2023/11/11

【積極的仮眠のススメ】集中力も成績も上げるカギは「頭を横にしない」

編集者・NewsPicks
若いころは働きづめでも平気だったのが、疲れは年々たまりやすくなるもの。プロ野球・埼玉西武ライオンズの源田壮亮選手(30)も、「最近は疲れを感じやすくなった」と打ち明けます。

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本の優勝にも大きく貢献した名手が、このところ特に気にかけているのが睡眠です。結婚を機に寝具や寝室を見直し、さらに「パワーナップ」(昼寝)を欠かさないようになりました。

「積極的仮眠」とも言われ、ビジネスでも「集中力や成績が上がる」と注目されるトレンドワード。睡眠の専門家による解説も添えて、“積極的仮眠のススメ”をお届けします。
INDEX
  • 「じゃ、源さん、お先です」
  • 「23歳、ちょっと寝れば全快だった」
  • 動いた一人のベテラン職員
  • 睡眠の専門家、仮眠の鍵は「定期」「頭を横にしない」

「じゃ、源さん、お先です」

「じゃ、源さん、お先です」「早っ! 後で行くわ」
西武の本拠地ベルーナドーム(埼玉県所沢市)では今シーズン、試合開始を数時間後に控えた夕方ごろ、こんな会話が選手同士の間で交わされていました。
ベルーナドーム=埼玉県所沢市
「源さん」「源ちゃん」と、若手選手からもあだ名で呼ばれるのは、2020年からキャプテンを務める源田選手です。
入団1年目から一軍で活躍を続け、「来季中に国内FA権を取得する見込み」とされた22年11月には、球団が「5年で15億円」の大型契約を提示します。源田選手も「最後までずっとライオンズでやりたい」と応えました。
2023年のWBCでも優勝に大きく貢献しました。
侍ジャパンの栗山英樹監督(当時)が、球場視察した際には「日本で一番うまい人」と太鼓判。3月10日の韓国戦で走塁中に右手小指を骨折しながら、6日後にあった準々決勝・イタリア戦で復帰。準決勝・メキシコ戦、決勝・米国戦と、遊撃手としてフル出場しました。
松井稼頭央監督(左)と並んで練習を見守る源田壮亮選手=ベルーナドーム
西武のホームゲームでは、選手たちが正午過ぎに球場入りします。
相手チームより先に練習を終えると、ゲーム開始まで夕方の1時間半ほどが西武側のフリータイム。シャワーや食事を済ませますが、主に野手たちがベンチ裏で「お先です」と声をかけて向かったのは、「リラックスルーム」と呼ばれる仮眠室でした。
そこは関係者以外は立ち入り禁止のエリア。1カ所は屋根裏のような薄暗い小部屋で2021年のオフから、もう1カ所は選手ロッカー近くの作業部屋の一角に23年から、ともに職員が手作りで用意しました。
ライオンズの選手が試合間の昼寝に使うリラックスルーム=ベルーナドーム、球団提供
部屋はいたってシンプルです。球場にあった人工芝を敷き、ビーズソファのYogibo(ヨギボー)やリクライニングチェア。さらに簡易なパーテイションで区切っています。
「昼寝ノススメ」「昼寝の効果」「効果的な昼寝の方法」
こんなメッセージも貼られた部屋の利用ルールは、まず先着順。さらに一人「20分前後」ともしています。睡眠や熟睡はしない。あくまで昼寝や仮眠のためのスペースという位置づけです。
リラックスルームの「昼寝ノススメ」の掲示=ベルーナドーム、球団提供
源田選手によると、試合開始まで相手チームが練習するなか、自分たちは練習もシャワーも食事も終えて、「ちょうど眠くなる時間帯」だといいます。
ちょっと目をつぶるというか、10分、15分寝るぐらいな感じで始めたんですけど、すごくシャキッと体が切り替わる感覚があって。効果的だと科学的にも分かったんで、球団もリラックスルームとして作ってくれて、みんな寝られるようになったんです。
インタビューに応じる源田壮亮選手=ベルーナドーム

「23歳、ちょっと寝れば全快だった」

以前は存在しなかった昼寝のためのリラックスルーム。源田選手は、ロッカールームの椅子に少し体勢を崩して座って目を閉じたり、トレーナールームの治療ベッドで横になったりと、自分なりの工夫をしていました。
入団したころは23歳とかでしたけど、ちょっと寝れば翌日は全快ってイメージだったんです。一人暮らしのときは年齢的にも若かったんで、睡眠のことはそんなに考えてなかったです。
WBCでは右手小指を骨折しながら出場した源田壮亮選手
転機は衛藤美彩さんとの結婚、そして子どもが生まれたことだといいます。美彩さんの誘いで、専門店でベッドを寝比べて夫婦で硬さが異なるものを新たに買い、寝室も「エアコンの小さな光もふせぐように」完全遮光にしました。
睡眠の専門家によると、筋肉量が違うため、ベッドの硬さを同居者で分けるのは「正解」だといいます。
朝は一緒に起きるんですが、僕が疲労困憊(こんぱい)だったら、妻から「まだ寝ときよ」「じゃあ、あと30分、ちょっと寝る」みたいな会話をよくします。結婚もして、年も重ねてきて、“勤続疲労”もありますし、やっぱり長く現役でって考えると、睡眠ってすごい大事だなって思うようになったんですね。
キャッチボールをする源田壮亮選手=ベルーナドーム

