2023/12/20

【必須教養】生理について男性管理職が考えてみた

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 あなたの上長は、どれくらい「生理(月経)」について理解しているだろうか?
 女性が働くうえで、生理に伴う不調は避けられない日常だ。
 グローバルヘルスケア企業のオルガノン社の調査によれば、働く女性の75.6%が女性特有の症状による困りごとを抱え、うち約7割は「健康管理や働き方など何らかの工夫を行っている」という。
 生理休暇などの支援制度を拡充する企業もある一方で、男性はその苦労や工夫を十分理解できていない現実がある。
 男性の半数以上が、女性特有の症状に対する社内の支援制度の有無を把握していない。また、制度について上司・部下間で会話した経験がある人は2割にも満たないという。
 性別を問わず働きやすい職場をつくるには、女性特有の健康課題を無視することはできない。では、男性管理職は何を知り、どのような対応ができるだろうか?
 男性管理職2人と産婦人科医の鼎談で、生理についての疑問やマネジメント層が知っておきたい知識、働きやすさへの取り組みを語り合った。
INDEX
  • まだまだ身近ではない「女性の健康課題」
  • 女性同士でも難しい「生理」。管理職が知っておきたいポイント
  • 「把握」よりも「配慮」を
  • 企業にできるサポートとは
  • 誰もが活躍できる環境づくりのために知りたい、生理に関する2つのこと

まだまだ身近ではない「女性の健康課題」

稲葉 はじめに、現在お二人がマネジメントされているチームは、どのような規模や男女比なのですか?
藤井 メンバー3人全員が、子育て真っただ中の女性です。リモートで医療従事者に情報提供を行う役割を担っており、全員ほぼ在宅勤務ですね。
 今年発足したばかりの組織なので、自分はマネージャーとしてはまだまだ新米です。
上杉 うちは組織全体で約40人、そのうち女性は4割といったところでしょうか。デジタルを活用した社内変革をけん引する部門で、室長の私の下に課長が2名いる体制です。
稲葉 日本では2020年頃から、地上波で生理をテーマにしたテレビ番組が放送されたり「フェムテック(※)」が流行語大賞にノミネートされたりと、女性の健康課題にフォーカスが当たり始めたと記憶しています。
※Female(女性)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語。女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスを指す。
 経済的な理由などから生理用品の入手が困難な状態にある女性の増加も、「生理の貧困」も社会問題化しています。
 時を同じくして、経済産業省から月経不調による労働損失のデータが公表されたことも、社会的な注目が高まった一因でしょう。
 ここ数年は、メディアも生理や更年期などを取り上げるようになり、とても良い変化が起きていると感じます。男性の視点では、こうした変化をどのように感じていますか?
藤井 私たちオルガノンが避妊薬や不妊治療薬などを手掛けるグローバルヘルスケア企業なので、女性の健康課題への理解は大前提にあるものの、実は私自身、入社して初めて知ったことのほうが多いですね。
 恐らく、多くの職場ではまだ「フェムテックって何?」という男性のほうが多いのではないでしょうか。
上杉 私もビジネス上、「フェムテック」というキーワードは理解していますが、日常生活やビジネスシーンで生理といった女性の健康課題が話題にのぼることは、ほとんどありませんね。
藤井 そう思います。10年ほど前、前職で一度だけ経験したのが、イベント当日に担当の女性社員が生理痛で休んだことがありました。
 急きょ代役を立てたものの、現場には「納得いかない」という空気があって……。当時は、男女ともに「生理は自分でコントロールできるもの」「自己管理能力が足りない」という認識でしたね。
 今思い返すと、知識も配慮もまったく足りていなかったと反省しています。事情は人それぞれで違うという発想に立っていなかった。これでは“性別を問わず働きやすい職場”には、ほど遠いでしょうね。

