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3月第5週の注目ニュース(メディア・コンテンツ)

「週刊アスキー」の“紙卒業”に見る、雑誌メディアの生きる道

2015/3/31
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。火曜日は、世界と日本のメディア・コンテンツ・マーケティング関連のニュースをコメントとともに紹介します。

Pick :「週刊アスキー」、紙から卒業して稼げるのか?

ITmedia、「週刊アスキー」紙版終了へ ネット/デジタル完全移行(2015年3月31日)

3月31日、「週刊アスキー」から完全ネット・デジタル化が発表された。

「週刊アスキー」の前身は、1989年に誕生したパソコン雑誌「EYE-COM」。1997年11月の週刊化のタイミングで、「週刊アスキー」に改名された。創刊1000号を超す名門雑誌は、5月26日発売号にて印刷版の刊行を終了。6月以降は、デジタル・ネットに集中する。

「紙卒業」の理由として、ネット/デジタル版の割合が圧倒的に高くなったことが挙げられている。裏返せば、それだけ紙の部数が落ちたとも言える。

では、「週刊アスキー」の紙の部数はどれぐらい落ちたのだろうか。
 アスキー部数

日本雑誌協会のデータによると、2014年10〜12月の「週刊アスキー」の印刷部数は、96309部。6年前の186917部に比べてほぼ半減している。ただし、印刷部数はあくまで“印刷した部数”であり、実際に売れる率(実売率)はよくて6割程度。そのため、販売部数は、6万部を切っているだろう。

「週刊アスキー」などのIT系の雑誌は、デジタル・ネットと相性がいいだけに、雑誌の未来を占う上での先行指標ともいえる。IT系の情報は、ネットメディアにあふれており、紙としての差別化が難しい。むしろ、速報性に欠けるため、紙は劣勢になりがちだ。

そもそも私は、雑誌には二つのタイプの需要があると考えている。ひとつは、細切れの時間を過ごすための「ひまつぶし需要」。もうひとつは、熱狂的な読者に支えられた「ファン需要」だ。

このうち、「ひまつぶし需要」は、2007年のiPhone発売以降、完全にスマホに奪われつつある。一方の「ファン需要」はいまだに健在のため、この部分が強い雑誌は底力がある。

「週刊アスキー」の読者属性を見ると、平均年齢は41.4歳で、読者の91%が男性だ。PC世代の中年男性の人気に支えられてきたものの、そこに限界が来た(もしくは電子版への移行が進んだ)という構図が伺える。

雑誌と本の境界線がなくなる

今後の戦略として「週刊アスキー」が発表している主な戦略は以下のとおりだ。

1)電子版の発行は継続。デザインも従来の紙面デザインを踏襲

2)ネットメディア「週アスPLUS」を「週刊アスキー」に改名。

3)動画コンテンツへの注力。YouTube、ニコニコ、生中継の強化

ネットは無料コンテンツとして記事や動画の広告で稼ぎ、電子版は有料の課金により稼ぐという戦略だ。

ウェブの無料コンテンツについては、スマートニュース、グノシー、ヤフーニュースなどのプラットフォームとの連携を強化。とにかくコンテンツを拡散させて、広告で収入を得るという王道の戦略だ。

一方、有料の電子版については、「発行間隔を自在に調整する」と謳っているため、「週刊」という概念自体から卒業するのだろう。極端な話、1週間に2回雑誌を発行することもあれば、まったく雑誌を発行しない月があってもいいことになる。

これはいわば、雑誌と書籍の境界線がなくなることを意味する。雑誌と書籍の違いは、「雑誌は写真などが多いフォーマット(レイアウト)であること」「雑誌は発行頻度が決まっているケースが多いこと」などにあった。

ただし、発行頻度が電子では自由になり、電子書籍が写真、映像、音声などの活用でマルチメディア化することにより、両者の境目はあいまいになっていく。

電子雑誌であれば、毎週のタイムリーなニュースだけでなく、テーマをぐっと絞ったムック本的な内容にシフトしやすくなる。紙の週刊誌では、どんなに凝った特集を作っても、1週間すれば店頭から消えてしまうが、電子雑誌であれば、一生読んでもらうことができる。それだけに、息の長いストック型のコンテンツの価値が増す。

電子と紙の稼ぎの違い

このネット・デジタル特化戦略で、「週刊アスキー」は紙の時代を上回る収入を得られるのだろうか?

結論から言うと、売上高は紙時代を超えられないだろうが、利益を出すことは可能だろう。

ネット・デジタルでは紙や流通のコストが減る上、近年は、dマガジンなど電子雑誌プラットフォームからの収入も上昇している。dマガジンは、NTTドコモが運営する電子雑誌のサブスクリプションサービス。月額400円の会員になれば、100誌以上の雑誌が読みたい放題となる。
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dマガジンの会員数は2015年1月時点で128万に到達。会員数に月額料金400円をかけると月の収入は5.1億円。年間収入は61.4億円に上る。

メディア側には、閲覧数などに応じて、リベニューシェアされる仕組み。仮に、収入の5割がメディア側に配分されるとすると、メディアの取り分は月間2.5億円に達する。もし「週刊アスキー」がその5%を勝ち取れば、1280万円の収入だ。

それに対し、紙の場合、「週刊アスキー」の単価は400円。これに推定実売部数6万部をかけると2400万円。月換算(4週)すると9600万円となる。つまり、dマガジンから得られる月額収入の8倍となる。

この比較を見て、「やっぱり電子は紙より儲からないな」と思うかもしれない。だが、以前に比べると、電子からの収入がかなり膨らんできた印象だ。編集メンバーの数を絞って、効率的に運営すれば、黒字化することも可能だろう。

「週刊アスキー」の紙卒業は、決して後ろ向きなニュースではない。ポスト紙時代の、新しいビジネスモデルが生まれるひとつのきっかけになるかもしれない。

※Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)は毎週火曜日に掲載する予定です。