動いた一人のベテラン職員

選手たちがシーズンを通して疲れをためすぎず、いかに高いパフォーマンスを続けられるか。鍵の一つが睡眠でした。
昼寝のためのリラックスルーム作りに動いたのは、球団勤続20年以上のベテラン職員です。
渡辺久信ゼネラルマネージャー(GM)とも話せる立場ながら、「一日一日、勝負の世界で生きているのが選手」と自らは裏方に徹しており、匿名を条件に取材に応じてくれました。
きっかけは次のシーズン開幕を控えた22年3月、廊下での選手との立ち話でした。「最近どう?」と声をかけた一人から、昼寝スペースを望む声が上がったといいます。
キャッチボール練習を終えた源田壮亮選手(右)=ベルーナドーム
ロッカールームでキャプテンの源田選手にも話題を振ると、すぐさま「作ってくれるんですか?」と好反応。レギュラー選手として連日出場するなかで、疲労が蓄積したまま次の試合を迎えており、「体のリカバリーに睡眠が大切なんです」と返ってきました。
さらに源田選手が、近くにいた中村剛也選手に意見を求めると「ヨギボー、ヨギボー」と、選手からの要望は一気に具体化します。
職員はすぐにショッピングモールに車を走らせ、両手にヨギボーを抱えて運び込みました。
初めに作った3人分のリラックススペース=ベルーナドーム、球団提供
この年は、選手3人が横になれる簡易スペースを作りました。これが好評だったため、今季は2カ所目を拡張。「階が違って遠くなると、使わなくなるから」と、ロッカールーム近くで場所を探します。コロナ禍で使わなくなっていた6畳ほどの作業スペースを活用しました。
この職員は日ごろは球場内を動き回りますが、この時間帯と場所だけは別だといいます。
なるべく顔を出さないようにしています。スタッフがのぞきにくると、監視されているようで、リラックスできないでしょうから。
オフィスで仮眠室やリラックススペースを設ける企業も増えていますが、運用面で参考にできそうです。
ベルーナドーム
阪神タイガースの38年ぶりの日本一で終わった今シーズン。
源田選手は11月6日、地元の所沢小で講演。「また日本代表のユニホームを着てプレーしたい」「ライオンズで日本一になる」と来季からへの思いを語りました。

睡眠の専門家、仮眠の鍵は「定期」「頭を横にしない」

ベストセラー『あなたの人生を変える睡眠の法則』の著者で、作業療法士の菅原洋平さんに源田選手ら西武の選手が取り入れている「パワーナップ」について解説してもらいました。
──西武の事例から、よいポイントはありますか?
菅原「計画仮眠や分割睡眠と言われる、すごくいい方法です。体に負荷が極端にかかるような格闘技の選手らがよくやる方法では、仮眠の時間帯をそろえるのがポイントです」
──「仮眠の時間帯をそろえる」とは、どれくらいの幅でしょうか?
菅原「1時間の枠内でそろっていれば大丈夫です。例えば14時から15時の間で仮眠10分間とか。夜間の睡眠を中心に考えることを『メジャースリープ』という言い方をするんですが、『どれが本番の睡眠なのかが分からなくなる』のが一番よくないです」
──ビジネスパーソンでも、「夜にあまり寝られなくて、昼寝だったら割と寝られるのに」となってしまうことがありますよね。
菅原「昼間に深い睡眠の脳波が出ているのですが、それは避けたい。眠くなってから眠ると深い睡眠に入りやすくなります。あくまでも夜を本番の睡眠にしたいので、仮眠は眠くなる前に、定期的に機械的にとることが重要でしょう」
fizkes / iStock
──仮眠は椅子で十分か、それともソファやベッドで寝たほうがいいのでしょうか?
菅原「ベッドではお休みにならないほうがいいです。夜間の睡眠の脳波をそこで使わないというのが一番重要なので、頭をなるべく倒さないほうがよくて、寄りかかっている状態が一番いいです。頭がぐらぐらすると、目覚めがすごく悪くなってしまうため、頭を固定していただきたいです。ただ、重力に対して頭が水平になると、深い脳波があっさりと出てしまうので、なるべく『頭を完全には横にしない』のが重要です」
仮眠は定期的に機械的に。そして、頭を完全には横にしない。
──頭を横にして寝ると、夜のメジャースリープになってしまうと?
菅原「はい。一方で、全然寝られない状況で、完全休養が昼の10分しかとれない、というときもあるでしょう。そういうときは完全にフラットのほうがいいんですよ。いつも『疲れを取るならば頭をフラットで、眠気を取るなら頭を縦にしてくれ』という話をしています」
    ◇
次回は、西武ライオンズの剛腕・平良海馬投手にインタビューしました。現役プロ野球選手としてYouTubeでゲーム実況をしており、「毎晩ゲームして寝たい」と話します。ゲームに限らず、「寝る前に“ひと仕事”した時のケア」は、どうすればいいのでしょう?