2023/6/13

【教えてアルトマン】学生が聞いた「AIの未来」5つの視点

NewsPicks コミュニティチーム
4月の来日に続き、早くも今年2度目。
ChatGPTの世界展開に注力するOpenAIのサム・アルトマンCEOが、6月12日に慶應義塾大学三田キャンパスで学生たちと対話するために再び来日しました。
約800名の慶應大生と対話したサム・アルトマンさん(写真右)
この貴重な機会に、NewsPicksの学生アンバサダー「Student Picker」の岸 桃花さんが参加していたため、今回は連載「#教えてシリーズ」の特別編として岸さんによるリポートを紹介します。
次代を担う学生たちに向けて、生成AIの先駆者が語った未来とは?
INDEX
  • 🙌「皆さんはパーフェクト・エイジ」
  • 1️⃣ AIが「仕事を奪う」の明暗シナリオ
  • 2️⃣ GPTは社会の格差をなくす?
  • 3️⃣ AIを「世界の脅威」にしない策
  • 4️⃣ 日本のAIスタートアップへの期待
  • 5️⃣ AI時代のリーダーシップとは
  • 📝「#教えて」シリーズで質問募集中

🙌「皆さんはパーフェクト・エイジ」

今回、アルトマンさんの貴重な講演を聞く機会をいただけたことを感謝しています。
彼は講演の最後に、「皆さんはパーフェクト・エイジ(完璧な世代)だ」というメッセージを送ってくれました。
生成AIは今、従来なら100年単位で起こっていたような変化を1年で起こし始めています。これを恵まれたチャンスと捉えて、進化に柔軟に対応していくのが大切だということです。
この言葉は、私たち学生が現代社会の中で重要な役割を果たすことができるポテンシャルを持っていることを示唆していると感じました。
そんな時代を生きていくヒントとして、心に刺さった談話を5つ紹介させていただきます。

1️⃣ AIが「仕事を奪う」の明暗シナリオ

これは「AIの進化は人間の仕事を奪うのか?」という質問に対して、アルトマンさんが答えた一節です。
彼の答えは明暗両方のシナリオが「同時に起こり得る」というもので、私には希望のシナリオについての回答が刺さりました。
人類は過去にも、機械に仕事を奪われるかもしれないシチュエーションに数多く遭遇してきました。ただ、アルトマンさんは計算機が誕生した当時のことをこう語ってくれました。
(iStock / iiievgeniy)
「計算機が生まれた時、数学の教授がいらなくなるから、計算機の使用を禁止するべきという声が挙がっていました。みんな、計算の仕方を学ばなくなるだろうと。
こういった不安には、半分、真実も隠されています。しかし、それによって人々のできることが広がったのも事実です。実際、計算機の誕生は、幾何学や代数学の研究を飛躍的に進めました」
AIは、これと同じことを起こすという話です。
「書くべきコード、作るべきプロダクトはなくならず、新しく創造的な仕事がどんどん生まれてくるでしょう。だから、多くの『今ある負の予測』は間違っていると思います」
一部の仕事が減る一方で、新たな仕事が生まれる。そんな過去の事例と同様に、AIの進化においても自動化できるタスクを任せることで、私たちはより高度な思考やスキルの獲得に時間を費やせるのではないかと思います。
今は「技術に張り付いて変化を見続ける時期」だと語る
また、AIが浸透した世界の仕事について、「現在の人類が見たら『ただ楽しむためにやっているだけ』のように見えるかもしれない」とも話していました。
苦役のような作業をAIが代替し、人間はよりクリエイティブな仕事に集中する時代が来るなら、明るい未来を期待できます。
そんな時代に備えるため、私たちは何をしておけばいいのか?
アルトマンさんは「思考に時間を費やすことと、自分の思考を評価する方法を学ぶことが大事」とアドバイスしていました。
これだけAIが使いやすいものになった今でも、アルトマンさん自身は「実際に手書きしてみないと思考の整理ができない時がある」そうです。
変化に対する柔軟な適応力に加えて、自分自身の思考を言語化し表現できる能力こそが、AIとクリエイティブな仕事を共創する土台になるのかもしれません。

2️⃣ GPTは社会の格差をなくす?

このクリエイティブな仕事の具体例として、アルトマンさんは「AIの進歩は貧しい人々に何ができるのか?」という質問に上記のようなコメントを残していました。
例えば医師の人数が少ない地域に住む方々や、医療費が高い国に住む貧困層は、ChatGPTをうまく使いこなすことで、人間の医師と同等のアドバイスを無料で受けられるようになるかもしれません。
NewsPicksの特集記事によると(下のリンク)、すでにオンライン健康相談の場面でGPTが医師と比較して回答の質、共感性で上回る可能性が論文で報告されているそうです。
医療のAI化は、もっといろんな分野で進んでいきそうです。
また、GPTを活用したオンライン教育プラットフォームは、低コストで教育を提供する機会を広めるでしょう。お金がなく学校にも行けない子供の教育格差を是正する可能性があるのです。
私はAIと貧困問題は関係のないものと思っていたので、この話は少し意外でした。
(iStock / Umesh Negi)
加えて、AIが貧富の差をなくすには、マージナルコストとの関連性も見逃せないと感じました。
マージナルコストとは、さらに1つのユニットを生産または提供するためにかかる追加のコストを指します。
AIの進歩で、製造やサービス提供の生産性が向上し、マージナルコストが低下することで、より手頃な価格でサービスを利用できるようになります。
これが、貧しい人々が教育や情報へアクセスする格差を縮小するのだろうと。これから先、AIが貧困問題の解決にどう寄与していくのか、注目していきたいと思います。

