2023/7/31

Zoomはもう「会議ツール」だけじゃない

NewsPicks Brand Design editor
 コロナ禍を機に、業務になくてはならない存在となったZoom。一方で、Zoomを“単なるオンライン会議ツール”と認識している人は多いかもしれない。
 だが、その認識を真っ向から否定するのが、Zoomの日本法人であるZVC JAPAN代表取締役会長兼社長の下垣典弘氏だ。
 Zoomの進化のキーワードは、「AI」。リアルタイム翻訳の開発を手掛けるスタートアップなど、AI関連の企業を次々と買収しているほか、今年3月には、ChatGPTを開発したOpenAIとの提携、5月には同じく生成AI開発企業のAnthropic(アンソロピック)との提携も発表した。
 ZoomとAIを掛け合わせることで、私たちの働き方、暮らし方をどう変えるのか。下垣氏が、Zoomが描く未来像を語る。

老若男女に愛されるプラットフォーム

──コロナ禍を機にオンラインコミュニケーションが定着し、Zoomも私たちの生活にすっかり浸透しました。この数年をどう振り返っていますか?
下垣 まず、ここ数年を通して非常に誇りに思うことがあります。それは、子どもからお年寄りまで、誰に会っても「Zoomのおかげで、すごく助かっているよ」と言っていただけることです。
 その中には、「コロナ禍だったけれど、Zoomを使ってリモート結婚式を挙げられました」「入院していた祖母に、Zoomでお見舞いができました」など、重大なライフイベントに関わるお話をしてくれる人も。
 こんなにも多様な人たちに受け入れられ、あらゆるシーンで活躍しているプラットフォームは、なかなか例を見ないのではないでしょうか。
 コロナ禍で起きた最大の変化は、人々のマインドチェンジではないかと考えています。
 たとえば、リモートワーク。わざわざ満員電車で通勤する必要のない世界を体験したことで、私たちの“当たり前”は大きくアップデートされました。
 コロナ禍が収束に向かい、「原則出社」に戻す企業も増えていると聞きますが、一度変わってしまった価値観はなかなか元には戻らない。「自分の働き方は、自分で決めたい」と考える人は、若手を中心に増えていると感じます。
 そんな状況で、Zoomはどのような支援ができるか。これは我々の大きなテーマの一つです。

「Zoom=会議ツール」の時代は終わった

──一方でコロナ禍が収束に向かい、オンライン会議の機会が減るなか、Zoomの存在感は薄れてしまうのではとの声もあります。
 確かにZoomを単なるビデオ会議ツールだと思っている人は多いかもしれませんが、Zoomは、皆さんの仕事や生活を根本から変えるサービスに進化しています。
 その方向性の一つが、「プラットフォーム化」です。
 2022年には、従来からのオンライン会議に加え、チャットやメール、インターネット電話、ホワイトボード、カレンダーなどをワンストップで利用できる、「Zoom One」をリリースしました。
 さらに、コールセンター向けソリューション「Zoom Contact Center」の提供も開始しました。これを使えば、ビデオ通話やチャット、電話などの多様なチャネルを臨機応変に使い分け、コールセンターとお客さまが最適な形でコミュニケーションできます。
 Zoom Oneのポイントは、仕事上のあらゆるコミュニケーションを、Zoomのコアである「会議」を起点に滑らかに連携できる点です。
 たとえば、社内のグループでチャットしている際に、「これ、口頭で話した方が早くない?」と誰かが言い出す。そんなときも、別で会議を立ち上げる必要はありません。Zoom Oneなら、ボタン一つでチャットからオンライン会議に、瞬時に切り替えることができます。
 他にも、意外と時間を取られる会議の日時調整も、Zoom Oneを使えば簡単。参加者全員が空いている日時をZoomが各自のスケジュールを見て自動で提案。参加者はカレンダーから瞬時にオンライン会議に参加できます。
 これはほんの一例に過ぎません。あらゆる機能を一元化することで、社内・社外のコミュニケーションは見違えるほど円滑になるはずです。
 こうしたプラットフォームがあれば、「出社orリモート」といった二元論でなく、リモートながら対面のような滑らかさがある、そんなハイブリッドな選択肢も提供できると考えています。

