2023/10/5

【納得】もう「体に良い」にだまされない

近年、医療は目覚ましい進歩を続けており、新薬や新たな治療法、健康管理のセオリーなどが、日々アップデートされています。
だからこそ、「健康のために」やっていることが、実際に私たちの身体にどのような影響や関連があるのかしっかりと見極めることが重要です。
今回は、NewsPicksでプロピッカーとしても活躍する山田悠史さんの人気トピックス「その論文が世界を変える」より、身近な健康に関するテーマの記事を厳選してご紹介します。
山田さんのトピックスでは、1年間で50万を超えるといわれる医療論文の中から、独自の観点と読者のニーズを踏まえて選択した論文のエッセンスを紹介しています。
健康に対するアプローチの方法に唯一つの正解はありませんが、実際に行われた研究から得られた結果を元に自身の健康を考えることは、明日からの生活を見直す有効な手段となるはずです。
INDEX
  • 乳製品と健康の意外な研究示唆
  • ビタミンCの有効性から考える「健康の常識」
  • ビタミンDサプリは本当に必要か
  • 日々の飲み物、気になる健康への影響
  • 人工甘味料は砂糖の健康リスクを解消するのか

乳製品と健康の意外な研究示唆

乳製品は体に良いという意見もあれば、体に悪いという意見もあります。
体に良いという意見は、主に「骨の健康」に良いという見方です。乳製品には、カルシウム、リンが豊富に含まれ、さらに米国ではビタミンDも添加され、これらの栄養素が骨を丈夫にし、骨粗鬆症の予防に役立つ可能性があるとされています。
一方、体に悪いという意見は、乳製品の乳脂肪が動脈硬化を加速し、心筋梗塞や脳梗塞を増やすのではないかという主張です。
今回は、乳製品と健康について、「悪い」という側の主張の真相に迫ろうとした研究をご紹介します。
この研究では、2,000人近くの参加者を、「乳製品を多く摂取している人」と「乳製品をあまり摂取していない人」に分けて、それぞれのグループを追跡して、心臓の病気がどちらに多く発生するのかを調べました。
また、この研究では、「乳製品」と括るのではなく、「ミルク」、「バター」、「チーズ」をそれぞれ別々に観察しました。
結果は、バター、ミルクでは、一定の摂取量までは心臓の病気リスクが減少し、その後増加するというU字型の関連性が観察されました。
一方、チーズでは、摂取量が増えれば増えるほど、心臓の病気リスクが減少するという直線的な関連性が観察されました。
van Parys A, Sæle J, Puaschitz NG, et al. The association between dairy intake and risk of cardiovascular disease and mortality in patients with stable angina pectoris.
しかし、だからといって、この研究で示された関連性をもとに「バターとミルクは少量に控え、チーズをたくさん摂取しよう」という結論を導くことはできません
その理由は、第一に、この研究が「コホート研究」と呼ばれるタイプのもので、因果関係には言及できないこと。第二に、細かく食品の摂取量を追跡できているわけではないこと、などが挙げられます。
コホート試験とは、研究者は参加者に何も介入せず、それらの人たちをただただ追跡していくものになります。
そのため、仮に乳製品と心臓の病気に関連があったとしても、被験者が「心臓の病気のリスクが高いから乳製品を摂取しなかった」という逆の関係性がありえます。
あるいは、「乳製品を多く摂取している人は、実は肉も多く摂取していて、結果として肉が原因で心臓の病気が増えた」というように、調査結果に別の要因が挟まる可能性がありえるので、因果関係を示すことはできないのです。
しかし、この研究によって、同じ乳製品でも「バター」、「ミルク」、「チーズ」で異なる結果が出たということは興味深いところです。
チーズを増やすとなぜリスクが低下したのか、なぜバターやミルクでは同じ結果が起きなかったのか。色々な想像をかきたててくれる研究です。
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ビタミンCの有効性から考える「健康の常識」

ビタミンCは皆さんが最も馴染みがあるビタミンだと思います。
清涼飲料水やサプリメントなどでもよく見かけるビタミンで、美容にも効果があると言われています。
ビタミンというのは、その定義上、生物の生命の維持のために必須であるものの、体内で十分合成することができず、体の外から摂取してこなければならない有機化合物です。不足してしまえば、健康への影響は不可避なものです。
ですが、ビタミンCは、よほどの偏食がなければ欠乏することが難しいビタミンでもあります。にもかかわらず、ビタミンCをサプリメントなどで摂取することは「体に良い」というイメージが最近では常識とさえなっています。
では、実際のところはどうなのでしょうか。
本日ご紹介する研究(LOVIT試験)は「敗血症にビタミンCは有効か」に答えようとした論文になります。世界で最も権威のある医学雑誌の一つ、NEJMに掲載をされています。
敗血症とは、感染症が全身に広がった結果、感染に対する反応が制御不能な状態に陥り、命をおびやかすような複数の臓器の障害が起こった状態を指します。
感染症の中でも最も重い状態と捉えていただければ良いと思います。

