2023/12/15

日米韓、生成AI活用の違いに見る、業務改善の鍵とは?

NewsPicks Brand Design Editor
 ChatGPTをはじめとする生成AIやLLMのAIソリューションが、ついに産業全体に浸透し始めた。しかし、この「魔法の杖」を使いこなせているビジネスの現場はまだごく一部だろう。
iStock / Getty Images Plus
 生成AIをビジネスに導入する際の課題は「生成AI、LLMをどの業務で活用すべきかわからない」点にあると考え、トータルなサービスを提供しているのがAllganize Japanだ。
 Allganize Japanは日常業務を自動化するアプリを実装した状態でそろえたLLMアプリプラットフォーム「Alli LLM App Market」により事業成長を遂げている。
「Alli LLM App Market」はメールや提案書の作成、契約書の重要事項チェック、社内データの検索やカスタマーサポートでの応答など、あらゆる業務に対応する100以上のLLMアプリをオールインワンで提供している。
 同社は2017年にアメリカのシリコンバレーで創業。のちに韓国・日本にも拠点を広げた。グループ会社が日米韓の3か国にあり、経営陣はそれぞれの国を行き来しながら事業を進めている。
「資金調達のために各国のベンチャーキャピタルを回った時は『スタートアップが初期段階からグローバルで展開してうまくいくわけがない』と言われたこともあり、共同創業の仲間としょんぼりと歩いて帰ったことを覚えています」
 Allganize Holdings Co-Founder 兼 Allganize Japan代表取締役CEOの佐藤康雄氏は、創業時の苦労をこう話す。今では、アメリカの先端技術をキャッチアップしながら日本や韓国の事例を他国の課題解決に生かすことができるなど、ビジネスの好循環が生まれているという。
大学卒業後、Yahoo! JAPAN、楽天、nifty等に在籍。一貫して新規事業の立ち上げや事業マネジメントを担当。社会人学生としてMBA取得後、2010年よりスタートアップ領域でのチャレンジを開始。2013年、韓国5Rocks社の日本代表に。2014年に同社をアメリカのTapjoy社に売却し、売却後はTapjoy Japan執行役員、顧問を歴任。2017年、AIソリューションを提供する「Allganize社(現Allganize Holdings)」を仲間と共にアメリカ・サンフランシスコで設立。2019年に日本法人を設立し、現職。
 同社はコンピュータが人間の言葉を読解する技術である「自然言語理解(NLU)」という領域に強みを持ち、AIソリューションで圧倒的な結果を残してきた。
 ビジネスシーンでのAI活用について日本の企業はどのような状況にあるのだろうか? アメリカに比べて日本では導入が後手に回っているという話も聞くが、それは本当なのだろうか?
「これからの時代、生成AIを活用しない企業は生き残れない」と言い切る佐藤氏は、ChatGPTで生成AIが盛り上がる以前からグローバルなAI利用の最前線を目撃してきた。日米韓に拠点を置くグローバルな視点からの「生成AI活用術」を聞いた。
INDEX
  • 日本企業の「慎重さ」が生成AIの活用の障害に?
  • 生成AI活用の前に立ちはだかる3つの課題
  • 面倒な作業があっけなく終わる
  • 「オールインワン」で真価を発揮するLLMアプリ
  • 業務内容に適した自社専用の「頭脳」を開発できる
  • 生成AI、LLMアプリで生産性を劇的に変えていく
  • すべてのワークフローが自動化される未来へ

日本企業の「慎重さ」が生成AIの活用の障害に?

