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電通、博報堂、リクルート、東急エージェンシーの採用戦略

顔採用、コード採用、肉採用。優秀な学生を釣るあの手この手

2015/3/11
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、注目ニュースをピックアップ。水曜日は、ワークスタイルに関わるニュースをコメントとともに紹介します。

2016年卒業予定者の就職活動が、本格化し始めた。今年の就活は、就活生の母数自体が減っているのに加え、業績回復した企業を中心に各社人事の採用意欲は高く、売り手市場と予測される。

実際、「リクナビ2016」のプレオープン版にインターンシップの情報を掲載したのは、約2700社に上り、リクナビ史上過去最高の数字だった(東洋経済オンライン「就活、売り手市場でも油断できない理由」より)。

もっとも、2016年卒の採用は以前の採用とは違う、新風が吹き始めている。そのトレンドの一つは、採用直結型インターンシップなど、ナビサイトを頼らずに、自社が欲しい人材だけを狙い撃ちする戦略だ(詳しくは先週のWeekly Briefing「リクルーター復活、トンガリ採用…2016年卒「就活」5つのトレンド」を参照ください)。

そこで、今週のブリーフィングでは各社が趣向を凝らす、一風変わった「狙い撃ち採用最前線」についてリポートする。

Pick 1:東急エージェンシーの「顔採用」の狙いとは?

これがホントの、顔採用” 東急エージェンシー

(出所)東急エージェンシーの採用サイト

(出所)東急エージェンシーの採用サイト

3月6日、大手広告代理店の東急エージェンシーは2016年卒業予定の採用にあたり、Webコンテンツ「これがホントの、顔採用」を発表した。

独自に開発した顔分析システムにより、就活生の顔タイプを「のんびり顔」「心配性顔」「せっかち顔」「よくばり顔」「こだわり顔」の5つの顔に大別。

「心配性顔」には「面接5分延長戦」、「のんびり顔」には「エントリーシートの締め切りに1週間のロスタイム」、「よくばり顔」の人には「面接を独り占めする権利」などを用意する。

一部IT企業などで盛んに行われているとちまたでやゆされる「顔採用」(その真偽は定かではない)を逆手にとって、「これがホントの、顔採用」と銘打つとは、ユーモアと皮肉が効いている。

しかし、なぜ、このような突飛な採用活動を始めたのか?

ズバリ、それは「焦り」ではないか。SPEEDAによると、東急エージェンシーは今、国内業界ランク6位だ(参考:広告経済研究所・2013年主要広告代理業売上高ランキング)。おそらく最も欲しい学生を電通、博報堂に取られる辛酸も舐めてきたのではないか。だが、東急エージェンシーは元々、ウィットにとんだ広告クリエイティブでは定評のある会社だ。最近では、「キューピー3分クッキング」をパロディ化したNTTドコモのCMが話題だ。

どこの広告会社も、ましてや上位に優秀な人材を持っていかれがちな企業にとって、このようなエッジの立った広告を発想できる「とがった人材」は、喉から手が出るほど欲しいはず。よって、そんな人の心に“刺さる”採用をPR目的で仕掛けるーー今回の「顔採用」には、そんな背景があるのではないか。

Pick 2:電通「バックドア選考」、リクルート「グローバルエンジニア採用」など「コード選考」広がる

広告会社最大手電通、そして博報堂も斬新な採用戦略を用意する。優秀な新卒エンジニアを獲得するための「コード採用」だ。

同様の取り組みは、昨年のリクルートの夏期インターンシップの選考でも採用された。

その代表的なやり方としては、東急エージェンシーの「顔採用」同様、まず会社側がインターンシップ応募の告知Webコンテンツを用意。そこに、コードを解読せよといった指令が書かれる。そして、そのコードを読み、正解した人間だけが選考にパスする仕組みだ。

博報堂については、本採用の筆記試験においても、「暗号解読問題」を選択することができる。

しかし、なぜ、今、広告代理店やリクルートなどは新卒エンジニアの採用に心血を注ぐのか? 広告代理店デジタル局勤務の社員を直撃したところ、このような回答を得られた。

「周知の通り、広告会社やリクルートなどにはビッグデータが集まっている。データサイエンティストなど、データを有効活用できる人間はもちろん欲しい。これに加えて、外注エンジニアをうまく使える人、さらにはデジタルを活用して面白い企画が出せる人が、全然足りない。是が非でも引っ張りたいというのが、今の広告会社の現状だ」

例えば、電通は昨年、アイルトン・セナが鈴鹿サーキットで達成した当時世界最速ラップをムービーや3DCGを駆使して再現したデジタル広告「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」が、「第61回カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」のチタニウム&インテグレーテッド部門にてグランプを受賞するなど賞を総なめにした実績がある。

「広告会社は、願わくば、このような画期的なデジタルクリエイティブを作れる人が、三顧の礼で迎え入れたいほど欲しい。だが、一般的に、デジタルクリエイターやエンジニアの多くは、エンジニアのど真ん中であるグーグルだとかマイクロソフトの研究所あたりに行ってしまう。だがら、これまでは『IT系』と思われなかった電博・リクルートのような企業も、『IT系』の強化が必須になってしまった今、急いで『IT系』人材に振り向いてもらえるような採用広報をやっているのだ」(前出・広告代理店デジタル局勤務社員)

なるほど。納得のいく話だ。では、実際にその成果は出始めているのだろうか。このテーマについては引き続き、取材していく予定だ。

Pick 3:優秀な学生を肉で釣る。「ニクリーチ」採用

ニクリーチ2016” ビズリーチ

候補者が将来的に本当に活躍できる人材か——。その本質を見分けるには、面接以外のカジュアルな場で腹を割って話す作戦が有効だ。特に、人は美味しいものを食べると、胸襟が開く傾向にある。そんな人間の本性を捉えるマッチングサービスが登場した。人材紹介会社ビズリーチが仕掛ける「ニクリーチ」だ。

参加企業は「ニクリーチ」に登録した学生の中から、気になる学生をスカウト。これに学生が承認すれば、企業は学生に肉料理を食べさせながら話を聞くことができる。

私は、実際にこの「肉面接」に参加した理系学生の話を聞くことができた。肉料理を囲みながら和やかな雰囲気で、その会社の話を聞くことができたようだが、特に魅力を感じなかったため、その企業の門戸をたたくことはなかったと言う。

エンジニア系新卒にとって空前絶後の、売り手市場時代。優秀なエンジニア候補人材には、このような「食い逃げ」も許されるようだ。

※Weekly Briefing(ワークスタイル編)は毎週水曜日に掲載する予定です。