2023/7/14

【世界55位】世界最高の投資家ランキング「マイダス・リスト」に選ばれた初めての日本人VC

2023年5月、毎年世界最高の投資家100人を選ぶ米フォーブスの「マイダス・リスト」が発表されました。2021年に初めて日本人VCとしてランクインした中村幸一郎さん(Sozo Ventures)が55位に選出。2021年の72位、2022年の63位からさらにランクアップを果たしました。

トピックスでも「世界最高のベンチャーキャピタリスト2023」や「【Midas List 2023】世界最高のVCが集まる招待制ディナーに行ってきた」など関連の記事が公開されましたが、今回はこのランクインを記念してNewsPicksトピックスを運営する中村さん、小原嘉紘さん(Sozo Ventures)、そして平川凌(NewsPicks)が鼎談。

「マイダス・リスト」選出の背景やスター投資家たちに並ぶ成果を出すSozo Venturesのチームプレーについて明かします。
INDEX
  • 世界最高の投資家ランキング「マイダス・リスト」
  • スーパースターたちの世代交代
  • 「VC」という仕事の面白さ

世界最高の投資家ランキング「マイダス・リスト」

(Getty Images/SOPA Images)
平川 中村さんは2021年に世界最高のベンチャーキャピタリストを決める米フォーブスの投資家ランキング「マイダス・リスト(The Midas List)」 で72位にランクイン。しかも、日本人として初めて選出されてから3年連続での掲載となります。まずあらためて「マイダス・リスト」とはどんなものなのか教えていただけますか。
中村 マイダス・リストは、基本的に「どの企業に投資したか」「どのタイミングで投資したか」のかけあわせで作られた絶対額の価値を計算して出されています。5年以内に上場、または2億ドル以上の買収、あるいは未上場で4億ドル以上の価値がつくといった想定リターンを算出するんですね。この基準はヒット率ではなく絶対額なので、たくさんの企業に投資しているほうが当たりを引く確率は高い。
つまり、ファンドに歴史があればあるほど、ファンドサイズが大きければ大きいほど、有利だと言われています。さらに、一部の象徴的な案件に投資していると、高く評価される傾向があります。
平川 例えば、どんな企業ですか?
中村 ByteDanceCoinbaseNubankAirbnbDoorDashFigmaといった企業ですね。マイダス・リストにランクインしている人を見てみると、ほとんどがこれらの企業への投資で評価されています。特にニューカマーとなるファンドが新しいVCに所属している場合はそうですね。またこうした有名な案件に投資していたとしても、上場直前に滑り込みで入る場合はあまり影響がありません。
小原 新興のVCがランクインするには投資したラウンドがいつなのか、というのはかなり重要ですね。例えば、Forerunner Venturesというコンシュマー分野の代表的なVCのパートナーでBtoC分野の女王と呼ばれているカーステン・グリーン(Kirsten Green)は、ユニコーンになったデジタルバンク「Chime」、卸売のマーケットプレイス「Faire」にシードラウンドで投資したことが評価され、今回59位にランクインしていました。
カーステン・グリーン(Getty Images/Kelly Sullivan )
中村 ある程度事業が軌道に乗ったグロースステージで投資した場合には、ある程度大きな額の投資をしなければ、ランクインはかなり難しいですね。フォーブスに提出するサーベイで、どの時点でいくら投資したのかを厳密に答えさせられるんです。その調査とフォーブス側がすでに持っているデータとを引き合わせて、どれくらいの株式価値を生んでいるかを計算しているようですね。
小原 米フォーブスのマイダス・リストが信用されるのは、主要トップVCファンドに網羅的にLP出資しているオルタナティブ資産管理のTrueBridgeCapital Partnersと共同制作していて、整合性や順位の妥当性をチェックできるからですね。
平川 中村さんは2021年で72位にランクイン。2022年は63位、2023年は55位にランクアップしています。Sozoにとってどんなインパクトがあるのでしょうか?
中村 最初にランクインしたときのインパクトとしては、今まで話したことがなかったような金融機関や投資家から「1回話を聞いてみたい」と、問い合わせがきましたね。あとは、イベント登壇やメディアからコメント依頼が来たり。FacebookでEmergence Capital(2003年創業ながらSalesforceやZoomなどのSaaS投資で実績豊富なVCの1社)の共同創業者、ジェイソン・グリーン(Jason Green)さんからおめでとうとメッセージが来たのは嬉しかったですね(笑)。
小原 特に北米でのVC業界においては、もともとフィル(・ウィックハム。Sozo Ventures共同創業者)が有名人でトップティアのVCとのネットワークを強く持っていました。だからマイダスのランクインによって関心が高まったのはファンドに出資していただくLP側だった印象がありますね。
僕が印象的だったのは、中村さんの師匠的存在でベンチャーファイナンスの分野で著名なシカゴ大学のスティーヴ・カプラン(Steven Neil Kaplan)教授が、シカゴ大学での講演で中村さんのランクインをすごくうれしそうに話していたこと。こんなVCファイナンスの権威も、教え子のランクインをうれしく感じるんだなと、素晴らしい瞬間に居合わせたなと思いました。
中村 マイダス・リストは、50位ぐらいになってくると、僕から見ても「天上人」みたいな印象。だから2023年に55位までランクアップしたことには自分でもびっくりでした。
小原 中村さんは3年連続のランクインなので、レセプションなどでももう周囲からの見られ方が「あのSozoのナカムラだ」という感じになっていました。「日本どう?」とカジュアルに聞かれたりしていました。
平川 日本人では唯一のランクインですから、まさに日本の代表ですね。先ほどファンドの規模が大きく歴史が長いとランクインに有利だとおっしゃっていましたね。そういう意味ではSozoは……?
中村 そう、Sozoはまだまだ歴史が浅いですし、2号ファンドは2億ドル規模だから「こんな小さいファンドでマイダス・リストに載るのはすごい」と言われたりしました。僕たちと同じく3億ドル規模のファンドを運用しているPear VCも、そういった意味で注目を集めています。
ただSozoについては、僕個人の名前がマイダス・リストに掲載されましたが、明確に誰の担当案件というのはなく、Sozo全体約40人のチームプレーだと思っています。