──Allganizeは日米韓の3か国で同時にサービスを展開しています。生成AIの普及に関してどんな違いがありますか?
佐藤 アメリカでの普及は当然早く、また関連サービスもすごい速さで出てきています。日本の状況だけを見ていると驚くかもしれませんが、韓国も実はアメリカに負けないぐらいのスピードで企業による普及やトライが進んでいます。
 特に日本と韓国では普及のスピードに顕著な違いがあります。日本企業では先端技術へのチャレンジよりもリスクへの懸念が先になる傾向があるように思います。「生成AIはハルシネーション(※)の問題があるから」などの理由から、興味は示しても本格的な導入検討が進まない企業が多いですね。
※ハルシネーション:誤りを含む情報をもっともらしく答えること
 韓国では、生成AIの活用に関してリスクの面を考えながらもとても積極的です。生成AIのような先端技術を使って率先して成果を上げることが企業評価を高めることにつながる。韓国のメンバーから、韓国には「パリパリ(急げ、急げ)」という精神があるのだと聞きました。
 少しせっかちかなと思えるくらいアグレッシブな気質のせいか、新技術の導入も早いですね。具体的には「ベータ版の許容度」でも明らかな差があります。
──ベータ版の許容度の差とは?
 新しい技術が出た際、韓国では少しでも使えそうならベータ版であっても積極的に試してもらえる。一方、日本のお客様の中には「未完成でリスクがあるから」という捉え方をする方もいて反応が遅くなりがちです。
 もちろん、日本企業の姿勢に助けられることもあります。日本では、一度「使う」と決めると愛着をもってしっかり使い込んでくださる。その上で、われわれの製品について細かなフィードバックをしていただけます。アメリカや韓国と比較すればフィードバックの量や質は日本が抜きん出ていますね。
 ただ、変化の激しい生成AI活用の世界では、新しい物事に対する日本企業の慎重さが裏目に出ているのではないでしょうか。
 近年、技術的なイノベーションはアメリカを中心に起こっています。そして、生成AIの領域では世界的に同じタイミングでイノベーションが伝播しつつあります。先端技術を活用したグローバルでの競争に追いつく、またとないチャンスなのです。他社の様子見をしながら後追いするようでは圧倒的に遅いのです。
──チャンスでありながらピンチでもあるわけですね。
 AIは少し前まで、人々がそれを使う訓練などを受けて初めて使える高度な技術でした。それがLLMでは日本語でも指示を完結できるようになり、活用へのハードルがぐんと下がりました。
 後ほどお見せするデモをご覧いただければおわかりいただけるように、人間が同じ作業をしたとしてもここまでのスピードでの業務整理と完了は不可能です。
 日本企業はデータを含め、本当にたくさんの価値ある資産を持っていますが、現状ではそれを使いこなせていません。日本企業の保有する資産を生成AIと掛け合わせれば生産性はもっと上がるはずです。

生成AI活用の前に立ちはだかる3つの課題

──日米韓の3か国で事業を展開するAllganize社から見える、生成AI活用の課題とはどのようなものでしょうか?
 われわれはこれまで、グローバルで数百社のお客様からフィードバックを得てきました。そこから見えてきた共通の課題をお話ししたいと思います。
 業務の課題を生成AIで解決しようと決めた時、次の3つの課題が立ちはだかります。
 どの企業にもChatGPTなどのLLMアプリを使い込んでいる社員は一定数います。ただ残念ながらその割合は少なく、業務の課題解決のツールとしてLLMアプリを活用できるレベルには達していないのが現状です。
 上に示した3つの課題でいえば「1. 活用できる業務領域」がわからず、生成AIをどんな業務に使えばいいのだろうとお悩みの方が多いと思います。
 たとえば、社内外からの問い合わせへの対応は重要な業務です。間違った回答をしてしまっては大変ですから多くの人材や時間をその業務にかける価値はあります。
 しかし、その中で本当に人間が対応すべきものがどれくらいあるかという点については実際のところ、技術の進化も考慮した形態でそれほど精査されていないのではないでしょうか? これは、報告書作成や契約書の一次チェック、情報の分析など、普段から時間を費やしている他の業務も同様です。
 それらを生成AIに任せれば、驚くほどの業務効率化を果たせます。
「2. プロンプトの知識」については、仮に生成AIの使い道が決まったとしても、今度はアウトプットに対するイメージや、アウトプットを得るために生成AIに的確な指示を出すプロンプトのスキルを持っているかどうかが問われます。
 しかし、その方法を社員に教えて実務に生かすまでには時間も必要ですし、教える人材の育成や採用も必要です。
 その点、高度なプロンプトの知識がなくても、人と会話するような感覚で気軽に使えるアプリがあれば生成AIの活用に前向きになれるのではないでしょうか。
 さらに「3. 自社データの活用」の観点があります。自社データを活用するには一定の環境が必要で、結果として生成AIを業務に導入する上で大きな障壁になっています。
 セキリュティの面も重要で、自社データが外部に漏れてしまう恐れがあるとして、導入を断念するケースが多いと思います。
 企業にはこれまでの活動の成果としての貴重なデータがたくさん蓄積されています。それを新しいビジネスの開拓に向けて活用しないのはもったいない。
 それらのデータを必要な時に素早くアウトプットできるように人力で整理して分類しておくのは大変です。また、業務委託でデータ管理をするのもリスクがある。
 その点、オンプレミス環境でも利用可能なLLMアプリでデータを管理するというのはひとつの有効な対処法ではないでしょうか。

