2023/6/15

【海外8冠】「陰キャ」のロック作品が世界中でバズった理由

NewsPicks編集部
「陰キャならロックをやれ!」──。
ロックバンドのイメージを一変させたマンガがある。
『ぼっち・ざ・ろっく!』。
2018年から『まんがタイムきららMAX』で連載を開始したこの4コママンガで、単行本が発売されると、いきなり発売前に重版が決まるほどの人気作品だ。
さらに2022年10月にTVアニメの放送が始まると、その熱狂は一気に世界中に伝播した。
その熱量は、前人未到の快挙に結びつく。
海外メディア「Anime Trending」が主催する2022年度のアワードで、「アニメオブザイヤー(年間最優秀賞)」を含む史上最多の8冠達成したのだ。
にしても、一体『ぼっち』は、なぜここまで世界で支持されたのだろうか。
というのも、この作品は、東京・下北沢を舞台に、コミュ障であり、「陰キャ」の主人公である後藤ひとりが、本格的なロックバンドを組んで成長していく物語だ。
言うなれば、非常に完全に日本ローカルの文脈で生まれた作品だ。
にもかかわらず、各国のファンたちの圧倒的な共感を生み、アニメが終わっても熱狂は冷めず、派生マンガに、音楽ヒットを記録し、さらに映画化まで決まっている。
NewsPicksでは、仕掛け人の一人でもある『まんがタイムきららMAX』の編集長代理で、マンガ「ぼっち・ざ・ろっく」の担当編集者である瀬古口拓也氏を直撃し、「ぼっち現象」が生まれるまでのすべてを聞いた。
INDEX
  • 「不良」→「陰キャ」の大シフト
  • ファンの近くで「風を読む」
  • アニメ化の「方程式」とは
  • ガラパゴスは「必然」である

「不良」→「陰キャ」の大シフト

──TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」は、海外メディア「Anime Trending」が主催する「9TH TRENDING AWARDS(第9回アニメトレンド大賞)」で、アニメオブザイヤー(年間最優秀賞)を含む史上最多の8冠達成という快挙を成し遂げました。
「世界でヒットすることを狙っていました」といえばかっこいいのかもしれませんが、そんなことはありませんでした。
国際的なヒットは、アニメの力が大きいなと思っています。
マンガは、最初は日本語の雑誌が出て、日本語版の単行本が出ます。国内で知られるようになると翻訳のお声がけをいただくようになる。
という順番なので、やっぱり国内市場の需要が第一なんですよね。
「ぼっち」に関しては、国内のさらに、男性オタク向けのマンガ雑誌「まんがタイムきらら」にある程度興味があり、単行本を必ず買うというコア層ではないけれどジャンルが好きと思ってくれるような人がターゲットと捉えていました。
オタクの人たちは、昔から「アニメ→マンガ」の順番で作品に入っていくことが多いので、マンガだけでは、作品を知ってもらえる範囲が狭い。
だから、マンガ作品を企画する段階から、アニメ化のしやすさというものを、念頭にスタートします。
「ぼっち・ざ・ろっく!」は2018年に連載開始した作品です。同じ雑誌から誕生した「けいおん!」がアニメ化してから10年くらいたったタイミングでした。
私たちの雑誌のターゲット層は10代20代の男性のオタクなので、10年たつと「けいおん!」を知らない新しい世代の読者が増えています。
再びロックというテーマでやるには程よい期間かなと思っていたところに、はまじあき先生が、邦ロックにハマって「ぼっち」の企画を持ってこられたんです。
──「陰キャ」がロックミュージックを演奏するという、一見ギャップのある設定がオタクに刺さると思ったのはなぜですか。
これは先日ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル 後藤正文さんがおっしゃっていたことですが、1990年代ぐらいまでのロックバンドをやっていた人には、不良性のある人が多かったけれど、2000年代以降くらいから、バンドをやる人の属性が変わってきたと。