2023/12/26
日本の技術で世界に切り込む、ディープなスタートアップの今
日本のスタートアップ・エコシステムは、この10年で確かに成長してきた。しかし、諸外国との差は広がるばかり。なぜか。
そんな問いを巡りながら、日本ならではの希望と勝ち筋を探る、NewsPicks主催のカンファレンス
『START UP EVERYTIME』が開催された。
カンファレンスの反響を受け、すべてのステークホルダーのリテラシーを上げる大型連載、題して「〝スタエコ〟の論点──日本のスタートアップ・エコシステムの論点」をお届けする。
ユニコーン企業を生み出し、研究者をヒーローにする
2022年11月に日本政府により策定された「スタートアップ育成5か年計画」。この計画を受けて、ディープテック・スタートアップ支援事業が始まった。巨額の資金がディープテック領域へ流れるようになり、多くのスタートアップが誕生している。Beyond Next Ventures代表の伊藤毅氏はこのような状況になる前、2008年からディープテック領域への投資に携わってきた。今回はそんな彼にベンチャーキャピタルの視点からみるディープテック・スタートアップエコシステムの現状を聞いた。
── 会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。
伊藤 起業以前は、JAFCOというベンチャーキャピタルに勤めていました。
JAFCOで人事異動があり、そこで初めて大学発ベンチャーへの投資に関わるようになりました。その当時ディープテックという言葉はなくて、大学発ベンチャーという言い方をしていたんです。そこから15年間ずっとこの領域に関わっています。
2003年4月にジャフコ(現ジャフコグループ)に入社。Spiberやサイバーダインをはじめとする多数の大学発技術シーズの事業化支援・投資活動をリード。2014年8月、研究成果の商業化によりアカデミアに資金が循環する社会の実現のため、Beyond Next Venturesを創業。創業初期からの資金提供に加え、成長を底上げするエコシステムの構築に従事。出資先の複数の社外取締役および名古屋大学客員准教授・広島大学客員教授を兼務。内閣府・各省庁のスタートアップ関連委員メンバーや審査員等を歴任。東京工業大学大学院 理工学研究科化学工学専攻修了
大学発ベンチャーと関わるようになり、中には成功する企業も出てきました。Spiberやサイバーダイン、マイクロ波化学などはその代表格です。そういった企業と接する中で大学発・ディープテック領域のリードインベスターとして多くの経験を積むことができました。
しかし、実際のところ成功する企業はとても少なかった。その当時、大学発ベンチャーは、革新性の高い技術があるにもかかわらず、ベンチャーキャピタルの投資対象としては挑戦的な存在でした。
引退間際の大学教授が起業するも、ガバナンスが利かずうまくいかないとか、研究自体はポテンシャルがあったのに経営者がいないために事業として成り立たなかったとか、そういったことが多くあったんです。
アカデミアには非常に有望な研究がある。それなのにお金がない、経営人材がいない、大学による事業化支援もない。
こういったエコシステムの課題を解決しようと思い、9年前にBeyond Next Venturesを立ち上げました。今もずっとこのコンセプトにそって事業を続けています。
── 具体的には、どのような事業ですか?