女性同士でも難しい「生理」。管理職が知っておきたいポイント

稲葉 男性管理職であるお二人は、生理に対してどんなイメージを持たれていますか?
上杉 知っているのは、月1回起こるもので、その前後も含めつらい症状がある……という程度です。男性はどうしても、痛みやつらさを想像するしかない。そこが一番難しいなと思っています。
藤井 仮に痛みを理解できたとして、どう受け止めて反応するかも難しいですよね。
 こちらからオープンに話しにくい話題ですし、痛みがわからない男性から「大丈夫?」と声をかけられるのは、女性にとって不快かもしれないし、なかなか踏み込みにくいな、と。
稲葉 たしかに「男性だから理解が難しい」のはもちろんですが、実は女性同士でも、生理に関する理解は難しいものです。
 生理に関する症状は個人差が大きく、出社できないほどつらい方もいれば、全然つらくないという方もいます。女性でも、症状が軽い方は想像することしかできません。
藤井 専門家の観点から、管理職が生理について「最低限これだけは知っておくといい」というポイントはありますか?
稲葉 体の症状としては、腹痛や腰痛のほか、頭痛を訴える方もいらっしゃいます。出血量にも個人差があり、多い方ですと「会議が長時間続いて経血が漏れてしまった」という声も聞きますね。
 PMS(月経前症候群)として、生理前の時期に「イライラする」「気分が落ち込む」のほか、酷いケースでは自殺念慮が現れるなど、感情のコントロールが利かなくなることもあります。「周囲に迷惑をかけている」という自覚から、さらに自責の念にさいなまれることも。
 こうした症状は、低用量ピル、子宮内に装着する薬剤放出システムや漢方薬などで軽減できる場合もあります。
 ただ、どこまで軽減できるかに個人差がありますし、そもそも病院にかからない人も少なくありません。
藤井 女性にとって「生理がつらい」という理由で病院にかかるのは、抵抗があるのでしょうか?
稲葉 婦人科を受診するハードルはあるようですね。「なんとなく怖い」というイメージを持たれている方もいますし、「仕事を休んで受診するのが大変」という声もあります。
 生理休暇の制度を整えている企業は多いのですが、生理痛の治療に伴う受診の場合、生理休暇と認めない企業もありますから。
上杉 先ほど「女性同士でも生理の理解は難しい」というお話がありましたが、女性同士で生理についてコミュニケーションを図ることはあるのですか?
稲葉 ひと昔前は「生理は人様に話すことではない」とタブー視されてきましたし、まだまだ一般的には、人に話す機会がそこまで多くはないと思います。
 ただ、ゆるやかに空気は変わっています。以前に比べれば、ネットを中心に女性の健康に関する話題を目にするようになりました。
 仲の良い人同士で相談することも、徐々に増えているかもしれませんが、誰とでもオープンに話すことが大事なわけではありません。症状がつらい方は、まず産婦人科で相談していただきたいです。

「把握」よりも「配慮」を

藤井 生理の症状には個人差があり、女性同士でも理解が難しいという認識が広まると、マネジメント側の考え方も変わりそうです。
「女性だから」と、全員同じように対処をするのは間違っているわけですよね。とはいえ、一人ひとりに「生理はどう?」と声をかけるのも、それはそれで違う気がします……。
稲葉 根掘り葉掘り聞かれたくはありませんよね。多くの女性には「配慮はされたいけど、把握はされたくない」という思いがあるのではないでしょうか。
藤井 なるほど。そうなると、私たちにできることは“生理にとても詳しい上司”であると示すよりも、何かあったときに「病院へ行ってみたら?」とアドバイスすることかもしれませんね。
上杉 知識をつけるのは大切ですが、自分は生理に理解があるのだと誇示してくるような上司は、逆に気味が悪いでしょうね……。最低限の理解をした上で、チームメンバーへ適切に声をかけるには、どうすればいいのでしょう?
稲葉 同じ声をかけるでも、「しんどいなら病院に行けば?」では、ちょっと冷たいですよね。「婦人科に相談するといいらしいよ」「症状が軽くなるかもよ」というトーンで提案されるのがいいと思います。
 あとは、生理にかかわらずですが、日常的に「つらいなら休んでもいいから」「受診のために休みが必要なら、遠慮なく言ってほしい」といった声かけがあると、なお良いですね。
上杉 女性側から言い出しやすい空気づくりを意識するのですね。
 そういえば過去に一度だけ「私、生理が重いんです」と直接言われたことがあります。そのときは「これからも大変な時は、遠慮なく言ってほしい」と声をかけました。
 そうはいっても、なかなか上長には言い出しづらい。だから最近は「風邪を引いてしんどいです」など、あえて自分から不調を発信するようにも心がけています。
 自分の思いや考えを透明性高く伝えることで、少しでも心理的安全性が担保できればと、試行錯誤を続けているところです。
稲葉 心理的安全性は大事ですね。なかなか言い出せない人は「こんなことを言ったらネガティブに捉えられるのでは」という不安を抱きがちですから。
 生理に限らず、「とにかく相談していいんだよ」というメッセージを送ることが大切です。
藤井 痛みや不調のつらさをはじめ、相手のことを決めつけてはいけないというのは、人間関係すべてに通じる前提でしょう。体調や仕事、家庭の状況で人は変わりますし、昨日とはまったく別人のように感じることもあり得ます。
 毎日しっかり相手と向き合って、そのうえで、興味を持って接することを、より心がけていきたいと思いました。