スーパースターたちの世代交代

平川 チームプレーをするにあたり、何か意識していることはありますか?
中村 この業界は構造的に、ファンドに伝説的なスーパースターが現れると世代交代が難しくなります。起業家や成長著しい企業からすると、スーパースターに自分の案件を担当してほしい。そうすると、案件がその人に必然的に集中していく。そうなると若手がブランドを作りにくくなります。変化が起きるのは、下の世代が育たない中で世代交代の局面に差し掛かったり、そのファンドの得意な領域から注目産業自体が別領域にシフトしてきたタイミング。そこでトップVCが入れ替わる、ということが起こり得ます。
平川 世代交代ができず、ファンド全体の名声も失ってしまう。それは大きなリスクですよね。
中村 スーパースターの時代が終わっても続く組織を作るというのは、多くのVCが持っている課題です。さっきお話したEmergenceは、新規案件は新しい世代の担当者が担当するように切り替えているんですよ。例えばジェイソン・グリーンやゴードン・リッター(Gordon Ritter)のようなスター。彼らは創業者だけれど、サポートに徹して、新しい世代の人たちを前面に出してバチッと切り替えている。
個人のエゴよりも組織を重要視することは難しいでしょうし、「俺もまだやれる」という個人としての思いもきっとあるはず。でも、そこで教育をして引き継ぐことで新しいスターが作られていくというのは、考えられた仕組みだなと尊敬しています。
平川 Sozoも、フィルさんと中村さんというスターがいる会社です。世代交代は可能だと思いますか?
中村 そうですね。世代交代をするパートナーを何年計画で採用する……ということを進めてはいますが、私たちもちゃんとやっていかなければいけないと思っているところです。ただSozoって、全部の案件にみんながちょっとずつ関わっているんです。フィルと、マイダス・リストに載った僕の名前が目立っているけれど、実は個人の割合は小さいファンド。だから事実上の世代交代が起こったとしても、案件を取ってくる能力や成長に寄与する能力は比較的落ちないだろうと考えています。
平川 個人的に面白く感じているのが、他のVCはどこも「この分野だったら〇〇さん」というように、業界と担当者がセットだと思うんです。マイダス・リストに載っている面々も、その分野の投資のトップスターという印象があります。Sozoはどうなのでしょうか?
中村 面白い視点ですね。フィルは戦おうと思ったら戦えそうですが……正直に言うと、マイダス・リストに出てくる人たちは超人エリート(笑)。アメリカ社会、グローバル社会の中でも総合格闘技で一番強い人たちが集まっているような世界です。普通の日本人がこの人たちと張り合って競争してもたぶん勝てません。Sozoのモデルの大前提は、こういうひとりで戦っても勝てない超人にチームワークで勝つことです。

「VC」という仕事の面白さ

平川 なるほど。個人事業主的なVCでは、案件の成功と自分の成功が紐づいていますよね。お金であったり、社会的評価だったり……。チームでやっているSozoのみなさんは、どのようなことを目指して投資しているんですか?
中村 VCってすごく面白い仕事。めちゃくちゃ面白いアイデアを持っているスーパーエリートの人と会って、その人たちの話を聞いて、応援したり一緒に夢を見たりできる職業なんですよ。しかもそれを高速回転できる。Coinbaseのエキサイティングなところを一緒に経験したあとに、Zoomの急成長期に関わることもできる。そうした経験をさらに次の企業のメンバーにシェアすることができる……そういう経験をしてしまうと、もうやめられない仕事ですよ。マイダス・リストに載っている人はみんな、金銭的には一切働く必要がない(笑)。でもそういう経験がとにかく楽しくてやっているんだと思います。
小原 わかります。お金だけ出すというようなスタンスのVCもいるけれど、世の中のVCの大半はそれ以上の感覚で仕事をしているんじゃないかな。
(Getty Images/Future Publishing)
中村 ただこの仕事の難しいところは、結果が出るまで何が正しい方向なのか誰もわからないところ。どんなに頑張って努力したとしても、突然めちゃくちゃひどいことになったり、もうダメだと思ったら大復活したり……そういう不安に耐えられる人じゃないと、おかしくなってしまう。そして僕らの意思決定が、すべてをかけてすごいことをやろうとしているスーパーエリートの人生を変えてしまうことがある。それはプレッシャーがあるし、不安になることもありますね。
でもそこは「これはロングタームゲーム、マラソンゲームだから、一喜一憂してはいけない」と自分にもチームにも言い続けています。何年かかるかわからないこと、フィードバックがいつどう来るかわからないことに耐えられる精神状態を保ってやれることを周りの意見に惑わされずコツコツとやっていく。耐えられない人は耐えられないと思います。
小原 世の中で起こりそう、かつ自分たちが信じている世界を実現するために、まだデータとして確立していないものを試行錯誤しながら取りに行く。中村さんが言ったように、一喜一憂せずに、ロングタームで、起業家と並走しながらバリューを作っていく集団がVCなのかなと思いますね。