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予想外のコストカットに、ほくそ笑むオーストラリア

AIIBに「後出しジャンケン」で参加の豪州、約4760億円を節約か

2015/3/27
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。Weekly Briefing(ワールド編)では、世界で話題になっているこの1週間の読むべきニュースを各国のメディアからピックアップします。

加わるべきか、やめるべきか、それが問題だーー。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐり、豪州、日本、韓国などが直面している課題だ。

その期限は、3月31日。これを過ぎると、原加盟国にはなれない。

中国が一番の輸出先であるオーストラリアは、3月25日、AIIBに参加する“覚書”を結んだ。だが、同国は中国がAIIBにどれくらい組織運営上の権限を有するかについて懸念があるため、まだ公式参加を発表していない。

一方で、イギリス、フランス、イタリアやドイツなど、オーストラリアより中国と関係の薄い欧州の国々は、いち早くAIIB参加を表明した。オーストラリア国内外メディアは、オーストラリアの動きの遅さを批判している。

しかし実際には、決定を延期したことにより、オーストラリアは思いがけない「利益」を得るかもしれない。

Pick 1:AIIBに加盟する条件

From BBC.

AIIBに参加するには、contingency reserve(偶発損失積立金)としてcallable capital(請求払資本)を調達するか、あるいはAIIBに直接投資するかが条件だと議論されている。

当初、中国はAIIBの初期資本を500億米ドル(約5兆9770億円)に設定しようと提案した。そして、長期的には、1000億米ドルまで増資することを計画している(ちなみに、米国がリードする世界銀行とアジア開発銀行の請求払資本は、それぞれ2230億米ドルと1550億米ドル)。

AIIBの初期投資は、公平性を持たせるため、参加国の国内総生産(GDP)の規模に応じて分担することが基本合意されている。しかし、その額は、名目GDPと購買力平価(PPP)のどちらを基準にするか、現時点では決まっていない。ちなみに、先進国はPPP方式を採用すべきだと主張している(参考までに、IMF(国際通貨基金)は、名目GDPとPPPを5対5の割合でミックスした方式を採用している)。

もっとも、この方式を適用することには課題もある。なぜなら、PPP方式を採用すればするほど、新興国の負担割当が増え、先進国の割当が減るからだ。例えば、名目GDPで計算すると、インドの負担金のシェアは約6%となるが、名目GDPとPPPの半分と半分のミックス公式で計算すれば、その割当が約10%になってしまう。

Australian Prime Minister Tony Abbott meets Chinese President Xi Jinping in Sydney.

Australian Prime Minister Tony Abbott meets Chinese President Xi Jinping in Sydney. (Reuters/Aflo)

Pick 2:豪州は土壇場参加で4760億円を得する?

From AFR.

3月31日までに、オーストラリアが韓国や欧州各国と共にAIIBに加盟した場合、上記に述べたミックス方式で計算すると、オーストラリアのcallable capitalはAIIBのトータルの約3.5%となり、その金額は約18億米ドル(約2150億円)に達する。

一方、GDPの規模が大きい欧州主要国が参加しないという想定で、名目GDPを基準に計算した場合、オーストラリアの請求払資本は40億米ドル(約4760億円)に達すると、オーストラリアの主要メデイアが一斉に報じた。つまり、オーストラリアは22億ドル近く“節約”できたというわけだ。さらにAIIBの参加国が増えれば、その“節約額”はさらに大きくなる。

確かに、オーストラリアの“初動”が遅かったことは、外交的に気まずいものだった。しかし、欧州各国のAIIB参加を、オーストラリアが密かに喜んでいることは明白だ。また、オーストラリアは、名目GDPが同国の3倍の日本に対し、AIIB加盟を最近しきりにアピールしているが、その背景にも、両国の友好関係以外の理由があると感じずにはいられない。

Pick 3:払込金額の流れはまだ不明、アジアの各国に圧力をかけ続ける

From AFR.

オーストラリアがAIIBに拠出する資本は、オーストラリア政府の予算から直接供出するわけではない。オーストラリアのJoe Hockey(ジョー・ホッキー)財務相は、3月25日、Australia China Business Council(豪州中国ビジネス協議会)で、その点について繰り返し強調した。

Callable capitalの大半は、偶発損失積立金としてキープする一方で、AIIBはこれを担保に、マーケットで資金調達する。もっとも、paid-in capital(払込み済み資本)とcallable capitalは個別に管理する必要がある。

AIIBのpaid-in capitalは20%となる計画で、新興国の銀行の自己資本比率より高いと言える。20%に設定した背景には「設立後のインパクトを大きくする」「盤石な資本の基盤を整える」という狙いがある。

中国は、表向きには「AIIBはアジアのための銀行だ」と公言しており、最近、非アジアの参加国の資本負担を、合計で最大25%にとどめるとほのめかしている。

ただし実際には、名目GDPベースで計算した場合、加盟表明済みの欧州各国の合計負担額は25%を超えている。PPPとのミックス方式で算出しても、25%ぎりぎりといったところだ。仮に米国やカナダが加盟を表明したとすると、25%を大きく超えてしまい、「アジアのための銀行」という大義名分が崩れる可能性が出てくる。

オーストラリア政府はAIIB参加をさんざん“逡巡(しゅんじゅん)”してきたが、最終的には同機関に参加するだろう。となると、今後AIIBは、「アジア枠」として加入したオーストラリアに、より大きな出資を求めていくだろう。これからオーストラリアは、“アジア人”としての責任を試されることになるのかもしれない。