3️⃣ AIを「世界の脅威」にしない策

ここまではAIがもたらす明るい未来像を紹介してきましたが、急速に進化するAIに対して社会的・倫理的なリスクを危惧する声も根強くあります。
会場からも、GPTがもたらすリスクをどう考えているのか?という質問がいくつか出ました。
アルトマンさんは革新的な生成AIを開発する責任を強く認識していると話しつつ、
「あらゆるテクノロジーツールにはアップサイドとダウンサイドがある」
「人々が異なる価値や利益を求めていることを理解し、みんながWin-Winな状態を目指すことが重要だ」
と答えていました。
この日は「価値観で合意できない時も、限界については合意できる」という名言も残す
だからこそ、世界中さまざまな地域の人々の意見を聞き、多様な視点を取り入れながらGPTを発展させていきたい──。
この考えは、今回、わざわざ慶應大学まで足を運んでくれたことにも表れていると感じています。

4️⃣ 日本のAIスタートアップへの期待

また、上記のリスクを低減させる取り組みとして「ボトムアップでのAI開発」にも触れていたのが印象的でした。
「トップダウン(=つまりOpenAIの独占開発)よりも、ボトムアップ(=他のパートナーとの協業)で生成AIモデルのさらなる改善を進めることが重要」
「そうすることで、より技術革新が進むだけでなく、安全性を担保するため『世界の価値観』をつかむことができる」
こうした発言は、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)でインターンをしている私にとっても、考えさせられるものでした。
日本のスタートアップが、ボトムアップのAI開発に寄与していくには何が必要なのか。個人的には
  1. コラボレーションとオープンイノベーション
  2. 資金の確保
  3. エンジニア人材の育成
が大事だと考えます。
(iStock / Nuthawut Somsuk)
AI開発はスタートアップ単体というより、研究機関と連携したり、パートナーシップを結んだりと協力体制を構築して行うことが多いので、エコシステム内での知識・リソースの共有が大事になってくると思います。
加えて、AIの開発には膨大な資金が必要となるため、投資家や資金提供機関の存在も不可欠でしょう。
投資する側も大きな責任を背負うことになり、慎重になることだと思いますが、AIの可能性と将来性を理解し、その成果に共感してくれるサポーターがより重要になってくると思います。
3つ目のエンジニア育成に関しては、日本全体で力を注ぐ必要があると感じています。
教育機関との連携を強化し、AI開発に必要なスキルや知識を習得できるプログラムを充実させる。業界が連携して、実践的なトレーニングやインターンシップの機会を提供する。学校で実践的な経験を積める環境を整えるetc.。
さまざまな施策が考えられるので、産官学全体で取り組んでほしいと思います。

5️⃣ AI時代のリーダーシップとは

最後に取り上げるのは、リーダーシップに関する話です。
「アルトマンさんが考える起業家精神とは何か」「OpenAIのリーダーとしてメンバーのモチベーションをどう保ってきたか」という質問への答えが興味深かったのでご紹介します。
OpenAIを起業する前は、アクセラレーターのY Combinatorでさまざまなスタートアップを支援してきたアルトマンさんだからこその視点があるかもしれないと思ったからです。
ただ、実際の回答はとてもシンプルで本質的なものでした。
例えばOpenAIを立ち上げた後、アルトマンさんも「お金がない、採用できない、うまくいかない、(GPTを学習させるマシンの)計算能力が足りない」など、たくさんの壁に直面したそうです。
そんな数々の壁を乗り越えるのにウルトラCがあったわけではなく、大事なのは「対処する方法を早く学ぶこと」だと述べていました。
それには何事も行動に移すことが重要で、試してみることが最良の教師になると話していました。
(iStock / marrio31)
日々の意思決定に困った時の対処法は?という質問への答えも、「限られたデータで正しく判断するために、多くの人の意見に耳を傾ける」という正攻法。
リスクをはらむGPTの開発も、「みんなで正しい形で貢献しよう、文化として正しくやろうという精神が根底にあったからこそ、チーム内での意見の相違も乗り越えられた」そうです。
話を聞いて、私は実際に行動を起こして、経験を通じて学び、改善していくことの重要性を学びました。
ちなみに、アルトマンさん自身のモチベーションが落ちた時はどうしているのか?という質問に対して、「実はOpenAIを起業してから2度ほど休暇を取ったことがある」と明かしたエピソードも面白かったです。
(iStock / Chinnapong)
その時はお昼まで寝てビデオゲームをしたり、ダラダラ過ごしたそうですが、やる気を復活させる秘訣は「素晴らしいプロジェクトを選ぶこと」で、「興味の湧かないことを無理してやらない」のが大事だと気付いたそうです。
「モチベーションが低いという状態は、かかわる対象が正しくないことを表している」
これから就職する私にとって、この言葉は将来の道しるべになりそうです。

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