面倒な作業があっけなく終わる

 では、LLMアプリがどのように動くのか実際に見てみよう。
 あなたは営業職で、見込み客との打ち合わせの議事録や打ち合わせメモから「BANTC」──Budget(予算)・Authority(決裁権)・Needs(必要性)・Timeframe(導入時期)、Competitor(競合)を抜き出す必要があるとする。
 使用するのはAlli LLM App Marketにある「BANTC作成」というアプリ。議事録の内容を入力すると、該当する情報を抜き出して自動でまとめてくれる。かかる時間はわずか1分程度。事前に設定しておけば社内で利用しているSFA(営業支援)ツールに出力結果を入力・保存できる。
 この作業を自力でやろうとすると議事録に目を通すのが面倒で先延ばししがちになり、着手しても膨大な時間を費やすことになる。しかし、アプリを使えばその作業があっけないほど一瞬で終わる。
 Alli LLM App MarketにはBANTC作成以外にもあらゆる業務領域を自動化するアプリが用意されている。
「ここまで細かなアプリを提供しなければお客様には納得して使ってもらえないという思いがあります。私たちがしっかりと準備をすることで皆様の課題解決の期待に応えたい。やれることはたくさんあります。まだまだ進化します」と佐藤氏は話す。

「オールインワン」で真価を発揮するLLMアプリ

──「Alli LLM App Market」が他社製品と違う点はなんでしょうか?
 Alli LLM App Marketでは「オールインワン」にこだわり、さまざまな職種の多岐にわたる業務上の悩みを解決するプロンプト不要のLLMアプリを100個ほどそろえました。
 個別のLLMだけがあっても、それは宝の持ち腐れになります。「これはどこで使ったらいいんだっけ?」「プロンプトどう書けばいいの?」となってしまうため、Alli LLM App Marketのプラットフォームによってアプリをオールインワンでまとめることによって業務でしっかり使える形にしました。
 アプリの例を挙げれば、メールの下書き作成、SWOT分析、契約書チェック、PR記事の下書き生成など。オリジナルのアプリを簡単に作ることも可能です。手元のファイルやSalesforce、Teamsなど、社内のさまざまなデータソースとも連携できます。
 求めるアウトプットを得ることができるよう、RAG(Retrieval Augmented Generative)や独自の認知検索技術など、精度を高める仕組みを実装していることも特徴のひとつです。
 セキュリティの面でも、プライベートクラウド環境、ハイブリッド環境などをサポートしているほか、専用LLMの開発・提供なども実施できます。オンプレミス環境でのLLMアプリの開発や運用も可能で、権限管理やアクセス管理などの各種セキュリティ機能も提供しているので万全です。
──このサービスを実際に業務に使う場合、細かい部分は自社の事情に合わせていく必要がありそうですね。オリジナルのアプリを作るとなると専門知識が必要だと思いますが。
 いいえ、専門知識は必要ありません。プロンプトについても事前にテンプレートを用意しています。アプリの裏側をお見せしましょう。これはAlli LLM App Marketの管理画面です。先ほどのBANTCアプリの中身は実はこんなにシンプルなのです。
 このAlli LLM App Builderを使えば、直感的な操作でアプリを作ることができます。メニューから「質問応答」や「LLM実行」などのアクションを選び、それぞれを矢印でつないでアプリに表示する文章を入力します。プロンプトも事前にテンプレートを用意しているので簡単です。
 また、既存のアプリをベースにオリジナルのアプリを作ることも可能です。たとえば、「インタビューの文字起こし文書からNewsPicksの記事を作るアプリを作りたい」とします。その場合、機能が近い「議事録を作成」アプリを編集し、NewsPicksの記事フォーマットを定義すればあっという間に完成です。

