(ブルームバーグ): 日本銀行は31日、2013年1-6月の金融政策決定会合の議事録を公表した。大胆な金融緩和政策を掲げる当時の安倍晋三政権下で3月に就任した黒田東彦総裁は、4月会合で「黒田バズーカ」とも呼ばれた量的・質的金融緩和を導入した。実験的な異次元緩和は、短期決戦との当初の意気込みとは裏腹に、10年後、植田和男総裁に引き継がれることになる。

「できることは全てやる。戦力の逐次投入は避け、目標をできるだけ早期に実現することを目指すべきだ」。4月3、4日の黒田体制での初会合。金融政策運営の議論は、議長を務める総裁が委員に先立ち自身の考えを表明するという異例の幕開けとなり、「具体的な期間は2年程度を念頭に置いている」とまで踏み込んだ。

同時に就任した2人の副総裁も総裁に追随する。積極的な金融緩和を重視するリフレ派を代表する経済学者で、安倍首相の信頼が厚い岩田規久男氏は、「金融政策がレジームチェンジして2%を2年程度で達成する」とのコミットメントの重要性を主張。日銀理事から昇格した中曽宏氏も、漸進的な政策アプローチからの転換を強調した。

会合後の会見で黒田総裁は、物価2%を2年程度で達成すると宣言し、2を並べたパネルを掲げて大規模緩和を説明した。高揚感に包まれてスタートした緩和策だが、物価目標を実現できないまま、形を変えて長期化する。後任の植田総裁は28日、現行のイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策の柔軟化措置を決定。複雑化した緩和策を解きほぐす作業に着手した。

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デフレ脱却を掲げて12年12月の衆院選で大勝し、政権を奪還した安倍首相は、日銀に対して物価目標と大胆な金融緩和の導入を求めた。日銀は翌年1月22日の会合で、当時の白川方明総裁の下で2%の物価安定目標を導入し、目標の早期実現を明記した政府との共同声明を結んだ。

安倍首相から新総裁に指名された黒田氏は、3月20日に就任する以前の国会での所信聴取でも、2%の物価目標の実現に向けて国債買い入れを中心とした大規模な金融緩和の必要性を主張。白川体制下で最後の3月7日の会合では、白井さゆり審議委員が期限を定めない長期国債の買い入れを提案するなど、黒田体制下での大規模緩和導入は既定路線になっていた。

アベノミクス

4月4日の会合では大規模緩和導入を前提に議論が進むが、佐藤健裕審議委員は、期待に働き掛ける政策について「効くか効かないか、いずれにせよギャンブル性の強い政策となることは覚悟すべきだ」と指摘。白井委員も「実験的な面があるとは思う」と述べた。

具体的な規模に関して、石田浩二審議委員は、市場に緩和出尽くし感が醸成されるほどの圧倒的なものにするべきだと主張。その上で「先行き漸進的な緩和拡大策を取り得ないであろうと市場に思わせることが重要だ」と語った。

 柱となる国債買い入れは、年間の残高増加ペースとして30兆円、40兆円、50兆円の3案を執行部が提示した。雨宮正佳理事は、最大の50兆円が買い入れの「限界を超えるか超えないかというあたりだと思う」と説明した。

宮尾龍蔵審議委員が、2年程度という物価目標の早期達成を念頭に置く中で、「最大の額である年間50兆円に相当するペースで国債買い入れを増額することでよいのではないか」と述べるなど、多くの委員が50兆円を支持。マネタリーベースと長期国債・上場投資信託(ETF)の保有額を2年間で2倍に拡大する異次元の緩和策を全員一致で決定した。

委員の意見が分かれたのは、異次元緩和の継続期間だ。木内登英審議委員は、大規模緩和の長期化は市場機能を低下させ、財政ファイナンスの観測を浮上させるリスクが高いとし、公表文の「2年程度の期間を念頭に置いて」との記述を削除することなどを提案したが、反対多数で否決された。

公表文では、2%の物価目標を安定的に持続するために「必要な時点まで継続する」こととしたが、中曽副総裁は、政策委員が「何とか2年でやり遂げるという気持ちを共有」しているとの認識を表明。石田委員も「われわれは2年間でやり遂げるということで出発する」と短期決戦の意向をにじませた。

アベノミクスの第一の矢として金融政策のレジームチェンジを印象付けた大規模緩和は、過度な円高・株安を是正し、市場安定に効果を発揮した。しかし、肝心の物価目標は実現できず、14年10月には国債保有の増加ペースを80兆円に拡大する追加緩和に追い込まれる。9人の政策委員のうち4人が反対する薄氷の決定だった。

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