2023/6/30

【必見】DX人材がローカルで働くメリットとは

NewsPicks Brand Design シニアエディター
 駅から少し歩けば、波一つ立たない穏やかな瀬戸内海が広がり、水平線の先には大小さまざまな島々が浮かぶ。
香川県高松市の高松港頭地区「サンポート高松」(写真提供:(公社)香川県観光協会)
 そう、ここは日本一面積が小さな県、香川県の高松市。
 この地に7月、日本アイ・ビー・エムデジタルサービスが、先進テクノロジーを活用した高度なシステム開発と運用の拠点「IBM地域DXセンター」を開設する。
 フルリモートの体制で、高松のDX案件のみならず、首都圏や海外の大型案件にも携われるという。
 食やアートを中心に観光地として知られる香川だが、実は生活の拠点としても評価が高い。
 家賃相場が低いほか、子育てのしやすさにも定評がある。有効求人倍率も高く、昨年度も全国平均を上回っている(※1)。
 住みやすく働きやすい地域だが、さらなる発展にIT産業の拡大が不可欠として、香川県と高松市は日本IBMを誘致した(※2)。
 IT、特にDX関連の仕事は都市部のイメージが強いが、高松でDX人材として働くことの醍醐味とは。
 池田豊人・香川県知事、大西秀人・高松市長、日本IBM取締役副社長執行役員の加藤洋氏、日本アイ・ビー・エムデジタルサービス代表取締役社長の井上裕美氏に話を聞いた。
※1 令和5年3月の有効求人倍率は全国平均1.32倍、香川県1.49倍。令和4年度においても香川は年間を通じて全国平均を上回っている。

※2 香川県、高松市、日本IBMは2023年3月1日に立地協定を締結、「IBM地域DXセンター」を高松市に新設することを発表した。

日本IBMはなぜ高松に?

──日本IBMはこの7月、高松に拠点を開設します。進出の決め手は何だったのでしょうか。
加藤 まずは災害が少ないという土地柄です。
 災害が少なければ業務の継続性が保たれますし、何より社員の安全が確保される。高松には以前から魅力を感じていました。
 そんな中で池田知事と大西市長とお話しする機会があり、デジタル化の推進によって新たな香川・高松像を描こうとするお二人の姿勢に共感し、この地に拠点を構えることを決断しました。
1990年日本IBM入社。主に金融業界のITスペシャリストとして、システム開発・保守に携わる。2019年5月より専務執行役員グローバル・ビジネス・サービス事業本部(現IBMコンサルティング事業本部)本部長に就任。コンサルティング、システム開発・保守や、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)、アプリケーション・マネージメントなどの領域で顧客の企業変革を支援。IBMコーポレーション(米国)の経営執行委員。2023年1月に日本IBM取締役副社長執行役員に就任。
──高松市のデジタル化の現状はどのようなものでしょうか。
大西 高松市は国からスマートシティ(※)の指定を受け、2017年より150社ほどの企業と官民協働で地域のデジタル化を進めています。
 いわば町の「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」ですね。
※国土交通省によると、スマートシティは「都市が抱える諸問題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画・整備・管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義される。
1959年8月、香川県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧自治省へ入省。その後、北海道地域振興室長、自治省税務局税務企画官、島根県総務部長などを歴任し、2006年、総務省情報通信政策局地域放送課長を最後に、総務省を退職。2007年5月より高松市長に就任。現在5期目。
 代表的な事例を挙げますと、道路台帳や都市計画情報など行政が保有するインフラ情報をデジタル化し、どなたにもご利用いただけるオープンデータとして公開しました。
 また、各種の行政サービスを民間の決済アプリを通じて提供する仕組みの実証などにも取り組んでいます。
 これらの事業は、国がデジタル化で地方創生を促す「デジタル田園都市国家構想」の推進交付金の対象に選ばれ、最も評価の高い「TYPE3」に認定されました。
──地方都市の中ではデジタル化が進展している地域ということになるかと思いますが、課題もあるのでしょうか。
池田 なんと言っても人材の県外流出ですよね。
香川県高松市生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻修了。1986年建設省(現 国土交通省)入省。国土交通省関東地方整備局道路部長、国土交通省大臣官房技術審議官、国土交通省近畿地方整備局長を歴任し、国土交通省道路局長を最後に退職。日本製鉄株式会社顧問を経て2022年9月から現職。
大西 現状、県内の18歳で大学進学を希望する人は、約8割が県外に出ていってしまいますから……。
池田 香川県では今、「せとうち企業誘致100プラン」と題した企業誘致施策を推進していますが、それは新たな産業の創出が地域の発展に欠かせないからです。
 特に誘致を強化しているのが、若者の就業率が高い情報通信関連産業。
 日本IBMさんが高松に進出することで、若者の雇用創出やデジタル人材の増加などが進むことを期待しています。