業務内容に適した自社専用の「頭脳」を開発できる

──LLMのモデルにはGPT-4(OpenAI)やPaLM2(Google)などさまざまなものがありますが、Alli LLM App MarketはどのLLMを使っているのでしょうか?
 マルチLLMに対応していますので課題に応じて最適なモデルを選択可能です。
 LLMのモデルこそアプリケーションの「頭脳」。現在の生成AIを用いたサービスではモデルは選べないことがほとんどです。しかし、Alli LLM App Marketでは複数のモデルから最適なものを選ぶことができます。
 言葉を処理する速度や精度、得意タスクがそれぞれ異なるため、どれを選ぶかでアプリを使った結果は違ってきます。
 われわれは各社が公開している既存のモデルに加え、金融系のお客様向けの「Alli Finance LLM」という業界特化のsLLMを開発・提供しています。もちろん、他の業界向けに専用のsLLMを開発することも可能です。
 sLLMはオープンソースのLLMを対象に特定領域のデータセットで訓練をしたものになります。sLLMはパラメータの規模がLLMより小さいものの、訓練のためのデータ・時間・費用などが比較的少なく、特定用途のAIサービスの開発に適しています。
──導入検討のためにはコストパフォーマンスも気になります。数万人規模の企業ならば生産性が上がりそうですが1000人未満の規模ではどうでしょう。
 アカウントごとの課金ではなく、月額費用で「クレジット」をご購入いただく形です。アプリの利用実績に応じてクレジットが消費され、差し引いていく方式になっています。
 消費クレジットの大きさはアプリで処理する内容や使用するモデルによって異なります。たとえばGPT-4では高度な処理ができるため、消費クレジットが大きい。それよりも処理できるトークン数などが小さなGPT-3.5では小さくなる。つまり、処理するタスクを意識しながらモデルを選択することで、コスパがよくなるようご調整いただくことが可能です。
 具体的な金額は、SaaS版では初期費用30万円、月額費用30万円から。一般的なSaaSサービスと同じようにLLMアプリを業務に活用いただけるようにしています。

生成AI、LLMアプリで生産性を劇的に変えていく

──導入企業からの反応や成果はいかがですか?
 他社に先んじて生成AIの活用に取り組み、いち早く課題に突き当たったお客様ほどすぐに成果が出ています。
 あるお客様では、マーケットでも早い時期にChatGPTを使える環境を社内公開されたのですが、当初は興味本位で多少の利用があったものの、すぐに使われなくなったということでした。理由は明確で、先に挙げた「1. 活用できる業務領域」と「2. プロンプトの知識」の問題に直面したわけです。
 お客様からご相談をいただいてAlli LLM App Market を提供したところ、営業部門での利用が劇的に活性化したそうです。
 その利用アプリの1つがご紹介したBANTCアプリです。このお客様は営業部門のリクエストでオリジナルのアプリ作成にも着手されていて、生成AI、LLMを活用した生産性向上を体現されています。
──Allganize社はいつ頃からAIによるソリューションを提供しているのでしょうか。
 2017年の創業時からAIを利用したソリューションを開発してきました。実は、われわれにとってもChatGPTの登場は衝撃だったのです。
 GPT-3から注視していたのですが、GPT-3にRLHFという技術で強化学習がなされ、SAFETY機能も搭載されたChatGPTになってここまで簡単に使えるようになるとは思っていませんでした。
 急遽、経営陣が韓国に集まって「自分たちはこれからどこで戦うべきか」「どこで勝ち筋を見つける?」と議論しました。
 現在のようにみんなが世界的に、しかも同時にAIに興味を持つ時代はそうありません。驚きと興奮の両方を感じています。
 われわれはスタートアップとしては現在「シリーズB」を経た段階です。先日、約2020万ドル(約30.2億円)の資金調達をしました。
 日本でIPOする準備にも入っており、今後の成長シナリオを描くために今回調達した資金をプロダクトのアップデートやグローバル規模での営業体制の整備に振っていく予定です。

すべてのワークフローが自動化される未来へ

──これからの目標は?
「AIによって全てのビジネスのワークフローを自動化・最適化する」というのが私たちAllganizeの目標です。その目標が「All(すべてを)+Organize(統合する)=Allganize」という社名の由来になっています。
 Alli LLM App Market はそのビジョンを体現するソリューションであり、お客様とともに課題を解決することに喜びを感じます。 
 生成AI、LLMをめぐっては、やるべきことやりたいことが本当にたくさんあります。ChatGPTが起こした時代の波に乗り、必ずやわれわれのソリューションを世界各国に届けていきたいと思います。