2023/12/17

【星野佳路×為末大】星野リゾートは「数値目標」をこう考える

Deportare Partners CEO
昨日より今日、今日よりも明日…。仕事でも料理や洗濯などの日常生活であっても、少しずつ上達すると楽しいものだ。
最初は何げなく始めたことも次第に基本のスタイルが確立され、どんどん「らしさ」が出てくる。大なり小なり、誰もが一度はそんな経験をしたことがあるだろう。
本連載では、こうした「熟達」をテーマに各界の第一人者にその方法論を聞いていく。聞き手を務めるのは、元陸上選手の為末大氏だ。
スプリント種目の世界大会で日本人で初めてメダルを獲得した為末氏は、短距離走の熟達のプロフェッショナルでありながら、他の業界との共通点を探し続けてきた。
そのメソッドを1冊にまとめた『熟達論』をベースに、あらゆる角度から質問を投げかける。
今回のゲストは星野リゾート代表、星野佳路氏だ。
経営者にとっての熟達とは?ビジネスを熟達させるって、どういうこと?
(第2回/全3回)
星野佳路(ほしの・よしはる)
1960年長野県軽井沢町生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年、星野温泉(現・星野リゾート)の社長に就任。ホテル運営のほか、経営難に陥った旅館の再生を手がける。
為末大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2023年11月現在)。現在は執筆活動、身体に関わるプロジェクトを行うほか、アスリートとしての学びをまとめた近著『熟達論:人はいつまでも学び、成長できる』を通じて、人間の熟達について探求する。その他、主な著作は『Winning Alone』『諦める力』など。
INDEX
  • 力まずに「実力を発揮する」
  • 「数値目標」の弊害
  • 「好き嫌い」で決めても良い
  • 生き残りの本質は「実力を高める」こと

力まずに「実力を発揮する」

為末 僕の『熟達論』という本では、成長の段階を「遊」「型」「観」「心」「空」の5段階で分けています。4番目が、「心(しん)」で、これは「中心をつかみ自在になる」段階です。
よくスポーツではコーチが選手に「リラックスしろ」とアドバイスするでしょう。でもリラックスするのは簡単ではありません。技術的に最終的な到達点ぐらいだといってもいいくらい。
たとえば本当に体から力を抜いたら、立っていられずに崩れ落ちるでしょう。でも力を入れすぎると、ガチガチになってしまう。要するにその動きを行う上で、最低限必要な力だけを入れて、それ以外の部分の力を抜くことがリラックスなんです。
でもそんな状態を保つのは、ただ立つだけでも難しい。しかも動いていればその都度使う筋肉が変わるわけだから、なおさら難しい。
ところが、熟達するにしたがって、そういうことが体得できるようになる。その段階を「心」と表現しました。