私たちが特に力を入れているのは、シード期への投資です。
一般的なVCはディープテック領域においてシード期、つまり起業し始めの段階から投資することはありません。研究が本当に事業に結びつくのかわからない、利益を回収するまでにどれだけの時間がかかるのかわからない、そういった背景があるためです。
しかし、このようにシード期への投資が不十分な状況が続けば、ポテンシャルのある研究も潰れてしまう可能性があります。そこで我々は、シード期からしっかり投資できるように、55億円という当時(2015年)としては異例のサイズの1号ファンドを設立し、立ち上げ期から長期にわたって伴走する体制を整えました。
1号ファンドの運用がうまくいっていることもあり、ファンドは拡大を続けており、2号ファンドは165億、2023年3月に設立した3号ファンドは最大250億円規模を目指しています。
もう一つ重要な事業として、研究者と経営者のマッチングを始めました。
VCでありながら人材紹介業のライセンスをとり、経営人材を出資先企業に供給できるようにしたんです。
というのも、ディープテックはBtoB事業が多いため、技術に加えて産業界についても理解がある経営人材が必要です。そういった経験豊富な経営人材を見つけてきて研究者とつなげてあげる”架け橋”が必要でした。
そこで、ディープテック特化では国内最大規模のアクセラレーションプログラム「BRAVE」の中で、事業化を目指す研究者と、別プログラム「INNOVATION LEADERS PROGRAM」から募った経営や起業への志向が高いビジネスパーソンをマッチングして、スタートアップの創業チームを作り、共に事業化に挑む機会を提供しています。
── シード期からの投資に加えて経営者とのマッチングまで、お金儲けというより社会貢献ですね。
そう思われてもおかしくないですね(笑)。でも私たちがやってきたことは10年後、20年後に必要になると確信しています。いつか誰かがやらないといけないことを、私たちがたまたまやった、という理解です。
徐々にエコシステムも変わってきて、最近は大学が事業化支援に積極的に取り組むようになったり、政府による巨額の資金支援などにより、私たちの役割は必要なくなりつつあります。
少しずつエコシステムが充実してきたこともあり、シード期から我々が手厚く支援せずとも自然にディープテック・スタートアップが生まれてくるようになりました。
── そうなると投資の仕方も変わってきますか?
おっしゃる通りです。先ほど少し触れましたが3号ファンドについては最大250億円集まる予定です。このファンドでは、少数の企業に対し集中的に投資していこうと考えています。
自然発生的にディープテック・スタートアップが誕生するようになったいま、シード期の企業をこれまでのようにサポートする必要はなくなりました。一方で、ファンドサイズが大きくなったことでそれに見合ったリターンを考えなくてはならず、ユニコーン企業を作る必要が出てきました。
結果として、少額の初回投資をして育成していくやり方から、厳選した中規模の企業への多額投資へと変わりました。いわゆる一般的なVC的投資になってきたということです。
2号ファンドでは165億円を52社に投資していましたが、3号ファンドでは最大250億円を20〜25社に投資しようと考えています。
正直、私たちだけがこのような投資をしてもユニコーン企業を作ることはできません。工場を一つ建てるのに数百億円かかってしまう、そんな世界です。
私たちに続いて、他社さんも1社あたりの投資額を増やしていくような形になればいいなと思っています。
── ユニコーンを生み出すという点では、優秀な経営人材と出会えるかどうかも重要ですよね。
そうですね。我々も手探りでやっていますが、マッチングから始めて、ユニコーン企業を作り出すのは正直大変だなと思います。
一番うまくいくケースは元同僚や同級生といった、すでに時間をかけて築かれた信頼があるパターンです。さらに、そもそも日本には優秀な経営経験者が少ないという課題もあります。
なので、実は私たちの「INNOVATION LEADERS PROGRAM」は、研究者とマッチングするだけでなく、創業期における事業経営の実務経験を提供することで、優秀な経営人材を生み出す、という目的もあるんです。
