2023/11/16
やるからには、数十兆円級の「ホームラン」を目指さないと意味がない
日本のスタートアップ・エコシステムは、この10年で確かに成長してきた。しかし、諸外国との差は広がるばかり。なぜか。
そんな問いを巡りながら、日本ならではの希望と勝ち筋を探る、NewsPicks主催のカンファレンス『START UP EVERYTIME』が開催された。
カンファレンスと連動して、すべてのステークホルダーのリテラシーを上げる大型連載、題して「〝スタエコ〟の論点──日本のスタートアップ・エコシステムの論点」をお届けする。
ロールモデルの不在と「すごい」成功事例の必要性
「Web1」のインターネットはホームページの時代から、「Web2」のSNS・クラウドの時代、そしてブロックチェーンの時代へと進化しています。その時代を象徴する言葉が「Web3」。
巨大なプラットフォーマーが支配するWeb2の中央集権的な環境では様々な課題が出てきました。その解決をめざす概念が「分散化」です。
ブロックチェーンの技術を活用してインターネットに新しい力を授け、世界を変える。Web3の最前線で奮闘するStartale Labs代表の渡辺創太氏に日本のスタートアップエコシステムのこれからを聞きました。
巨大なプラットフォーマーが支配するWeb2の中央集権的な環境では様々な課題が出てきました。その解決をめざす概念が「分散化」です。
ブロックチェーンの技術を活用してインターネットに新しい力を授け、世界を変える。Web3の最前線で奮闘するStartale Labs代表の渡辺創太氏に日本のスタートアップエコシステムのこれからを聞きました。
──渡辺さんはシンガポールで、ブロックチェーン技術を活用した「Web3」の事業を立ち上げました。世界を飛び回っている様子ですね。
渡辺 ありがとうございます。代表を務めるStartale Labsでは、「Astar Network」というブロックチェーンを開発しています。Web3は基本的にグローバルが標準なので、世界各国のユーザーや企業、技術者と交流をし続けています。
──どこの国のユーザーが多いのでしょうか?
現在、50万ユーザー以上のトークンホルダーを抱えているのですが、トークンを持っている人が世界のどこにいるかはわかりません。
3週間前ぐらいまで、クロアチアで全社会議して、シンガポールで大きなカンファレンスやって、昨日まで日本にいて、今シンガポールに戻ってきて、という感じで6カ国ほどを短期間で回っていました。
どこにいっても、現地で我々のトークンを持っている人たちがいて、いろいろな会話をしながらコミュニティを作っていっています。
──いま一番力を入れているのはなんでしょうか?
今年10月にソニーネットワークコミュニケーションズと資本業務提携をして合弁会社を立ち上げ、新しいブロックチェーンのインフラを開発しています。
ソニーネットワークコミュニケーションズとスターテイル・ラボ、合弁会社を設立へ
ソニーはWeb3と非常に相性が良い会社で、取り組みがうまくいけば世界で頂点を取る可能性すらあると思っています。
成功すればStartaleの時価総額も上がっていきますし、将来的にはナスダックで数兆円、数十兆円単位の時価総額で上場を目指したいと思います。
日本の東証にも上場して、令和のトヨタやソニーと言われるような成功を目指さなければ、僕がスタートアップをやる意味はありません。それくらいのインパクトを出す覚悟を持ってやっています。
──なぜそのぐらい大きなスケールを目指そうと思うのですか?
大きなスケールの成功から逆算するアプローチで視座を上げて考えると、日々の言動から、どういう人を集めるかとか、どれぐらい資金調達をするべきか、まですべて変わってきますよね。
もちろんこのアプローチは、失敗する可能性は上がると思うんです。なんでかというと、難易度があがるから。だから現状からボトムアップのアプローチも必要。それでも、大きな成功をイメージしないと、見えないものがあるし、そこにたどり着くための努力のレベルが変わってくると思っています。
──日本からグローバルなスタートアップが生まれていない状況については、どう考えますか?
2000年以降、グローバルで成功を収めた企業は少ないですよね。その世代に憧れてビジネスを進めているのが僕らの世代で、成功事例の質や定義がどんどん下がっているように思います。
簡単に言えば、若者にとって、手が届く距離で世界で勝負している日本人のロールモデルが今いない。今の高校生や中学生からすると、孫さんは年齢も心理的な距離も遠すぎる存在です。20代〜50代ぐらいの間の40年くらいがロールモデル不在になってしまっている。
孫さんの上の世代にはソニーの盛田昭夫さんとかホンダの本田宗一郎さんといったレジェンドがいたのだと思いますが、僕らの世代が孫さんに続くような大きなチャレンジとか世界的な成功事例を作っていかないと、続く人たちが夢を描けないという危機感を持っています。
例えば僕とかが1兆円企業を作って、上場していろいろやります、みたいになったら、なんか僕にもできるかもしれないな、みたいな若い人達がもっと出てくると思うんですよね。そういう前例を作っていきたいっていうふうに思っています。
シンガポールで起業し、日本を思う理由
──日本も税制改革に取り組むなど、国を上げてWeb3に取り組もうとしていますが、日本の環境をどう思いますか?