この重い感染症で、臓器に障害が起こるプロセスの一つに「酸化ストレス」が挙げられ、「抗酸化物質」にはそれを食い止める可能性が期待されています。
その抗酸化物質の代表例がビタミンCです。

実際、敗血症を起こした人のビタミンCを調べてみると、そのレベルが低下する傾向が見られることが過去に報告されていますので、ビタミンCを投与すれば敗血症の治療に役立つのではないかと考えるのは自然です。
研究では、まず18歳以上の敗血症で集中治療室に入院となった患者を対象にしました。
この患者たちが1:1にランダムに割り付けをされ、片方のグループには「1日体重あたり200mgのビタミンCが4日間投与」されました。
もう片方のグループには「ビタミンCの注射と見分けがつかないプラセボ(ビタミンCを溶解するために用いた、ただの食塩水またはブドウ糖液)」が同じスケジュールで投与されました。
その後、28日目時点での患者の死亡または持続する臓器障害に両グループの間でどのような差が見られるのかが評価されました。
Unsplash Marcelo Leal
結果は、全体で863人のアウトカムが評価されましたが、ビタミンCのグループでは全体のうち44.5%で死亡または持続する臓器障害が見られたのに対して、プラセボのグループでは38.5%にとどまりました。
また、死亡でみると「ビタミンC投与群」で152名(35.4%)、「プラセボ群」で137名(31.6%)となり、この結果は、多くの医療者、そして何よりこの研究を行った研究者たちに衝撃を与えました。
これは「ビタミンCが人助けをするかもしれない」と予想して行われた研究でしたが、結果は、良かれと思って投与されたビタミンCによって、「効果がない」ばかりか、より多くの人の健康を害したり命を奪ったりすることにつながってしまったのです。
私たち医療者の間でもよく、効果の明らかでないビタミンの話題になる際に「ビタミンはまず害にはならないし、迷ったら飲んだらいいのでは?」というセリフが出てきます。
しかし、「害がない」と言うのにも科学的な証明が必要で実際には逆に「害になる」ということもあるのです。
また、ビタミンCの副作用として、過剰摂取で腎臓結石のリスクが高まるといったことも知られています。
ただ、この研究結果はあくまで「敗血症に対するビタミンC投与の影響」を示したものであって、この研究結果から、「風邪でもビタミンCが害になる」などといったことが言えるわけではないことに注意してください。
それを言うためには、それを示す試験結果を用いる必要があります。
この研究から学びになることは、あなたの身近な「常識」に疑問を投げかけ、そういった「常識」との接し方に冷静さをもたらしてくれるということだとだと思います。
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ビタミンDサプリは本当に必要か

米国では60歳以上の3人に1人以上がビタミンDサプリメントを内服しています。
また、年間で1000万回以上ビタミンDの血液中の濃度を確認するための血液検査が行われています。
この理由は、ビタミンDが少なくとも細胞レベルで多くの臓器で働くことが分かっていたからです。そして、過去の観察研究では、実際にビタミンDの血液中の濃度が低いことと骨粗鬆症や心臓の病気のリスクとが密接に「関連すること」が示唆されていました。
しかし、「関連がある」ことと「因果関係がある」こととは大きく異なります。
言い換えれば、「AとBに関連がある」ことは、「Aが原因でBになる」とイコールではないのです。
前者には、例えば「Bが原因でAになる」という因果関係逆転の可能性も、「Aは原因ではないが、Aがある人に多いCが原因でBになる」という可能性なども含まれるからです。
そこで、因果関係を証明するには、「ランダム化比較試験」が必要です。
このランダム化比較試験では、条件の揃った2つのグループをそれぞれ 「Aを摂取してもらうグループ」と「Aとは似て非なる何の効果もない偽物を摂取してもらうグループ」に分けます。
そして、Aを摂取したグループでBが多くなるかを評価するのです。AのグループでBが多くなれば、「Aが原因でBになる」ということになります。
今回取り上げた「ビタミンD投与」についても、種々の因果関係を証明するために、このランダム化比較試験が行われてきました。
しかし、結果は、がん、心臓や血管の疾患、転倒、認知機能障害、脳卒中などについて、ビタミンDを投与しても減らすことを示しませんでした
Unsplash CHUTTERSNAP
また、最近報告された、中高年25,000人以上を動員したVITAL試験と呼ばれるランダム化比較試験では、5年ほどの観察期間でビタミンD投与の結果「骨折が減るのか」が評価されました。
こちらも、ビダミンDの投与によって骨折の数には差が見られませんでした。年齢や性別、ビタミンDの血中濃度別に見てみても同様で、やはり差は見られませんでした。
この結果から、「骨の健康のためにとりあえずビタミンD」といったサプリメントの使い方には、現時点であまり意味が見出せないと考えられます。
さらに、ビタミンDにも副作用があります。投与量を間違えなければ起こるリスクは低いですが、マルチビタミンなどとで結果的に多くのビタミンDを摂取してしまえば、血液中のカルシウム値が上昇することで、意識を失ってしまうなどの重篤な症状につながることもあります。
こうした現状を踏まえると、冒頭で記載した「米国で60歳以上の3人に1人以上の人がビタミンDを飲む状況」はおそらく無駄があると言えそうです。
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日々の飲み物、気になる健康への影響