経営者候補の方が一度起業して、失敗したとしても必ず次につながります。そうして10年後、20年後にユニコーン企業を作ってくれたらそれでいいんです。
── 人とお金の両面の支援により、中長期の視点でディープテック分野の課題を解決していく、ということですね。
そうですね。特に環境資源の少ない日本は、人材で戦うほかありません。
また、日本の産業はアカデミアの力に依存しているといってもいい。それなのにアカデミアにお金が流れなくなってしまっては、どんどん世界に差をつけられてしまいます。
弊社を含め、日本のVCは皆で協力してディープテック・スタートアップを生み出し、ユニコーン企業を誕生させ、研究者をヒーローにし、人材も資金もアカデミアへ流れるようにしなくてはいけないと思うんです。
なので一社だけがVCとして成功しても意味がなくて、エコシステム全体の底上げをする必要があると思っています。
そのためにできることを、これからもディープテック分野の先頭に立って挑戦し続けます。
タンパク質の量産で先駆者となる
「持続可能な社会」を実現するためには石油依存から脱却しなければならない。Spiber(スパイバー)株式会社はこの難問に真っ向から取り組んでいる。植物資源を原料に微生物の力を借りて作り出す、タンパク質素材を開発しているのだ。この素材を使うことで石油依存から抜け出すことができるかもしれない。今回は取締役兼代表執行役の菅原潤一氏に、これまでの歩みと未来について聞いた。
── まず、Spiber(スパイバー)の事業について教えてください。
菅原 Spiberという社名は「スパイダー」と「ファイバー」を掛け合わせて作りました。この社名に表れている通り、元はクモの糸(タンパク質)を人工合成することを目的にした大学のプロジェクトだったんです。
今はその技術を応用して、植物由来の成分を主原料に多様なタンパク質素材を作っています。
石油や動物資源に依存しない素材、つまり持続可能性のある素材を普及させることを目指しています。
大学院在学中の2007年にSpiber株式会社を仲間と共に共同創業、取締役に就任。2023年11月より同代表執行役に就任(複数代表体制)。微生物を用いたタンパク質生産・タンパク質素材加工に関する技術開発や、知的財産管理などに従事。2007年慶應義塾大学環境情報学部卒業、2011年同大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了(博士号取得)。専門は生命情報科学。
── 大学院在学中に創業されたとのことですが、若い時に起業するのは大変でしたか?
2007年に創業したのですが、その当時は学生起業ということで社会的信用がありませんでした。資金集めに苦労した記憶があります。
特に、自分たちの仮説が実証されるまでは大変でした。微生物に設計図となるDNAを組み込んで、糸となるタンパク質を作らせるというコンセプトの技術なのですが、当時は目で見える糸はできておらず、「本当にできるのか?」と多くの方が思っていたと思います。
── 結果として事業は成長しました。どんな経緯があったのでしょうか。
紹介しきれない数多くのご支援があったのですが、大きなターニングポイントが3回あったように思います。
まず、創業してから2年後の2009年に、大手VCであるジャフコさんから出資を受けることができ、その資金で研究開発を一気に加速することができました。
この増資のきっかけは糸ができたことです。仮説が実証され、研究成果が目に見えてわかるようになり、投資家の方に面白いと思ってもらえたのだと思います。
次のターニングポイントは、事業パートナーとの提携です。
調達した資金で開発した糸を使って、2013年にドレスを一着試作し発表しました。これが多くのメディアに取り上げていただき、その結果会社の認知度も上がり、小島プレス工業さんやGOLDWINさんなど、今もなお大切な事業パートナーである方々との提携につながったと思っています。
そして最後のターニングポイントは、工場の立ち上げです。
開発した糸が製品化できる基準に達したため、次の段階として商業生産フェーズに入るのですが、工場建設には数十億あるいは数百億円という規模の資金が必要となります。