AIが議事録作成から営業サポートまで

──一方で、ビジネスプラットフォーム領域には、競合も多く存在します。どのように差別化を図るのでしょうか。
 やはり、仕事の中心は、人と人のコミュニケーションです。ですから、質の高いオンライン会議を実現できる技術を持つことは、すでに大きな強みだと考えています。
 さらに、鍵を握るのは「AI」です。ZoomはこれまでもAIへの投資や技術開発を、2011年の創業当時から進めており、フェデレーテッド(連合する)アプローチをとっています。会議中のノイズの少なさや画質の高さといった品質面も、実はAIの技術に支えられています。
 そのAI機能が今、さらに進化しています。今年3月には、ChatGPTを開発したOpenAIと提携を発表。すでに生成AI技術を組み込んだ機能も、実装されているのです。
──Zoomに生成AIが組み込まれると、何ができるようになるのでしょう?
 わかりやすいのは、オンライン会議の内容を要約してくれる、議事録作成機能です。実はこの機能、重宝するのは会議終了後だけではありません。
 たとえば、1時間の会議に丸々参加できず、後半から一人だけ遅れて参加する、なんてこともありますよね。そんなときも、AIが「こういった課題が話し合われていましたよ」と要約して教えてくれます。会議に遅れて入っても、状況を即座に把握できるのです。
 さらに会議が終了した後、取引先にフォローアップのメールを送ることもあるでしょう。そのメールの文案まで、AIが考えてくれます。
上記機能は英語版でフリートライアルを提供中(一部今後のロードマップを含む)
 それだけではありません。AIが皆さんのスキルアップを手助けしてくれるのです。
──AIが社員のスキルアップをサポートする?
 ええ。これは、営業担当者向けのIQ for Sales(注)というサービスに備わる機能です。
 具体的には、営業担当者がZoomでお客さまと商談した際に、録画の内容をAIが分析。「会話の73%はあなたが話していました」「1分間で10ワードを話していました」といった客観的なデータを示してくれます。
 そういった定量的なデータをもとに、「もっとお客さまの話を聞かなくては」「もっと落ち着いて話そう」といった改善ができる。つまり、AIが営業スキルを伸ばすコーチになってくれるのです。
「AIにコミュニケーションの何がわかるんだ」と思う人もいるかもしれません。ですが、こういった客観的なデータは、意外と先輩からのアドバイスよりも受け入れやすいのではないでしょうか。
注:日本語版はベータ版で展開中。
IQ for Salesのイメージ。自身が話していた割合や、話すスピードを定量的に知ることができる。
──次々とAI機能が追加されていますが、根底にはどのような開発思想があるのでしょうか?
 私たちが大切にしているのは、AIへのフェデレーテッドアプローチという考え方です。これは、製品やサービスを開発する際に、他社のAIモデルも組み込める柔軟性を持たせようという、我々の姿勢です。
 というのも、これからは多くの企業が、多様なAIモデルを打ち出してくるはずです。なかには他社のモデルを組み込んだ方が性能が上がる、そんなケースも出てくるでしょう。
 そうなれば、ZoomのAIモデルだけを使うことが、お客さまにとって最善とは言えません。だからこそ、お客さまを囲い込むのではない、カスタマイズ可能な開発思想を掲げているのです。
7月7日に行われたイベントでは、新たに提供開始となったコールセンター向けソリューション「Zoom Contact Center」のほか、Zoom Virtual Agentや Zoom One、Zoom IQやZoom Eventsなど、新しい製品群が紹介された。

生活に欠かせないプラットフォームへ

 私たちは、今後あらゆる領域にZoomが浸透していく未来を描いています。
 事例としてわかりやすい領域の一つが、医療です。
 実は米国の医療現場ではすでに、Zoomの導入が進んでいるんです。何に使われているかというと、従来のナースコールの代わり。音声通話よりもビデオ通話の方が、患者の状況をより正確に把握できるためです。
 日本でも救急医療の現場で運用が始まっており、病院にいる医師がZoomを介して患者本人の状態を確認し、どの病院に搬送すべきかを判断する取り組みが行われています。
 Zoomが貢献する分野は、さらに広がっています。海外ではテスラやメルセデス・ベンツのEV車にも、Zoomが搭載されているんですよ。
 自動運転の浸透が予想されるこれからの時代は、車の中での時間の過ごし方が変化していくはずです。車の中で音楽を聴くのと同じくらい、同僚とのオンライン会議に参加したり、家族と通話したりすることが、当たり前になると予想しているのです。
 さらに、地方自治体との取り組みも始まっています。
 すでに我々は10以上の全国の市町村と包括連携協定を結び、Zoomを社会基盤として活用するモデル地域を作って様々な施策を実行しています。
 高齢者は、仕事を辞めて人との接点を失ったことをきっかけに、認知症が始まるというケースも多いと聞きます。裏を返せば、より多くのコミュニケーションの機会があれば、もっと健康的で豊かな老後も作れるのではないか。
 そんな切実なコミュニケーションの需要に、Zoomが一端を担えると考えているのです。
 単なるビジネスツールにとどまらず、日本の将来を支える社会インフラになること。これが我々の見据えるZoomの未来像です。
 Zoomのカルチャーは“Delivering Happiness(すべての人に幸せを届ける)”です。あらゆる個人が働きやすく、暮らしやすく、幸せを感じられる社会を実現する。そんな未来をデザインしていきたいと思っています。