毎日何年も続ければ1日に飲む100ml程度の飲み物でさえ、健康や老化のプロセスに影響を及ぼすことになるかもしれません。
今回は、そんな疑問を解決しようと行なわれた研究をご紹介します。
この研究では、飲み物を飲む習慣と「テロメアの長さ」の変化との関連性を評価しています。
「テロメア」とは、人の遺伝情報が詰まった染色体の末端にある構造を指します。このテロメアには、染色体を保護する役割があると考えられているのですが、この長さが加齢とともに短縮し、テロメアの短縮と細胞の余命が関連することが知られています。

このことから、テロメアの短縮は生物学的な老化や余命を反映するものと考えられているのです。
研究では、50代前後の1,952人の被験者を対象に、飲料(緑茶、コーヒー、ソフトドリンク)を飲む習慣について尋ねます。また同時に、採血を行い、血液中にある白血球のテロメアの長さを測定します。
そして、その6年後にも再び採血を行ない、白血球のテロメアの長さを再測定しました。最終的に6年前と比較して、テロメアの長さにどのような変化があったかを評価します。
また、結果の解析は、年齢、BMI、喫煙、飲酒、運動習慣、糖尿病といった因子が「交絡因子」として調整をされています。「交絡因子」については、以下の簡単な模式図をご参照ください。
作成:山田悠史
結果は、1日1杯以上の緑茶を飲む習慣がある人は、緑茶を全く飲まない人と比較して、テロメアが長く、緑茶の摂取量とテロメアの短縮の間には逆相関が見られていました。
また、この相関は女性で比較的若い50代の層で強く見られていました。
そして、女性に限定されるものの、ソフトドリンク摂取量とテロメアの短縮に順相関が見られていました。
なお、コーヒーでは、こうした関連は見られませんでした。
つまり、女性で緑茶を飲む習慣が生物学的な老化に保護的に働く可能性があり、ソフトドリンクを飲む習慣は老化を促進する可能性があることが示唆されました。
Unsplash Sixteen Miles Out
しかし、この研究はテロメアの短縮(しかも、白血球のテロメアの短縮)を見ているに過ぎず、実際のところ老化との関連があるのかを示してくれるものではないことに注意が必要です。
加えて、飲料の習慣はテロメア短縮を評価される6年前のアンケートで評価したものであり、その6年間に同様の習慣を継続した「保証」はありません。飲み物の好みがこの間に変わっていることも十分考えられます。
このように、この研究から「飲み物と老化の関係」を導くことは難しいものの、「飲み物でも私たちの老化に影響を及ぼしているかもしれない」という気づきを与えてくれるには十分なものではないかと思います。
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人工甘味料は砂糖の健康リスクを解消するのか

皆さんは甘いものはお好きですか。
世間では、何かと甘いものの取り過ぎはよくないと言われますね。
そこで今回は、砂糖、人工甘味料、果物について、イギリスのBMJと呼ばれる医学雑誌に掲載された、「メタアナリシス」と呼ばれる手法を用いた論文から、砂糖含有飲料、人工甘味料含有飲料、フルーツジュースそれぞれの消費量と2型糖尿病の発症との関連性についての研究をご紹介します。
この研究では、1日あたり平均的に250ml飲む習慣がどのくらい糖尿病リスクと関連するのかを推定しています。
250mlというのは、500mlのペットボトルで半分です。「コーラのペットボトルを1日半分飲む習慣」、「コーラ・ゼロのペットボトルを1日半分飲む習慣」、「100%フルーツジュースを同じ量飲む習慣」と置き換えても良いかと思います。
結果は、「1日あたり250mlのコーラを飲むグループ(実際には、砂糖含有飲料)」で18%、「コーラ・ゼロ」で25%、「フルーツジュース」で5%の「糖尿病発症増加との関連」を認めていました。
また、肥満の影響を調整してみるとそれぞれ13%、8%、7%という数値となりました。
Unsplash i yunmai
これらの数字から言えることは、「どの飲料を選んだとしても、習慣的に飲んでいる場合、2型糖尿病の発症リスクにつながる」という結論が導かれます。
そして、2型糖尿病は、「しめじ」(神経、目、腎臓)に代表される各臓器の障害につながる生活習慣病の一つです。防げる部分があるのなら、防ぎたい病気です。
また、こういった研究を根拠にすれば、砂糖の摂取は抑えるのが望ましいとされ、人工甘味料なども「良い置き換えにならない」かもしれない可能性が考えられます。
ただし、あくまでここでは「習慣」的な摂取について論じており、たまに楽しむスイーツを否定するものではありません。
私も、この原稿を書きながらピスタチオのモンブランを楽しんでいます。
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身近な健康に関わるテーマの記事を5本ご紹介しました。皆さんの健康に関する常識はどのくらい変わったでしょうか。
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