Spiberの知財価値を生かして設計された「事業価値証券化」という手法を使った融資での資金調達や、大規模な第三者割当て増資など、数年かけて資金を集めました。おかげで2021年にタイに第一号工場が竣工し、今では安定生産を実現しています。
微生物生産の量産化は初期投資が大きく、また安定生産までのハードルも高いのですが、これを達成できたことは私たちにとって大きな一歩でした。
── ここまで来るには辛いこともあったと思いますが、乗り越えられた理由は何ですか。
投資家、銀行、事業パートナー、会社の仲間など、ステークホルダーに恵まれたことは一つだと思います。
創業経営者が諦めることはないと思うのですが、そもそも周囲がついてきてくれなければただの独りよがりになってしまいますし、物理的に事業を進めることもできなくなってしまいます。
苦しい時も信じ続けてくれたステークホルダーがいたからこそ今のSpiberがあると思っています。
ステークホルダーとのコミュニケーションを大切にし、自分たちのビジョンや哲学をまっすぐ伝えることは大切にしてきました。
── 今後の事業展開について教えてください。
タイの工場の稼働率を上げていくということに加えて、アメリカにも追加の工場を建て生産量を増やしていきたいと考えています。
世界で最も普及しているポリエステルは、年間1億トン近く生産されることもあります。一方で、タイの工場で生産できるタンパク質は数百トン規模です。
シェアを拡大していくためには、生産量を増やしていかなければいけません。
また、欧州の環境意識の向上による環境配慮素材のニーズや、将来的にアメリカに生産拠点を持つことなどを踏まえ、今後はより一層グローバルに素材の販売を拡大していきたいと考えています。
すでにフランスにも営業の拠点となる支社を立ち上げています。ラグジュアリーブランドを中心に採用してもらいたいと考えています。
さらに、まだ研究開発の段階なのですが、食品分野への参入も考えています。
我々が作っているタンパク質を使ったお肉や乳製品などの食品を作ることで、アパレルの次につながる新規事業も企画しています。
── 精力的にビジネスを多方面に展開できている原動力は何ですか。
世界が直面する大きな課題の解決に貢献する、そんな事業がしたくて会社を立ち上げました。
その思いは今も変わっていなくて、今やっているタンパク質事業も持続可能な社会の実現に必要なピースになると信じてやっています。
フロンティアの開拓には失敗がつきものです。逆に言えば、失敗を恐れていては先駆者にはなれません。自分が熱中できることをやる。たとえ失敗してもそれは次の成功の糧になる。そんな気持ちで取り組むことも大切だと思っています。
日本の技術と文化で、食の垣根のない世界をつくる
学生時代より一貫して「食」と「多様性」をテーマに活動してきたUMAMI UNITED JAPAN代表取締役の山﨑寛斗氏。彼は今、アレルギー、ヴィーガン、宗教、どんな食のバックグラウンドも超え同じ食卓を囲める “ONE TABLE” を実現しようと奮闘している。世界には、どんな「食」の課題があり、それをどう解決していこうとしているのか。同氏が目指す「食の未来」を垣間見る。
──「UMAMI UNITED」という社名には、どのような想いが込められているのでしょうか。
山﨑 UMAMI UNITED JAPANは1年半前に立ち上げたばかりの会社で、 “植物性の卵” を開発して販売しています。
私たちは、「ONE TABLEで未来を創る」ことを目指しています。アレルギーを持っている人、ヴィーガンの人、宗教的な理由がある人──。様々なバックグラウンドを持った人たちとも垣根を越え、一緒に “ONE TABLE” で食べられる。そんな世界を作りながら、未来や社会にとっても良い食の選択肢を訴えかけていきたい。
そのような想いからUMAMI UNITED JAPANは誕生しました。
学生時代より一貫して「食」と「多様性」をテーマにしており、大学卒業後は食の多様性をテーマにメディア・コンサルティング事業を展開するフードダイバーシティ(株)にジョイン。在職中、世界のプラントベース業界とのネットワークを構築し、海外企業の日本誘致や日本企業の海外進出などの事業立ち上げを行う。2022年3月、新たにUMAMI UNITED JAPAN(株)を設立し、植物性卵「UMAMI EGG」をリリース。