DX人材は働く場所に縛られない

──高松でITの仕事に就くことへのイメージを持てない若者もいるかもしれません。「IBM地域DXセンター」では実際どのような仕事をするのでしょうか。
井上 日本アイ・ビー・エムデジタルサービスは、システム開発を中心にお客様のDXを実現する会社です。
 IBM地域DXセンターでは、金融、製造、公共、公益、流通、ヘルスケア・ライフサイエンスなど幅広い業界のお客様を対象に、社会インフラともいえる大規模なシステム開発から、DXを促進するアプリケーションの開発まで、さまざまな案件を手がけており、リモートでサービスを提供しています。
2003年日本IBM入社。官公庁業界を中心としたお客様のコンサルティング、システム開発、保守運用に携わる。 官公庁業界のリーダーを経て、2020年7月より日本IBM執行役員および日本アイ・ビー・エムデジタルサービス代表取締役社長に就任。2022年4月、日本IBM取締役に就任。専門領域は基幹系およびDXに関わるシステム全般、プロジェクトマネジメント。若手技術者や女性技術者コミュニティなど、さまざまなコミュニティ活動を実施し、プライベートでは二児の母。
 高松のIBM地域DXセンターにこれからご入社いただく方には、ITスペシャリスト、アプリケーション・プログラマーとして開発や保守、運用などの領域をお任せしたいと思っています。
 要件定義などの上流工程から、設計・開発業務、さらにはリリース後のテスト・運用にいたるまで、あらゆるフェーズに携わっていただくことになります。
 リーダー経験をお持ちの方には、プロジェクト・マネジメントや技術の責任者としてプロジェクトのリードもお願いしたいと考えています。
Galeanu Mihai / iStock
 お客様については、高松の地元企業の皆様はもちろんですが、首都圏を含めた国内や国外のお客様も担当します。
 そして地域では、まだご一緒したことがないビジネスパートナーの皆様もこれから開拓し拡大していく予定です。
──高松を拠点にしながら、首都圏や海外のプロジェクトに関われるのでしょうか。
加藤 関われます。コロナ以降、我々はデジタル空間に強制的に“移住”させられ、オンラインでプロジェクトを進めるスタイルが浸透しました。
 例えば、高松に本店がある百十四銀行様のスマートフォンアプリを日本IBMで開発しましたが、このプロジェクトはリモートで進められ、開発チームは四国とは全く別の場所にいます。
 こうした開発スタイルは、アフターコロナの世界においても大きく変わることはありません。
 今やエンジニアは技術があれば、どこにいようと世界中のプロジェクトに携われる時代。それは高松の拠点でも同様です。
井上 とはいえ、IT技術はどんどん進化していくので、あらゆる技術者が学び続けなくてはなりません。
 その点、IBMグループにはグローバルで共通化された教育プラットフォームがあり、学習コンテンツが潤沢にあります。
 新人もシニアも自律的に学び続けるのがIBMの文化。もちろん高松でもスキルアップしていただけます。
 職種ごとにキャリアアップするためのロードマップもあるので、何を学べばよいかわからないと迷ってしまうこともありません。
 例えばアプリケーション・プログラマーとしてご入社された方に、アプリケーション・プログラマーのリーダーとしてのキャリアを、また将来的にITアーキテクトやプロジェクト・マネージャーなどのキャリアを歩んでいただくことも可能です。
