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4月第1週の注目ニュース(メディア・コンテンツ)

クリエイティブなコンテンツを創るための「5つの融合」

2015/4/7
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。火曜日は、世界と日本のメディア・コンテンツ・マーケティング関連のニュースをコメントとともに紹介します。

先日、KADOKAWA・DWANGOの川上量生会長に「ネット時代の編集者」というテーマで、インタビューする機会があった(インタビュー記事は近日公開)。それ以来、これからの時代のクリエーター像、言い換えれば「どうすればクリエイティブなコンテンツを創れるのか」について考えてばかりいた。

今週のWeekly Briefingでは、特別編として「クリエイティブなコンテンツを創るためのヒント」について思考を巡らせてみたい。

「おもしろくて、ためになる」という名コピー

今、メディア業界が大きく変わる中で、競争に勝ち抜くためのカギは何か?

その答えは、テクノロジー、コンテンツ、経営力、流通、営業力、プロモーションなどなど、たくさんある。

しかし最終的には、クリエイティブなコンテンツを創れる「個人」と「チーム」と「文化」を創りあげられるかどうかが、勝負を決すると思う。ふわふわした言葉になってしまうが、“クリエイティビティ”こそが、他者と他社に容易にまねされない、最強の差別化になるはずだ。

クリエイティブな個人は各所にいる。ただ、そうした才能をうまくチームとして機能させている例はほとんどない。もう一歩進んで、クリエイティブな個人とチームが次々と産まれる文化・風土を持っている組織は、さらに少ない。ほぼ皆無と言ってもいいい。

だからこそ、“クリエイティビティ”のある個人、チーム、文化は、圧倒的な強みになるのだ。

“クリエイティビティ”というと、「その定義は何ぞや」と質問されると思うが、話すと長くなるので、今回は深入りしない。ただ、クリエイティブとは何かを一言でいうと、「おもしろくて、ためになる」ことだと思う。この講談社が掲げる理念ほどに、簡にして要を得た、メッセージは思いつかない。

では、それほどクリエイティブなコンテンツが大事なのだとしたら、どうすればそうしたコンテンツを創れるのだろうか。私自身の仮説を「融合」という切り口から5つ紹介したい。

(1)異分野の融合

一つ目は、異分野の融合である。

これまでのメディアは、例えば経済でいうと、自動車、電機、流通、金融など、担当がかっちりと分かれていた。それは、各分野の専門性を高めるという点ではうまく機能していたし、これからもある程度は有効だろう。

しかし近年、分野の枠組みが恐ろしいスピードで溶け始めている。iPhoneなどの新たなテクノロジーは、IT業界だけでなく、あらゆるビジネスに変化をもたらしている。

今後、人口知能(AI)、自動運転車、ドローン、クラウド、ビッグデータといったテクノロジーは、国と企業と個人を確実に変えていく。そのトレンドを把握するためにも、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンといった“ネット四天王”の動きは、あらゆるメディア人にとって、不可欠な教養となる。

分野横断の典型例が自動車である。これからトヨタのライバルは、同業の自動車メーカーではなく、グーグル、アップルになっていくだろう。そんな時代において、トヨタや自動車に詳しいだけでも、グーグルやITに詳しいだけでも、的確な分析は施せない。高いレベルで両分野の知識、人脈をもっていないと鋭いコンテンツは生み出せない。

クリエイティブの一つの意味が「新しさ」だとすると、分野の融合こそが、クリエイティブなコンテンツにつながる。

(2)異能との融合

メディア業界、特に大手メディアは人材の流動性が低いだけに、どうしても人材が同質化してしまう。

テレビ、雑誌、新聞、ラジオなど、分野を横断した動きは少ないし、会社の壁を超えた付き合いは乏しい。たとえ会社を辞めた後でも、「どこどこメディア出身のなになにさん」という枕詞がいつまでも付いてまわる。

そんな現状をどう打破すべきか。

第一ステップとしては、メディア業界内で異能同士が触れ合うことが大切だ。紙、ウェブ、動画、ラジオ、テレビなど、あらゆる分野のメディア人を融合させるだけでも、相当クリエイティブなものが生まれるはずだ。

そして第二ステップとしては、メディア業界自体を超えて、異業種の“才能”たちを引き込んだり、コラボしたりする必要がある。

今、メディア業界の中で、日本テレビにもっとも勢いがあるのは偶然ではない。社内ではテレビとネットの人材を融合させ、異業種の中途採用を拡大し(リクルートなど)、Huluの日本法人やティップネスを買収したりしている。異能が出会いやすい組織になっているのだ。