日本が持っている食の技術や文化を使ってものづくりをしているので、この「UMAMI UNITED」という社名には、おいしさ・旨味(UMAMI)で人々をUNITEしていきたいという想いが込められています。
── 2021年にシンガポールで起業し、2022年、逆輸入するかたちで日本へ進出するにいたった背景を教えてください。
私たちは、グローバルの第一線で活躍し続けるフードテックのスタートアップになりたいんです。そのためにはまず、人、お金、情報などのリソースが集まっているところに行く必要がありました。
そこで、「アジアの中でもフードテックのハブになっているところからスタートしていこう」ということで、シンガポールを選んだというわけです。
── フードテック領域に対する興味関心は、やはり日本よりも海外のほうが進んでいるのでしょうか。
はい。海外のほうが圧倒的に食ビジネスに対する関心は進んでいますね。
海外は日本よりもヴィーガンの方や宗教上の理由で特定のものが食べられない方が多く、 同じ食卓を囲むこと=ONE TABLEができない状況が大きな問題としてある。
例えば、アメリカの大学の学食では、「2025年までにメニューの半分をプラントベース(植物由来)にします」と宣言しているところもあるんです。
アメリカに限らず海外はアニマルウェルフェア(動物福祉)、クライメイトテック(気候テック)、ダイバーシティへの感度が高く、動物フリー、アレルギーフリーなものを積極的に増やす動きが活発ですね。
一方、日本人は単一のモノカルチャーな環境にいるので、なかなか “ONE TABLE” が実現されないことに対する課題意識を感じにくいんですよね。
── 日本人の課題意識が薄いフードテック領域で、山﨑さんがチャレンジしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
最初のきっかけは、学生時代に訪日外国人向けのガイドをしていたときのことです。
外国人の方々を案内したくても、ヴィーガン、アレルギー、宗教の理由で、どこにも連れていけないじゃないか──という経験を何度もしたんです。
そのとき初めて、日本では知られていない食の課題があることを知りました。同時に、この状況を変えたい。もっと多様性を受け入れる社会にしていきたいと思ったんです。
「食」をテーマにビジネスをしたいと思い立ち、まずは食のメディアにジョインしました。ベジタリアン向けのSNSやガイドブックの出版、情報発信を行う中で、日本の食文化に触れる機会が多くありました。
そこで、「1000年以上の歴史がある日本の食文化ってすごい」「日本の技術を使って何かできたらいいな」「世の中を変えられそうだな」と漠然と思い始めたんです。
次に転職した会社では、海外のプラントベースドブランド会社の日本立ち上げに関与しました。
この頃から、 “ONE TABLE” という構想がどんどん私の中で広がっていきました。日本の文化や技術を使い、最初の原体験、課題を超えたいと強く思い始めました。
そして1年半前、「日本にも素晴らしい研究者がいるのではないか」と探していた矢先、あるプロジェクトで現CTOの大場と出会います。これがUMAMI UNITED JAPANの始まりです。
── 今、日本にはどんな食の課題がありますか?
戦争やクライメイトチェンジの影響もあり、この先10年、20年、「今の食のあり方で本当に大丈夫?」と警鐘が鳴っている状態なんです。
私たちも含め、この危機感をより持つきっかけになったのが鳥インフルエンザ。卵の供給量が例年の半分ぐらいになってしまった食品メーカーもたくさんいたので、死活問題ですよね。
日本の卵は国産が多いのですが、実は、餌の約9割は海外から持ってきているんです。そうなると戦争が起こったときに卵の生産が一気に止まるかもしれない。
さらに、全世界的に平飼いやフリーレンジの動きが広がっていて、動物福祉や倫理が加味されるほど量産化がしづらくなっている状況です。
「卵くらい、なくても大丈夫だよ」と思う方もいるかもしれませんが、日本は1人当たりの卵消費量が世界2位の国。実は、私たちが普段なんとなく食べているパン、麺、クッキーなど、本当に様々なものに卵が含まれているんです。それらが一気に食べられなくなるとしたら大変ですよね。