企業にできるサポートとは

藤井 マネージャーや現場のコミュニケーションと同時に、企業全体でのサポートも重要だと思います。オルガノンでは、生理休暇を「Her Day Leave」という名称に変更しました。
「生理休暇」という名称に心理的抵抗が生まれ、実際にほとんど利用されていない実態がありました。そこで名称変更とともに、適用範囲を「月経随伴症状」や「女性の更年期症状」まで拡充したものが、Her Day Leaveになります。
 この制度を利用する際は、上長に生理だと説明する必要はありません。「体調不良で休みます」と伝えれば、上長も理由は聞きません。
上杉 そもそも「生理休暇」の名称を変更したきっかけは、何だったのでしょうか?
藤井 人事担当者の課題感からです。加えて、その後押しとして欠かせなかったのが、「Get to Know Her」という社内研修でした。直訳すると「彼女について知ろう」ですね。
 オルガノンの「すべての女性に、より豊かで、より健やかな毎日を。」というビジョンの実現に向けて、大阪ヒートクール株式会社の協力のもと、女性の多くが経験する生理痛をテーマに全社員参加の研修を開いたのです。
 研修では、筋肉に刺激を与える電極パッドを用いた生理痛の疑似体験も行いました。私も体験してみましたが、1分も耐えられませんでした。とても立っていられなくて、この痛みに2〜3日耐えながら仕事をするなんて、信じられませんでした。
 ほかに、生理用品の展示や生理休暇についてのディスカッションも設けたところ、「生理休暇という名称に抵抗がある」「上長に休暇の申請をするのがためらわれる」というコメントが出たのです。
Get to Know Herでの生理痛体験の様子(画像提供:オルガノン)
研修では生理用品の展示も行った(画像提供:オルガノン)
 制度変更から3カ月を経て、新たに数名がHer Day Leaveで休暇を取得するようになりました。研修がなければ、新規取得にはつながらなかったと感じています。
 制度の利用がないからといって、必ずしもニーズがないとは言えない、という気づきがありましたね。折に触れて、制度を見直していくことも重要だと感じます。
稲葉 現場の声が制度を後押ししたのですね。丸紅にも、生理や更年期症状をサポートする制度があると聞きました。
上杉 「フェムテックプログラム」というもので、生理や女性ホルモンに関するウェビナーを実施するとともに、婦人科医のオンライン診療・相談を受けられる制度を設けています。
 ウェビナーは生理や更年期症状がどうして起こるのかを、医学的な観点から学び直す内容となっています。リテラシーの底上げを図ることが目的で、役員クラスも参加していますね。
 また、オンライン診療については、診療に関わる費用を会社が全額負担します。稲葉先生から「女性は婦人科にかかることに抵抗がある」というお話がありましたが、まさにそういったハードルを下げる取り組みです。
藤井 プログラム導入後の効果はいかがでしたか?
上杉 投資対効果をまとめた社内レポートで、約20%の業務パフォーマンス改善と、中度・重度の症状を持つ方の割合が大幅に下がっているのがわかりました。
 こうした効果が社内でも口コミで広がって、徐々に利用者が増えています。本プログラムは企業向けサービスとして事業化しており、外部にも展開しているところです。

誰もが活躍できる環境づくりのために知りたい、生理に関する2つのこと

稲葉 両社ともすごくいい取り組み、いい変化ですね。
 私はよく「ホルモンに振り回されるなんてもったいない」と言っているのですが、こうした制度を最大限活用して、女性特有の健康課題を我慢することなく、キャリアを続けたい女性が活躍できる社会にしていきたいですね。
 そのためにも、生理や更年期について、もっと正しい認識が広まればと思います。女性の健康課題を取り巻く空気が変わってきたとはいえ、まだ最低限の理解すら得られていない場面も少なくありません。
 まずは、生理について「症状には個人差があること」「治療する方法があること」。この2つを知っていただきたいですね。
上杉 今日稲葉先生から伺ったことを踏まえて、性別に関係なく、メンバーが活躍できる環境づくり、一人ひとりに合ったマネジメントが私たち管理職に求められると感じています。
 組織に多様性が生まれるほど、企業が取り組むべきことも増えていくはずです。新しいことにトライし続けていかねばと改めて思いました。
藤井 女性特有の健康課題について理解を深めつつ、今後は男性側にもフォーカスしていきたいですね。
 オルガノンはコアバリューの1つに、「一人ひとりが主役(We all belong)」を掲げています。健康課題について相互理解を深め、最終的にはジェンダーの枠にとらわれず、一人ひとりが活躍できる会社、ひいては社会へと広げていけるといいですね。
女性の視点から「職場の生理への理解」について話し合ったPodcastも配信中。