──IBMではキャリアアップもスキルアップも勤務地に縛られることはない、ということでしょうか? 都市部でITの仕事に就いている人の中には、地方に移ることに不安を感じる人もいそうです。
井上 少なくともIBMでは、暮らしている場所による業務内容の違いはありません。
 今やワークとライフを両立できる時代です。
 ワークに縛られるかたちで都市部に住んでいるなら、地域の豊かさに触れながら仕事をする──そんな選択肢もあることをお伝えしたいです。
 香川・高松は豊かな自然に加え、アートをはじめとしたさまざまな文化が発達した地域ですから、この地で働くことはウェルビーイングの向上にも寄与すると思います。
1段目:瀬戸内国際芸術祭2010で制作されたジャウメ・プレンサ「男木島の魂」 Photo: Osamu Nakamura(写真提供:香川県)
2段目左:香川名物の讃岐うどん
2段目右:映画『世界の中心で、愛をさけぶ』のロケ地にもなった皇子神社(以上写真提供:高松市)
池田 実際この辺はとても住みやすい土地なんですよ。
 加藤さんからもお話があった通り、何より香川は自然災害が少ない。地震を体感することもまれで、自然災害被害額の少なさは全国3位(令和2年調査時点)です。
 これは居住者にとっては心強い事実だと思います。
大西 高松で言えば、コンパクトなエリアの中で都市機能と自然が調和しているのも魅力の一つです。
 車で30分も行けば、海、山、街、島のどこへもアクセスできますし、市の中心部には全長2.7kmに及ぶ八つの商店街が連なり、買い物には不自由しません。
多くの人で賑わう高松丸亀町商店街G街区(写真提供:高松市)
 また、子育て支援として18歳に達した日の最初の年度末まで子供の医療費を無料にするほか、多子世帯への保育料の負担軽減などにも積極的に取り組んでいます。
井上 住みやすくて、働きやすい地域ですよね。
──なるほど。では、IBM地域DXセンターで働くことにはどのような魅力や醍醐味がありますか?
加藤 一番の醍醐味は「共創」を通じて大きな喜びを得られることだと考えます。
 地域DXは、産官学で連携したり、市民県民が一体となったり、多くの方と共創しながら進んでいきます。
 バックグラウンドの異なる人たちとコミュニケーションを重ね、そこで磨かれたアイデアを利便性の高いシステムに昇華し、それが多くの人に使われる。
 これは間違いなく大きなやりがいと喜びを感じられることだと思います。
井上 なぜ共創が必要かと言えば、DXはIBM一社で完結するものではないからです。
 共創相手とコミュニティを作り、共に学び、共に作り上げていく。それが地域DXの本質です。
加藤 DXは、多くの人と考えを合わせながら進めていく作業ですから、多様な視点が大事になります。それゆえIT以外の知識も必ずと言っていいほど武器になります。
 業界知識とITの最新知識が結びついて鋭い視点が生まれたり、職業的知見とITの知識が結びついて独自の視点が生まれたり、といったことです。
 高松で働くことに興味をお持ちの方は、自分は最先端のDX人材であるかなどと自問する必要はありません。
 これまでの経験と今後学習する知識が掛け合わされることで、現場で活躍できますから。
井上 我々が大事にしていることは、チャレンジ精神と学び続けようとする姿勢を持つことです。
 そこに共感していただけるなら、フラットな気持ちで飛び込んでいただきたい。
加藤 香川・高松はデジタル化の推進に積極的な土地ですから、やりがいのあるDX案件もたくさん出てくると思います。
 ぜひこれからの香川・高松を我々と共に創り上げていきましょう。