目下、あらゆるメディアにとって、一番の挑戦は、コンテンツのプロとテクノロジーのプロの融合である。

KADOKAWA・DWANGOでは、編集者にプログラミングを学ばせることを義務化しているというが、これはとても効果的な取り組みだと思う。それは、各個人の差別化になるし(プログラミングができる編集者にかつて出会ったことはない)、異世界に生きているエディター、エンジニアのあいだを結ぶ共通言語を生み出すことにもつながるはずだ。

(3)異世代の融合

今のメディアは、メディアをつくる側も、メディアを消費する側も、世代のダイナミックな融合に乏しい。テレビ、新聞、雑誌はシニア世代、ウェブ、スマホは若い世代というふうに、世代が分断している。

世代の分断は心よいが、やがて飽きてくる。いくらネットの浸透で、“たこつぼ化”が進んだとはいえ、世代に共通の感覚はある。それがゆえ、同世代の付き合いはラクだが、やがて飽きてくる。

コンテンツ創りは、職人芸や人脈がモノをいうだけに、若い人間ばかり集まればいいわけでもない。いろんな世代が集まって、経験とアイデアが融合したときに、一番面白いものが生まれる。シニア世代にしか出せない“味”もあれば、若手世代にしか出せない“勢い”もある。

理想的なのは、異世代が、上下関係なくフラットにコラボするかたちだろう。異世代の融合は難しくもあるが、家庭や地域社会では普通に行われている。そうした“普通”を生み出せたところが、新しい時代のメインメディアの座を獲得するはずだ。

(4)異文化の融合

異文化の融合は一番分かりやすいと思う。異国の情報、知恵、経験、カルチャーと日本のそれを融合させるのは、古来から続く日本のお家芸だ。

ただし、海外のものをそのまま持ってくるのも、日本のものをそのまま持っていくのも、良策とはいえない。そこに一枚かんで、日本流にアレンジする、逆に、世界流にアレンジする力が求められる。

NewsPicks編集部にも、今年から外国籍のエディターが加入しているが、これまでにない融合が生まれている。チーム全体の組み合わせ、クリエイティビティが増幅しているのを日々実感できる。

メディア業界は、日本において最もドメスティックな業界の一つだ。それだけに、異文化と融合することによるプラス効果は、ほかのどの業界よりも大きいだろう。

(5)異時代の融合

人間は“現在”ばかりを見がちだが、ほとんどの出来事は“過去”とのアナロジーで語ることができる。

意識すべきは、人間、組織、社会といったものは、驚くほど変わらないということだ。そして、テクノロジーが進化すればするほど、その変わらない本質をどれだけ抑えているかが、大きな差となる。テクノロジーだけを追っていると、「新しいもの病」に侵され、本質を見失ってしまう。

今、映画プロデューサー・川村元気氏の小説『億男』が売れているが、その勝因の一つは、ソクラテス、アダム・スミス、チャップリン、福澤諭吉など偉人の「おカネに関する警句」を、随所に織り込んだことだと思う。

主人公と自分を重ね合わせつつ(主人公は3億円の宝くじを当てた図書館司書)、ストーリーを味わいながら、偉人のウンチクもかみしめられる。小説とビジネス書を一緒に読んだような感覚で、読者はトクな気分を味わえるのではないだろうか。

異時代を学ぶには、読書、特に古典を読むのが一番効率的だ。最近、教養人の先輩から「嫉妬の勉強をするために、まずシェークスピアの『オセロ』を読みなさい」とアドバイスを受けたので、今週末は早速、『オセロ』を読みたいと思う。

好奇心と教養と体力

つらつらと偉そうに持論を述べてきたが、クリエイティブなコンテンツを創ることは、最高に面白く、かつ、最高に人間臭いものだと思う。こんなにアドレナリンが出る仕事はない。知力、体力、センス、人格、運不運のすべてがモロ出しになるだけに、裸の自分が問われることになる。

クリエイティブなコンテンツを創る──そんな全人格的な営みで求められるのは、好奇心と教養と体力である。

いくら好奇心があって行動力があっても、軸となる教養がなければいい企画につながらない。いくら教養があっても、体力がなければ、酒場で人と人を結んで、企画を実行にまで落とし込めない。いくら体力があって徹夜を繰り返しても、好奇心がなければ、人をワクワクさせるコンテンツは創れない。

クリエイティブ、融合という言葉を使うと、一見格好よく、ワクワクするイメージが湧くと思うが、言うは易し、行うは難し。まずは自分の仮説をしっかり実行し、検証してみたいと思う。

※Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)は毎週火曜日に掲載予定です。