スペイン総選挙、右派勢力は過半数届かず-社会労働党が盛り返す
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中道右派国民党と極右ボックス党の連立が懸念されていたスペイン総選挙でしたが、ぎりぎりのところで現政権が維持されるかもしれません。国民党のフェイホー党首の麻薬密売人マーシャル・ドラドとの過去の付き合いや女性蔑視の発言などが直前になって報道されたこともあり、右派は予想されていたよりも少ない議席に甘んじました。極右ボックス党も前回の選挙で獲得した52議席よりもはるかに少ない33議席。国民党と合わせても176議席の過半数にわずかにとどかない169議席ほどになることが予想されています。
NewsPicksトピックスで連載中の「宗教とグローバル社会」の最新の記事にも書きましたが、すでに地方議会で成立している国民党とボックス党の連立が今回の選挙で成立していたら、LGBTQ+やフェミニズムやイスラム文化などを否定する反自由主義的(illiberal)な社会になることが懸念されていました。
もちろん連立への議論はこれからですが、懸念されていたような右派連立政権の成立はさけられたかもしれません。フランコ体制の記憶が新しいスペイン社会において、極右への傾倒を避けたいという強い思いや国民党党首のスキャンダルなどが理由となり、今回の選挙結果になったのでしょう。
最新記事にもかきましたが、イタリアやハンガリーやフィンランドやスウェーデンなどの例からもみえるように、極右政党の台頭がめざましいヨーロッパですが、スペインはなんとかその流れを止めることができたかもしれません。引き続き連立の構想から目が離せません。争点は、中道右派の国民党(PP)と極右のVOXの両党で過半数を超えることが出来るか、でした。両党が右派連立を組めば、政権交代となるためです。
最終的に、サンチェス首相を擁する中道左派の社会労働党(PSOE)が支持をやや盛り返したようですが、スペイン政治の安定を考えると、PPとVOXによる連立政権の方が望ましいようには考えられます。
PSOE政権に対する不平不満は多くあるでしょうが、2021年のエネルギーショックは大きかったはずです。風力発電の不調に伴い、スペインは他のEU諸国に先駆けてエネルギーショックを経験しました。ロシア発のエネルギーショックの影響は軽微にとどまりましたが、この再エネ偏重路線に対する有権者の反発は強いと考えられます。
もちろん、それ以外のイシューも多くありますが、このエネルギー供給に端を発した物価高騰の問題は、かなり尾を引いていると私は見ています。PPとVOXによる連立が組まれた場合は、再エネ偏重と裏腹の関係にある脱原発にも、修正が入ると予想されます。
逆に、PSOEを首班とする連立政権が成立すると、PSOEは政治の安定のために極左・環境政党の意見をかなり飲み込む必要があります。そうすると、再エネ・脱原発路線が加速する可能性が高まりますし、その他のイシューに関しても現実路線のPSOEと理想路線の極左・環境政党との間で不協和音が高まり、政策停滞に陥る公算が大きくなる。
こうした流れが来年の欧州議会選、再来年のドイツ議会選にどのような影響を及ぼすか、注視したいところです。スペインでは、2019年に2回総選挙があり、その結果、社会労働党政権が成立していました。
今回の総選挙の解散前は、下院350議席のうち、社会労働党は120議席でした。第2党で野党の国民党は88議席でした。
スペインでは、2大政党のいずれも過半数には程遠い議席数でした。
これは第3党としてVox(解散前は52議席)が議席を伸ばしてきた結果でもあります。
また、今回の総選挙では、社会労働党よりも左の左派が結集したSumar(統一)も議席を伸ばしています。
スペイン、イタリア、フランスあたりの国は、多政党が乱立しつつも、左派と右派の潮流がはっきりしていて、左派連合か右派連合の連立政権が成立しやすいです。
Voxは、もともと国民党から分派してできた政党ですが、
・より中央集権的(バスク地方やカタルーニャ地方の独立運動が強いスペインでは、重要な政治課題です)
・キリスト教主義
・反中絶
・ムスリム移民追放
・国内的には自由主義的な経済政策(法人税減税)
などの特徴を持っています。
今回は、国民党+Vox=169、にはなりますが、過半数の176にはなりません。
一方、社会労働党+Sumar=153
バスク、カタルーニャ諸政党合計=27程度
なので、社会労働党政権が続く可能性もあります。
バスク、カタルーニャ諸政党は、Voxとは絶対に組みません。