2023/12/27

日本がAIでイノベーションを起こすためのスタートアップエコシステムの作り方

 2023年11月21、22日に開催されたSTART UP EVERYTIME
 同カンファレンス内で行われた、アーリーステージの優れたAIスタートアップを表彰するコンテストの最終選考会および授賞式「HONGO AI 2023」。
 キーノートはGoogle DeepMind 研究員兼マネージャー、シェイン・グウ氏によって「技術で追うか、ビジネスで戦うか。日本企業が取るべき”AI活用戦略”最前線」をテーマに講演。
講演を行うシェイン・グウ氏
 最終選考では、スタートアップによる斬新なビジネスアイデアと、高い技術開発力に基づいたプレゼンテーションが行われ、最優秀企業には「HONGO AI 2023 BEST AWARD 」が贈られ、さらに各スポンサーによる賞も決定した
 また、ピッチを踏まえ、最終選考委員4人によるAIのビジネス導入の展望や、今後の日本企業の勝ち筋に関する見通しを語るセッションが行われた。

第四次AIブームをどう追い風にするか

松尾 今年のファイナリストたちのピッチを見て、AIが目新しい新技術ではなくなり、かなりビジネスに浸透してきたと感じました。
 また、生成AIやLLMに関しては、技術の特性を活かした新しいサービスを開発した企業が多い印象でした。
重松 確かに、今日の皆様の発表は、技術をいろいろ実験してみようというところから一段階も、二段階も踏み込み、社会課題に取り組んでいく企業が多かったなと、感じています。
 そういった中で、生成AIやLLMといった新しい技術革新の波がAIの業界に来ていると思いますので、その辺についても今後楽しみですね。
松尾 ディープラーニングが出てきた2015年頃に考えられていたアプリケーション開発は、ほぼ実現されつつあると思ってます。
 一方で昨年から生成AIやLLMが注目を集めており、これらの技術が将来的に社会を変えていくと思いますが、今後、どのようなサービスが出てくるかはまだ不透明です。
 ただ、今後数年かけて、一気に世の中が変わっていくのは間違いないでしょう。
大崎 グローバルにおけるAIの潮流の変化について、NVIDIAでは技術目線に立ち、GPUの需要がどれだけ盛り上がっているのかを見ています。
 その視点で言うと、過去5年間、日本の動きは非常に遅い印象でした。米国や欧州、中国を含めたアジアの出荷数量を横目に、日本への出荷量の少なさを目の当たりにし、もどかしい思いをしていました。
 それが、昨年末ぐらいからのChatGPTのブームによって、日本政府もようやくそれに促される形で、様々な生成AIのインフラの整備が急速に進んでいます。
 この流れの中で、日本の社会からやっとAIによるイノベーションが起こるのではないかと期待しています。

海外に勝てるエコシステムのあり方

重松 深層学習の領域においては、アメリカと中国がずば抜けて進んでいると感じます。
 根底にあるのは、技術力だけではなく資本市場の構成の仕方、キャピタリストの数、夢を見て挑戦してくる起業家が集まってくる環境などの差も大きいでしょう。
 また、そういった起業家を支える人たちが数多く存在するというエコシステムの差も大きいですね。
 だからと言って、「日本のスタートアップがそれらの国に対して遅れている」と強く悲観する必要はないと思っています。日本は新しいサービスを生み出す非常に良い土壌ができつつあると感じています。
各務 私は野球界のエコシステムがよくできていると思っていて、メジャーリーグに対して日本のプロ野球があり、甲子園があり、都市対抗野球があり、リトルリーグがあります。
 こうしたエコシステムがあるからこそ、大谷翔平選手のような素晴らしい選手のキャリアがメジャーリーグのMVPまで繋がった側面はあると思います。
 翻ってみると、企業のAI事業やスタートアップがグローバルなエコシステムにどう繋がるか、そういった部分については、政策的な側面から見てもまだまだ工夫の余地があると思います。
重松 エコシステムという観点では、もっと若い技術者が参加しやすい土壌を作ることが必要かもしれません。
 生成AIのような新技術の場合、過去の技術進歩の歴史を知らない若手であっても、ベテラン研究者にどんどんキャッチアップできます。
 若い人たちにとって、10歳上の研究者のレベルに追いつくことができるという大きなチャンスがある領域なので、経験豊富な研究者と若い20代の発想、新しい発想が融合したら新しいものが次々に生まれるんじゃないでしょうか。
 また、ビジネスパーソンにとっては、若い世代の意見を聞くことが非常に勉強になる時代が来ていると思っています。

これからの勝ち筋の見つけ方

各務 AIビジネスの事業構想を考えるうえで、日本の企業にとって得意となる分野や勝ち筋などはどのように考えていけば良いでしょうか。
重松 例えば医療系のスタートアップであれば、日本の方がアメリカよりも高齢化率で先行しているため、日本独自のソリューションが出せるかもしれません。
各務 人手不足という問題に対して、DXが進まない日本企業の現状は格好のターゲットですよね。
松尾 もう一つ、グローバルの中でも特にアジアはカギになると思っています。
 日本の大企業はデジタルやAIに関しては、欧米へのキャッチアップの需要があります。だからこそ、非常に大きなマーケットがありますし、ここへ若い人が挑戦して、マーケットを取りにいくのはかなりの確率でできると思います。
 そこを足がかりに東南アジアに広げ、さらにインドや中東、アフリカに広げられるとそれはすごく面白い成長パターンになるはずです。
 実際に、日本で成功したAIスタートアップが次にアジアへ進出している事例がだんだん増えてきてます。
各務 確かに日本国内でITビジネスで成功した企業が、非英語圏で成功しているケースが多いというのは、よく言われていますね。
 今やグローバルといっても、北米や欧州以外にグローバルサウスやアフリカなどさまざまな市場があって規模も大きくなってきています。
 そのどこを狙うかでサービス設計も大きく変わってくる。
松尾 日本のお客さんはサービスやプロダクトについて、いろいろカスタマイズを求めてくるので、国内で事業を始めると、その要望に幅広く応えざるを得なくなり、それが原因で機能特化させづらいというジレンマがあると感じています。
大崎 そうですね。日本企業は歴史的にサービスの機能特化ではなく汎用化の方を得意としてきました。
 しかし、これまでのように、お客さんの要望に応えるものづくりばかりしていると、それを作る企業も儲からないし、お客さんもビジネスで後れをとってしまうのでいいことないんですよ。
 だから、スタートアップを立ち上げる若者は社会課題の解像度を上げたうえで、もっと空気を読まずに「自分たちはこういう世界を作りたい、こういうことがしたい」と、ガンガン提案していったらいいと思います。
各務 若い人たちには、自ら問いを立て、その課題を自分で解くことが大事になってきているかもしれませんね。
 自分が遭遇した社会課題をオポチュニティと捉えて、自分の問題としてオーナーシップを持って解決するという経験を早い時期にできると良いのかもしれません。
 そういう場を提供することも、私たちの一つの使命だと思いますね。
松尾 形式上、選考委員が壇上から講評させていただきましたが、実はスタートアップにとって受賞するかどうかは本質的な問題ではありません。
 アワードを受賞しても事業の成功が約束されるわけではないですし、結局、事業を前に進めていける人が一番偉い。
 今回、受賞した企業もそうでない企業も、将来「あの企業は本物だったんだ」と言われるようなことを地道に頑張っていただければと思います。