2023/12/18

【独占】三菱商事が、ビル・ゲイツと組んだ理由

NewsPicks 編集委員(ニューヨーク支局)
2022年度に過去最高益(純利益1.1兆円超)をたたき出し、好調が続く三菱商事。
その未来のアンテナ役となる特別なチームがあることをご存じだろうか。
それが、新しい脱炭素テクノロジーに目を光らせる「BEC担当チーム」だ。
2022年4月から、ビル・ゲイツ氏が率いる脱炭素プロジェクトに出資。グローバル企業らと、新しい事業を構想する。
そのメンバーは米国などの最前線で、新しいテクノロジーを「商業化スケール」で世に送り出す方法を、追いかけている。
NewsPicksは合計4回にわたり、この特別チームのメンバーたちに、次世代エネルギー産業の見取り図を独占取材。
初回は、そのリーダーを務める奥村氏(BEC担当チームリーダー)に、その全体像を語ってもらう。
奥村龍介 / 三菱商事・天然ガスグループ GCEOオフィス 事業構想ユニットマネージャー補佐。天然ガスのエキスパートとして活躍後、米国シリコンバレーでクライメートテック分野に関わり、その産業化に向けたプロジェクトを進める。かつて小説『不毛地帯』を読み、エネルギーの世界を志した。

脱炭素ビジネスの「3本の矢」

脱炭素について、いつも紹介している数字があります。
それが「51」と「0」です。
地球の年間の温室効果ガスの排出量が510億トン(二酸化炭素換算)。わたしたちはこれを、差し引きゼロにしないといけない。
そのためにビル・ゲイツが設立した組織が、ブレイクスルー・エナジー(BE)です。
これは「3本の矢」のプログラムからなっています。
1つ目の矢が、BEフェローズというもの。より研究開発に近いステージの技術について、起業を支援します。まずは大学や研究機関から、外の世界に出してあげる。
2つ目の矢が、 BEベンチャーズ。これはスタートアップ投資であり、いわゆるベンチャーキャピタルです。
どちらも夢があります。すでにユニコーン(時価総額1500億円以上)になっている投資先も複数出ています。
しかし、これだけでは社会インパクトを与えるのに十分ではない。
そこで3つ目の矢が、BEカタリスト(BEC)です。これは技術的に準備ができているソリューションを、産業スケールで社会実装するものです。
ビジネスとして成立する商業化フェーズに近いものをやる。そこにお金が集まり、ちゃんと、モノが流れるのを見せてあげる。
そこで「これはいける!」と世の中が思ったら、こっちでもやりたい、あっちでもやりたいと、スケールアップするでしょう。
これは、三菱商事の考え方に近いのです。私たちは、常に産業スケールであることにこだわっているからです。
だから、ビル・ゲイツが率いるカタリストのメンバーとして参加しました。このプログラムの面白いところは、その座組みを見ると分かります。

ビル・ゲイツの「ワープ戦略」

そもそもはフィランソロピスト(慈善事業家)としてビル・ゲイツが、気候変動対策にお金を使おうと、賛同者を呼びかけました。
マイクロソフトであったり、世界最大の資産運用会社ブラックロックなどは、そうして参加しています。
でも、フィランソロピーそのものは新しくない。
そこに加えて、さまざまな産業分野の主要プレイヤーや金融機関たちが、加わっているところがBEカタリストの面白さです。
(写真: Bennett Raglin / Getty Images)
例えば、世界はサステナブルな航空燃料(SAF)を大量に作らないといけませんが、BEカタリストにはアメリカン航空が入っています。
また鉄鋼分野なら、欧州最大の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミタルもメンバーです。
モビリティ分野なら、ゼネラル・モーターズ。なにより、金融機関ではバンク・オブ・アメリカやシティバンク、そしてアジアの銀行も含まれます。
こうした座組みで、僕らは支援先のプロジェクトを「インベスタブル(投資可能)」にしてゆくのです。
新しいクリーンな事業というのは、技術コストが高い。だからこそフィランソロピーの資金なども使いながら支援します。
ここで普通のR&D(研究開発)では、技術が立証できたらOKです。ビジネスとして、モノを売る必要はない。
しかしBEカタリストの投資案件では、最初からプロダクトを買うお客さんを見つけてくる。原材料も確保する。そして、ローンをつける銀行も入れます。
そんな1号案件が立ち上がったら、世界にコピー&ペースト式で広げてゆける。