2023/12/10

【必読】「鉱物戦争」を回避する次世代電池が実現しそうだ

NewsPicks 編集部 記者・編集者
電気自動車(EV)などに幅広く使われているリチウムイオン電池。小さく、軽いリチウムイオン電池は、今後、EVの普及に合わせて需要が爆発的に増えていくとみられている。
だが、その主な材料であるリチウムはレアメタル(希少金属)の一つで、すでに争奪戦になりつつある。価格は大幅に上昇し、将来の安定確保は国家的な課題になっている。
こうした中で、リチウムに頼らない二次電池(繰り返し充電できる電池)の開発が始まっている。その有力候補の一つがナトリウムイオン電池だ。
ナトリウムは海水や岩塩に含まれ、豊富に存在する資源で価格も安い。
一方で、重い原子のため、電池の容量が小さくなるという致命的な課題がある。
ナトリウムイオン電池研究の世界的な第一人者である東京理科大学の駒場慎一教授に聞いた。
INDEX
  • 「やめておけ」と言われた研究
  • 相手にされていなかった
  • 「ナンセンス」をどう克服したか
  • LFPと同程度の密度
  • 周期表のさらに下へ

「やめておけ」と言われた研究

──なぜ、電池の材料としてナトリウムに着目したのでしょうか。
駒場 ナトリウムが周期表でリチウムの一つ下にあるからです。
リチウムイオン電池に使われているリチウムという元素は、金属の中で最も軽く、また標準電極電位から見て高い電圧が出せるなどの特徴があって、とにかく電池の材料に適しています。
周期表を見てみると、リチウムのすぐ下にナトリウムがあります。周期表で隣り合う元素はよく似た性質を持っているので、ナトリウムも電池の材料に使えそうです。
実は、ナトリウムで電池を作る研究は意外と古くて、1980年代にはいくつか研究成果も出ていました。
私は2003、04年にフランスに留学したのですが、その時にお世話になった先生が80年代にナトリウムイオン電池の研究で活躍した研究者だったんです。
そこで私も興味を持ったのですが、先生には「やめておきなさい」と言われました。
というのも、ナトリウムイオン電池の研究は、電池の性能を引き出すのが難しくて、当時はうまくいっていなかったからです。
1990年代にリチウムイオン電池が実用化されると、ほとんどの研究者はナトリウムイオン電池に見向きもしなくなりました。
でも私はむしろ、誰も成功していなかったからこそ興味が湧いて、2005年に研究を始めたんです。

相手にされていなかった

──希少で高価なリチウムを使わない、レアメタルフリーの電池を目指してナトリウムイオンの研究を始めたわけではなかったんですね。
当時のリチウムイオン電池はほとんどがPCや携帯電話などに使われていて、電気自動車(EV)にたくさん搭載されるようになるとか、リチウムが奪い合いになって代わりの電池材料が必要になるとか、そんな話にはまだなっていませんでした。
いずれナトリウムイオン電池の時代が来る、なんて思っていたわけでもありません。
私は理学部(応用化学科)の所属なので、純粋に理学として、学術的な興味からナトリウムやカリウムで電池ができるかを研究しようと思ったんです。
そもそも、ナトリウムイオン電池は今でこそリチウムイオン電池に代わる次世代の二次電池として注目されていますが、一昔前までは相手にされていませんでした。
理由はいくつかあります。まず、ナトリウムは、リチウムよりも重い。
周期表では番号が大きくなるほど重くなります。リチウムは3で、ナトリウムは11ですね。
電池の材料に使う物質は、軽い方が重量当たりのエネルギー密度が高くなります。つまり、リチウムよりも重いナトリウムで電池を作ったら、エネルギー密度が低くなってしまう。
周期表の「席替え」が起こることはありません。30年後にリチウムよりもナトリウムの方が軽いことが判明する、なんてことは絶対に起こり得ない。だから「リチウム以外の材料で電池を作るのはナンセンス」という考え方は正しい。
また、ナトリウムは、リチウムよりも理論的に0.3 V(ボルト)電圧が低くなるという弱点もあります。
少し難しい話ですが、リチウムイオン電池は、過充電すると金属リチウムが析出(固体化すること)して、ショート(短絡)や発火の原因になります。ナトリウムイオン電池はその反応がリチウムイオン電池よりも0.3 V低いところで起きるんです。
電池が蓄えられるエネルギーは、電圧(V)に容量(Ah)を掛け合わせたものなので、電圧が低いということは、電池のエネルギーも小さいということ。ゆえにナトリウムイオン電池のエネルギー密度を高めるのは容易ではありません。
──そもそも、ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池と似たような構造なのでしょうか。
リチウムイオン電池は、電極に金属リチウムを使うのではなく、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することによって充放電を行いますよね。ナトリウムイオン電池も基本構造は同じで、ナトリウムイオンが正極と負極を行き来します。
リチウムイオン電池の前に実用化された鉛蓄電池やニッケル・カドミウム(ニカド)電池などの二次電池は、正極と負極の材料が固定化されているので、新しい電池材料に置き換えることで電池の性能が格段に上がるということは起きません。
一方、リチウムイオン電池は、イオンさえ動けば、正極・負極の材料を変えることができます。正極・負極に適した材料が見つかれば、電池の性能を高めていくことができる。ナトリウムイオン電池もこの点は同じです。

「ナンセンス」をどう克服したか

──ナトリウムイオン電池には、繰り返し充放電できない、エネルギー密度が低い、電圧が低い、など多くの課題がありました。それらをどのように克服してきたのでしょうか。