Web3を社会に広く普及させる前提としての「規制環境」の問題は避けては通れないと考えています。
Web3を取り巻く今の状況はインターネットの世界の黎明期である「1998年」と同じようなもの。通信環境やインフラの整備などの議論が白熱していた時期なんですよね。
若き日のソフトバンクの孫さんを含むネット業界の先人たちが、政治家や各省庁とたくさん議論をして規制のありかたを考えていたはず。それと同じことが今Web3で起こっています。
僕としては、Web3に関係する規制環境を整備していくことが非常に必要だと思っています。アメリカだと起業家と政府や行政の対立が大きいところもあるのですが、日本では政府や政治家の方々がちゃんと話を聞いてくれます。
Web3やブロックチェーンの世界は新しい概念や難しい技術の領域も多く、話をしても「わからない」と言う方も多いんですけど、関心のある方は本当に良く勉強されていて理解もしていただけるので話しやすいですね。
ただ、日本での暗号資産に対する税率は国際的に見ても非常に高い(住民税や復興特別所得税を合わせた場合の最大税率は約55%)ので、日本がWeb3でグローバルで勝ちにいきたいのなら、まずはここから変える必要があると思います。
──グローバルな視点から見て、日本でWeb3に取り組むメリットはなんですか?
先ほどお話した業務提携をしているソニーも大企業ですが、高圧的な姿勢でスタートアップを潰しにくるようなことはまったくなく、我々の事業の将来性を理解してくれて、一緒に成長できる仕組みや座組で一緒に仕事をさせていただいています。
日本社会は対立を好む環境ではないので、お互いのいいところを出し合って一緒にいいものを作りましょうという合意になることが多く、やりやすいですね。
アメリカのWeb3業界では「国家は敵だ、大企業は敵だ!」みたいな極端な思想を持った人も多いのですが、僕はWeb3を国家や企業と協力しながら社会に普及させていく、いわゆる「マスアダプション」が最優先だと思っています。
──渡辺さんはなぜWeb3領域に賭けたんでしょうか。
当時、AIで起業することも考えました。ただAIやデータ量がものをいう業界ですから、英語圏のプラットフォーマーに勝つのは難しいし、世界で1番を目指そうとするとインフラコストだけで数千億の費用がかかります。
量子コンピュータや核融合も、設備から作ろうとすると数千億円かかります。そんな中で、日本がグローバルで勝負できて、しかも相性のいい領域の一つがWeb3なのではないかと考えています。
Web3の場合は、まず第一に初期参入コストが非常に低い。また、データそのものを分散化してしまう技術なのでデータを囲い込む必要はないんですよね。コミュニティを日本で作り始めるのではなく、最初からグローバルの環境で作ることができるのです。
アメリカ一強の市場にはならないというフラットさもポイントです。
──シンガポールで起業されましたが、もはや日本人であることに囚われないということはないですか?
やはり日本人であることは自分の強みだと思っています。例えば、世界中どこに行ってもソニーの製品を目にするんですよね。クロアチアではプレイステーションの広告が出ているし、プロジェクターもソニー製品だったりする。
先人がグローバルな市場で道を切り拓いてくれたから今の日本の国際的な地位の高さがあると思います。日本という国への信頼度が高いので、日本人が世界のどこへ行っても入国や旅行で苦労はしないですよね。
僕らがそういった恩恵に預かれるのは、何十年も前にグローバルで勝負をしてしっかりと結果を残したソニーの盛田昭夫さんみたいな人がたくさんいらっしゃったからだと強く思うんです。世界で尊敬される日本人や日本企業があったから。
しかし、ここ数十年はそういう企業が生まれていないのはまずい。このままでは世界の中での日本の存在感や信頼度が落ちていってしまう。そうすると、僕らが当たり前に得られている便益とか恩恵を孫の世代とかは受けられなくなってしまう可能性があるわけですね。
「日本は昔すごかったらしいけど、今は大したことないよね」みたいに思われてしまうのがとても悲しい。そういう時代の変化を自分ごととして考え、動いています。
幸いにも僕はグローバルで挑戦できるチケットにありついた立場だと思うので、もしかしたら失敗する確率のほうが高いけど、時価総額がすべてではないにしてもホームラン級の数兆円とか数十兆円級のすごい世界を目指したい、目指さないといけないという使命感があります。
後に続く人たちのためにも、結果を出したいです。
📍Startale Labs渡辺創太氏も登壇。大型カンファレンス「START UP EVERYTIME」の情報は👇
取材:樫本倫子
デザイン:月森恭助
編集:千代明弘、中島洋一
デザイン:月森恭助
編集:千代明弘、中島洋一
〝スタエコ〟の論点
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