食品安全保障が脅かされるというレベルの話なので、国としてもフードテックを応援しようという動きが活発になっています。
そうした危機感から、私たちの作っている植物性卵だけでなく、新しいオルタナティブな乳製品、肉などにもより注目が集まっていくだろうと考えています。
──日本で植物性の卵などオルタナティブな製品を浸透させることはできるのでしょうか。
「卵を食べている意識がないのに、実はたくさん食べている」
先ほども少し触れましたが、「卵」だと認識して食べているもの以上に、私たちはこの目に見えない卵、インビジブルな卵をたくさん食べています。
卵を食べたくて食べているのではない。そうであれば、卵じゃないものに置き換えられるのではないか。そんな世界観を私たちは作れると思っています。
「卵を全部変えてやろう」みたいなことは思っていません。卵は卵でリスペクトして、そうじゃないインビジブルな卵を中心に、ステルス的に変えていきたいと思っています。
例えばスターバックスでは、プラントベースのメニューがかなり増えているんです。彼らは意図的にアピールしていないんですけど。
抹茶ドーナツを「ヴィーガンドーナツ」って言ったら、やっぱり食べないんですよね。そのくらい控えめな国民性なので、日本では控えめなアプローチのほうがいい。
Z世代や次の世代が、自分で考えて進んで選択するようになれば一気に風潮が変わると思うのですが、もう少し時間がかかるかなと思っています。
だから、知らない間にすべての材料がプラントベース、UMAMI EGGになっているけど、私たちは気づかないまま、今までと同じように「おいしいね」と食べている。特に日本は、戦略的にそういうやり方をしたほうがいいと思っています。
──「代替卵」や「代替肉」と聞くと、 “代わりのもの” であるという認識になってしまい、なんだかネガティブなイメージを持ってしまいがちです。
そうなんですよね。「代替」という言葉は、何かの「代わり」であり、劣る、味が落ちる、本物じゃないみたいな、どうしてもネガティブな印象を持ってしまうと思います。
中国語だと「人造肉」って書くんですよ。もっと抵抗がありますよね(笑)
そうなると、英語で「オルタナティブ」「プラントベース」と表現したり、面白味がないですけど「植物性」とシンプルに表現したり。受け入れてもらうための良い表現を試行錯誤しています。
例えば、固定電話が携帯電話に代替されたからって、その名前が「代替電話」だったら嫌ですよね。進化したのに、「代替」が付くだけで何か劣っている感じがしてしまう。
伝え方一つでかなり変わるなと思っています。だから私たちも、「代替卵」という表現はしないようにしています。代替じゃないぞと。
美味しくなくても、「環境にいいことをしているから」で我慢させているうちは「代替品」です。
私たちは、既存の卵よりもより美味しくて、UMAMIがあって、進んで私たちの製品を使いたいと思ってもらえるようなものを作りたい。
今あるものが完成形ではありません。まだベータ版です。今、もっと面白いものを作っているので、これから先の1年、2年で、世の中に出していきます。楽しみにしていてください。
──これからUMAMI UNITED JAPANを筆頭に日本の食が変わっていくのかと思うと楽しみです。
創業時の出資先でもある、海外のフードテックアクセラレーターの皆さんに、「初めて日本人が来た」と言われたんです。それくらい日本って閉ざされているんだなと感じました。
せっかく日本には素晴らしい文化と技術があるのに、閉ざしているのはもったいない。もっとグローバルに出ていきたい、社会を大きく変革したい、世界を変えたいという人が、日本からもっと出ていくべきだと思います。
私たち自身、まだ全然何者でもないのですが、「日本の先陣を切りたい」と勝手にミッションを背負っています。
日本は遅れていると言われますが、追いつけ追い越せが得意な国民性だし、改善カルチャーがあるので、ここから一気に世界を追い抜くための土壌はあると思っています。
ここが、やっとスタートラインです。
グローバルに飛び出して、 “UMAMI” で世界を “UNITE” できる食の未来を一緒に創りませんか。
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執筆:川合彩月、高崎慧
デザイン:月森恭助
取材・編集:樫本倫子、花岡郁