のグローバルなものづくり企業とコラボすれば、福岡スタートアップの海外展開の時間短縮にもつながりますね。
石丸 共に成長するパートナーを広域で捉え、海外コミュニティや大手企業との接続を作りながら、ミドルやレイターの成長企業を増やしていく。多様な担い手やスタートアップの多様な出口を作るためにも、地域ぐるみで今後の10年を考えていきたいです。